Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Daring & Stahl

2006-11-25 | SSW
■Daring & Stahl / Sweet Melodies In The Night■

 「Sweet Melodies In The Night」というタイトルと、素晴らしいジャケット・デザインだけでもお気に入りの 1枚。 Mason Daring と Jeanie Stahl の 2人が 1978 年に Mason & Stahl というデュエット名義で発表したアルバムです。 Mason Daring は今も現役で活躍するミュージシャンですが、1980 年代以降は主に映画音楽のシーンで活動しており、SSW として活動していたのは 1970 年代後半のみのようです。 SSW から映画音楽家への転身ということでは、Randy Edelman を思い出してしまいます。
 この Daring & Stahl 名義では 1980 年に名門 Philo から「Heartbreak」というアルバムを発表しているだけで、この 2作からの選曲で「The Early Years」という CD が後に出ているようです。 当時、付き合ってたと思われる 2人ですが、Mason Daring の公式ページからは、Daring & Stahl についての詳細な表記はなく、もっぱら映画音楽の実績ばかりとなっていました。 これは、ビジネス的な要因が強いのかとは思いますが、この 2人の関係が長続きしなかったことも想像できてしまいます。

 さて、アルバムの内容ですが、1978 年というある意味最良の時期に生み出された作品ならではの良質なエッセンスが散りばめられています。 サウンド面では、プロデューサーとして、バイオリンとしても参加している Robin Batteau の貢献が特徴となってます。
 Robin Batteau のペンによる「Take This Heart」は、ミディアムな CCM ナンバー。 この曲のみに参加している Bobby Keyes のギターが効き、ちょっとカントリーテイストも感じることができます。 アルバムのハイライトとも言えるのは、「Sweet Melodies In The Night」から「Last Mansions」と続く 2曲でしょう。 アルバムのタイトル曲でもある前者は、ピアノを基調としたバラード。 煌めくようなピアノソロや Robin のバイオリン・ソロが挿入されてくるあたりの美しさはアルバム中の白眉と言えます。 続く、「Last Mansions」もゆったりしたワルツですが、J.W.Helfand の奏でるペダルスティールが素晴らしい出来となっています。
 B 面もクオリティは高いのですが、なかでも「Marblehead Morning」は深い森林とか幽谷を連想させるような曲となっています。 ここでも活躍しているのはRobin Batteau のバイオリンです。 Bill Staines のペンによる「River」もアルバムラストにふさわしい内容。 バイオリンやダルシマーが流れるように Stahl の清楚なボーカルを包みこんでいくようなイメージです。

 今回、アルバムのクレジットをじっくり見てみたら、おかしなことに気がつきました。 それは、Thanks To の記載なのですが、その一番最初に Andy Pratt の名前があるのです。 Andy Pratt は参加していないのに変だなと感じたのですが、その謎がわかりました。 「Shiloh」と「Gold Dust In Our Eyes」に参加している Ratt Pandy というクレジット、この人物こそ Andy Pratt に違いないのです。 今まで気がつきませんでした。 1978 年といえば Andy Pratt は Nemperor と契約していた期間です。おそらく Nemperor の意向に反しての参加だったのか、何かレーベル間での交渉事が遅れたとかということがあったのではないかと思います。 
 ボストンのマイナーレーベル、Harbor からリリースされたこともあり、未だにオリジナルとしては CD 化されていないこのアルバムですが、素敵なジャケットとともに忘れ去られるには、惜しい作品です。 人知れず存在しているこのアルバムをもし見つけたら、気にかけてみてほしいと思います。

 秋の夜長に甘いメロディーを...



