毎年恒例のJAXA宇宙科学研究本部相模原キャンパス夏の一般公開。
今年も行ってきました、熊本から寝台特急はやぶさに乗って!
ブルートレインはやぶさに乗って、探査機はやぶさに会いに行こう!
という訳で相模原キャンパス一般公開の前日、7月20日(金)に有給休暇を取って午後からJR熊本駅へ。
寝台特急はやぶさは始発駅の熊本を16:00というかなり早い時間に発車するので、終業時間を待っていると間に合わなくなる。
それに、食堂車も車内販売さえもないので乗車前に食糧やら水やら寝酒やらを確保しておく必要もある。
九州新幹線乗り入れ工事の真っ最中の、工事現場のような熊本駅構内に寝台特急はやぶさは発車時刻の数分前に慌しく入線、すぐに発車する。
駅工事中で構内に余裕がないためとは言え、なんとも味気ない。
熊本発車直後の車内はほぼ無人。この先、博多や小倉や下関で乗ってくるんだろうが、実に寂しい。かつて西鹿児島を発着していた時代のはやぶさは、熊本で食堂車やロビーカーを組み込んだ付属編成を連結し、15両もの専用客車を連ねた堂々たる豪華編成で華やかに熊本駅を発車していた。
そしてその時代には宇宙科学研究所の研究者達が鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所へと赴く際のもっとも素晴らしい移動手段とされ、その想い出が小惑星探査機に「はやぶさ」という愛称が与えられる由縁となったのである。
今となっては編成も僅か6両、日本最長距離を走る豪華ブルートレインと謳われた時代の面影はない。それでもはやぶさは今日も黙々と鹿児島本線を北上していく。
その健気で実直な姿は、今日も孤独に地球に向けて宇宙の虚空を飛び続ける同名の探査機と重なるものがある。
後続の特急電車に追い抜かれても気にせずマイペースで九州を北上する寝台特急はやぶさは、海底トンネルを潜って九州を離脱する直前の門司駅で小休止。ここで大分から来る盟友の寝台特急「富士」の到着を待つ。
はやぶさをここまで牽引してきた赤い交流専用機関車ED76が切り離され、関門トンネル専用の交直流機関車EF81が連結されると、一旦ドアを閉めて引き上げ線へと退避。やがて大分から富士が到着する。
機関車が切り離された富士の編成に、バックして戻ってきたはやぶさが連結。
東京行きの2つのブルートレインがひとつになり、改めて東京へと向かって出発。
本州に入るとすっかり日が暮れた。
熊本発車時点ではガラガラだった車内も、小倉で団体客が大挙して乗り込んできたのでほぼ満席。騒がしかったのも最初だけで、すぐに殆どの乗客はベッドに潜り込んで就寝、午後9時におやすみ車内放送があった後は静まり返り、寝息とカーブで車輪のフランジが擦れる音だけが響く。全く持って「正しい夜行列車の夜」という雰囲気で、この独特の夜の世界は変わることがない。
さて、僕も今夜は早めに寝よう。
夜中に岡山や大阪に停車したような微かな記憶があるし、名古屋で一斉に下車する団体客の大騒ぎで一旦目が覚めたりしたのだが、概ねよく眠れた。目が覚めて、何となく車窓を見ているともう静岡に到着するところだった。
車窓はどんより曇り空で、途中ポツポツ雨が降ってきたりしたのだが、幸い神奈川県に入ると雨は上がった。しかし湿度が高くて蒸し暑そうだ。
午前九時半、ほぼ定刻に到着した横浜駅で「はやぶさ」を降り、横浜市営地下鉄とJR横浜線を乗り継いで宇宙科学研究本部相模原キャンパスの最寄り駅淵野辺へと向かい、ここから宇宙研が用意してくれた無料送迎バスで相模原キャンパスに到着した時には既に午前11時を回っていた。
「横浜からここまでが遠いんだよなぁ」
バスを降りて相模原キャンパス正門に向かう途中、「宇宙基本法」に反対するチラシを受け取ったりする(配っていたのは国立天文台の石附澄夫さんだったらしい?)。
いつもは門から続く鬱蒼とした並木道を覗き見することしか叶わぬ宇宙科学の世界最先端、宇宙研本部に大手を振っていざ入場!入り口でパンフやアンケート用紙の入ったオリジナルトートバッグを貰う。
「おお!大量の資料やグッズで気がつくと大荷物になってしまうので、これは素晴らしいサービス!」
さて、今年は宇宙研に来たら先ずやっておくことがある。
