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種子島縦断ナイトハイク 長谷展望公園→西之表港10時間

2007-02-27 | 旅行
(写真:夜明け前の西之表。ここを目指して歩き続けた。)

種子島宇宙センター近くの長谷展望公園でH-IIAロケット12号機の打ち上げを見送った後、僕はこれからどうしたものかと考えた。
度重なる打ち上げ予定延期の末、急遽2月24日土曜日に打ち上げられることになったH-IIAロケット12号機を見るために大急ぎで種子島行きのチケットの手配だけして身一つで種子島に駆けつけたので、ロケット打ち上げの後どうするか全く考えていなかったのだ。

13:41に種子島宇宙センターから打ち上げられたH-IIAロケット12号機は正常に飛行を続け、やがて搭載していた情報収集衛星2機を分離したことを確認して打ち上げは成功、H-IIAロケットの打ち上げを間近で見るという当初の目的は果たした。もう思い残す事はない。
しかし、今から路線バスで九州本土行きの船が出る西之表まで戻っても今日の鹿児島港行きの高速船やフェリーの最終便には間に合わない。
かと言って宿の手配などはしていないし、第一今日はロケット打ち上げ当日とあって種子島の主要な旅館・ホテルはロケット関係者と見物客で一杯だろう。
どうしようかとあれこれ考えているうちに面倒くさくなってきた。

「さっき、ここまで来るのに乗った路線バスの沿線の景色、きれいだったな。。。あんな景色見ながら歩くのもいいかも知れないな」

よし、歩こう!
ここから西之表までは40キロ以上あるが、ゆっくり歩いても一晩あれば着くだろう。それに、バス路線沿いに歩けば途中でくたびれて歩けなくなってもバス停で待っていれば翌朝のバスの始発便に拾ってもらえる。

午後4時過ぎ、ロケット打ち上げの見学客も皆帰ってしまいひっそりした長谷公園を後に、一路西之表港を目指して歩き始める。
長谷公園周辺は一面の砂糖キビ畑が広がり、沖縄辺りのような風景だ。
砂糖キビの向こうに、誰かの揚げている凧が見える。のどかだ。


こんな看板を見ながら、砂糖キビ畑の中の小路を路線バスの通る国道58号線目指してトボトボ歩く。

国道に出たら、後は一路道なりに北上して西之表を目指す。途中工事中で足場の悪い区間もあったが、概ねずっと立派な歩道があるので歩くのに問題はない。
漸く陽が傾き始めた頃、坂井という集落を通る。国道沿いに立派な公園が整備されているので休憩がてら寄り道。
「国指定重要文化財建造物 古市家住宅」という看板があるので、ちょっと覗いてみようと思い近付いていくと詰め所のような小屋からおじいさんが出てきた。
「見学されますか?」
「ハイ、ちょっと見てみたいんですけど…いいですか?」
「どうぞどうぞ。ただの古い家ですが、こちらです」
という訳で、おじいさんに案内してもらう。

「古市家住宅ってどんな住宅なんですか?」
「ただの古い家ですが、江戸時代後期に建てられた家です。以前この辺りの庄屋だった種子島家の家老の古市さんの家です。」
「へえ。庄屋さんの家なら立派な家なんでしょうね」
「はい、ただの古い家ですが、現在中種子町が管理しています。」
なんかやたらと「ただの古い家」を強調されるが、古市家住宅は実に趣のある家屋だった。


「おお、これは味わいのある家ですね!」
「はい、ただの古い家ですが昔ながらの姿に復元して整備しています」
「風通しも良さそうで、今住んでも住み心地が良さそうですね」
「はい、裏に井戸があって煮炊きは土間のかまどでやります」
「いやいや、ただの古い家じゃないですよ。素晴らしい文化財です。案内して頂いてどうもありがとうございました。」

「ところで、どちらから来られたんですか?」
「熊本からです。ロケットの打ち上げを見に来たんですよ。」
「そうですか。ロケット見に来られる方は最近多いですね。これからどちらへ行かれるんですか?」
「今から西之表まで歩いて船に乗って帰ろうと思ってます。」
「え?ここから西之表まで歩くんですか?」
「ええ、どうせヒマですから…それに最近運動不足なもんで」
「そうですか…ここからだと西之表まで8時間位かかりますが、どうぞお気を付けて」
「はい、ありがとうございます」

古市家住宅を後に、再び国道58号線を北上する。
と、100メートルも行かないうちに「日本一の大ソテツ」の看板が目にとまった。

坂井神社の境内にある「日本一の大ソテツ」を見る。
「ふーん。。。大きいソテツだねぇ」

さて、日も暮れたし歩こう歩こう。

すっかり暗くなった中を歩き続けると、周囲に人家が増えてきた。中種子の町に着いたようだ。中種子には種子島空港もあるし、ひょっとしたらコンビニやファミレスもあるかもしれない。ちょっと一休みして行こうかな…

しかし、中種子には一息つけるような店は無く、使えそうな店はスーパー「Aコープ」とドラッグストアくらいしかなかったのである。
「仕方がない…非常食料を補給していくか」
「Aコープ」でペットボトルのお茶と見切り品3割引のコッペパンを購入。ついでに隣のドラッグストアで聞いたことのないメーカー製のカロリーメイトもどきと「リポD」を買おうとするとレジで「ポイントカード作られますか?」と聞かれる。我が家の近所にも同系列の店があるし、せっかくなので作ってもらう。
「ありがとうございます。明日は当店サービス日なんでポイント5倍です」
そうですか。多分明日はこの店には買い物に来られないと思いますが。

カロリーメイトもどきを齧りながらリポDを流し込んで、ふぁいと一発でさあ行こう!

