雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

凛々として氷舗けり

2017-03-09 08:17:02 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語

               凛々として氷舗けり

十二月二十四日、中宮さまが催されました御仏名の半夜の導師をお聞きして退出いたしますと、夜半も過ぎてしまいました。

何日も降り続いた雪が今日は止みましたが、そのかわり風が強くなり、軒からはつららが沢山垂れています。
道などは、所々に雪が残っている程度ですが、屋根は一面真っ白で、みすぼらしい民家も、雪ですっかり覆面をしているみたいで、折からの月明かりでとても美しく見えます。白銀で葺いたような屋根からは、つららが「水晶の滝」とでも言いたいような風情で、長いのとか短いのとかが、まるで趣向を凝らして掛け連ねているかのようで夢の世界のようです。

そのような夢のような景色の中を、下簾も掛けない牛車で、上の簾は高く巻き上げているので、車の奥にいる私の方まで月の光が届いてくるのを防ごうともしないで、その御方は、葡萄染(エビゾメ)の固文の指貫、白い単衣を何枚も重ね、山吹や紅の下襲や衵を少しばかり車からはみ出して、直衣の真っ白なのが襟の紐を解いているので自然に肩脱ぎになり、片足は車の後ろの板に踏み出しています。
道行く人から見れば、しゃれた格好に見えることでしょうが、月の明るさで私の姿は丸見えになってしまいそうで恥ずかしく、その御方に訴えても月の光を遮ってくれそうもありません。

「凛々として氷舗(シ)けり」
という詩を、繰り返し繰り返し吟唱しておられるのはとても風情があって、景色ばかりでなく私自身が夢の世界に入り込んでしまっているようです。
月の光で丸見えになってしまっているわが身にべそをかきそうになりながらも、それでいて、一晩中でも走り続けていたくて、目的の場所が近づいてくるのが残念でなりません。


(第二百八十三段・十二月廿四日、より)

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