MINOKICHI JP   Tokyo Japan

毛玉生活満喫中?
濃すぎるポーリッシュ・ローランド・シープドッグのお話。

春の夢 終わり

2008-02-27 17:41:50 | インポート
F氏が所属する会社は常に後ろ向きであった。
大きな会社にとって2000万等は大した事がない。臭い物に蓋。さっさと肩代わりし、口封じをして何も無かったことにすればいい。
・・・そんなふうに思えた。

そうは問屋がおろさないと、被害者の一人が息巻いているという。
確かに私達はF氏を信用していたが、その信用も彼の後ろにある大企業の名前があってのこと。会社に対して監督不行き届きを問うてもいいのだ。

以前、お客様相談室の担当がこう言っていた。
「私どもは告発という手しか取れません。あとは皆様が被害届けを提出するという形になります。・・・如何なされますか?」

ところが、F氏は不思議な行動をした。
会社は解雇という形を取って何事も無かったようにしたい雰囲気だったのに、自分から出頭してしまったのである。

「わけがわからんのです。会社の近くで出頭すればいいものを・・・、何で他県で出頭するのか。結局その時担当してしまった私があなた方を回ってこうして調書を取っている。面倒なことをしなきゃいんかんのですよ。」
そりゃそうだ。
事件にならなければそのまま次の生活をスタートさせることができたはずだ。

「でね、最後に聞きたいんですがね、あなたがた彼に厳しい処罰を望みますか?それとも減刑嘆願しますか?」
「・・・実害がないんですからねぇ・・・悪い人ではなかったしねぇ・・・どうよ・・・べつにねぇ・・。」
「ふふっ、わかりました。厳しい処罰は望まない。それでいいですね。」
「(皆で頷く)」
「では終わりにしましょう。調書を作成してから判子を貰いにまた伺う事になりますんで、よろしく。」
せわしなく立ち上がる刑事さんを制し、最後に尋ねた。

「刑事さん・・・本当のところ・・・何なんですかねえ。何が真実なんでしょう。」

「・・・わからんのです。人間の本当のところなんて誰にもわからない。いい顧客を持ってて、助けも色んな所から得られる立場だった。だけど、やってしまったんですよ。私がわかっているのは彼が供述したことだけ。それが真実か真実じゃないかは・・・奴だけしかわからない。それが詐欺っていうもんなんですよ。」

知る由もない真実。
それぞれの人生の中で、交差した数年の時があっただけ。
彼が何十年にも亘って見てきた人生の深淵を、語り合うことなどできないほどの短い期間だ。

真実を知ったところで私に何ができるものでも無し。
今はあの刑事さんの言葉を反芻することにしよう・・・。



春の夢~詐欺~⑧

2008-02-26 17:21:49 | インポート
F氏の悪事の露見は1本の電話からだった。

数々の保険に入り、仲良くしていた顧客の一人に1口100万を持ちかけ、その後更に5口500万を持ちかけたのだ。100万だけならともかく、500万は大きい。確認の為に本社にその商品の事を問い合わせた顧客のおかげで、F氏の無謀な詐欺が発覚したのである。

F氏は都合10名から2000万というお金を引き出していた。
解約を迫られれば必然的に次のターゲットを探さなくてはならない。1年もすれば約束の利子も払い込まなければならいわけで、自転車操業になっていたようだ。

では、何に使ったのか?
「Fが言うには生活費全般だそうですよ。」
だそう・・・?はっきりしてはいないのだろうか?
「本人はそう言っています。」

だが、数々の契約が派生していたからには、給料だってかなり貰っていたのではないだろうか?
「最後のほうは20万を切っていたようですね。14・5万がいいところでしょう。」

彼が嬉しそうに報告していた沢山の契約は作り話だったのだろうか?
「契約?取れていなかったようですね。最初は良かったんですよ。銀行の時の顧客さんがちょこちょこと入ってくれた。しかし・・・後が続かない。出来高制ですから、かなり苦しかったようです。」

では、家族を抱えて随分苦労していたんでは?
「・・・家族?とっくの昔に離婚していますよ。もうかれこれ5年以上も前にね。」
はっ?だって、家族の話をよくしていたし、皆で郊外の一軒家に住んでいたんじゃないの?
「・・・一軒家?マンションですよ。家族と一緒に住んでいたのもマンション。一軒家なんて話はないですねえ。ついこの間までマンションです。」

じゃ、じゃあ、競馬とかそんな博打はどうなの?
「一発巻き返しを図ろうとしてたんじゃないんでしょうかね。ただ・・・奴の知人の話では毎回100万単位のつぎ込み方をしていたようです。」
ひゃくまんっ!?
数千円単位じゃないの~!!?