■Daring & Stahl / Sweet Melodies In The Night■

Side-1
Take This Heart (R.Batteau)
Shiloh (M. Daring)
Sweet Melodies In The Night (J.Stahl)
Last Mansions (M. Daring)
Country Social (M. Daring)

Side-2
The Boats They Come , The Boats They Go (B.Staines)
Marblehead Morning (M. Daring)
Gold Dust In Our Eyes (M. Daring)
The Mermaid (traditional)
River (B.Staines)

Produced by Robin Batteau and Mason Daring
Co-produced by Jeanie Stahl , Jeff Gilman , Dick Sandhaus and Richard Greene
Recorded and Mixed at Music Designers , Boston ,MA

Acoustic Guitars : Mason & Jeanie , Jeff Southworth , Robin Batteau
Electric Guitars : Mason , Bobby Keyes
Bass : Paul Socolow , Jack Bone , John Troy
Drums : Bob Wiener
Spoons : Tim Jackson
Tumba and Conga : Sa Davis
Piano : Mason , Ratt Pandy , Doug McClaran
Violin : Robin Batteau , Bill Staines , Ratt Pandy , Kate Whelan , Jeffrey Southworth , Debby Sheward
Pedal Steel : J.W.Helfand
Hammered Dulcimer : Dorothy Carter

Harbor Records HR-1501-1

Paul Masse

2006-11-24 | SSW
■Paul Masse / Motels And Stations■

 どんよりした曇り空、あっという間にあたりは暗くなってしまうような晩秋にお似合いのアルバムを取り出して見ました。 ちょっと憂鬱な気分になってしまいそうな Paul Masse のセカンドアルバムです。 
 おそらく1970 年前後に発表されたと思われるこのアルバムは、さりげないガットギターをバックに、頼りなげな Paul Masse のボーカルが漂うモノクロームなイメージの作品です。 時折ストリングスやフルートなどが入ってくる瞬間に色彩が見えてくるのですが、その時以外は淡々とした世界が展開されていきます。 そんな内容からなのでしょうか、Paul Masse について語っているサイトが日本にも海外にも見つかりませんでした。 きっと人気のない作品もしくはミュージシャンなのでしょう。 メジャーの Liberty からのリリースということもあり、容易に入手可能な作品であることも一因なのでしょうか。

 そんなレコードを久しぶりに聴いてみました。 A 面はアルバムのタイトルともなっている「Motels And Stations」で始まります。 この曲はガットギターとパーカッションで構成されていますが、リコーダーが入ってくるところが新鮮に響きます。 他には、同じようにフルートが印象的な小曲「Candy」や、アシッド感が漂う「High On A Hill」が聴きどころですが、何よりも「The Bandana」が秀逸な出来となっています。 この曲は単調なコード進行でメロディもつまらないのですが、その代わり(と言っていいのかわかりませんが)に、右チャンネルから聴こえてくるギターソロに耳が釘付けになります。 何しろ最初からラストまで、音は小さいものの延々と即興的なギターソロが奏でられているのです。 ジャズ・ギタリストに近いセンスを感じるのですが、いったい誰が弾いてるのか、とても気になるところです。
 B 面では、最初の 2曲「Lazy Wind」、「There Is A River」のクオリティが高いです。 「Lazy Wind」は2本のギターのコンビネーションの良さが、「There Is A River」ではリコーダーに導かれてセリフが入るところなどが耳に残ります。 ラストの「Dragon Fly」心地よいギターのフレーズが印象的な佳作と言えるでしょう。 ほとんどの曲でギターの音が 2本聴こえてくるのですが、もしかするとこれは、Paul Masse 本人のオーバーダビングなのかもしれません。 ミュージシャン・クレジットがないので本当のことは不明ですが、アルバムを通して聴き終えるとそんな気がしてきました。 すると、あの「The Bandana」での名演も彼の手によるものになるのですが。
 
 さて、このアルバムに色彩を添えているのは、アレンジを手がけた Jack Daugherty です。 彼は、Jack Daugherty Orchestra 名義で自身のアルバムも発表しているようですが、最も有名なキャリアは、Carpenters のアルバム「A Song For You」のプロデューサーとしてものです。 このことは今日まで知らなかったのですが、それを思うと、今日ご紹介している「Motels And Station」は、彼がCarpenters を手がける前の作品に違いないと確信しました。 そうなると、「A Song For You」が 1972 年ですから、このアルバムは 1971 年よりも前のものではないかと推測できるのです。