先日配信された日本惑星協会のメルマガ「YMコラム」で、JAXA宇宙教育センター長の的川泰宣先生が相模原キャンパスの一般公開で「新潟被災のカンパの提案をするつもりです」と書かれていた(YMコラムNo.392)。
本館前のインフォメーションセンターのテントで、ポケットにあった小銭を掴み取って募金箱へ投入。「被災者の皆さんは今頃大変でしょうが、どうか気を落とさずに…」
まずは第1会場の本館へと入る。
入り口を入ると、小惑星イトカワの巨大パネルとお馴染みの実物大「はやぶさ」模型が出迎えてくれる。
「はやぶさ」の周りには、月・惑星探査推進グループ(JSPEC)のパネルが貼られているが、大変な混雑でじっくりパネルを読める状況ではない。
それでも、「はやぶさ」のイラストと並んで僕たちが応援している2番艦「はやぶさ2」と次世代機「はやぶさマーク2」のイラストが見て取れた。
「はやぶさ2、デザインは現行機と同じだけどハイゲインアンテナが平面式なのかな?あれって確か金星探査機PLANET-Cが採用する最新型なんだっけ…マイナーチェンジするんだな。はやぶさマーク2、でかい!ミネルヴァに足が付いてる!?」
その他、はやぶさ関連ではお馴染みのイトカワ詳細模型やミネルヴァの模型などが並ぶ。
「これはイトカワの地表を撃ってサンプルを採取するための射出装置です。地上で実験するのに使ったものなんですけど」と説明役の女子学生さんが教えてくれる。
「耐火煉瓦で実験したら、これだけ破片がサンプルとして取れました」とシャーレの中身を見せてくれるのだが、結構な分量。かぜ薬の小瓶一杯分位ある。
「こんなに取れるんですか?何か、イメージ的に微少な砂粒がちょっとだけ取れるのかと思ってましたけど」
「ええ、これは特別に良い条件で垂直に弾丸を撃ち込んだんです。イトカワの地表の性質によっては全く破片が出来ずに一粒もサンプルが取れない可能性もあります。」
「…厳しいんですねえ。ところで、こんな事を聞くのは失礼ですが弾丸は発射されていない可能性もありますよね?」
「ハイ、私の立場では何とも言えないんですけど…でも、弾丸発射直後に射出装置の温度が上昇してるんです。実際に撃ってる可能性はあります。」
「そうですね。僕も弾丸は発射されたと信じてます!」
「これは何ですか?」
「ターゲットマーカの中身ですよ。バウンドしないように色々試したけど、この形になりました。」
「なんだか夏用の硬い枕の中身みたいですね」
「ええ、私も最初見たときは手芸用のビーズかと思いました。」うむむ、女性らしい意見。
実物大「はやぶさ」模型の足元に寄り添うようにして「着陸」していたこの可愛らしい子は、昨年秋に佐賀県立宇宙科学館で開催された特別企画展「はやぶさの挑戦」の期間中に来場者から寄せられた応援メッセージのシールを全身にまとった「手作りはやぶさ君」。宇宙研本部に到着して展示されているということは聞いていたが、初めてここで対面を果たすことが出来た。
「はやぶさ君、宇宙研で大きなはやぶさお兄ちゃんと一緒に居られて、よかったなぁ…!」
はやぶさ君の太陽電池パネルに自分の応援メッセージのシールがしっかり貼られているのを確認して、記念写真を撮影。
(帰宅後、佐賀県立宇宙科学館スタッフの皆さんにメールで写真を送って報告したところ大変喜んで頂けました)
はやぶさの周りは大勢の見学者の波が途絶える事は無く、改めて「奇跡の宇宙船はやぶさ」の人気ぶりが窺える。そんなはやぶさの旅路を超美麗高精細CGで再現した映画「祈り」(小惑星探査機「はやぶさ」の物語)が2ヵ所のモニターで上映されていたのだが、ちょっと立ち止まって見ていると…いかん、カッコ良過ぎる、感動的過ぎる!!モニターに浮かぶ宇宙船はやぶさの独白「見エタ…着イタ、ボクノ星。」(確かそんなセリフでした)を読んだ瞬間、目から熱いものが…「いかん、このまま見てると本当に泣いてしまう!」
「祈り」は今後ネットで公開され、一般販売もされるとの事なので、後日自宅で思う存分堪能しようと思いその場を離れた。さすがに人前で大泣きするのは恥ずかしいもんね。
はやぶさコーナーの奥には、打ち上げが来月に迫った月周回衛星「かぐや(SELENE)」のブースがあるが、うん?何だこの張り紙は…「かぐやの打ち上げは、コンデンサの極性が逆に取り付けられていることが発見されたために延期されました」何ーーー!!??
