Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Ronnie Stoots

2009-06-07 | Soft Rock
■Ronnie Stoots / Ashes To Ashes■

  アルバム 1 曲目から Carole King のカバー「Home Again」ということで、気になっていたアルバム。 通して聴き終えると、ボーカリストとしての実力に感心させられました。 派手さはないが、実に上手い歌い手というフレーズがぴったりの Ronnie Stoots のこれはファースト・アルバム。 1971 年の作品です。
  彼のことを調べてみると、その歌の上手さにはきちんとした背景があることを知りました。 Ronnie Stoots は 1960 年代のメンフィスを代表する白人グループ Mar-Keys(マーキーズ)のリード・ボーカリストだったのです。 Mar-Keys は Stax Records の屋台骨を支えたセッション・マンである Steve Cropper、Donald ‘Duck’ Dunn、Don Nix らが所属したスーパー・グループ。 彼らの音は未聴なのですが、そこでリード・ボーカルをつとめていただけのことはあって、表現力はもちろんのこと、ほのかな色気も漂わせた深い味わいが堪能できる作品となっています。

  このアルバムは、Ronnie Stoots が Steve Cropper と共同で設立した TMI からリリースされたのですが、レーベル自体が長続きしなかったことと、Ronnie Stoots が早々に音楽からリタイアし、デザインの世界に転進したこともあって、これが彼の唯一のソロ・作品です。 アルバムには、Carole King、James Taylor、David Gates といった著名な SSW のカバーが収録されており、Ronnie Stootsのオリジナルは 1 曲もないことから、強引にソフトロックにカテゴライズしてしまましたが、そこはこのブログのカテゴリー設定の不備からくるものなので、気にしないで下さい。

  アルバムのハイライトは、ラテン界の大御所 Jose Fericiano が参加した「Ashes To Ashes」に尽きるでしょう。 この浮遊感あふれるメロウネスは、体の芯を抜き去ってしまうかのようです。 ちなみに、この曲は当時絶好調だったソングライター&プロデュース・チームの Lambert and Potter の曲で、オリジナルは Fifth Dimension のようです。
  続く出来なのが A 面では「Home Again」、「Bye Bye Darlin’」、B 面ではDavid Gates の「The Other Side Of Life」、「Girls With A Smile」、「Child Of Mine」、「The Closet I Ever Came」といったあたりです。 B 面は特にミディアムで余裕のある楽曲が続くので、どの曲も甲乙を付けがたいレベルに仕上がっています。 豪華なミュージシャンのサポートだけでなく、優れたアレンジやストリングスに支えられて、聴き応えは十分です。 個人的には、やはり馴染みのある「Child Of Mine」が頭一つ抜けているとは思いますが。

  このアルバムの不思議なところは、南部の匂いや泥臭さが全く感じられないところです。 骨太のリズムセクション、煌びやかなホーンセクションはここでは抑制され、極めて MOR に近いサウンド指向が徹底されています。 工事現場に座り込んでしまったジャケットは全く評価できませんが、そのサウンドとマッチしたRonnie Stoots のボーカルの魅力は、通常より薄めの塩化ビニールに閉じ込められているのです。
  先ほども書いたよう彼はデザイナーに転進したのですが、あの有名な Stax Records のロゴを作成したのが、なんとこの Ronnie Stoots なのだそうです。 



■Ronnie Stoots / Ashes To Ashes■

Side-1
Home Again
Sweet Dream Woman
My First Night Alone Without You
Ashes To Ashes
Bye Bye Darlin’

Side-2
The Other Side Of You
Girl With A Smile
Long Ago And Far Away
Child Of Mine
Everybody’s Loved By Someone
The Closet I Ever Came

Produced by Steve Cropper, Ron Capone, Glen Spreen
Arrangements : Glen Spreen, Dale Warren

Special thanks to the TMI staff of musicians ;
Steve Cropper : guitar
Paul Cannon : guitar
Tim Goodwin : guitar
David Mayo : guitar
Jimm Johnson : bass
J.A. Spell : keyboards
Richie Simpson : drums
Joel Williams : drums