私の質問に次から次へと答える刑事さんの話を冷静に聞いていたオババ達が聞いた。
「あの~・・・本当にFさんの話をしているんですか?本当に同じ人の事?」
何を聞いているんじゃっ!

確かに私達の知っているF氏と刑事さんの口から出てくる人間は一致しない。

「ふふっ、そうですか。違う人間ですか?でもあいつですよ。」
「(全員声を合わせて)うっそぉ~!!」
「皆さんそうおっしゃいますね。他の方も含めて、被害者さんなのに皆さん一様に面食らってらっしゃる。奴はいい人間だったようですね、皆さんの前では。」
「(全員で頷く)」
「誰もだまされたとは思ってらっしゃらない。というか、お金は会社が肩代わりしているわけですから、実害はないと。だからこそまだ実感がないんですね。」

実感があればこんなに悩まない。
だって、彼は本当にいい人だったんだもの。

「それが詐欺師の手なんです。悪い奴に詐欺師はいない。そうじゃなきゃ・・・誰も引っかかりっこないでしょう。」
「(全員声を合わせて)うっそぉ~!!」


春の夢~詐欺~⑦

2008-02-25 16:55:17 | インポート
「ふふふふっ。そーでしょうね、ふふ、大丈夫ですよ。こんなに大量にあったらとんでもないことです。ありえない話ですから。」
そっ、そうよね。1グラムもあればたいそうな価値の物ですもの。
ちっ、冷静すぎて面白くないわ、この刑事さん。
よくよく袋を見ると『スギ・コナヒョウダニ』って書いてあるもの。犬の減感作用注射や薬だってバレバレ。

私が繰り広げる数々のきっかけも無視し、続けられる事情聴取。
今回の詐欺商品を各人に、何月何日に持ちかけたのか。どういう説明を受けたのか。どんなつもりで入ったのか等々を聞かれたわけである。

「どんな説明だったっけ?」
「私達に○%の利子で、Fさんに○%入るんだっけ?」
「違うよ、○%はうちらじゃない?」
「そーだった?ふんふんって聞いてただけだしねぇ~。」

100万円を預けると3%の利子がつき、そのうちの2%が私達であとの1%が担当のF氏のマージンとなるという話だったはずだ。
これが1000万となると時間をかけて考えもするが、100万となると案外簡単に返事をしてしまうものなのだ。1年もすれば解約できるし、少しでもF氏にマージンが入ればいいと考えての契約だった。

「不思議には思わなかったんですか?あなたがた。」
「(全員声を揃えて)はい、べつに。」
「おかしいなとは思わなかったんですね。」
「(全員声を揃えて)はい、とくに。」
「気のいい方々ですねえ。100万といえばボクの3か月分の給料だ。大金ですよ~。」
ナンだって!?刑事の給料が何となくわかっちゃった!人の事は言えないが、やっぱり薄給かもしれない。

刑事の仕事の話を聞きたいのはやまやま。
しかし、今はこの事を聞かなきゃならない。

「で・・・今・・・彼はどうしているんでしょうか?」
「地元でタクシーの運転手をしているようです。」

はいっ?ナンだって!!
捕まってるんじゃないの?


春の夢~詐欺~⑥

2008-02-24 18:54:05 | インポート
よれよれのコートを羽織り、眼光するどい男。
そんなのが店に現れたら・・・刑事と思え!!