いつそんなことが分かったんだ?昨夜?何てこったい、寝台特急「はやぶさ」に乗ってて世間の最新情報と隔絶されてたんで全然知らなかったぜ…っていうか、宇宙研一般公開の前日に分かるなんて、何というタイミング!
何だかトホホな気分になってしまったが、気を取り直してかぐや(SELENE)ミッションマークの旗に寄せ書きを贈る。
「21世紀のかぐや姫ガンバレ!」頑張ってくれよホントに…
「かぐや(SELENE)」の裏に鎮座ましましていたのは、LUNAR-Aプロジェクトによって月面に打ち込まれる予定だった「ペネトレーター」。昨年の宇宙研一般公開ではペネトレーター開発担当の先生が延期され続ける打ち上げスケジュールにも負けず「必ずペネトレーターを完成させて、必ず月面に打ち込みます!そして月の謎を解き明かすんです!!」と熱く語ってくれたが、今年お話しを伺ったペネトレーターの先生も情熱の人だった。
「LUNAR-Aプロジェクトは中止されましたが、ペネトレーター自体はすでに殆ど完成しています。後は今年度中に最終確認試験をアメリカで実施すれば完成です。LUNAR-Aはなくなりましたが、今ロシアが景気がいいですからね、連中探査機を上げたがってるんですよ。引き合いが来てます。今からロシアの衛星に搭載する為の擦り合わせを開始する段階です。まだ何も決まってはいませんが、これからですよ!!」
「ペネトレーターは一から作り上げたものですからね。何も分からないところから作り上げてきたんです。」
何だか、ペンシルロケットからスタートしてここまで来た宇宙研の歴史そのものみたいですねえ。
「本当にそうですよ。皆で一緒に、サイエンスの人も工学の人も一緒になって作り上げたものなんです。実験後は一緒になって埋まった試作品を掘り出したりしてね」
楽しそうですねえ!何だか初期の頃のロケット実験を彷彿とさせますね。
やっぱり先生も何が何でもこのペネトレーターを月面にぶち込みたいと情熱を燃やしておられるんですね。
「もちろん!必ずぶち込みますよ!!それに、月にだけじゃなく、火星や木星のガリレオ衛星にも…」熱く語ってくれるH先生の情熱には果てがないのであった。
ちなみにH先生は「はやぶさ」の帰路からのスーパーバイザーも担当されているとのこと。どうですか、最近のはやぶさは元気ですか!?
「最近のはやぶさは本当に安定しています。だから僕でも担当できるんですよ」わはは。。。楽しい先生だ。でも、安心しました。これからも頑張ってはやぶさを地球に導いて下さいね。それから、ペネトレーターの完成と月面にぶち込む日が早く来る事を祈っています。
ちなみに昨年、飛翔体環境試験棟の一画に放置されていた「LUNAR-A在中」の紙の貼られた謎の白いコンテナは今年も健在でした。LUNAR-Aはコンテナに詰められて放置されても、ペネトレーターの情熱は消えない…でもやっぱり複雑な気分。
それにしても、衛星の測定を行う試験室は工場そのものだなぁ…
自分の勤め先の工場現場でも使用しているホイストや手押しリフトや工具台車があるので、何となく親近感を感じる。
相模原キャンパス内を歩き回っている途中、中庭のM-3SⅡロケットの実物大モデルの横で親子連れに道を聞かれてるスタッフのあの人は…まさか「はやぶさ」のプロジェクトマネージャ、川口淳一郎先生?