 さて、Paul Masse はこのアルバムの前に、同じ Liberty から「Butterfly Lake」というファーストアルバムを発表しています。 こちらのアルバムは未聴なのですが、どうしても聴きたいという気持ちにはなれないでいます。 その理由は脱力感あふれる彼のボーカルに起因するものなのですが、そんなこともあってか、彼はこのアルバム以降は音楽シーンから遠ざかってしまったものと思われます。 インターネットで調べてもその足取りを追うことができませんでした。 世界的に人気が無いんですね。



■Paul Masse / Motels And Stations■

Side-1
Motels And Stations
The Way It Use To Be
Where It’s At
Candy
The Bandana
High On A Hill

Side-2
Lazy Wind
There Is A River
Love Won’t Come Easy
Brambles And Flowers
Seasons Sun
Dragon Fly

Produced by Higgins & Ervin of Wally Roker & Associates
Arranged and Conducted by Jack Daugherty
All Compositions by Paul Masse

Liberty Records LST-7628


Stephen Ambrose

2006-11-13 | SSW
■Stephen Ambrose / Gypsy Moth■

 Stephen Ambrose が 1972 年に残した唯一の作品。 世の中にシンガーソングライターが雨後の筍のように登場してきた1970年代前半には、運よくヒットに恵まれたミュージシャンもいれば、わずか 1枚でシーンから消えてしまった人もいます。 Stephen Ambrose はもちろん、後者の例。 Stephen とか、Steve という名前は特にそうしたミュージシャンが多いように感じるのは偶然でしょうか。  Stephen Cohnや Steve Ferguson 、Stephen Sinclair(彼は2枚残しましたが)など、どうも短命系が多いように感じます。

 さて、この作品は繊細でかつメロウなサウンドが全編を貫いており、Stephen Ambrose の甘めの声質もあり、この手のファンには人気の高い作品ではないでしょうか。 アレンジを手がけた Don Gallucci の貢献も大きいとは思いますが、Stephen Ambrose のメロディと堅実なバックの演奏がアルバムの質を高めているように感じます。
 1曲目の「Friend」は、アコギ主体のメロウ・チューンですが、早すぎたプレ AORとさえ思ってしまうセンスを感じます。 David Gates や Stephen Bishop に近いものを感じることから、Stephen Ambrose の登場は時代よりも早すぎたのかと考えてしまいます。 「Somebody Walks Beside Me」「Mary」とギター中心の曲に続く「Gypsy Moth」はピアノ系の楽曲。 次第にメロトロンに似たストリングスが入ってきて、映画のサントラ楽曲かのように展開する様はかなりの出来ですね。 

 B面は、Doug Van Arsdale なる人物の作曲による「Tumbleweed」でスタート。 この曲はゆったりしたワルツ。 3曲目の「Mornin’ Sun」は、Carla Bonoff の作品です。 表記は Carla となっていますが、もちろん Karla Bonoff のことです。 そういえば、彼女が 197 0年頃に結成していた Bryndle (ブリンドル)の 4人のうち、Kenny Edwards と Andrew Gold がこのアルバムには参加しています。 同じ西海岸のミュージシャンですし、かなり近い関係があったのでしょう。 もし、Karla Bonoff がバックコーラスで参加していたら、このアルバムももう少し有名になっていたのかな? ラストの「Sweet Turnstyle Blues」は、Don Gallucci との共作ということもあり、しなやかなリズムとエレピのアレンジが洒落ていてセンスの良さを感じます。
 
 久しぶりにこのアルバムを聴いて、そのクオリティの高さを再認識する一方で、やはり感じてしまうのが決定力不足です。 まるでサッカーみたいな表現ですが、もっとユニークな個性とメリハリの利いた編成などがあれば、さらにいいアルバムに仕上がったのではないでしょうか。

