MINOKICHI JP   Tokyo Japan

毛玉生活満喫中?
濃すぎるポーリッシュ・ローランド・シープドッグのお話。

北欧珍道中記 パートⅡ 22

2007-09-28 17:35:12 | 北欧珍道中記 パート2-2
『さてと、せっかく日本から来ているんだから色んなポンを見せたいと思うんだけど、どう?』
そんなカティスの言葉で私達はブライトホワイト犬舎に向かうことになった。

『実はね、これから行く所にはヴォッコのおばあちゃんとひいおばあちゃんがいるのよ。ついでにパパのハグリッドも向こうに来てくれるって。それだけじゃないわよ~、今ポーランドからアラーシュが来てるの!!』
アラーシュとはポーランドを代表する雄ポンである。ありとあらゆるチャンピオンタイトルを取った彼は4歳になっており、数ヶ月の約束でスウェーデンに貸し出されているのである。
『アラーシュは名実共に今のポーランドナンバーワンだから、よーく見ておきなさいね。』
そりゃそうだ。日本に住んでいる以上、こんなチャンスは滅多にあるものじゃない。

既に21時になろうとしているのに、外はまだまだ明るい。
車で約1時間。着いた先は砂利が敷き詰められた広大な駐車場。スウェーデンの上流階級とあって、カティスが切望する赤い壁と白い線の入った大きな家だった。
主人のルイーズは犬舎の傍ら、小学生や海外からの旅行者に自然学習を行う会社を経営しているそうだ。ヨーロッパ各地で行われるドッグショーの審査などもしていて、ポンの世界では著名な女性である。

車から降りると、白グレーのポンが出迎えてくれた。これがヴォッコの父、ハグリッドである。



ブライトホワイト犬舎から出て、現在の飼い主とショーを転戦。スウェーデンチャンピオン・ノルディックチャンピオンを成立させている、2006ポンオブザイヤー獲得犬だ。22.3キロあるそうだが、触っても骨を感じるくらいだから太ってはいない。手足は太く、素晴らしい毛並みである。パパに似ればヴォッコもかなりの大きさになるはずだが・・・ん?パパは目がとっても大きいけど・・・ヴォッコの目ってこんなに大きかったっけ?
せっかくだから記念写真を撮ろうと思ったら・・・でっ、出た~!!!勝手に一人で記念写真に納まってるおばさんがっ!!



「んふふふっ。やっぱり大きくて素敵ね~。」


おもむろに飼い主がハグリッドを自分の車に詰め込むと、庭の奥からもう1頭が颯爽と現れた。
ステップステップ、テケテケ。立ち止まるやいなやショー立ちだっ!
『さあ、アラーシュがやって来たわよっ!』



こ・・・これは何なんだいっ、君ぃっ!
ステップを踏むたびに見え隠れする手足は太く、天を仰ぎ見るその首は・・・それこそ太いっ!
さっきのハグリッドがプリンスだとすると、こいつは・・・こいつぁあ・・・キングだっ!
『いらっしゃーい、こんにちは~、はじめまして~』
そう言いつつ、皆の周りをゆったりと走るアラーシュ。私の「ポン」という犬の概念を覆す存在だ。
『これがキング・オブ・ポン、アラーシュよ。よーく目に焼き付けておきなさいな。私達が目標とするポンの形よ。触って見て。』
立派な筋肉で覆われた太い骨格は驚愕に値するほどのものだった。

うーん・・・しかし・・・アラーシュ様はとっても毛玉だらけ・・・。
現役チャンピオンのハグリッドには毛玉一つ無かったが、既にチャンピオンを完成しているアラーシュ様に手入れは不要なのかもしれない。

『オスは22.3キロ、雌は18.19キロ辺りがスタンダードね。ポーランドではずんぐりむっくり、骨太のどでかいポンがスタンダードになってきているけど、骨量を重視したために動きに機敏さが見られなくなってきたの。元来のポンのワーキングドッグとしての動きを阻害することになるから、私としてはやりすぎは禁物だと思ってる。』
とカティスは教えてくれた。



これはヴォッコのひいおばあちゃんにあたるフロスタ・ロスマリン。13歳を迎えたというが、眼球少し濁っているくらいで未だ若々しい。とにかく性格が良く、可愛らしい老犬だった。
『ミオッコ、この雌犬を良く見ておいてね。これが雌のポンのベストな形よ。』