思い切って話しかけてみる。「あの…はやぶさプロジェクトの川口先生ですよね?」
「えっ!?そうですけど」
「ああ、あの、僕はやぶさとはやぶさ2を応援してます!これからも頑張って下さいね!」
「はい、ありがとうございます」
「あの~失礼ですが…握手してもらえますか!?」
「ええっ!?ははは…いいですよ」
という訳で、いきなり押しかけて握手までして頂いて川口先生本当にありがとうございました!!
そしてこの後、僕はJAXA宇宙教育センター長で日本惑星協会メルマガ「YMコラム」の著者、日本の宇宙活動の語り部である的川泰宣先生にお会いする事ができたのだ。
「今年も熊本から寝台列車のはやぶさで来たの?」と優しく話しかけて下さった的川先生、ありがとうございました。
的川先生と並んで、本館の宇宙教育センターブースで宇宙紙芝居を見る。このまま童心に戻って紙芝居を見ていたかったが、あいにく帰りの寝台特急はやぶさの発車時間が迫っている。
的川先生にお別れの挨拶と来年また来ますと約束して、今年の宇宙研一般公開の思い出と握手した的川先生の手の温かさを心のリエントリーカプセルに収納してしっかりと蓋閉め運用を行い、相模原を後にする。
横浜駅から乗り込んだ熊本行き寝台特急「はやぶさ」の車中で、宇宙研の生協で買ったお土産の宇宙食を広げて夕食。
今年は「おもち(ライスケーキ)」。水で戻した餅にきな粉をまぶすという本格的なもので、フリーズドライをそのままかじって食べるタイプの物より断然うまい。しかし、実際の無重力の宇宙船内ではきな粉が飛び散って大変な事になりそうな気もするが。。。
夜の東海道山陽本線を駆け抜ける寝台特急「はやぶさ」車中で、地球への航海を続ける探査機はやぶさに想いを馳せつつ一夜を過ごし、列車は無事に九州に戻って来た。
熊本から横浜まで往復2000有余キロ、2晩を過ごしたクラシカルな2段式B寝台のベッドとももうすぐお別れ。
横浜を出発してから約17時間半。寝台特急「はやぶさ」は定刻の11:48に終着駅熊本に到着した。
「着いたー!はやぶさ君の大冒険2007年宇宙研一般公開、これにて終了!」
そして…
, ノ)
ノ)ノ,(ノi
( (ノし
┐) ∧,∧ ノ
..|( ( ....:::::::) ( ファイトオオオオオ!
 ̄⊂/ ̄ ̄7 )
(/ 川口 /ノ
 ̄TT ̄
_ _,_
∠/ ヽ ノ .∠/
∠∠=|・∀・ |=∠/
∠/  ̄¶' ̄ ∠/ いっぱああああああつ!!
小 惑 星 探 査 時 の 栄 養 補 給 に
_ ___ ____ __ __
| ̄| ! ̄|┌┘└‐P│└PPi ノ ,r┐ |ヽ、__,ノ/| ! r、 ヽ
|_|丿 ! 厂| hヾ l ┌─‐!∠ 、ー' ,! __ノ | .! | ) }
∠__ノ/___j___,!l、_).!、_ ̄ ̄| ∠__ノ |____ノ | '‐' _ノ
 ̄ ̄  ̄ ̄
大 正 製 薬
小惑星探査機「はやぶさ」情報:提供 宇宙科学研究本部
天燈茶房TENDANCAFEは日本の小惑星探査機「はやぶさ」を応援しています
天燈茶房TENDANCAFEは日本の小惑星探査機「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」を勝手に応援しています
今年も行ってきました、熊本から寝台特急はやぶさに乗って!
ブルートレインはやぶさに乗って、探査機はやぶさに会いに行こう!