 さて、「Gypsy Moth」とは、マイマイガという蛾のことを指すようですが、二つ目の意味としては、「民主党に同調して票を入れる北部諸州出身の共和党議員」というものがありました。 Stephen Ambrose からは、政治色はあまり感じないので、おそらくマイマイガという意味で使用されたものでしょう。
 民主党といえば、今回の全米中間選挙で民主党が勝利しました。 その民主党から立候補して見事に当選した人物のひとりに、あの Orleans の John Hall がいます。 そのことはあまりメディアに取り上げられていませんが、1980 年代に No Nukes コンサートを主催するなどの活動をしていたことを考えると、立候補した事は不思議ではありません。 僅差ながらも見事に当選ということで、彼の今後の活動のメインは音楽ではなく政治活動になるのでしょう。 
 
 Stephen Ambrose とは関係ないネタで締めくくってしまいましたが、今日の主人公のその後の足取りはつかめませんでした。 おそらく、音楽シーンから遠ざかってしまったのでしょう。

 

■Stephen Ambrose / Gypsy Moth■

Side-1
Friend
Somebody Walks Beside Me
Mary
Gypsy Moth
Answer In The Rain

Side-2
Tumbleweed
Caroline
Mornin’ Sun
Safely Home Like A River
Sweet Turnstyle Blues

Produced and Arranged by Don Gallucci
Except ‘Answer In The Rain’ and ‘Safely Home Like A River’ by Larry Murray
Executive Producer : Ken Mansfield

All Songs written by Stephen Ambrose
Except ‘Tumbleweed’ by Doug Van Arsdale , ‘Mornin’ Sun’ by Carla Bonoff , ‘Safely Home Like A River’ by David Powell

Acoustic Guitar : Stephen Ambrose , Fred Carter Jr. , David Powell
Acoustic and Electric Guitar : Andrew Gold
Steel Guitar : Ed abner , Weldon Myrick
Keyboards : Don Gallucci , Bee Bee Cruiser , David Powell
Bass : Kenny Edwards . Steve Schaffer
Drums and Percussions : Gene Farfin , Jerry Carrigan
Mandolin and Harmonica : Kenny Edwards
Strings and Flutes : Manna
Background Vocals : Dann Lottermoser , Gail Heiderman , Don Dunn , Danny Guy , Tom Guy

Barnaby Records BR-15003


Robert Thomas Velline

2006-11-12 | SSW
■Robert Thomas Velline / Nothin’Like A Sunny Day■

 レコード棚をいじっているうちに、あまり見覚えのないアルバムを発見。 きっと、1度しか聴いていないまま、自分の記憶から抜け落ちていた Robert Thomas Velline のアルバムです。 このヒゲ面のアップというジャケットは、Richard & Linda Thompson のアルバム「Pour Down Like Silver」を思い出させますね。

 このアルバムについては未知のことが多く、さっそく調べてみたのですが、そこには驚くべき事実が隠されていました。 いや、隠されていたというよりは、今日まで僕がその事実を知らなかったという方が正しいかもしれません。

 というのも、この Robert Thomas Velline は、1960 年代に Bobby Vee 名義でヒット曲を連発した人物だったのです。 Bobby Vee については、詳しくは知りませんが、Boddy Holly のフォロワー的な存在として売り出されたアイドルといったところでしょうか。 彼の公式ページに掲載されているディスコグラフィーを見ると、ちょっと気恥ずかしくなるようなものばかりです。 
 そんな彼が、1970 年代に入り本名を名乗って発表したのが、今日ご紹介するアルバムだったのです。 時は 1972年、たしかにシンガーソングライターの全盛期でもあり、脱アイドルという方向性を世の中に示したかったのでしょう。 アルバムの内容も、カントリー色がやや強いものの同時代性あふれる SSW アルバムに仕上がっています。

