Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

David Maloney

2009-06-25 | SSW
■David Maloney / The Harvest Is In■

  1976 年にデビューし、今もなお共同名義で活動を続けている Reilly And Maloney の片割れ David Maloney のファースト・ソロアルバム。 1981 年の作品です。 相棒の Ginny Reilly もハーモニーで参加しているものの、「Josie And Me」の1曲だけということで、David Maloney の単独での創作に対する意欲が感じられます。 インナー・スリーブには女性と並んだ写真入りで、This album is dedicated to Tebby とあり、もしかすると Ginny Reilly との関係が冷え込んでいたのかも、と思ってしまいます。

  レコーディングは地元のサンフランシスコで及び北部のシアトルの合計 4 ヵ所のスタジオ行われていますが、場所の違いは全く意識させない一貫したサウンド・プロダクションが施されています。 アコースティック・ギターの乾いた音色、情感あふれるピアノ、余裕のリズムセクション、シンプルなアレンジといった要素に支えられてリラックスして楽しめるシンガーソングライター作品に仕上がっています。 レーベル・メート Tom Dundee の曲と、同時代の SSW である Paul Siebel の曲が1曲ずつ収録されている以外は David Maloney のオリジナルです。

  どの曲も遜色のない出来なのですが、印象的なのはオープニングを飾る「It Takes A Lifetime」のメロウでマイルドな味わいです。 1 曲目で充実感を感じると、安心してアルバムと対峙できるというお手本のようなケースです。 渋めのバラード「Melody Waters」、カントリー風のアップ「Without Words」と続いて、Paul Siebelの「Then Came The Children」となるのですが、この曲がまた素晴らしい曲です。 オリジナルは聴いたことがないのですが、ピアノとフルートが小鳥のさえずりのように絡み合う中間部の見事さはパーフェクトです。 アレンジの妙もあると思いますが、この曲のクオリティはアルバムの中でも群を抜いています。 
  続く A 面ラストの「The Only Tears」や B 面 2 曲目の「Josie And Me」もミディアムで似た嗜好の楽曲ですが、このあたりが David Maloney の作風の核にあるものだと思います。 アルバムタイトルにも繋がる題材の「Pumpkin Season」からしっとりしたバラード「Serenade」へ続くアルバムのラストもスムースで余裕を感じさせる流れとなっており、このアルバムのレベルの高さが十分に伝わってきます。 1981 年の西海岸で、エイティーズ・サウンドや AOR の影響を全く受けていないことも特筆すべき点でしょう。
   
  こうした作風は David Maloney 自身の内面からあふれ出るものなのでしょう。 彼のことを勝手にサーファーではないかと想像したくなるような、ナチュラルなサウンドは、エコ全盛の現代にとてもマッチしたものだと思います。 例えば、 Jack Johnson のファンなどにお薦めしたくなるような気分です。 Reilly And Maloney 名義の公式サイトには、このアルバムのことも掲載されていましたが、残念なことに未だに CD 化はされていないようでした。

■David Maloney / The Harvest Is In■

Side-1
It Takes A Lifetime
Melody Waters
Without Words
Then Came The Children
The Only Tears

Side-2
Heart Of Rebel
Josie And Me
Rollin’ With The Punches
Pumpkin Season
Serenade

Produced by Buzz Richmond

David Maloney : acoustic guitar, lead vocals, harmony vocals
Ginny Reilly : harmony vocals (Josie And Me)
Tom Gorman : piano, organ
Roger Ferguson : lead acoustic guitar, mandolin
Chris Leighton : drums, tablas
Garrett Smith : bass
Michael Spiro : congas, temple blocks
Orville Johnson : dobro
Denny Goodhew : flutes
John Green, Rory Laughery, Chris Olsen, Jim Lamberson : background vocals (Rollin( With The Punches)
Leo Collignon : acoustic guitar (serenade)