という訳で相模原キャンパス一般公開の前日、7月20日(金)に有給休暇を取って午後からJR熊本駅へ。
寝台特急はやぶさは始発駅の熊本を16:00というかなり早い時間に発車するので、終業時間を待っていると間に合わなくなる。
それに、食堂車も車内販売さえもないので乗車前に食糧やら水やら寝酒やらを確保しておく必要もある。
九州新幹線乗り入れ工事の真っ最中の、工事現場のような熊本駅構内に寝台特急はやぶさは発車時刻の数分前に慌しく入線、すぐに発車する。
駅工事中で構内に余裕がないためとは言え、なんとも味気ない。
熊本発車直後の車内はほぼ無人。この先、博多や小倉や下関で乗ってくるんだろうが、実に寂しい。かつて西鹿児島を発着していた時代のはやぶさは、熊本で食堂車やロビーカーを組み込んだ付属編成を連結し、15両もの専用客車を連ねた堂々たる豪華編成で華やかに熊本駅を発車していた。
そしてその時代には宇宙科学研究所の研究者達が鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所へと赴く際のもっとも素晴らしい移動手段とされ、その想い出が小惑星探査機に「はやぶさ」という愛称が与えられる由縁となったのである。
今となっては編成も僅か6両、日本最長距離を走る豪華ブルートレインと謳われた時代の面影はない。それでもはやぶさは今日も黙々と鹿児島本線を北上していく。
その健気で実直な姿は、今日も孤独に地球に向けて宇宙の虚空を飛び続ける同名の探査機と重なるものがある。
後続の特急電車に追い抜かれても気にせずマイペースで九州を北上する寝台特急はやぶさは、海底トンネルを潜って九州を離脱する直前の門司駅で小休止。ここで大分から来る盟友の寝台特急「富士」の到着を待つ。
はやぶさをここまで牽引してきた赤い交流専用機関車ED76が切り離され、関門トンネル専用の交直流機関車EF81が連結されると、一旦ドアを閉めて引き上げ線へと退避。やがて大分から富士が到着する。
機関車が切り離された富士の編成に、バックして戻ってきたはやぶさが連結。
東京行きの2つのブルートレインがひとつになり、改めて東京へと向かって出発。
本州に入るとすっかり日が暮れた。
熊本発車時点ではガラガラだった車内も、小倉で団体客が大挙して乗り込んできたのでほぼ満席。騒がしかったのも最初だけで、すぐに殆どの乗客はベッドに潜り込んで就寝、午後9時におやすみ車内放送があった後は静まり返り、寝息とカーブで車輪のフランジが擦れる音だけが響く。全く持って「正しい夜行列車の夜」という雰囲気で、この独特の夜の世界は変わることがない。
さて、僕も今夜は早めに寝よう。
夜中に岡山や大阪に停車したような微かな記憶があるし、名古屋で一斉に下車する団体客の大騒ぎで一旦目が覚めたりしたのだが、概ねよく眠れた。目が覚めて、何となく車窓を見ているともう静岡に到着するところだった。
車窓はどんより曇り空で、途中ポツポツ雨が降ってきたりしたのだが、幸い神奈川県に入ると雨は上がった。しかし湿度が高くて蒸し暑そうだ。
午前九時半、ほぼ定刻に到着した横浜駅で「はやぶさ」を降り、横浜市営地下鉄とJR横浜線を乗り継いで宇宙科学研究本部相模原キャンパスの最寄り駅淵野辺へと向かい、ここから宇宙研が用意してくれた無料送迎バスで相模原キャンパスに到着した時には既に午前11時を回っていた。
「横浜からここまでが遠いんだよなぁ」
バスを降りて相模原キャンパス正門に向かう途中、「宇宙基本法」に反対するチラシを受け取ったりする(配っていたのは国立天文台の石附澄夫さんだったらしい?)。
いつもは門から続く鬱蒼とした並木道を覗き見することしか叶わぬ宇宙科学の世界最先端、宇宙研本部に大手を振っていざ入場!入り口でパンフやアンケート用紙の入ったオリジナルトートバッグを貰う。
「おお!大量の資料やグッズで気がつくと大荷物になってしまうので、これは素晴らしいサービス!」
さて、今年は宇宙研に来たら先ずやっておくことがある。
先日配信された日本惑星協会のメルマガ「YMコラム」で、JAXA宇宙教育センター長の的川泰宣先生が相模原キャンパスの一般公開で「新潟被災のカンパの提案をするつもりです」と書かれていた(YMコラムNo.392)。