 典型的なカントリー系 SSW 作品である「Every Opportunity」は、どこかで聞き覚えのあるサビだったので、曲名検索してみましたが、他人のカバーなどはなく、偶然の一致か誤解なのかなあと思いました。 そういえば、それに似た話がスポーツ紙やワイドショーで取り上げられていましたね。 アルバムの特徴としては、サイドで地味な立ち位置になりがちな有名セッション・ギタリストの Dean Parks がソロやドブロなど前面で活躍していることでしょうか。 Dean Parks には悪いのですが、ついついソロは Larry Carton でサイドに Dean Parks というイメージが染み付いてしまっているので。 もうひとつの特徴は、Robert Thomas Velline のセルフ・コーラスの美しさと分厚さでしょうか。 アルバムラストの「It’s All The Same」あたりにその傾向が顕著です。
 Bobby Vee 名義でもレコーディングしていた「Take Good Care Of My Baby」は、Goffin / King 作品。 1961 年に曲が作られて、Bobby Vee も同年にレコードを出しているので、もしかして、Bobby Vee がオリジナルのシンガーなのでしょうか? いずれにしても、このアルバムのバージョンは、ゆったりした弾き語りメインのスロウな仕上がり。 Goffin / King 作品を SSW がカバーすると大体がスロウな仕上がりになりますよね。 ブリル・ビルディング・ポップのカバーになるので、当たり前かもしれませんが。

 Robert Thomas Velline 名義でのこのアルバムは商業的にはまったく成功しなかったようで、次の作品が世に出ることはありませんでした。 Bobby Vee としても新録は出ていないようで、ベスト盤や編集盤などが出されているだけのようです。 公式ページの Tour Info を見ると Brian Hyland や Chris Montez といった 60 年代の懐かしい面々でツアーをしていました。 日本で言うとグループサウンズのメンバーによる「懐かしのメロディ」みたいなものなのでしょう。

 アイドルから本格的な SSW への脱皮を図り、失敗した Robert Thomas Velline。 その時の彼の心境を察すると切ないですね。 名前を変えて、風貌まで一変させたのに... 
 その後、Bobby Vee に戻った彼の音楽人生の中で、このアルバムの位置付けはどのようなものなのでしょうか。 幸い、まったく封印されていることは無さそうですが。

 

■Robert Thomas Velline / Nothin’Like A Sunny Day■

Side-1
Every Opportunity
Captain On The Line
Halfway Down The Road
Hayes
My God And I

Side-2
Going Nowhere
Home
Take Good Care Of My Baby
Here She Comes Again
It’s All The Same

All Songs written by Robert Thomas Velline
Except ‘My God And I’ by John Buck Wilkin
‘Take Good Care Of My Baby’ by Carole King and Gerry Goffin
‘Home’ by R.Velline and John Durill

Produced by Dallas Smith

Acoustic Guitar : R.Velline , Les Emmerson , Dean Parks
Bass : Joe Lamanno , Brian Lading
Pedal Steel : Red Rhodes
Drums : John Raines , Mike Belanger
Background Vocals : Les Emmerson , Brian Rading , Rick Belanger , Mike Belanger , Ted Gerow
Lead Guitar : Dean Parks
Piano : Bill Cuomo , Ted Gerow
Horns : Lew McCreary , Charles Findley
Dobro : Rodney Dillard
Banjo : Billy Ray Latham
Organ : Duane Scott

United Artists UAS-5656

Don Ferencz

2006-11-10 | Christian Music
■Don Ferencz / Love One Another■

 僕が持っているクリスチャン・フォークと言えるジャンルのアルバムのなかでも特に気に入っている一枚。 Don Ferencz が 1978 年に発表したアルバムです。 レーベル名もないので、自主制作盤なのでしょう。
 主人公の Don Ferencz のクレジットは、ジャケットの表にもレーベル面にも記載されておらず、ジャケット裏の隅のほうに、© by Don Ferencz と書かれているだけ。 本人もとしても匿名性を高めたかったのでしょうか。 もしかすると、「Love One Another」というはアルバム名でもあり、アーティスト名かもしれません。