わかった・・・というか・・・全然わかってないんだけど、わかったふりはしてみた。


北欧珍道中記 パートⅡ 21

2007-09-26 19:43:48 | 北欧珍道中記 パート2-2
カティスの家は総レンガ作りの古い頑丈な家なのだが、カティス曰く「最悪の醜い古い、どーしようもない家」だそうだ。



アネットに聞いてみたところ、雨が浸み込みやすいレンガは夜のうちに凍結して欠けてしまうそうだ。スウェーデン郊外では赤い壁に白い線のついた家が典型的な高級で良い家だという。



家の中にはカティスが唯一訓練もせず、ショーにも出していないというペットのフレンチブルのサリーが待っていた。
ゴッツリ・ドッツリ・ガッツリ。この形容ぴったりの岩のような雌フレンチである。4頭のうち3頭の子犬が貰われていった後、ずっとヴォッコの遊び相手をしてくれているらしく、執拗な頭突きに耐え続ける姿は感涙ものだった。

何でかアネットがカティスの家で食事の用意をしてくれ、その間私はカティスとヴォッコの売買契約をすることになった。
スウェーデンケンネルクラブ発行のヴォッコの血統書とパスポート等を受け取り、契約書に署名をするのはイサックの時と同じ流れである。唯一違ったのは、備考欄に書かれた部分。
「いらなくなった時、スウェーデンに戻さなくても構わない。その代わり、彼女がどこでどうしているのかだけは絶対に知らせること。」
イサックの時にはこの部分は、「いらなくなった時にはそちら持ちでスウェーデンに戻すこと。その時、イサックの代金は払わない。」となっていた。

もう一つカティスから素晴らしい物を貰った。
『これはポンの種雄・台雌達が載っている本よ。今後どこかの国でポンを買うことがあるかもしれないでしょ。その時にその子犬の血統書を見て判断をする材料になるわ。』
更にカティスとアネットはそれに掲載されているポン達の中の何頭かを抜粋してくれた。これはアレルギーライン、これは糖尿病ライン、このポンは最悪な性格・・・などなど。
『こういう情報があれば、最悪の状況は回避できる。そのための情報よ。』
確かに情報は大事だ。

夜ご飯の準備ができて、食事となった。



日本の主食が米なように、スウェーデンの主食はジャガイモである。皮のまま茹で、自分の皿に来てからフォークで突き刺し、右手に持ったナイフでむいていくのだが・・・難しかったので皮付きのまま食べてしまった。パイナップルと共にソテーした厚切りのハムはとてもおいしく、必要以上に食べてしまう。
こんな時にもミカエルはメルケルを寝かしつけるために出てこず、おかげで私達は色んな話をゆっくりすることができた。
スウェーデンでは子供が生まれると、母親は1年、父親は1ヶ月の有給が貰える。農作業に忙しいミカエルはメルケルが生まれてからも精力的に働かざるをえず、父子の時間をなかなか取る事ができないでいた。
『ミオッコが来て私が動けない事が、父子の時間を作るきっかけになたから・・・とてもいい機会だったの。』
日本では考えられないほど男性は家庭に入り込み、協力的なんだと痛感。
やはり、結婚するなら外人さんの方がいいかもしれない。


北欧珍道中記 パートⅡ ⑳

2007-09-25 19:25:10 | 北欧珍道中記 パート2-2
カティスの家に着いた。



着いたというより、どこからがカティスの敷地だったのか・・・・。広大な森林が広がっていて、本人も正確な範囲を把握できていないらしい。



本場ニュージーランドからやってきた白いボーダーのミストが出迎えてくれた。家の中で暮らすより、外でずっと動き回っているのが好きな雌である。ちょうどヒート中だということで、目の届かない時間はゴードンを隔離しておかなければならない。一人では可哀想だからと、ヘルガと一緒にケージの中に入れられていた。
『ヒート最高潮の時でも、私はゴードンと雌犬を一緒にお散歩させるのよ。乗ってはいけないと教えてあるから大丈夫なの。だけど、私がいない時は危険だから離しておかなきゃね。』
我が家の父ちゃん犬ポコポンに聞かせてやりたい話だ。

