ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

H30年度みるみると見てみる?レポート②をお届けします(2019,1,27開催)

2019-02-24 21:05:50 | 対話型鑑賞
島根県立石見美術館「あなたはどう見る? よく見て話そう美術について」
1月27日(日)14:30~15:00  児島善三郎「椅子による」 (1925〜1928年頃 油彩、カンヴァス)
ナビゲーター:松田 淳  参加者:17名(内みるみる会員5名)

 展示室に入った時にまず写真やファッションの作品が目に入り、それらに挑戦したい気持ちもありましたが、絵画の一点を選ぶことにしました。他の会員からの提案を受け、赤と青で分けられたこの部屋の中で、選んだ作品と対照的に展示してある東郷青児の作品とシークエンスとして鑑賞することも考えましたが、じっと見ていると不思議だと思うことがたくさんある絵だと思ったため、この一点だけを時間をかけて鑑賞することにしました。

 トークが始まると、さっそくその不思議さに気づいた数名の方から次々に発言がありました。デッサンが上手くできていない、体の部分の関係がおかしい、椅子の脚に影があるのに柱の影がない、椅子や床の花瓶は上から見た感じで描かれているのに女性は真後ろから見たように描かれているなど、作者の視線の不自然さや作者の技量不足を指摘するような発言が続けられました。
 その中で、「この作者は絵として人に見せるために描いたのではなく、自分が描きたいものを描いただけなのではないかと思う。描きたいものを描いた快感が感じられ、それを見る快感みたいなものを自分は感じる」と、なぜ作者がこのような不思議に感じる絵を描くことになったのかを推測する話も出ました。
 その後も、女性の右足の大腿部の長さが不自然、足を椅子に上げた方の臀部がもち上がっていないのがおかしい、床に着いた足に違和感があるなど、この絵の不自然な部分が次々と上げられ、「いろいろと不思議な絵」ということがみなさんの発言から共通認識となりました。
 そこで、「この絵がいろいろとおかしいと感じるところがあって、不思議な絵だということでしたが、ではなぜ作者はこんな絵を描いたのでしょうか?そしてこの絵で何を表そうとしたのでしょうか?」とみなさんに投げかけてみました。
 その問いに対してしばらく沈黙があり考えたあと、「女性以外はしっかり描き込んだように見えないから、一番描きたかったのは女性で、女性の美しさを描きたかったのだと思う」と一人が答えられた。続けて、別の方が「腰周りを描きたかったのだと思う」と言われたので、「なぜ腰周りを描きたかったのだと思いますか?」と問い返しました。それには「女性の腰周りを描くことで、女性の力強さを表したかったのだと思う」と言われ、さらに「それはこの女性ですか?それとも全ての女性ですか?」と問うと、「この女性の力強さです」と答えられ、この方にとってのこの絵の主題が明らかになったように思いました。
 それに関連して、「女性のくびれが描かれていて、その他のものにもくびれが見えます。椅子の背もたれや花瓶にもくびれがあるので、女性の身体のくびれとつながりをもたせて女性の身体の美しさを表現したのだと思います」という発言もありました。

 不自然に感じられる点がいくつもありながら、不思議な魅力を感じる絵だと私自身が感じ、みんなで味わってみたいと思い、この作品を選びました。参加者からまずその不自然さが上がりましたが、やはりこの作品自体を否定するような意見はなく、どこか魅力や作者の思いを感じられる絵だということが共有できたと思います。

 鑑賞会後のみるみるメンバーでの振り返りでも肯定的な感想を多くいただきました。参加者がいろいろな意見をつぎつぎと出すのを落ち着いて受け止めながら進めることができていたこと、これまでは参加者の意見を聞いて私自身の解釈を伝えてしまうことが多かったが今回はそれがなかったこと、さまざまな見方で意見が出ることを楽しんでいる様子が感じられたことを上げてもらい、今後の参考になりました。
 この絵の主題に迫る投げかけをしたことも、参加者にとってよかったと言ってもらいました。学校の授業とは違い、美術館に来た参加者は「何かをもって帰りたい」という思いがあるから、今回の主題のように、参加者にとって考えることが明確になって「私なりにはこう考えた」と思える流れはよかったと教えてもらいました。対話を通して、自分なりにはこう見た、こう感じた、そしてそれが楽しかった、またこうやって作品を見たいと思ってもらうことが学校でも美術館でも大事だと思うので、考えた手ごたえを感じられる鑑賞会を今後も心がけていきたいと思いました。
 参加してくださったみなさま、ありがとうございました。

<参加者アンケートより>
・視覚的な快感を求めた絵だろうと思っていた。ちぐはぐな部分の解釈が見る人によって違うことに刺激を受けた。素通りできない魅力は、そのちぐはぐさなのだろう。
・テーマとなった女性像の絵は、本来なら素通りする絵でした。しかし、色々な御意見を聞き、面白かったです。たくさんの意見に耳を傾けることは、自分を振り返り、意識を高めるのに非常に有意義だと思いました。


<みるみるの会からのお知らせ>

3月は島根県東部で対話型鑑賞会を行います。いろいろな意見に耳を傾けながら、じっくりと作品を味わってみませんか?

旧村松邸(松江市新雑賀町)
 3月21日(木・春分の日)14:00~
 3月24日(日)14:00~

加納美術館(安来市広瀬町)企画展「愛しき島根」にて
 3月31日(日)13:30~

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