 さて、そんなこのアルバムは全曲が本人の作曲、ギターの弾き語りです。 おそらく、ほぼ一発録音でしょう。 ギターもカッティング系ではなく、しっとりとしたアルペジオに優しい Don Ferencz のボーカルが包み込むという感じです。 全18曲もあるので、1 曲はほぼ 2分以下という小曲ばかりとなっています。
 アルバム収録曲のほとんどが、聖書の出典を歌詞に引用しています。 例えば、「Blind Can See」based on Matthew,11:2-6 とか、「In The Garden」based on Genesis,3:8-9といった具合です。 特に Matthew という引用が多いのですが、キリスト教に詳しくないので、ここがどのような節もしくは章なのかはわかりません。 
 そんななか、数少ないものの歌詞も全くのオリジナルという曲があります。 「Follow Me」、「Been Lookin’ All Around」、「The Garbage Song」、「There’s A Man And A Lamb」、「Temple Of My Love」がそれに該当します。 そうしたことを意識して聴いてしまうからなのかもしれませんが、これらの曲は、メロディーもシンプルで分かりやすいポップな曲調が多いように感じます。 特に「The Garbage Song」、「There’s A Man And A Lamb」などは、子供向けの教育番組に似合うようなポップさを備えています。 アルバムの中でもベストソングと思うのが、「Temple Of My Love」です。 ♪ Welcome to my temple of my love ♪ を繰り返す歌い出しが、人なつこい印象を与え、油断していると無意識に口ずさんでしまいそうです。

 このアルバムは実はまだ 3回しか聴いていないのですが、あらためて聴く度に、すっかり忘れていた曲の内容を「あー、そうだった」という風にすぐにリマインドできてしまいました。 そんなアルバムは普通に存在しているのかもしれませんが、このアルバムの持つ独特のたたずまいは、人の記憶の深いところ、もしくは記憶とは違う脳の未知の領域にそっと格納されてしまうかのように思えます。 懐かしい人に出会う、ふと忘れていた何かを思い出す、そんな喜びに似た何かをこのアルバムから感じ取ることができるのです。
 それは、きっと深い信仰に支えられた Don Ferencz の真摯な姿勢と温かな人柄がレコードを通じて伝わってくるからなのでしょう。 午後のティータイムに、夜ベッドに入る前のひと時に、漠然と考え事をしながら聴くには最高のアルバムです。 自分の心の揺らぎ・迷い・悩みといったものが、まるで鏡に映るかのように聴こえてくることでしょう。

 


■Don Ferencz / Love One Another■

Side-1
Prelude To John
What Do People Think?
Follow Me
Fisherman
Song Of Jeremiah
Blind Can See
In The Gaden
Been Lookin’ All Around
David And Nathan
The Garbage Song

Side-2
Storm At Sea
Hosanna
There’s A Man And A Lamb
Wedding Song
Sleeping Sailor
Harvest
Go Away
Temple Of My Love

All Songs written by Don Ferencz
114 Downer St. Baldwinsville, N.Y.13027

No Label 780748



Dick Pinney

2006-11-05 | SSW
■Dick Pinney / Devil Take My Shiny Coins■

 名盤「Iowa Waltz」で有名な Greg Brown との親交で知られる Dick Pinney のソロアルバム。 彼のソロは他にもライブ盤が 1枚存在するようですが、僕が知っているのはこのアルバムだけです。 ミネソタの名門 Mountain Railroad から 1977 年にリリースされました。

 彼のキャリアのスタートは 1974 年。 Greg Brown との共作名義で発表した「Hacklebarney」というアルバムからだと思います。 これは、Greg Brown の最初のレコーディング作品でもあることから、ずっと探しているのですが未だに入手できないでいます。 その「Hacklebarney」の収録曲は、Greg Brown の公式ページに掲載のディスコグラフィーに出ているのですが、それを見ると、今日ご紹介する「Devil Take My Shiny Coins」に収録されている曲が 2曲あります。 そして、その曲がこのアルバムでも大きな存在感を示しているのです。