本館前のインフォメーションセンターのテントで、ポケットにあった小銭を掴み取って募金箱へ投入。「被災者の皆さんは今頃大変でしょうが、どうか気を落とさずに…」
まずは第1会場の本館へと入る。
入り口を入ると、小惑星イトカワの巨大パネルとお馴染みの実物大「はやぶさ」模型が出迎えてくれる。
「はやぶさ」の周りには、月・惑星探査推進グループ(JSPEC)のパネルが貼られているが、大変な混雑でじっくりパネルを読める状況ではない。
それでも、「はやぶさ」のイラストと並んで僕たちが応援している2番艦「はやぶさ2」と次世代機「はやぶさマーク2」のイラストが見て取れた。
「はやぶさ2、デザインは現行機と同じだけどハイゲインアンテナが平面式なのかな?あれって確か金星探査機PLANET-Cが採用する最新型なんだっけ…マイナーチェンジするんだな。はやぶさマーク2、でかい!ミネルヴァに足が付いてる!?」
その他、はやぶさ関連ではお馴染みのイトカワ詳細模型やミネルヴァの模型などが並ぶ。
「これはイトカワの地表を撃ってサンプルを採取するための射出装置です。地上で実験するのに使ったものなんですけど」と説明役の女子学生さんが教えてくれる。
「耐火煉瓦で実験したら、これだけ破片がサンプルとして取れました」とシャーレの中身を見せてくれるのだが、結構な分量。かぜ薬の小瓶一杯分位ある。
「こんなに取れるんですか?何か、イメージ的に微少な砂粒がちょっとだけ取れるのかと思ってましたけど」
「ええ、これは特別に良い条件で垂直に弾丸を撃ち込んだんです。イトカワの地表の性質によっては全く破片が出来ずに一粒もサンプルが取れない可能性もあります。」
「…厳しいんですねえ。ところで、こんな事を聞くのは失礼ですが弾丸は発射されていない可能性もありますよね?」
「ハイ、私の立場では何とも言えないんですけど…でも、弾丸発射直後に射出装置の温度が上昇してるんです。実際に撃ってる可能性はあります。」
「そうですね。僕も弾丸は発射されたと信じてます!」
「これは何ですか?」
「ターゲットマーカの中身ですよ。バウンドしないように色々試したけど、この形になりました。」
「なんだか夏用の硬い枕の中身みたいですね」
「ええ、私も最初見たときは手芸用のビーズかと思いました。」うむむ、女性らしい意見。
実物大「はやぶさ」模型の足元に寄り添うようにして「着陸」していたこの可愛らしい子は、昨年秋に佐賀県立宇宙科学館で開催された特別企画展「はやぶさの挑戦」の期間中に来場者から寄せられた応援メッセージのシールを全身にまとった「手作りはやぶさ君」。宇宙研本部に到着して展示されているということは聞いていたが、初めてここで対面を果たすことが出来た。
「はやぶさ君、宇宙研で大きなはやぶさお兄ちゃんと一緒に居られて、よかったなぁ…!」
はやぶさ君の太陽電池パネルに自分の応援メッセージのシールがしっかり貼られているのを確認して、記念写真を撮影。
(帰宅後、佐賀県立宇宙科学館スタッフの皆さんにメールで写真を送って報告したところ大変喜んで頂けました)
はやぶさの周りは大勢の見学者の波が途絶える事は無く、改めて「奇跡の宇宙船はやぶさ」の人気ぶりが窺える。そんなはやぶさの旅路を超美麗高精細CGで再現した映画「祈り」(小惑星探査機「はやぶさ」の物語)が2ヵ所のモニターで上映されていたのだが、ちょっと立ち止まって見ていると…いかん、カッコ良過ぎる、感動的過ぎる!!モニターに浮かぶ宇宙船はやぶさの独白「見エタ…着イタ、ボクノ星。」(確かそんなセリフでした)を読んだ瞬間、目から熱いものが…「いかん、このまま見てると本当に泣いてしまう!」
「祈り」は今後ネットで公開され、一般販売もされるとの事なので、後日自宅で思う存分堪能しようと思いその場を離れた。さすがに人前で大泣きするのは恥ずかしいもんね。
はやぶさコーナーの奥には、打ち上げが来月に迫った月周回衛星「かぐや(SELENE)」のブースがあるが、うん?何だこの張り紙は…「かぐやの打ち上げは、コンデンサの極性が逆に取り付けられていることが発見されたために延期されました」何ーーー!!??