そんな事をスタッフに伝えていたら・・・来ちゃったよ、本人が。

トレンチコートを小脇に挟みながら、左手には革張りのアタッシュケース。白髪交じりの5厘刈りに銀縁眼鏡。

「えーっと・・・保険か何かのセールスでらっしゃいますか?」
なはずはない。
麻雀・光物・犬屋・・・皆忙しくて警察署まで行けないとごねたら、わざわざ事情聴取に来てくれたのだ。
一瞬のうちにDINGO2階は取調室に変わった。

「あの・・・つかぬことをお伺いしますが・・・警察手帳はございますか?」
「ああっ、失礼。これです。」

おおっ、これだよこれ。これを見たかったのだ。

少し前までは黒手帳だったが、現在は縦開きのアメリカ保安官っぽい物になっている。
http://store.shopping.yahoo.co.jp/koncrete/gpc-007.html
手にとって重さを知りたかったのだが、一切手を触れさせないぞとばかりに胸元に収められてしまった。・・・残念だ。

「では、始めましょうか・・・」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
私が何を言い出すのかと、オババたちも固唾を飲んで見守っていた。

「やっぱりっ!・・・・・やっぱりカツ丼ですかね?」

「ふふふっ、はーっははは。それはテレビだけのことですよ。今時そんな事したら、罰せられますから。さあ、始めましょうか。」
だめっ、始めちゃダメなんだよ。もっとそういう話がしたいんだ。何でカツ丼はダメなの?どーして?どーしてなの?

そんな風に思っていた時、ある物が目に入ってしまった。
事情聴取を前に片付けたはずのものが・・・机の隅に綺麗に置かれて・・・燦然とした輝きを放っているではないか。
こっ、これは・・・!!



「けっ、刑事さん!!これ、私のものじゃないんですっ!わたし・・・私・・・知らないっ!知らないですっ!」
「注射針ですね・・・。」

更に間の悪いことに注射針の下には白い粉の入った袋が置きっぱなしになっていたのである・・・。


春の夢~詐欺~⑤

2008-02-22 20:00:49 | インポート
それからは蜂の巣をつついたような騒ぎだった。

何であのF氏が私達のお金を取る必要があるのか?何かの間違いではないのか?取った人間が何で会社に報告するのか?
全てがわからないまま、私達3人は保険会社「お客様相談室」の担当者と対峙することになった。

「今、弊社としても本人を事情聴取中でして、詳しくは言えないのですが・・・。」
のらりくらりと話をはぐらかそうとする担当者を前に、首をかしげることばかり。

酒は飲めない男だ。色気もないから女で身を滅ぼすこともない。博打か?
「生活費で使ってしまったようです。」
生活費?
どんな生活だったと言うのか?慎ましやかな生活だったはずだ。

結局1年以上色んな事があって、私達三人のお金は会社が肩代わりして戻ってきた。
もちろん詳しい話などは聞けず、会社側は単に告発という手立てを取り、私達には告訴するよう要求してきただけだった。

話はここで終わるはずも無く、私達は真実が知りたくて、顔を合わせるたびに自分達の想像を膨らませるばかり・・・。


アレはナンだったのかと思い始めていた12月。
私の携帯が鳴り、出てみると・・・○○署のB氏と名乗る男だった。

「ああ、あのね、箕浦さんね、例のFの件なんですがね、告訴って形にね、なったんですよ。あなたね、告訴しますか?どーですか?そんでね、事情聴取をね、しますんでね、来れますか?こっちに。どーですかね。」
面食らった。

テレビでしか見たことの無い刑事からの電話だ。一節一節区切りながら、嫌と言わせないせわしなさで迫ってくる迫力。これが本当の刑事というものなのか。
しかし・・・こんな電話口で事情聴取がどうのこうのと言われても困る。
テレビドラマに毒された私はこう答えるしかなかった。

「(ひそひそ声で)刑事さん、今はまずい。後で折り返しますよ・・・。」

傍にいたお客さんの顔色が明らかに変わったのがわかった。
接客中だということを・・・忘れていたよ。

閑話休題 ~だって、大事件!~

2008-02-21 17:37:03 | インポート
「ほほっ、今日もいいお湯だったわ~。やっぱり日本人にはお風呂がぴったり。」
上機嫌に濡れた頭をタオルでゴシゴシしていた昨晩の事。

お世辞にも広いとは言えない部屋だが、何でこいつらはいつも私のベッドを占領するのだろう。
日々漆黒化が進む布団に入る身にもなってもらいたいもんだ・・・ん?

