雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

佐渡の黄金 ・ 今昔物語 ( 巻26-15 )

2016-02-02 11:02:37 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          佐渡の黄金 ・ 今昔物語 ( 巻26-15 )

今は昔、
能登の国には鉄(クロガネ)の鉱石という物を取って、国司に納めることを生業としている者たちがいた。

さて、実房(本文は欠字となっている)という国司が在任中のことで、その鉄を掘る者が六人いたが、仲間内で話をしている時に、その頭分の者が、「佐渡の国には、黄金の花が咲いている所があった」と言っているのを、国司が人づてに聞いて、その頭分を呼び寄せて、物など与えて尋ねると、「佐渡国には黄金があるのでしょうか。『黄金がありそうだ』と見えました所がありましたのを、事のついでに仲間内で話していたのを、お聞き及びになったのでしょう」と頭分は答えた。
「それでは、そのありそうな所へ行って、取ってきてくれぬか」と国司が言うと、頭分は、「お遣わし下さるなら参りましょう」と答えた。 
「どういう物が必要か」と国司が尋ねると、「人は必要ありません。ただ、小船一つと、食糧を少し頂いて、そこへ渡って行き、有るか無いか試してきましょう」と頭分は答えた。
国司は、頭分が言うままに、人に知らせず、船一艘と食糧少々を与えた。頭分はそれをもらって、佐渡の国に渡って行った。

その後、二十日からひと月ばかり経ち、国司が忘れてしまっていた頃、あの頭分が突然やって来て、国司が人前にいる所に姿を見せたので、国司には考えがあって、人づてには聞かず、人のいない所に連れて行って、国司自ら話を聞くと、頭分は、黒ずんだ布切れに包んだ物を国司の袖の上に置いた。国司は、それを重そうに提げて家の中に入って行った。

その後、この頭分は、いずこへともなく姿を消してしまった。
国司は手分けしてあちらこちらと捜させたが、どうしても行方は分からないままに終わった。どういうわけで姿を消したのか、そのわけも分からなかった。
「『あの黄金のある所を問い詰められるのではないか』と思ったのではないか」と疑われたりした。「国司が手にした黄金は千両あった」と語り伝えられている。
されば、「黄金は、佐渡の国で掘るべし」と能登の人は言ったという。また、その頭分は、その後にもきっと掘ったことであろう。しかし、そのことはついに知られずに終わってしまった、
となむ語り伝へたるとや。

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