Jose Fericiano appears on ‘Ashes To Ashes’

Background singers : David Mayo, Bob Lehnert, David Beaver, Pat Taylor, Nashville Edition on ‘Home Again’

TMI Records TMS-1002

The Newborn

2008-12-30 | Soft Rock
■The Newborn / The Newborn■
 
  2008 年は、The Who、Jackson Browne、Carole King など超がつくベテラン・アーティストのライブを見ました。 どのライブも素晴らしかったのですが、同時にチケットも高いこと…  それらのなかで、ベストは何かと言われたら悩みますが、やはり Carole King でしょう。 新鮮さと感慨深さでは 1990 年の初来日(NHK ホール)には遠く及びませんが、今回のオーチャード・ホールでのライブは温かみあふれる素晴らしいものでした。 職業作家としては The Beatles 以前から活動してきた彼女の 50 年近い歴史はまさに生きる伝説です。

  さて、今年最後のレコードは、そんな Carole King にまつわるアルバムです。 本人は直接関係していないのですが、この「The Newborn」のアルバムは、全 10 曲中 9 曲が Carole King のカバーなのです。 残る 1 曲も Barry Mann 等の「On Broadway」ですので、選曲の狙いが良く見えてきます。
  では、どのような内容かというと、ユニゾン主体の女性ハーモニーによるソフトロック調にアレンジされたカバー集なのです。 もっと上手い表現をしたいところですが、頭に浮かびません。 女性ボーカルは曲によって編成が変わっているようですが、トータルで 5 名くらいと想像します。 バックは、ピアノ&エレピ・ドラムス・ベースの 3 人と思われ、ギターやホーンは参加していません。 いずれも、メンバーの名前や構成すらクレジットされておらず詳しいことが全くわからないのが、このアルバムのもどかしいところです。 

  アルバムはどの曲も素晴らしいのですが、このアルバムを買った 10 年ほど前にはじめて聴いた「So Far Away」のインパクトが忘れられません。 そういうコンセプトなのかという驚きと、アルバムとの出会いに対する興奮が一気に交錯したのです。 次点は、「You Got A Friend」(アルバム表記では You’ve の’ve が抜けています)で、その次は「Up On The Roof」、「It’s Too Late」などです。 それ以外の曲も、アルバムの統一感を損なうことなく、洗練されたコーラスアレンジでカバーされており、あっという間に聴き終えてしまう 30 数分です。 今回、アルバムを 2 回聴きましたが、単なる Carole King カバーに終わらず、ひとつの世界観を追求している姿勢を強く感じることができました。 1977 年に人知れずマイナー・レーベルから発売された作品ですが、30 年以上過ぎた今でも、その音楽の鮮度は全く落ちていません。 もちろん、オリジナルの楽曲のクオリティに支えられているのは間違いないのですが、それだけでこの作品の輝きは生まれないでしょう。

  最後に補足的なコメントをふたつほど。 耳なじみのないタイトルの「Toy Balloon」とある曲は、アルバム「Writer」に収録されている「No Easy Way Down」です。 「Toy Balloon」という言葉は歌詞に登場するのですが、勝手に改名した意図は不明ですし、そもそも改名など認められないのではないかと思います。 もうひとつは「On Broadway」です。 この曲にだけ、コーラスに男声が参加しています。 よく聴かないと気づかないほどの自然な入り方は巧妙です。

  このアルバムの謎を解く数少いのヒントは、プロデューサーの Nino Caruso ですが、彼もまた謎の人物。 イタリア人の陶芸家に同姓同名の人物がいることを知りましたが、おそらく別人だと思われます。 色彩がにじみ出るようなジャケットを描いた Sonja Eisenberg は公式サイトもある画家で、現在も活動している様子です。 クレジットから解き明かすとすれば、彼女だけがこのアルバムの制作背景を知る唯一の手がかりとなっているのです。