中種子の中心部から5分も歩くと辺りは一面真っ暗な畑の中の一本道になった。
やがて畑もなくなり、山の中を進んでいく。振り返るとはるか後方に中種子の町明かりとライトアップされた巨大な風力発電の風車がゆっくりと回っているのが見える。
すると、車道を追い抜いていった軽トラが急ブレーキを踏んで停車し、そのままバックで戻ってきた。僕の横で停車した軽トラから運転していた男性が顔を出して
「今からどこまで行くねー?」
「西之表です」
「歩いていくねー?」
「ええ」
「遠いよー、乗って行くねー?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫、歩けますから」
「そうねー歩くねー?じゃあ気ぃ付けなー」
“逆ヒッチハイク”だ。親切な人だなー。何だか元気が出てきた。ここから西之表まであと26キロ。頑張って歩くぞー!!

中種子から1時間半も歩くと、潮騒が聞こえてきた。海が近いらしい。
海沿いの集落の中を進む。何だか熊本県の宇土半島の有明海沿いと雰囲気が似ている。でも、ここから見える海は干潟の広がる内海ではなく外洋の東シナ海だ。打ち寄せる波の音が荒々しい。
沖に見える光は、あの位置には島はない筈だから漁火だろうか?

海沿いの集落を抜けると、また深い山の中に入って行く。道路はなだらかにアップダウンを繰り返す。かなり山奥に入ってきたようだ。辺りには人家の明かりは全く無くなり漆黒の闇の中を、時折行き交う自動車のヘッドライトと少しおぼろになった月明かりを頼りに進んで行く。
やや急な上り坂を歩いていると、坂の下の方から空き缶が転がるようなカラカラという音が聞こえてくる。
「さっき下っていったクルマが投げ捨てたのかな。マナーの悪い奴だ」とか思いながら坂道を登って行くと、暫くしてまたカラカラという音が聞こえてきた。しかし、何かおかしい…
「何か…さっきより音が近付いてないか?」
そんなまさか。空き缶が坂道を「転がり登って」来るとでもいうのか?
急に背筋がゾーっとしてきた。歩くスピードを上げて、急いで坂を登る。やがて坂の頂上に出て向こうに民家の明かりが見えた時にはカラカラという音も聞こえなくなっていた。
「よかった、追いつかれなかった…って、何言ってるんだ我ながら。バカバカしい、疲れたせいかな。。。」
(しかし、帰宅後ネットで何となく調べてみたら何とそれらしきモノを見つけてしまったのだよ、あはは…怖いぞ。あれは本当に“チョカメン”だったんだろうか…)

日付が変わる頃、海沿いの入り江の向こうの空が明るくなっているのが分かった。西之表の町明かりに違いない。「ああ、町までもう少しだなきっと…」
しかし入り江の先には煌々と輝く飲み物の自動販売機があるだけで、そこは一面の砂浜だったのだ。「砂漠で蜃気楼のオアシスを見た人の気持ちが分かるぜ…くそー!!」
そこは海水浴場らしいのだが、砂浜には凄まじい勢いで波頭が打ち寄せていて、迂闊に海に入るとすぐに沖にさらわれてしまいそうだった。

夜通し延々歩いているので足の裏にはマメが出来て、殆どカラで軽いはずのザックもずっしり肩に食い込んでくるような気がする。「はあ。。。やっぱり種子島を徒歩で縦断するなんて無謀だったなあ。。。」
それでも道路標識によると確実に西之表は近付いている。コッペパンを齧って気力を振り絞り、マメの出来た足を引きずりながらも、午前2時半にとうとう西之表に到着した。

「やったー!我ながらよく頑張ったぜ。それにしても…あ~バカなことした!!」
でも、実際に自分の足で歩いたので種子島がどんなところか身体で理解できたような気がする。あながちバカなことでもなかったかも知れない、とちゃっかり自己満足してたりもする。

ところで、奇しくも古市家住宅で会ったおじいさんの言った通り、あれからキッチリ8時間後に到着した事に気がついた。
「あのおじいさんも、ひょっとしたら西之表まで歩いた事があったのかも知れないな」

とりあえず西之表の町でこの時間でも唯一営業していたコンビニに入る。「おー!明るい!暖かい!食い物も飲み物もある!…24時間営業ってありがたいなあ。。。」
貪りついたコンビニのおにぎりとジュースで、種子島縦断10時間ナイトハイクは報われたのであった。
(以下まだ続く)



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