私の目の錯覚だと思う。
い~ち、にぃ~、さぁ~ん、しぃー・・・・????
1.2.3.4・・・・。
どう数えても毛玉数が多いような気がするのは・・・何故だ?

「えーっと・・・毛玉さんたち、何で数が増えてるんですか?細胞分裂しちゃったんでしょうか?」
もう一度数を数えなおした方がいいかもしれない。

い~ち、にぃ~、さぁ~ん、しぃーご・・・・ほほほっ、何だかしらないけど・・・毛玉が5個。



「えーっと・・・へんてこりんな犬が一つ混ざっているようです。捨てましょう。」

その犬に手をかけた瞬間、皆でその犬を取り囲んで私をじっと睨みつけるではないのっ!



ぎゃあああああっ!ヴォッコ!戻ってきやがった~!!


春の夢~詐欺~④

2008-02-15 19:37:03 | インポート
セールスマンのノルマはきつい。少しでもF氏の生活の足しになればいいと、麻雀オババは100万円(1口)を預けることにした。
どのみち銀行に置いておいてもただ同然の利子がつくだけ。1年後の解約は自由なのだからと下した決断だった。

そして1年後。
きちんと利子は口座に入金されていた。

「麻雀さん、また1年やります?」
「ああ、いいわよ。」
「光物さんも如何ですか?ボクが担当するのは10口までなので、良かったら。と言うか、お願いしたいな。」
「あら、そうなの・・・。わかった、んじゃOK。」
光物オババもそれこそF氏のノルマを考えて即答していた。

オババ達が入ったと、本人達に聞いた日から数ヶ月後。
「あっ、箕浦さん、実は本日が最終日なんですが・・・実はね・・・あと1口残っちゃってるんです。何とか手伝ってはもらえませんか?本当に申し訳ない。」

開店時からお世話になっている人。F氏がいなかったら店は始められなかったかもしれない。
そんな人が頭を下げている以上、断れない。

「でね、今日が締め切りなんで夕方にお伺いします。現金で持って行きますんでご用意お願いできますか。保険証書は後ほど郵送しますが、預かり書を用意して行きますんで。」

かき集めた100万円を手渡し、社名入りの預り証を貰い、1週間後に届いた証券は開封もしないまま引き出しに入れていた。

それから1年半経ち、イサックやらヴォッコやらでどんどん無くなって行く貯蓄に慌てた私は解約を決め、F氏に連絡を取ろうとしていた。



「箕浦様、実は・・・Fの件ですが、Fが箕浦様の貯蓄を不正に搾取したと、報告がございまして・・・。」
F氏が勤める保険会社からの電話だった。
「・・・はっ?・・・誰からの報告ですか?」
「本人からでございます。」

・・・意味がわからなかった。


春の夢~詐欺~③

2008-02-15 19:15:55 | インポート
仕事が順調であれば給料も上がり、生活水準も上がる。

ところが彼の生活は変わることなく、古びた国産車で飛び回っているようだった。
マンションや家を買うでもなく、東京都下の賃貸一戸建てに家族で暮らしているという。
大して広くはないが、奥さんの身内だかの持ち物でほとんど家賃も払っていない状態だと言っていた。
酒も飲まず、女遊びもせず、唯一の趣味が少しばかりの小遣いでやる週末の競馬。
「数千円単位のちっちゃな遊びですよ。」
と恥ずかしそうに頭を掻く姿には悲哀など微塵も無く、微笑ましささえ感じられた。

三人の子供と厳しい奥さんの為に、一生懸命に働く日本のお父さん。
朗らかでウィットに富み、親切な人。
だからこそ客も色んな相談事を持ちかけ、反対に彼が何かを必要としていたら便宜を図ってやることも忘れなかったのだ。


3年前の夏、F氏がこんな商品ができたと言って来た。
『100万円を1年単位で預けると利子がこれだけつく』というファンドのようなものだった。

「お得意さんだけに声をかける商品なので」と、麻雀オババだけに声をかけて来たのだ。



春の夢~詐欺~②

2008-02-15 18:50:37 | インポート
銀行マンである以上、身なりはそんなに派手ではない。
普通の背広に普通の靴。
どちらかというとくたびれたスーツに身を包んでいたように思う。