  さて、今年もあと 1 日です。 あまりに急激な経済の悪化に、人々がついていけなくなるという年末になってしまいましたが、少しでも明るい兆しが見えてくるような来年になることを願いつつ、今年のブログを締めたいと思います。 よいお年をお過ごしください。



■The Newborn / The Newborn■

Side-1
So Far Away
It’s Too Late
You Got A Friend
Toy Balloon
On Broadway

Side-2
Up On The Roof
Smackwater Jack
Natural Woman
Where You Lead
Beautiful

Produced by Nino Caruso
Cover painting by Sonja Eisenberg
Album design : D.T. Graphic Associates

Tomorrow Records TVI-132

Tracey Balin

2008-09-28 | Soft Rock
■Tracey Balin / Standin’ On A Mountain Top■

  先日、北海道の旭岳に初冠雪というニュースが報道されましたが、今日は立山連峰の冠雪が確認されたようです。 たしかに今朝は冷え込みという言葉が似合うほどひんやりしました。 もう 9 月も終わり。 虫の鳴く声も静かになり、あっという間に秋本番へと近づいているようです。
  
  冠雪の話題から強引に持ってきたのが、Tracey Balin が 1978 年に発表した清涼感あふれるアルバム。 ジャケットからはコロラド産かと思いますが、意外にもテキサス州・ヒューストンのローカルレーベル、その名も Crazy Cajun からリリースされた作品です。 Crazy Cajun はカントリーやソウルのレコードを多く残している歴史の古いレーベルのようですが、有名なところでは、Ronnie Milsap が所属していました。

  Tracey Balin についての詳しい経歴はネットで調べても分かりませんでしたが、同じ Crazy Cajun から「Love Me Tonight」というアルバムを残しているほか、ABC/Dot からシングルを発表しているようです。 このレコードには参加ミュージシャンのクレジットもなく、Tracey Balin の姿も載っていないので、カントリー系の男性シンガーだと思い込んでいたところ、清楚な女性の声が飛び出したのには驚きました。 しかもサウンドはソフトロックに近いアレンジ、ビートルズのカバーが3曲もあるなどジャケットからは想像できない内容なのです。
  そのビートルズカバーについて触れておきましょう。 まずは「Good Day Sunshine」から。 この曲を選択するセンスも意外ですが、クールでスィング感のあるアレンジで上品にまとまっています。 「He’s Got A Ticket To Ride」はカーペンターズの事例もあるので、予想通りの展開。 弱冠ジャジーな展開ですが、パタパタとスネアの手数の多いドラムスが欠点な以外はそつなくまとめています。 終わり方の意外性は評価できます。 「Here Comes The Sun」は、数あるビートルズのなかでもカバー率の高い名曲。 アコギの似合う曲ですが、ここではピアノをメインにアップでリリカルに仕上げています。 コーラスに男声を入れるなど、センスのあるアレンジとなっており、この曲はアルバムの代表曲のひとつでしょう。  ビートルズではなくポールのソロ作品から「Maybe I’m Amazed」も収録されています。 この曲のカバーは特筆すべき出来にはなっていません。 選曲ミスと言えるでしょう。
 さて、他の曲でハイライトなのが「What Do You Get / Rose Garden」です。 この曲は Bacharach& David のスタンダード「I’ll Never Falling In Love Again」(邦題:恋よさようなら)の間に Lynn Anderson の「Rose Garden」を挟んだメドレー構成となっているのです。 にも関わらずジャケットには Davis / Backerack とクレジット。 よく見ると Backerack ってバカラックのこと? と唖然としてしまいました。
  アルバムのオープニングを飾る「Standin’ On A Mountain Top」と「How Can I Make You Know」は、Earl & Ernest Cate による曲。 この 2 人は、Cate Brothers 名義で今も現役で活動するミュージシャンです。

  このようにアルバムを聴いてきましたが、カントリー風味とソフトロックのアレンジが見事にブレンドした内容は高く評価できると思います。 2 曲ほど弱いなあという楽曲があるものの、通しても 30 分に満たない長さなので、そんな気持ちもすぐに忘れてしまいます。 まるで、秋の夕日のつるべおとしのようです。