時間によって家禽類を農場内に放してボーダーに追わせたりもするらしい。



『ポンのヘルガとかもやるの?』
『ヘルガは大丈夫なんだけど、シエラはアヒルとかを殺しちゃうのよ。危険だからやらないわ。』
『そっ、そうなんだ・・・。』

カティス達に連れられてきた場所はこんもりと土を盛って周りを囲んだハイランドキャトルの丘だった。



私が今回スウェーデンで絶対に見たいと思っていたのがこのハイランドキャトルなのである。ちょうど夏毛になっていたために貧弱ではあったが、真冬の寒さにも耐えうるようモコモコの毛で覆われるこの牛見たさのスウェーデン旅行だったと言ってもいい。まっ、ヴォッコはそのついでというものだ。
好奇心旺盛な子牛は前方にやって来てくれたが、基本的には神経質で獰猛な牛だという。群れを束ねるブル(雄牛)が見知らぬ人間の来訪を喜ぶはずも無く、徐々に前に出てきて威嚇を始めたから怖かった。農場内のパトロール役のミストがこれでもかこれでもかとブルを挑発するので、最後には「いいかげんにしろっ!!」と叫んでしまったくらいだ。



こんなにかわいい子牛も数年でこのブルのような立派な牛になってしまうのだろう。そして・・・出荷。そう、この牛は食用だ。

カティスの旦那さんのミカエルは、去年急逝してしまったお父さんの後を継いで酪農をやっている。65歳の母親と一緒に朝から晩まで働いても時間が足りず、少々疲れ気味との事。自分の仕事だけでも大変なのに、消防団の仕事もしているというから驚きだ。190センチはあろうかという体躯で、次から次へと動き回っていた。
牛舎には大きな牛が沢山いて、ちょうど搾乳をするという。ホルシュタインとSLBだ。SLBは在来の食用スウィーディッシュ・ローランド・カウとアメリカからやってきたホルシュタインシュとのミックスである。お乳が良く出るという。



『せっかくだから干草のテーブルの上で記念写真を撮って!』
ありがたい申し出だったが・・・うまそうに人の頭髪を食う牛には閉口してしまった。

搾乳が終了するやいなやトラックがやってきて回収作業。コンピュータ制御されたトラックは巨大で、日本でもあまり目にすることの無い大きさだった。



農場とは無縁な私には全てが新鮮で、楽しい。あれも見たいこれもやりたいと言う私をアネットもカティスも「変わった日本人」と思っていたことだろう。


デコポンの手術

2007-09-20 18:01:11 | インポート
涼しくなるのかと思えば暑さがぶり返す9月。本日も真夏日だ。
以前から入れていたデコポンの避妊手術の日がこんなに暑いとは・・・。

朝8時起床。手術前の食事は厳禁なので、5毛玉連帯で食事抜き。何で子犬のヴォッコまで?でかいから他の毛玉に紛れて忘れちゃっただけ。

「デコポン様は本日手術を受けられます。さあ、皆のものサヨナラを言いなさい。」
アレルギー体質のデコポンにとって、麻酔はある意味賭けのようなところがある。帰ってきた時に息をしていないデコポンを見たら・・・あいつら絶対私が何かしたと思うだろう。とりあえずは深刻な顔を保って、如何に重大な事が行われるかを言い聞かせねばならない。

「後悔の無いように・・・んっ?」
いつもはギャアギャアわめき散らす毛玉達が固唾を呑んでこっちを凝視しているではないの。こんなに静かなのも、悟りきっているのも・・・初めての事だ。動物的勘?やだやだ、やめてくれよっ!
脱兎のごとく店を飛び出し、デコポンを小脇に抱えて病院へ。

「何時に迎えに来ればいい?」
「え~!?見てかないの?」
えっ!いいの?いいのね、写真もいいの?

ってことで「避妊の記録」。





意識が遠くなったデコポンを手術台の上に寝かせ、お腹の剃毛。昨日のうちにスタッフにバリカンを入れてもらっていたデコポンの腹はつるつる。それでも開腹部分は先生が丹念にジョリジョリ。



「箕浦さーん!ばっちりですよ!」

確かにヤンキー関谷ちゃんは言っていた。
でもね・・・関谷ちゃん。デコポンは手術の為に毛を剃るんであって・・・出産じゃないんだよね・・・。この広範囲な剃りは・・・ちと問題があるような・・・。
イソジン色に染まった腹が・・・腹部分が広すぎるんだよね。



手術は本当に丁寧に丁寧に進められ、如何に几帳面な先生かわかる進行。



「その袋みたいな臓器は何ですか?」
「膀胱です。」
まるでちっちゃなヨーヨーみたいだった。
「それは何ですか?」
「脂肪です。」
・・・デブってこと?