「今時子供3人ですからね~。女房に結構冷たくされてますよ。稼ぎが悪い人にご飯はないって、朝ごはんも夜ごはんも作ってもらえないんです。子供の世話に追われるのはわかるんですけどね。」
そんな事を言っては、当時麻雀オババがやっていた喫茶店で昼食をご馳走になっていたF氏。遺産相続や資産の運用相談などを快く受け、卒なくこなしていく彼は顧客にも信用のある人間だった。

そんな彼にも一大転機が訪れた。
自身の将来的な展望を見据えて、保険会社に転職するというのだ。
色々お世話になっていた私は、彼の抜けた銀行に未練などあるわけもなく、さっさと違う銀行に変わったりもした。もちろん麻雀オババも同じだった。

「箕浦さん、保険に入りませんか?ノルマがあるので大変なんです。」
世話になった以上、加入をする予定があれば彼の所で入りたい。
丁度会社組織にもしたことだし、色んな保険に入ることにした。

こんな感じで、F氏と私達の関係は途切れることなく続いていたのである。


「ねえ、転職してどう?収入は上がった?転職して良かった?」
一年後、興味津々で聞く私にF氏はこう答えていた。
「そうですね~、ノルマもあるけど随分と給料は違います。子供達もいることですしね、良かったんじゃないかなあ。皆さんが保険に加入してくださるおかげです。どなたかいらしたらご紹介くださいね。どこにでも行きますから、よろしくお願いします。来週は群馬の方で契約の話があるんですよ。」

数ヵ月後、群馬での契約はうまく行ったかを聞くと、嬉しそうにしていた。
「いやあ、皆さんの紹介からまた新たな紹介に繋がって、なかなか東京に戻れなくなっちゃって。随分と沢山の契約が取れました。笑いが止まらないって感じです。」

F氏の仕事は順風満帆に見えた。

春の夢 ~詐欺~ ①

2008-02-15 18:25:47 | インポート
あれは8年以上も前のこと。
DINGOの母体であるグルーミングショップWONWONを開店しようとしていた私は、資金が足りず煮詰まっていた。
そんな時、犬仲間の麻雀オババがF氏を紹介してくれた。
当時銀行に勤めていたF氏は麻雀オババや他の顧客からも信望厚く、上司からも一目置かれる存在だった。

「そうだ!麻雀さん。どうせならあなたがお金を借りればいいんです。あなたが借りて、それを箕浦さんが返す。そういう形にしましょう。」

ただのサラリーマンの私では銀行も貸してはくれない。ところが、商売的にも個人的にもその銀行に実績のある麻雀オババが借りる分にはすぐに銀行も出すだろう、とF氏が提案したのだ。銀行支店長もそういう形なら融資すると言う。
しかし、知り合って数年もない私の保証人になれと言っているようなものだ。いくら何でも通常の人間はそんなことしない。

「ふ~ん・・・あっ、そ。じゃ、500ばかり私の名前で借りるわ。ポンポン、頑張って返してね。」
麻雀オババは通常の人間じゃなかった。

「良かったじゃないの。じゃあさ、私はポケットマネーから300程あなたの口座に入れとく。あとで借用書書いて持って来てね。」
光物オババまでそんな事を言って、私を助けてくれた。

何なんだ、この人達!!ありえないだろう、普通。
店がうまく行かなくて返すものも返せず、私が逃げるなんてことは考えないのか?
何をもって私が信頼できる人間と思えるのだろう?

戸惑いもあったが、後戻りをする状況ではなかった。
WONWONは動き出していたのである。
2年後に「(有)ディンゴ」となり、そのまた1年後に「オリジナルドッグウェアDINGO」が始まった。

会社組織になる時にも専門的知識を駆使し、色々な助言をしてくれたのがF氏だったわけである。


狐につままれる ~終~

2008-02-12 13:31:30 | インポート
明けて次の日。
店に電話がかかってきた。

「はいっ?何?どっかのお店なわけ?警察に聞いて電話してるんだけど、何処の店?ああ~、わかるわ。うち交番の裏だから知ってるわよ。あっ、そ。」
と切られた電話。
イヤ~な雰囲気ぷんぷんである。

案の定おもむろに店に入って来て、挨拶も無し、お礼も無し。
「犬取りに来たんだけど。」
持ってきたリードと首輪を狐ちゃんにつけてさっさとお持ち帰りになったおばさん。

あんた・・・何者よ?
自分の犬と再会して、感動も何もないんか!