いつそんなことが分かったんだ?昨夜?何てこったい、寝台特急「はやぶさ」に乗ってて世間の最新情報と隔絶されてたんで全然知らなかったぜ…っていうか、宇宙研一般公開の前日に分かるなんて、何というタイミング!
何だかトホホな気分になってしまったが、気を取り直してかぐや(SELENE)ミッションマークの旗に寄せ書きを贈る。
「21世紀のかぐや姫ガンバレ!」頑張ってくれよホントに…
「かぐや(SELENE)」の裏に鎮座ましましていたのは、LUNAR-Aプロジェクトによって月面に打ち込まれる予定だった「ペネトレーター」。昨年の宇宙研一般公開ではペネトレーター開発担当の先生が延期され続ける打ち上げスケジュールにも負けず「必ずペネトレーターを完成させて、必ず月面に打ち込みます!そして月の謎を解き明かすんです!!」と熱く語ってくれたが、今年お話しを伺ったペネトレーターの先生も情熱の人だった。
「LUNAR-Aプロジェクトは中止されましたが、ペネトレーター自体はすでに殆ど完成しています。後は今年度中に最終確認試験をアメリカで実施すれば完成です。LUNAR-Aはなくなりましたが、今ロシアが景気がいいですからね、連中探査機を上げたがってるんですよ。引き合いが来てます。今からロシアの衛星に搭載する為の擦り合わせを開始する段階です。まだ何も決まってはいませんが、これからですよ!!」
「ペネトレーターは一から作り上げたものですからね。何も分からないところから作り上げてきたんです。」
何だか、ペンシルロケットからスタートしてここまで来た宇宙研の歴史そのものみたいですねえ。
「本当にそうですよ。皆で一緒に、サイエンスの人も工学の人も一緒になって作り上げたものなんです。実験後は一緒になって埋まった試作品を掘り出したりしてね」
楽しそうですねえ!何だか初期の頃のロケット実験を彷彿とさせますね。
やっぱり先生も何が何でもこのペネトレーターを月面にぶち込みたいと情熱を燃やしておられるんですね。
「もちろん!必ずぶち込みますよ!!それに、月にだけじゃなく、火星や木星のガリレオ衛星にも…」熱く語ってくれるH先生の情熱には果てがないのであった。
ちなみにH先生は「はやぶさ」の帰路からのスーパーバイザーも担当されているとのこと。どうですか、最近のはやぶさは元気ですか!?
「最近のはやぶさは本当に安定しています。だから僕でも担当できるんですよ」わはは。。。楽しい先生だ。でも、安心しました。これからも頑張ってはやぶさを地球に導いて下さいね。それから、ペネトレーターの完成と月面にぶち込む日が早く来る事を祈っています。
ちなみに昨年、飛翔体環境試験棟の一画に放置されていた「LUNAR-A在中」の紙の貼られた謎の白いコンテナは今年も健在でした。LUNAR-Aはコンテナに詰められて放置されても、ペネトレーターの情熱は消えない…でもやっぱり複雑な気分。
それにしても、衛星の測定を行う試験室は工場そのものだなぁ…
自分の勤め先の工場現場でも使用しているホイストや手押しリフトや工具台車があるので、何となく親近感を感じる。
相模原キャンパス内を歩き回っている途中、中庭のM-3SⅡロケットの実物大モデルの横で親子連れに道を聞かれてるスタッフのあの人は…まさか「はやぶさ」のプロジェクトマネージャ、川口淳一郎先生?
思い切って話しかけてみる。「あの…はやぶさプロジェクトの川口先生ですよね?」
「えっ!?そうですけど」
「ああ、あの、僕はやぶさとはやぶさ2を応援してます!これからも頑張って下さいね!」
「はい、ありがとうございます」
「あの~失礼ですが…握手してもらえますか!?」
「ええっ!?ははは…いいですよ」
という訳で、いきなり押しかけて握手までして頂いて川口先生本当にありがとうございました!!