(苦手な方は画像を拡大しないで下さいね)

最後に切除され、ガーゼに置かれたデコポンの子宮と卵巣。友人の女医がポンと手渡してくれた。まだ1歳半の臓器はとっても若々しくて、綺麗な色をしていて・・・・捨てるのも勿体無いと思ったほどだった。

デコポンのアレルギーは、ヒート終了2ヵ月後に反応がひどくなる。ミイミイ鳴いたかと思うと突然走り出し、壁にぶち当たったりするのだ。みるみるうちにできる腹や顔面のボコボコとした紅班や膨疹はひどく痒いのだろう。アレルギーはホルモンにも関係するので、避妊が緩和・改善に有効という考え方もある。私の友人の犬も避妊後はかなり楽になっているという。悩めば悩むほど時間は経ち、次のヒートの時期を迎えることになるので、今回は早々に手術を決めてみた。
避妊がアレルギーにとって吉と出るか、凶と出るか。それは後々のこと。経過をみてご報告したいと思う。

おっと・・・デコポン、無事手術終了。


北欧珍道中記 パートⅡ ⑲

2007-09-19 19:52:44 | 北欧珍道中記 パート2-2
道中、色んな話を聞いた。

●スウェーデンブリーダー免許
スウェーデンではブリーダーになると、ケンネルクラブの抜き打ち検査を受けることになる。前触れもまく、朝一番で突然やってくるそうだ。衛生面や環境面等の項目が沢山あるシートを見ながら全てのチェックが行われ、駄目な部分があるとブリーダーの免許は取り上げられてしまうそうだ。

●犬舎名
犬舎名に特定犬種名を使ってはいけないという決まりがある。
例えば、ラブラドールの専門犬舎でも「サウスラブラドールケンネル」とか「ケンネルゴージャスラブラドール」は駄目。

●交配
交配には色んな決まりがあるが、相手の雄のランク(チャンピオンタイトルの有無)によって多少上下するものの、1回につき20000円ほど払う。もちろん受精していなければ交配料も支払わないが、子犬が産まれれば一頭につき20000万円から30000万円を雄側に支払うというのが平均的だそうだ。

●犬の値段
日本と同じように今小型犬をバッグに入れて連れまわるのが人気ということで、人気犬種は高騰している。フレンチブルなどが55万円というから、日本とかけ離れて高くも安くもない。ハバネーゼもスウェーデンでは人気が高く、25万程。日本ではあまり馴染みのない犬だが、5~8キロ、性格は安定していて非常に丈夫な犬だそうだ。スウェーデンの保険会社では最古参の登録犬種でありながら一番病気の少ない犬という統計が出ているとのこと。

●断耳・断尾
1990年代からヨーロッパ各国で禁止されている断耳・断尾だが、今後は施されている海外の犬の、ショーやオベイディエンス競技会への出陳が禁じられるそうだ。今年ノルウェー行われたワールドアジリティーショーでも断耳・断尾犬の出場は禁止されている。

●動物虐待
スウェーデンでは動物(もちろん人間を含む)を平手打ちしたり、耳を引っ張ったりすると懲役刑に処される。日本・アメリカで使用されているスパイクの使用も処罰対象。

『ねえねえ、日本人って本当に写真が好きよね。』
『HPを持っているから、その為なの。』
『でも好きよね。ずーっと撮ってるし。私達スウェーデン人も写真が大好きで、何かあれば絶対に撮るのよ。』
カティスには私が教科書に載っている様な「写真好きの日本人」に見えたのだろう。

『ねえねえ、東京じゃ人間にぶつかりながらごめんなさいねーとか何とか言いながら歩いてるんでしょ。』
うーん・・・微妙な質問だ。普通に歩いているつもりだが、確かに他人にぶつかることも多い。
『スウェーデン人は人と接触することが大嫌いだし、まず接触するような狭い場所もないわ。スーパーなんかで近くに寄ろうものなら、何なのこの人っていう目で見られるの。』