 その 2曲のひとつは、1 曲目の「Hacklebarney」です。 1974 年の共作名義のアルバムタイトル曲ですが、この曲は Greg Brown のその後の音楽キャリアを予感させる名曲です。 Dick Pinney のバージョンは、アコギと重く響くウッド・ベースを軸とした憂いと渋みが同居する仕上がりになっています。 アルバムの 1曲目がこのように安定感のある楽曲だと安心して聴いていられますね。
 もうひとつの曲は「Walk Me Round Your Garden」です。 この曲は、アルバム「Hacklebarney」のなかでも数少ない Dick Pinney のオリジナル曲なのですが、最も有名なバージョンは、Michael Johnson によるものでしょう。 ここまでで、ピンと来た人はかなりの通なのですが、この曲は Michael Johnson の Sanskrit 盤「For All You Mad Musicians」でカバーされている曲なのです。 この曲は歌い出しの歌詞が ♪For All You Mad Musicians♪ となっており、アルバムのタイトルにも流用されていることから、Michael Johnson のファンであれば、聞き覚えのある曲ではないでしょうか。 アルバム「Hacklebarney」が 1974 年、Michael Johnson のバージョンが 1975 年、そして今日ご紹介しているバージョンが 1977 年という順序でレコーディングされてきたことになります。 
 この重要な 2曲が収録されていることもあり、アルバムは A面のほうが充実した内容になっています。 Greg Brown の曲が集中していることも要因かもしれません。 その点、Dick Pinney のオリジナルで占められている B面は、オールドタイミーな雰囲気満点でほんわかした内容となっているものの、いまひとつ曲の魅力が弱い印象です。 そんななか、ラストの「Alaskan Sunrise」は、ギター中心のインストとなっており、アルバムを引き締めているように感じました。

 ユーモラスなタイトルとジャケット写真だけでは伝わりにくいこのアルバムですが、クレジットを見ると、ミネソタの Sound 80 での録音、Lonnie Knight などの渋いゲスト参加ということで、問題なくゲット、というアルバムだと思います。 
 順調に活動を続けている Greg Brown に対して、Dick Pinney はいったいどうしてしまったのだろう、と思ってネットをこまめに調べてみました。 すると、現在は Richard Pinney という本名(おそらく)に戻って、地道に音楽活動を続けていることが分かりました。 アメリカの音楽シーンの懐の深さを感じますね。

 

■Dick Pinney / Devil Take My Shiny Coins■

Side-1
Hacklebarney
Devil Take My Shiny Coins
You Only Love Me When You’re Drunk
Pines Lean Up
Walk Me Round Your Garden

Side-2
Mother Lode
Ain’t No Blues
She’s My School
Dicker
Alaskan Sunrise

All Songs written by Dick Pinney
Except ‘Hacklebarney’ , ‘You Only Love Me When You’re Drunk’ , ‘Pines Lean Up’
’by Greg Brown

Dick Pinney : acoustic guitars , slide guitar, lead and harmony vocals
Bill Peterson : acoustic and electric bass
Bill Berg : drums , congas and percussion
Ken Bloom : clarinet , electric guutar ,and zither
Lonnie Knight : electric guitar
Cal Hand : pedal steel guitar
Willie Murphy : electric bass
Howard Merrweather : drums
Betsy Kaske : harmony vocals
Jim ‘Dicker’ Dickison : harmony vocals
Shorty and Dicks : synthesizer

Produced by Stephen Powers

Recorded at Sound 80 , Minneapolis , MN and Sweet Jane Ltd , Cushing , MN
Sound 80 engineering by Paul Martison

Mountain Railroad Records   MR 52777

西岡たかし

2006-11-04 | Japan
■西岡たかし / 田舎町のうまい酒■

 いよいよ11月。 秋になると聴きたくなるアルバムということで、取り出したのが西岡たかしのソロアルバム「田舎町のうまい酒」です。 ご存知のとおり、西岡たかしは「五つの赤い風船」の中心メンバー。 グループ解散後はソロ活動を積極的に展開し、1970 年代には 1年に 1枚ペースでアルバムをリリースしていました。 
 このアルバムが発表されたのは、1979 年 9月、僕が高校一年生の時ということで、出会いはリアルタイムです。 ただ、貸レコードで借りてダビングしたカセットで聴いていたので、レコードを入手したのは、10年くらい前の中古レコード店でのこと。 ちょうど、その頃、持っていたカセットを全部処分してしまったので、見つけたときには躊躇なくレジに向かいました。

 このアルバムを聴くきっかけになったのは、NHK FM ラジオでした。 番組名は覚えていませんが、西岡たかしがゲストに来て、スタジオライブを行ったのです。 そこで演奏されたのが、このアルバムに収録されている「秋」、「天草の思い出」、「あした」だったと思います。 いずれもセンチメンタルな楽曲で、多感な高校生だった自分にとっては季節感も含めて、じわっと響くものがありました。 今もその印象は変わりませんね。 ちょっと胸がキュンとしてしまいます。

