雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

季節限定 ・ 小さな小さな物語 ( 906 )

2017-04-22 13:39:26 | 小さな小さな物語 第十六部
「季節限定」という言葉は、よく目にする言葉といえるでしょう。
言葉の意味をつきつめて考えた場合、今一つうまく説明出来ない言葉のような気がします。鮮やかな変化を見せる四季を持っている私たちの場合、季節という言葉には、「春・夏・秋・冬」という四季をまず連想させるように思われます。しかし、商業的に「季節限定」という言葉を使う場合は、もっと短い期間を指す場合が多いようです。つまり、「季節」という言葉には、「その折々。まさにこの時。シーズン。」といったように、春や秋といったような丸々一つの季節を指すことは少ないようです。

とはいえ、「季節限定」「期間限定」さらに言えば、「本日限り」「先着何々名様」といった限定物に私たちはどうも弱いようです。
ファミリーレストランの「季節限定と記された幟(ノボリ)」に興味をひかれたり、洋菓子店や和菓子店の「この季節限定」などと書かれている商品に手が出てしまうことも少なくないようです。
どうも、四季に恵まれている、とは口で言いながら、自然や伝統行事から季節の変化を感じ取ることに鈍くなった私たちは、商業的な季節限定品に時の流れや物のあわれを感じるようになっているのかもしれません。

折から、ハロウィーンということで、渋谷辺りは大騒ぎのようです。
考えてみますと、ハロウィーンの服装などは「季節限定」の究極と言えるものなのかもしれません。様々な工夫を凝らし、知恵を絞って、何と表現すればよいのか分からないような服装や化粧を施した姿は、この季節だから許されるのではないでしょうか。一週間早く、あるいは一週間遅く、あの姿で電車に乗ったり、公道を歩き回ることは、通常の神経ではなかなかできないと思うのです。
しかし、今年でも、かなり早い季節にもハロウィーンの衣装と思われる姿の人が街のあちこちに登場していたようですから、そう遠くないうちに一年中あちらこちらで、ハロウィーン衣装が出回るようになり、いくつかの学校や企業では、この種の衣裳での登校や出社を禁じるようになり、それが個人の人権を束縛するとして裁判になるかもしれませんねぇ。

ところで、このハロウィーンというお祭りは、もともとは古代ケルト人のお祭りで、秋の収穫を祝い、悪霊などを追い払う宗教的な行事であったものが、アメリカに渡ると、カボチャの中身をくりぬいたランタンを作ったり飾ったりして、子供たちが魔女やお化けに仮装して近くの家を回ってお菓子をねだるという行事に定着したそうです。
それがわが国に入ってきますと、いやはや、ケルト人どころかアメリカの子供さえ驚くような変身を遂げていて、一部の人にとっては、欠かすことの出来ない年中行事の一つになってしまっているようです。
それにしても、年始にはお宮に詣で、夏にはお盆を祀り、ハロウィーンでは大はしゃぎをし、キリストさまはよく知らなくてもクリスマスを祝い、やがて除夜の鐘を聞きながら煩悩を洗い流すことが出来る私たちは、実は、とても逞しい民族なのかもしれません。
たとえそうだとしても、晩秋を迎え今年も残り少なくなった折から、私たちの祖先が受け継いできた「季節限定」の思いの幾つかを、ぜひ見つけ出して味わってみたいと思うのです。

( 2016.10.30 )


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