Freckle Records 01903


Pete Kairo

2009-06-14 | Folk
■Pete Kairo / Playing It Safe■

  針を落とした瞬間から硬質のフィンガーピッキング・ギターの音色が響き渡り、空間を一変させてしまうアルバムです。 
  Pete Kairo はメイン州の無名のギタリスト。 おそらくこのアルバムが彼の唯一の作品だと思われます。 アメリカには彼のようなラグタイム・ギターの名手がどのくらい存在するのでしょうか。 そんなことを考えながら、若干ノスタルジックに向き合うのに最適なアルバムです。
  
  このブログでは以前 Scott Joplin の曲だけを集めた、Bob Tryforos の作品を取り上げたことがありますが、このアルバムも似た傾向の作品です。 ただ、こちらには半分くらいの曲にボーカルが入っていますので、そこは大きな相違点です。 Scott Joplin の曲も収録されており、「Original Rags」は Pete Kairo のアレンジでしっとりとまとめられています。 
  アルバムの曲の多くは、古典であるパブリック・ドメイン楽曲が多く、Pete Kairo は史料を編纂するかのようにこのアルバムをレコーディングしたのでしょうか。 気になるには、プロデューサーである Delta X なる人物です。 本名や実体は不明なのですが、彼がこのアルバムの制作指揮をとっていた重要人物に違いないのです。 アルバムへは、唯一「Only The Blues」にブルースハープで参加しただけなのですが、この Delta X の正体を知っている方がいれば、教えてもらいたいところです。

  特筆すべき楽曲としては、2 曲挙げられます。 1 曲がビートルズの「Things We Said Today」です。 「明日への誓い」という邦題のほうがお馴染みですが、初期のレノン・マッカートニーのなかでも地味で通好みの曲を選んだなという印象です。 この曲は「A マイナーコードの楽曲をブルージーなセッティングで演奏した」とクレジットされています。
  もう 1 曲は、「Stars And Stripes Forever」(星条旗よ永遠なれ)です。 吹奏楽の世界では知らない人はいないというソーサの名曲ですが、この曲を Pete Kairo はギター 1 本で見事に演奏しきっているのです。 これはまさに圧巻で、いったいどうやって弾いているのかが想像もできません。 この曲だけがライブ収録なので、演奏後の拍手と歓声がその超人的なテクニックを表しています。
  この曲をギター用にアレンジしたのが、Rounder Records から多くのアルバムを発表した Guy Van Duser 。 彼のデビュー作は 1977 年の「American Finger Style Guitar」ですが、「Stars And Stripes Forever」はこのアルバムのラストに収録されています。 Pete Kairo の本作は 1975 年から 1976 年にかけてレコーディングされているので、もしかすると Pete Kairo は「Stars And Stripes Forever」を本家よりも早くレコーディングしたのかもしれません。 クレジットを見ると、「Guy Dan Duser is one hell of a guitar player」とコメントされているだけでした。 この二人の間に実際の接点があったのかどうかは判りませんが、楽譜だけでマスターできる代物では無いように思います。

  Guy Van Duser は定期的にアルバムをリリースしたのに対し、Pete Kairo のアルバムはこの作品以外は見当たりません。 しかも、彼は 2003 年 1 月に亡くなっていました。 そのことを伝える記事には、「Sweet Georgia Brown」や「Stars And Stripes Forever」が彼の十八番だったことが記されていました。



■Pete Kairo / Playing It Safe■

Side-1
Sweet Georgia Brown
Bottom Dollar
Original Rags
Only The Blues
Willow Weep For Me
Stars And Stripes Forever

Side-2
Wabash Rag
Staten Island Hornpipe
Hard Heard Men
Whistler And His Dog
Hey, Hey, Daddy Blues
Things We Said Today
Memories Of You

Produced for the Physical World by Delta X
Recorded at The Physical World except ‘Stars And Stripes Forever’ recorded live at Passim in Cambridge.
Recorded over six month period starting November, 1975