ふてぶてしく去っていくおばさんの後姿を見てどんどん腹立たしくなっていった。
犬屋だから犬の面倒を見るのは当然なのか?
当然だから礼も言わないでいいのか?
せめて犬を撫でておやりよ。見知らぬ場所で一夜を過ごした犬を、「どんなにか不安だったことだろう」と触っておやりよ。

お礼のお金が欲しいわけではない。お礼のお菓子が欲しいわけでもない。
何が欲しいって、分けてあげたポンポンのご飯の代金が欲しいんだ!

普通だったら「何をおっしゃいますの。人助け、犬助けにお金なんていただけませんよ。」と言って受け取りもしない金額だ。
しかし今回は違う。何が何でも100円貰います。それがけじめというもの。
交番の裏あたりの家だと言っていたはず。そんなに広い街ではないからすぐに見つかるはずだ。

鼻息も荒く店を駆け出した私であったが・・・ハタと気づいた。
『そう言えば、あんな子・・・いたっけ?』

そうなのだ。長年この町で暮らしていれば、どこにどんな犬がいるかは知っている。それなのに・・・あの子のことは知らなかったのだ。
本当に交番の裏辺りに住んでいるのだろうか?
ちょうど犬の散歩時間にあたる夕方。行き交う犬連れに聞いて回ることにした。
「こんな細長い顔で、ふさふさした尻尾。色はね、真っ白よ。そんな柴を飼っているおうちはご存知?」

町の犬事情に精通している人や近隣に住んでいる人に聞いても・・・皆首を横に振るばかり。

そんな中、一人の老人が言った。
「ああっ、それな。知っとるよ、それ。」
「よかったあ。どこ?」
「その道をいった二本目を右だ。すぐわかる。」

そんな近くにそんな家、あったっけ?
すたこらさっさと行ってみると・・・・あった。

あったけど・・・・じーさん・・・これ・・・これってどー見てもお稲荷さんじゃんっ!


ぎゃあああああっ、怖い、怖いよおおお!
もう100円なんていらないっ!いらないよおおおおお!!







狐につままれる③

2008-02-09 17:51:25 | インポート
保護したからには、探し回っているであろう飼い主さんにも早く連絡をしてあげたい。
すぐ傍の交番に駆け込んだ。

「えっ、ということは・・・保護して欲しいんですね。取りに来て欲しいってこと?」
なんじゃ、その言い方。

私はこの警察官があまり好きではない。
今時の若造と言ってしまえばそれまでだが、彼は自転車で道路を逆走しながら「うえ~、さみい。ちっ!」と叫んだり、大声で鼻歌を歌ったりして、警察官としてどうなんだという部分がある。
何でこやつの当番の時に当たってしまうのだろうか。ついてない。

「だから、言ってるでしょ。うちはそこの犬屋で、保護して預かるって!!飼い主さんからの問い合わせがあったら、あそこにいるって教えてあげて欲しいの。」
「じゃあ、うちらが取りに行く必要は無いって事ですね。(安堵感)」
「どのみち明日は土曜日でしょ。保健所だって休みだし、飼い主が見つかるまでうちで面倒見ます。」
「はーい、はい。わかりました~。」

嫌な予感はしていたんだよ。あいつだからね。

1時間以上経っても梨のつぶて。おかしいよ、そんなの。
自分の犬がいなくなったら慌てて警察に行くでしょ、普通。
いてもたってもいられなくなって、交番ではなく、その交番の大元の警察署に問い合わせをしてみた。
遺失物係り担当は開口一番、「そんな届出は出ていません」だって!!

