で、ロードショーでは、どうでしょう? 第163回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』
いまだにロシアにとっては苦々しい事件であるフェアウェル事件の映画化。
フェアウェルはロシア側のスパイのコードネーム。
英語で、サラバの意味。
東西冷戦を終結に導いた原因のひとつともいわれる20世紀最大のスパイ事件、フェアウェル事件を描いています。
主役のフェアウェルには、エミール・クストリッツァ。
フランス側の連絡員にギョーム・カネ。
二人とも監督もする才人だけに、スパイに独特の説得力があるのよね。
監督は、『戦場のアリア』のクリスチャン・カリオンで、実話をきっちりとドラマに仕上げている。
キャッチコピーが惹かれるのよ。
人は
希望で動く。
歴史は
信念で動く。
1981年──ソ連崩壊のきっかけとなった、ひとりの父親の真実の物語。
でもね、映画観るとわかるけど、これ、二人の父親の物語なのよ。
どうやら、ギョーム・カネの役は脚色だからなんだろうけど。
その二人の心の交流こそが、東西の違いを踏み越えていて、ドラマなのよね。
大学の前で、スパイではないたまたま選ばれただけの連絡員である技術系の男が、大学(技術系の大学であるところがポイント)の前で、自分のことを話し、チームを組む意思を確認するところが実にいいのです。
お互い、国と思想は違えど、父親であり、同じことを学んだ人間であり、その信念が胸の奥深いところでつながりを得る。
これがないと、ただの情報繊維なっていたはず。
こういう人間ドラマを描くのが、フランス映画のスパイモノなのよ。
『スパイ・バウンド』とか。
フランス映画は、ナポレオンの時代(もっと前から?)から、どうもロシアと縁が深いみたい。
こないだの『オーケスオラ!』もロシアが舞台だったし。
ゆえに、ロシア(ソ連)の描写が実に堂に入ってるのよね。
なにより、ロシアの冬の景色が冷たい戦争を映像で感じさせます。
スパイものですが、政治の部分を直接、大統領で描いているのも素晴らし。当時の西側のリーダー二人、レーガンとミッテランのやりとりの緊迫感があふれてます。
アメリカ側のキャストはフレッド・ウォードとウィレム・デフォーが実に渋い。
政治劇はやっぱ顔が一癖も二癖もないとね。
その点、ロシア、フランスのキャストにもいい顔を揃えていて、たまりません。
それぞれの言語の使い方も丁寧で、ハリウッド映画にはない世界の広さを感じさせてくれます。
中に出てくる、クイーンの楽曲、西部劇などの使い方も粋で意味深い。
よく紹介で、ユーモアもなく息づまる重い作品とありまずが、人間味に溢れて、ユーモアがある分、後半それが消えていく重みがバランスよく配されています。
実際、ドラマに偏り過ぎて、題材が持つ骨太さなサスペンスは、少し薄れてしまいましたが、人間を見つめることに絞ったんだな。
逆にアクションとテンポに絞ったスパイ映画『ソルト』のあとに、あえて、ロシアスパイつながりってことで、続けて、観るのは、かなりアリですぜ。
おまけ。
シネマライズで鑑賞。
シネマライズは骨太な映画をやってくれていいなぁ。
『フローズン・リバー』とか、『息もできない』とか。
重めの洋画の砦だ。
守っていきたい。