The Physical World Pr 32-006


Ronnie Stoots

2009-06-07 | Soft Rock
■Ronnie Stoots / Ashes To Ashes■

  アルバム 1 曲目から Carole King のカバー「Home Again」ということで、気になっていたアルバム。 通して聴き終えると、ボーカリストとしての実力に感心させられました。 派手さはないが、実に上手い歌い手というフレーズがぴったりの Ronnie Stoots のこれはファースト・アルバム。 1971 年の作品です。
  彼のことを調べてみると、その歌の上手さにはきちんとした背景があることを知りました。 Ronnie Stoots は 1960 年代のメンフィスを代表する白人グループ Mar-Keys(マーキーズ)のリード・ボーカリストだったのです。 Mar-Keys は Stax Records の屋台骨を支えたセッション・マンである Steve Cropper、Donald ‘Duck’ Dunn、Don Nix らが所属したスーパー・グループ。 彼らの音は未聴なのですが、そこでリード・ボーカルをつとめていただけのことはあって、表現力はもちろんのこと、ほのかな色気も漂わせた深い味わいが堪能できる作品となっています。

  このアルバムは、Ronnie Stoots が Steve Cropper と共同で設立した TMI からリリースされたのですが、レーベル自体が長続きしなかったことと、Ronnie Stoots が早々に音楽からリタイアし、デザインの世界に転進したこともあって、これが彼の唯一のソロ・作品です。 アルバムには、Carole King、James Taylor、David Gates といった著名な SSW のカバーが収録されており、Ronnie Stootsのオリジナルは 1 曲もないことから、強引にソフトロックにカテゴライズしてしまましたが、そこはこのブログのカテゴリー設定の不備からくるものなので、気にしないで下さい。

  アルバムのハイライトは、ラテン界の大御所 Jose Fericiano が参加した「Ashes To Ashes」に尽きるでしょう。 この浮遊感あふれるメロウネスは、体の芯を抜き去ってしまうかのようです。 ちなみに、この曲は当時絶好調だったソングライター&プロデュース・チームの Lambert and Potter の曲で、オリジナルは Fifth Dimension のようです。
  続く出来なのが A 面では「Home Again」、「Bye Bye Darlin’」、B 面ではDavid Gates の「The Other Side Of Life」、「Girls With A Smile」、「Child Of Mine」、「The Closet I Ever Came」といったあたりです。 B 面は特にミディアムで余裕のある楽曲が続くので、どの曲も甲乙を付けがたいレベルに仕上がっています。 豪華なミュージシャンのサポートだけでなく、優れたアレンジやストリングスに支えられて、聴き応えは十分です。 個人的には、やはり馴染みのある「Child Of Mine」が頭一つ抜けているとは思いますが。

  このアルバムの不思議なところは、南部の匂いや泥臭さが全く感じられないところです。 骨太のリズムセクション、煌びやかなホーンセクションはここでは抑制され、極めて MOR に近いサウンド指向が徹底されています。 工事現場に座り込んでしまったジャケットは全く評価できませんが、そのサウンドとマッチしたRonnie Stoots のボーカルの魅力は、通常より薄めの塩化ビニールに閉じ込められているのです。
  先ほども書いたよう彼はデザイナーに転進したのですが、あの有名な Stax Records のロゴを作成したのが、なんとこの Ronnie Stoots なのだそうです。 



■Ronnie Stoots / Ashes To Ashes■

Side-1
Home Again
Sweet Dream Woman
My First Night Alone Without You
Ashes To Ashes
Bye Bye Darlin’

Side-2
The Other Side Of You
Girl With A Smile
Long Ago And Far Away
Child Of Mine
Everybody’s Loved By Someone
The Closet I Ever Came

Produced by Steve Cropper, Ron Capone, Glen Spreen
Arrangements : Glen Spreen, Dale Warren

Special thanks to the TMI staff of musicians ;
Steve Cropper : guitar
Paul Cannon : guitar
Tim Goodwin : guitar
David Mayo : guitar
Jimm Johnson : bass
J.A. Spell : keyboards
Richie Simpson : drums
Joel Williams : drums

Jose Fericiano appears on ‘Ashes To Ashes’

Background singers : David Mayo, Bob Lehnert, David Beaver, Pat Taylor, Nashville Edition on ‘Home Again’

TMI Records TMS-1002