確かに、スウェーデンの人間は人と距離を取る。精神的な距離感ではなく、物理的な距離感だ。恋人・夫婦同士でもべたべた重なることはあまりなく、実に日本的な距離感。異国の地にあっても希薄な疎外感はこんな所から来るのかもしれない。

しかし・・・行けども行けども自然ののどかな風景が広がっている。


北欧珍道中記 パートⅡ ⑱

2007-09-17 15:14:15 | 北欧珍道中記 パート2-2
明けて月曜日。
120キロ先のヴァーナモよりアネットも駆けつけてくれて、皆で動物病院へ向かった。
日本入国書類に必要な、スウェーデン王国承認の判を持っている動物病院でヴォッコの健康診断を行うのだ。
住宅街の中の一軒家・・・そんな感じの動物病院を入ると何とも陽気な獣医が待っていた。ヤーシム・ベイカー医師である。
『いやー、いらっしゃーい。随分と遠くからのお客さんだね~。ヤパ~ン!ヤパ~ン!』
はしゃぎっぷりが少々気になったが、判を押してもらうまでは変な顔はできない。



まずはヴォッコの体重測定と触診。
実はヴォッコにはちっちゃなデベソがあるのだ。

『2頭のメスのうち、1頭に小指の先に満たないちっちゃなデベソを見つけました。どっちがあなたに行くかわかりませんが、どうしても気になるようだったら今回はキャンセルをして下さい。その代わり、次回の交配であなたは予約者1番という立場になります。どうしますか?』

カティスの代わりに連絡をくれ、更には子犬まで見に行ってくれたアネットや友人の獣医に確認してみたところ、その大きさだったら問題にならないということだった。



『デベソがあるんだね~。デベデベデベソ~、デベソちゃん。う~ん、これは小さいから何の問題もなし。泡みたいにちっちゃなバブバブバブルだよ~ん。』
やはり・・・はしゃぎすぎ。
『う~ん、いい骨だ。太くてずんぐり、穏やかでかわいい、素晴らしい子犬ちゃんだね~。』



駆虫とワクチンも済んで、肝心の書類作成になった。
カティス・アネット包囲網とでも言おうか、次第にヤーシムを囲んであーでもないこーでもないと指図をするようになった2人。



『はい、ここに名前を書いて!違う違うっ!その欄には薬剤の名称よっ!』
ふんふんと鼻歌交じりにペンを走らせるヤーシムは一行書いてはジョークを飛ばし、また一行書いては余計な行動をするのでやたらと時間がかかる。
最後の一枚を書き上げてもらった時には皆、一様に安堵感と疲労感を滲ませていた。

このヤーシム氏、来年の自分の誕生日を家族と共に東京で向かえる予定なのだという。決めた途端に東京から私がやって来て、ちょっと陽気になってしまったらしい。
『物価は高いですか?食べ物はどんな感じ?ホテルも高いの?まーでもあなたに会えて良かった。来年の2月にぜひまたお会いしましょう!!』



動物病院を出て一路カティスの家へ向かうことになった。
写真に気を取られていて、ヴォッコの正確な体重を確認するのを忘れていた。アネット達に聞いてみると、
『えーと・・・・あの・・・飛行機の中に入れられる重さは何キロだったかしら?』
『カバンの重さも入れて8キロ。』
『あー、良かったわ~。実はね、6キロまでだと思ってたから内緒にしていたんだけど・・・6.2キロあるの・・・ほほっ。』
そう言えば体重測定の時、何となく二人の体が邪魔で見ることができなかったのだが・・・見えないようにしてたんだっ!
『ほんと、一安心だわ~。イサックより大きな女の子だわねー!』
確かにイサックより10日以上早くてでかい子だ。
『4兄弟姉妹の中で一番大きな子だったの。』
そっ、そーなの!?
『イサックはどっちかと言うと、そんなに大きくない子でしょ。それに、後ろ足はとてもいいけど、胸幅は今一つよね。この子は骨量があって、前足がとてもいいの。ヴォッコはイサックの足りない所を補い、イサックはヴォッコの足りない所を補う。そんな意味で彼女を選んだのよ。』

とてもありがたい選択をしてくれていたのだが・・・もし航空会社の規定が6キロまでだったら・・・どうするつもりだったんだ、この人達?