そしてこの後、僕はJAXA宇宙教育センター長で日本惑星協会メルマガ「YMコラム」の著者、日本の宇宙活動の語り部である的川泰宣先生にお会いする事ができたのだ。
「今年も熊本から寝台列車のはやぶさで来たの?」と優しく話しかけて下さった的川先生、ありがとうございました。
的川先生と並んで、本館の宇宙教育センターブースで宇宙紙芝居を見る。このまま童心に戻って紙芝居を見ていたかったが、あいにく帰りの寝台特急はやぶさの発車時間が迫っている。
的川先生にお別れの挨拶と来年また来ますと約束して、今年の宇宙研一般公開の思い出と握手した的川先生の手の温かさを心のリエントリーカプセルに収納してしっかりと蓋閉め運用を行い、相模原を後にする。
横浜駅から乗り込んだ熊本行き寝台特急「はやぶさ」の車中で、宇宙研の生協で買ったお土産の宇宙食を広げて夕食。
今年は「おもち(ライスケーキ)」。水で戻した餅にきな粉をまぶすという本格的なもので、フリーズドライをそのままかじって食べるタイプの物より断然うまい。しかし、実際の無重力の宇宙船内ではきな粉が飛び散って大変な事になりそうな気もするが。。。
夜の東海道山陽本線を駆け抜ける寝台特急「はやぶさ」車中で、地球への航海を続ける探査機はやぶさに想いを馳せつつ一夜を過ごし、列車は無事に九州に戻って来た。
熊本から横浜まで往復2000有余キロ、2晩を過ごしたクラシカルな2段式B寝台のベッドとももうすぐお別れ。
横浜を出発してから約17時間半。寝台特急「はやぶさ」は定刻の11:48に終着駅熊本に到着した。
「着いたー!はやぶさ君の大冒険2007年宇宙研一般公開、これにて終了!」
そして…
, ノ)
ノ)ノ,(ノi
( (ノし
┐) ∧,∧ ノ
..|( ( ....:::::::) ( ファイトオオオオオ!
 ̄⊂/ ̄ ̄7 )
(/ 川口 /ノ
 ̄TT ̄
_ _,_
∠/ ヽ ノ .∠/
∠∠=|・∀・ |=∠/
∠/  ̄¶' ̄ ∠/ いっぱああああああつ!!
小 惑 星 探 査 時 の 栄 養 補 給 に
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大 正 製 薬
小惑星探査機「はやぶさ」情報:提供 宇宙科学研究本部
天燈茶房TENDANCAFEは日本の小惑星探査機「はやぶさ」を応援しています
天燈茶房TENDANCAFEは日本の小惑星探査機「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」を勝手に応援しています
でも、早く本題を見たい「おっさん」が居る事もお忘れなく。
ハイ、自分でも分かってます、引っ張りすぎってw
でも、はやぶさに乗って宇宙研に行く事はある種の「げん担ぎ」みたいなもので、非常に意味があると亭主は信じ込んでいますので、敢えて長々やらせて頂きました。
本題も鋭意執筆中ですのでちょっとだけ待ってて下さいね。
kamimog
心配しなくても働いてるよ!
ちゃんと「有給休暇を取って」と書いてるでしょうが。
まあ、お出かけした事とか宇宙科学絡みの生活臭のない話題ばっかり書いてるから無理もないが、平日にはちゃんとマジメにリーマンやってるのでそこんとこ誤解しないように。
「はやぶさ」ですが、先日ある観測機会が久しぶりにありました。しっかり元気のようです。良かった良かった。
この宇宙教育センターの紙芝居、子供向けとは思えない位に洒落の効いた逸品でしたよ。子供より、おじさん達に受けまくってました(笑)
平林先生も「この方、お笑いのセンスも凄いな…」と思わせる熱演でした。
ところで、平林先生の文章が教科書に載っているのですね!一度読んでみたいです。
「はやぶさ」の観測…凄い!どんな観測だったのでしょうか!?
元気に地球を目指して飛んでくれているとのこと、本当に一安心ですね!良い知らせありがとうございます。