あの野郎っ!嫌な予感的中だ。
通常、紛失や届出はすぐに本署に上げられるはずなのに・・・。

仲間の不手際を申し訳なく思ったのか、遺失物係りは至極丁寧に応対をしてくれた。
「新たに届出書を作成します。もう一回初めからお聞かせ願えますか?」

「家には子供達がいるので、帰りたいんです。店はもう閉めてしまいますから、飼い主さんからご連絡があったら明日の営業時間内に取りにいらしてくださいとお伝えください。」
「わかりました。お子さんが待っていらっしゃるんでしたら当然ですよ。すみませんねえ、犬のことで。」

・・・・いやいや、私も本当のところは『犬のこと』で帰るんだからして・・・。

狐ちゃんにはポンポンのご飯を分けてあげ、明日までホテル犬用のケージで休んでもらうことにした。
 ~続く~




狐につままれる②

2008-02-09 16:42:51 | インポート
そう・・・狐じゃなかった。柴犬だったの。
真っ白で、細面、体も細長い縄文柴は闇夜に見ると・・・・おきつね様そのもの。

一般的な柴犬はタヌキ顔の弥生柴で、日本古来の柴はこういうタイプの縄文柴だと聞いたことがある。
しかし・・・なんで首輪もなくテケテケ歩いているんだろう?
車が通る道はすぐそこ。
どーする?どーするんだ?・・・・捕まえる?
しかし、相手は柴だ。下手に手を出して噛まれる可能性は大。

イサックと挨拶を交わしている間にそっと体を触ってみると・・・反応無し。
こりゃ、いける。
「捕獲させていただくわ。」
そっと囁きながら首根っこをむんずと掴んでみた。

左手にはイサックのリード。右手には狐ちゃんの首。
どーすんの、これで?掴んでみたけど・・・どうにもならないじゃないの。

結局イサックのリードを左足でむんずと踏みつけ、携帯を取り出した。
「関谷ちゃん!今すぐリードを持って店を出て!すぐ近くだから。」
「はっ?はぁ~い。わかりぃ~ましたぁ~。」
絶対にこの切迫した状況を把握していないだろうと確信できる返事だった。
待てど暮らせど関谷ちゃん来ず。
道の真ん中で中腰のまま犬の首根っこを捕まえているのはしんどい。

「ナンですか、これ?」
ようやく到着したかと思ったら、気の抜ける質問をしてくれた。
「狐です。狐を捕獲しちゃいました。」
「きっつねぇ~!?きつね?これ?」
なはずないだろうに。
大都会の真ん中に狐が出現したら、それこそテレビのクルーが来ちゃうよ。

「どうするんですか?これ。」
「捕獲したからにはうちで保護しましょ。警察に届けなきゃね。」



店に連れ帰る最中、「キャヒンッ」という甲高い声が響いた。
イサックがしつこくお尻の匂いを嗅いで、狐ちゃんが過剰反応の叫びを上げたのかと思いきや・・・
狐ちゃん、歩きながらイサックの鼻の穴を前歯で引っ掛けるようについばんでいた。

この行動に何の意味があるのだろう?不思議だ・・・。

『鼻の穴を狙う真っ白な縄文柴、夜道を徘徊。』
みのぽんず新聞(私の頭の中だけで発行される物)の冒頭にはこんなタイトルが踊る夜であった。

~続く~


狐につままれる①

2008-02-09 15:27:36 | インポート
セール準備で東奔西走。朝から晩まで値段つけやら仕入れでバタバタしていた時だった。
「みぃ。」
遠慮がちな声を上げてイサックが外に連れて行ってくれと言う。
店の裏庭で排泄ができるようになっているので、おトイレの催促ではなはずだ。
「みっ、みぃ。」
忙しさにかまけて相手をしてやらない母への恨みなのか?
「ふみぃ。」
鼻を鳴らしながらドアを懸命に叩く姿を見て直感した。
女だ!

しかし・・・これほどまでに恋焦がれる美しき女とは・・・どこの誰?
ちょっとした好奇心でイサックを外に出してみた。

すたこらさっさーと走って行った先は通りの大木。これでもかとばかりに片足を天空に向けて、ナイアガラ状の放尿開始。
私の直感はナンだったのか?

