菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

それでも体は水に浮かぶ。 『プレシャス』

2010年05月24日 00時00分23秒 | 映画(公開映画)
 
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第140回。



「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『プレシャス』








16歳で、学無し、愛嬌無し、肥満体、家庭内暴力、近親相姦による妊娠(しかも二度目)と、ここまで不幸だと逆にコメディになるんじゃないかとおもわれるほどの内容だが、それは世界のそこら中でありふれた現実を凝縮させたに過ぎない。
その痛みとがっぷり四つで組みつつ、大一番に仕上げた逸品。

勉強は苦手な女子高生が父親からレイプ、母親から暴力、退学させられ、人生のどん底に落とされていく。
このタイプの物語は、日本でも、ケータイ小説(その映画化)にいくらでもあるともいえる。
だから、ある意味ではケータイ小説にもこの映画のようになる可能性だってあるはずだって事に気づかされた。
しかし、『プレシャス』とケータイ小説を分ける強烈な違いは、主役の少女が100キロクラスの肥満体で愛嬌がまるで無いこと。
そして、この不幸は冒頭10分ですべて出てきてしまうこと。
この物語は不幸を楽しませる気はまるで無いのだ。

 
主演のプレシャス役はガボレイ・シディベ。(米アカデミー主演女優賞にノミネート)
彼女を虐待する母役にモニーク。(米アカデミー助演女優賞を受賞)
ポーラ・パットンには秘密がある。
マライア・キャリーはほぼすっぴんで、真摯にソーシャル・ワーカー役を演じているし、看護士役のレニー・クラヴィッツは、小さな役に色気を与えている。
このキャスティングを見ても、原作がどれだけ愛されているかが分かる。

サファイア原作による小説『PUSH』の映画化。
この小説がどれほど愛されているかは、原題を観ると分かる。
『PRECIOUS: BASED ON THE NOVEL PUSH BY SAPPHIRE』
え、小説と同じタイトルにしろって?
たぶん、『PUSH』というメジャーによる超能力映画が同じタイトルだったからじゃなかしらね。


監督・製作・脚本は、リー・ダニエルズ。
『チョコレート』などの問題作のプロデューサーから、監督になった腰の入った映画人。
2009年の米アカデミー賞にて、作品賞、監督賞、編集賞にノミネート。
脚色賞(ジェフリー・フレッチャー)を受賞している。


ケータイ小説は、自分の話のように語られる。
自分の言葉。
誰かの自分の言葉には、聞かせるがある。
プレシャスも書くこと、自分のことを話すことを学んでいく。
自分の言葉を見つけること。
自分の心を語ること。
自分の心の声を聞くこと。
人の言葉に耳を傾けること。
人の心を見つけること。
それに応えること。
すべての人には自分の物語を語る力があるのだ。



この金床クラスの物語を叩く音は案外に軽快。
それは、独特のリズムと映画的仕掛けによるもの。
その映画的仕掛けとは、彼女の空想の映像化。
その空想を現実に向けたとき、彼女の戦いが始まるのだ。
些細なことの積み重ねを自分が逃げずに受け止めること、もしくは堂々と逃げることが世界と向き合う方法なのだ。
世界に愛されようとすれば拒まれる。
愛が世界を救う。
でも、愛はどこからやってくるのだろう?

少なくとも、この映画には愛があふれている。

ぜひ劇場のスクリーンで受け止めて欲しい。





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