 アルバムは A面の完成度が高く、捨て曲がない一方、B 面はやや散漫になってしまっていると思います。 ギターの弾き語りでセルフ・アレンジの「あした」はフォーキーな名曲。 さりげないメッセージ性とシンプルさが同居した西岡ワールドの真骨頂だと思います。 「秋」や「天草の思い出」は、ドリーミーなポップとしては出色の出来。 特に「秋」はイントロのエレピ、シンセのメロ、薄く入る女性コーラスなど、槌田靖識のアレンジが冴え渡っています。 ごく稀に発見することのできる「完璧な曲」の部類に入れてもおかしくないと思っています。 「天草の思い出」も歌詞とメロ、アレンジの調和が見事ですね。 半分がポエトリー・リーディングとなっている「八千代旅館」は、旅情豊な曲。 つづく、「幸福」は我が子への愛情に満ち溢れた内容。 高校生の頃にはピンと来なかった歌詞も、3 歳の娘がいる今の自分には全然違って聴こえてきます。 この曲もいいですね。
 
 B 面では、「不幸せのとなり」や「バーミリオン・カラー」といった曲が A面からの流れを考えると違和感を覚えてしまいやや残念です。 アルバムのタイトル曲でもあり、シングル曲でもあった「田舎町のうまい酒」は、しっとり系のワルツをバックに、饒舌な酒場での風景が描かれた曲。 本人が実際に、こんなおやじと酒を酌み交わした経験があるのか、全くのフィクションかはわかりませんが、西岡たかしの温かな人柄をよく表していると思います。

 僕はこのレコードのことを 25年以上好きだったのに、なぜか西岡たかしの他のソロ作品をまったく聴いたことがありません。 自分でも何故なんだろうと思ってしまいますが、70 年代初期のソロアルバムは 10月 25日にビクターから紙ジャケで再発されたようです。 70 年代後期のアルバム「私の耳はロバの耳」、「モス」、「田舎町のうまい酒」、「らいふ」は CD化されていません。 きっと第 2弾があるのだと信じたいです。
 
 それまでの間、この「田舎町のうまい酒」の音源を CD で聴くことができるのは、「西岡たかし・五つの赤い風船BOX」という 5枚組です。 この中には僕の好きな「あした」、「幸福」は入っていませんが、「秋」、「天草の思い出」、「八千代旅館」、「背中」、「秋と言えば」、「田舎町のうまい酒」が収録されています。 このボックスを買うか、オリジナルの復刻を待つか、新たな悩みが生まれてしまいました。

 

■西岡たかし / 田舎町のうまい酒■

Side-1
あした

天草の思い出
八千代旅館
幸福(しあわせ)

Side-2
背中
秋と言えば
不幸せのとなり
バーミリオン・カラー
田舎町のうまい酒

Produced by 西岡たかし
Words & Music by 西岡たかし
Arranged by 西岡たかし Side-1 ①④ 、槌田靖識 Side-1②③⑤、Side-2①~⑤
Directed by 金子秀昭

Drums : 市原やすし、宮崎まさひろ
E.Bass : 金田一昌吾、高水健司
E. Guitar : 松原正樹、安川ひろし
F.Guitar : 西岡たかし、吉川忠英、金城良吾
G.Guitar : 杉本喜代志
Guitar Synthesizer : 矢島賢
Keyboards : 栗林稔、倉田信雄、鈴木宏二
Trumpet : 羽鳥グループ
Trombone : チャンピオン・グループ
S.Sax , A.Flute , Flute , Harmonica , Clarinet : 村岡健
Female Chorus : フィーリングフリー
Female Voice : 川島和子
Male Chorus & Hand Claps : 安川ひろし、槌田靖識、田余尾裕俊、田中孝行、金子秀昭

Recorded at Victor Studio , July 7-11 , 1979

ビクター SJX-20159