北欧珍道中記 パートⅡ ⑰

2007-09-15 19:08:15 | 北欧珍道中記 パート2-2
『あなたにとって何かしらのいい経験、いいヒントになったんじゃないかしら?また明日ね!』
雨が降り始めた頃、カーリンの運転でヴァールベリの街へと戻ることになった。

地球温暖化の波で、今年などは4月から海や川に入れるほど暑かったのだが、6月からは雨ばかりになってしまったそうだ。毎年のように訪れる近隣諸国の避暑客も早々にトルコやカナリア諸島へ方向転換したらしい。冬の積雪も激減。反対に雨が多くなり、鬱々としているという。

せっかくのオフタイムに雨とは悲しいが、短い滞在期間を考えれば街に繰り出すほかない。日曜日ということもあってほとんどの店は休みだが、開いている店を探しながらウインドーショッピングを楽しむことにした。



さすがのオリエンタルブーム。大きな漢字が一文字ついたノートがあったりして面白い。
特筆すべきは漫画コーナー。日本の漫画が「MANGA」という一つの文化になっていることは知っていたが、ここまで人気があるとは思わなかった。



こんな店まで発見。



「日泰 Sakura Thai」。日本食とタイ料理がごちゃまぜのメニューが興味をそそる。
こんなシュールなものまで見つけてしまった!痛いっ!痛すぎるっ!



明日はヴォッコを動物病院に連れて行かなければならない。旅の山場を迎えるのだ。どんどんひどくなっていく雨の中、夜10時就寝。日本ではありえないほど健康的な生活である。


北欧珍道中記 パートⅡ ⑯

2007-09-11 14:54:59 | 北欧珍道中記 パート2-2
昨日、私はアネットとリーセンにイサックの事を相談していた。
一人になると自分の毛を自分でもぐもぐ食べてしまうイサック。最初はストレスかとも思って気にかけるようにしていたのだが、ぽんぽん達との関係も悪くなく、運動不足ということもなかった。そんな悩みをアネットにぶつけてみると、リーセンともどもありえない話だと深刻になってしまった。

『ミオッコ、私達の経験から言ってもそういう癖のポンの話は聞いたことがないわ。』
ああでもないこうでもないと真剣な話がされたもののいい解決策はなく、アネットがどんどん落ち込んでいくのが手に取るようにわかった。
『ミオッコ、イサックはまだ若いわ。直すなら今のうちよ。ねえ、カティスに相談してみるのが一番だと思うの。きちんと相談してみなさいな。』
あまりにも深刻なアネットの様子に少々気が滅入っていた私だが、こんなチャンスはなかなかないはずだ。カティスに聞いてみなければならない。

『あの・・・カティス・・・イサックがね、毛を食べちゃうの。』
『あらそ、暇なのね。』
昏倒せんばかりに驚いていたアネットとは違い、あまりにも簡単に返事をされて拍子抜けしてしまった。

犬は昔から人間と狩に出かけ、戻って来た時におすそ分けを貰って食べていた。外から戻ってきて、落ち着いた時に自分の手を舐めたりかじったり、更には何かしらのきっかけで自分の毛を食べてしまうというのは本能みたいなものだというのだ。
外産の犬は野生が強いとよく聞くが、こういう自然の中で生活していれば本能は残り続けるかもしれない。

『暇なのよ。暇を与えないようにヘトヘトにさせるのが一番。頭を疲れさせるのが手っ取り早いわね。』
そうだ、そうかもしれない。ポンは元来物事に執着する性質だ。他に目を向けさせるには頭を使わせるのが一番だ。

『そういう意味ではさっきの探索・追跡トレーニングはイサックにいいと思うの。短時間でヘトヘトになるし、いざあなたが森で倒れた際にも助けてもらえるわ。奥深くに分け入ってイサックに探させるのよ。』
『・・・・・・うっ、うん。』
『鍵なんかを落としたときにも便利よ。絶対に探し当ててくれるもの。』
『・・・・・・。』

カティスは忘れている。私がどこから来ているのか全く忘れていると思う。・・・東京には・・・東京には森なんてないよっ!森の中で倒れることもないし・・・鍵も落とさないっ!