その時、目の前を白い物体がニョロニョロ~っと横切って立ち止まったではないか。
私は本当に目を疑ったね。
白い狐が、外灯の下で尻尾をゆらりゆらり振って、イサックをじーっと見ているのだ。
『おいで、おいでぇ~』

何だか妙に空気が重い。霧が立ち込めてきたようだ。

『おいで、おいでぇ~』

誘ってるっ、誘ってるよ!!

『行かなきゃっ!ボク、行かなきゃ!』
「イサ、ダメ!!あれはっ、あれはこの世の物じゃない!雪女よ!行っちゃダメー!!!」
それこそ魔界の女に誘われる男状態のイサック。ものすごい勢いで私を引きずり始めた。

『ズリズリ』
『おいでよ、おいで~』
『ズリリリ』

細い顔にとがった耳。つり上がった目は涼しく、体は真っ白。淫靡な雰囲気を漂わせながら、豊かな尾をゆったりと泳がせる狐。

手が届く距離に近づいた時、気づいた。
「こっ、これはっ!!イサックこれ、狐じゃないわ。縄文柴よっ!!」


縄文柴参考
http://wwwa.pikara.ne.jp/jyoumon/tennen.html
http://wwwa.pikara.ne.jp/jyoumon/home.html


お宝鑑定!終

2008-02-07 19:39:14 | インポート
朝、ぱちくりと眼が開き、いそいそと出勤。

毛玉達よ、われ等の運命如何に!
厳かにPCの電源を入れる。
カタカタカタ・・・・カタカタカタ・・・。
いつもなら「早くしろよ、もうっ!」と言い放つ私も、今日ばかりは佇まいを正して待つばかり。
ブンッ、トックトック。
PC様も随分と粋なことをされる。もったいぶっちゃって、困るんだよね~、ふふ。

『ご融資必要ではありませんか?』
あらやだ、それは昨日までの私。
『秘密の扉』
ほほっ、私にも秘密はございましてよ。高村光雲。
『逆ナンOK』
ホスト遊びしちゃうか?

もうっ、どーでもいいメールばっかだ。
朝の8時に返信を待つのもどうかと思うが・・・ああっ、気がはやる。
無常にも時は流れ、昼も過ぎてお三時のおやつ時を迎えようとしていた。

「ピコ~ン!」というメール着信音が室内に響いた時には「チャラチャラ~」という大判小判の音が聞こえたかと思ったよ。
いつもと同様に、震える手で開封。

『箕浦様
この度は、○○○へ 鑑定買取のお問い合わせをいただき、誠にありがとうございます。』

きゃああああっ!来たわよ、来たっ!
私の運命が、いやっ、おうちがかかったメールだ。

『写真拝見しました。この木彫りは高村光雲ではないです。
作風 刻銘 が ちがいますね。(原文ママ)』

・・・・・?何だって?

『作風 刻銘 が ちがいますね。(原文ママ)』

・・・・何言ってんだか。

『具体的な価格でご検討になりたいお客様は現物査定 をお勧めしております。
ご来店または、宅配便鑑定をご利用下さい。
通常の買取り店の流れ  お客様⇒買取り店⇒業者市場⇒仲買人⇒販売店⇒お客様
当店    お客様⇒当店(13店舗)⇒お客様
売却時の必要書類  ・ 身分証明書 高価買取り自信あります。
お気軽にご連絡下さい 。』

・・・・どういうこと?
要するに、ニセモノって言いたいのかしら?
まっさかあ・・・・・・・・・・・・嘘でしょ。

意外なことが判明。
人間、予想外の展開に直面すると、現実逃避しちゃうんだ。
私は思いっきり掃除をし始めたのだ。メール着信から数時間、三日間に亘る高揚感を沈める手立て・・・それが掃除しかないかのように一心不乱に雑巾がけをした私。
輝かんばかりの菩薩様を、それこそ輝かんばかりの黄金に見間違えた私の悪しき矮小な精神を叩き直さねばならない。

床をゴシゴシしながら、自分の心をゴシゴシしていたんだ・・・きっと。



ヨロヨロと家路に着くと、昨日まであった家が取り壊されて、小さな空き地になった場所があった。
『建築条件なし 18坪 4680万円』
夢のまた夢。

小さな窓と大きな暖炉のおうちは・・・やっぱり無理だったね・・・ぽんぽん・・・。