菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

鉛を目に、水銀を耳に流し込め!  『鉄男 THE BULLET MAN 』

2010年06月04日 00時00分49秒 | 映画(公開映画)
 
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第142回。



「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『鉄男 THE BULLET MAN 』

 
 


塚本晋也による『鉄男 TETSUO』 (1989)、『鉄男 II BODY HAMMER 』(1992) に続く18年ぶりの3作目。
続編ではなく、英語によるリイマジネーション作品。
人の負の感情を金属として外在化させる映像的テーマがガコンとはまり、世界的評価を得てきた作品。


サイボーグ化というよりは、人体の有機的金属化をしていく男、すなわち鉄化男の物語。
 
ほぼ白黒ともいえる色を落とした映像で、恐ろしいエネルギーを放出してくる。
音の凄まじさは、ある劇場ではスピーカーを壊した逸話を持つほど。
耳が弱い人は軽く耳栓をして見る必要があるほど。
ひさびさに、映画館で耳がキーンとしましたもの。

編集もガツンガツンと重いリズムを刻み、目に痛いほど。
すべてが重金属製の工場制手工業なのだ。
 
そして、ストーリーはシンプルで、抽象的かつ哲学的になり、ある種のカオスで、理性を越えて、その体感を加速させる。
それを俳優陣、エリック・ボシック、桃生亜希子、中村優子、ステファン・サラザン、塚本晋也の狂気がぎりぎりのいい臭みというかケレンを与えている。


インダストリアルな石川忠の音楽はいい意味で耳障りで聴くほどにざらざらと硬い触感さえ与えてくれる。
そこにナイン・インチ・ネイルズ提供の主題曲『テーマ・オブ・鉄男 THE BULLET MAN』が肉と鉄の両面性を加え、強固にするのだ。




圧倒的なエネルギー自体は1作目、2作目にもあったものだが、3作目はそれに加えて、圧倒的な閉塞冠が加わった。
閉塞感のみで描いた『HAZE』、肉体を檻のように描いた『ヴィタール』から発展させた強烈な圧縮が加わっている。

すべてが相まって、その凄まじさは、自分が金属化するんではないかと思うほど。
まさに映像体感だ。

それは、どろどろのコンクリートの肉が鉄骨に流し込まれ、固まっていくかのようだ。
そんな作品を、前世紀末的建築のシネマライズのコンクリートと金属で重い雰囲気で観るのはなかなか乙よ。



これは、昨今受け入れられつつある立体化(3D)ではなく、鉄体化(FeD)映画。
 
映像に組み込まれるような、叩き混ぜられるような体験をしたい方にはオススメです。
すなわちそれは、そう望まない方は避けた方がいいと警告したくなる強烈さってことですぜ。




 
 





おまけ。
もうすぐ『アイアンマン2』も公開されるので、日米の鉄男(といってもエリック・ボシックはカナダ人)の同時対決も楽しめますぜ。

けど、映画は日本の性質を描いているともいえます。
太平洋戦争の敗北から見えた日本の勝ち方。(それは×印の男として表現されている)
相手にいいように変化させられても、相手を飲み込み、内在化し、外側へと浮き出てくる。
その強かさとしなやかさ。
金属は硬くともしなるのだ。
鉄は熱いうちに叩かねば、すぐに硬くなるが、冷めたままでなければ、形を保てないとも言える。
そう簡単に熔けるほど熱くはならないけどね。

この映画には、破壊だけでない有り余るエネルギーを中和させる未来への願いを込めた要素があります。





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