『そっ、そうね・・・ビルの間に隠れるわけにはいかないわね。でもね、こんなやり方があるからやってみて。家の中におやつやオモチャを隠して探させるの。』

・・・・・・。
羊はいないし、森もなければ川もない東京の片隅の小さな部屋。そっと好きなおやつを隠してごらん。あらゆるものを頭突きしながら探すよきっと。フガフガ、ドッシャンガラガラ、フンガフンガ、ドンガララン。イサックがおやつを見つける頃・・・家中のものが転がっている。

『ありがとう、カティス。とりあえず、何かやってみる。ヒントをくれてありがとう!!』



北欧珍道中記 パートⅡ ⑮

2007-09-10 17:56:03 | 北欧珍道中記 パート2-2
『まずはクリッカートレーニングのやり方を教えるわ。』

座って、はいクリック、ご褒美のキャンディー。
伏せして、はいよくできたわクリック、ご褒美のキャンディー。
バックして、はーいすごいわクリック、キャンディー。

指示通りの動きを確認した途端、抑揚のある大きな高い声で褒め称えながらクリッカーを鳴らすカティス。そのクリッカーの音でご褒美のキャンディーが地面に投げられることを察知する母犬ヘルガ。
へルガの後ろに投げたり右や左に投げたりして変化をつけることも大事だ。毎回手からやると常に手に意識が集中してしまって動きが悪くなる。落ちたおやつを目や鼻で見つけ出すことも犬には大切なことなのだ。



ご褒美のおやつには何を使っているのかと聞くと、豚の血だという。食べてみたところ柔らかく水っぽいケーキのような食感で、小麦が入っているようだった。人間用の食べ物だそうだが(多分、ベリーソースかなんかをかけて食べるもの)、匂いが強い分犬の反応がいいらしい。



『次は探索よ。』

カーリンにヘルガを持たせ、カティスはどんどん森の奥へ向かい、ある場所でぐるぐると大きく円を描いて歩き回っていた。犬は人間の匂いだけでなく、人間が踏み潰して行った草や苔の下から上がってくる土等の匂いで行き先を特定するという。ただそれだけではすぐにわかってしまうので、色んなところを踏み潰して犬を撹乱させるのだ。木の陰に座って数分。カーリンが縄をつけたヘルガを鼓舞しながら森に分け入って来る様子が伝わってきた。
『ヘルガ、どこ?どこ?探すのよっ!探してっ!』



何であんたわかるのさ!?とビックリするくらい正確に私たちが来た道を辿ってこちらに向かってくるではないか。カティスにだけでなく、私にまで尻尾をぶんぶんと振りながら『見つけたよ~!見つけちゃった~!』と大喜び。なんだかこっちまで嬉しくなる。

鼻と目、その他ありとあらゆる感覚を研ぎ澄まして探し出す行動は犬をすごく疲れさせる。たった5分、10分の訓練でも犬はヘトヘトになる為、終わった後は休憩をさせなければならない。ヘルガもさっさと車の中に入れられ、眠りにつかされていた。



そうこうしているうちにミカエルがやって来た。
『私の旦那さ・・・おっと、旦那じゃなくてフィアンセね。スウェーデンでは結婚という形式を取っているのは古い世代だけで・・・そうね、アネットなんかはそういう世代だけど、フィアンセとして一緒に暮らしているというのが多いの。』
メルケルはミカエルとカティスの間の子だが、カティスには前夫との間に2人の子供もいるという。

『さあ、ランチにしましょう。ミカエルお願いね!!』
バーベキュー台でソーセージを焼くのも、ホットドッグにしてくれるのも、飲み物をコップに入れてくれるのも全部ミカエル。
私たちが話をしている最中、メルケルの面倒を見るのもミカエル。一生懸命自分の口の中でソーセージを噛み砕いてメルケルに食事をさせている姿にはちょっと感動だった。

『そろそろでしょ?はいこれ。こういう場所では結構使えるのよ。好きな所でどーぞ。』



おもむろにカティスが差し出した物は可愛いのか可愛くないのか・・・キャベツ人形っぽい赤ちゃんが不気味な「赤ちゃんお尻拭き」。
行けども行けども森で、探す必要もないほど青空トイレは広がっている。人間に遭遇するより鹿に遭遇する方が確率の高い場所でお尻を出すのはいささか怖い。ついつい皆の姿が見えるくらいの距離でしゃがんだのだが・・・・見られてしまうんじゃないかというスリルで出るものも出なかった。