■Tracey Balin / Standin’ On A Mountain Top■

Side-1
Standin’ On A Mountain Top
How Can I Make You Know
What Do You Get / Rose Garden
Good Day Sunshine
He’s Got A Ticket To Ride

Side-2
Here Comes The Sun
Maybe I’m Amazed
You’ve Lost That Lovin’ Feeling
Take Your Time

Produced by Huey P.Meaux
A&R by Uncle Mickey Moody
Distributed by Music Enterprises, Inc , Houston Texas

Crazy Cajun Records CCLP-1052

Sandalwood

2008-06-10 | Soft Rock
■Sandalwood / Sandalwood■

  今日は、名門 Bell からリリースされているにも関わらず、あまり取り上げられたことのない Sandalwood のアルバムをピックアップしました。 僕としては、このアルバムを Burton & Cunico のアルバムと比較したくなります。 ともに 1970 年代前半の男性デュオでハーモニーを活かしたサウンド作りをしているだけでなく、ジャケットの雰囲気がどことなく似ているからです。 山あいの峡谷の岩に腰をかける Sandalwood に対して、海を望む丘で背を向けるのが Burton & Cunico ということで、この 2 枚のアルバムを勝手に兄弟アルバムと位置付けており、レコードラックでも近いところに置くようにしています。 とはいえ、微妙にサウンドに違いがあるのも当然で、シンガーソングライター色が強いのが Burton & Cunico なのに対し、ソフトロック色が強く甘めなのがこの Sandalwood です。
  
  その Sandlwood は、Byron Walls と Brian Tabach によるデュオ。 残したアルバムはこの 1 枚だけで、おそらくレコードのためだけに結成されたパーマネントなグループです。 2 人のなかで主導権を握ったのが、Byron Walls で彼はこのアルバム以外にもさまざまな音楽活動が記録されています。 一方の Brian Tabach に関しては、このアルバム以外の情報はありません。 参加ミュージシャンや歌詞などのクレジットはどこにも無く、このアルバムを深く知るためのヒントはほとんど見つからないのが現状です。

  Sandalwood のサウンドの特徴はフルートやストリングスを活かしたアレンジと穏やかなメロディーです。 そのほとんどは Byron Walls のペンによるもの。 特に甘い曲をピックしてみましょう。 アルバムのオープニングを飾る「A Very Fine Lady」はメロウでソフトな仕上がり。 まるで柔軟剤を入れて洗濯したタオルのような肌触りは、エレピ・フルート・ストリングスといった優しい音色に包まれています。 つづく「The World Is Mine」も甘い調べ。 2 人のユニゾンしたハーモニーが微妙に震えるので、余計に染み込んできます。 シングルカットされた「Lovin’ Naturally」はハープシコードと口笛が効果的に使われたメロウな楽曲。 ビルボードチャートに 12 週間ランクインしたとのことですが、最高位は何位だったのでしょうか。 ラストの「Consider It Done」は、次のアルバムを期待させるような明るく前向きな楽曲です。  Byron Walls の曲は、このようにミディアムで安定したものが多いのですが、2 曲ほどジャズの影響の強い異色のものがあります。 ジャジーなフォービート「The World Is A Tuxedo」はまだ許容できるのですが、5 拍子の「Off My Mind」はかなり違和感が残ります。 この曲は Paul Desmond の名曲「テイク・ファイヴ」からの影響をまともに受けているのが誰にでもわかります。 5 拍子ということで似てしまうのは仕方ないですが、わずか2分のこの曲をインタリュード的に挿入しなければならない必然性は見えてきません。 
   相棒の Brian Tabach は 2 曲しか書いていませんが、悪い出来ではありません。 「Certain People At Certain Times」 は大らかで陽気な曲調で、新緑のなかを散歩しているかのような気分です。 「Put Me On You」もミディアムでフレンドリーなサウンドとなっており、単なる脇役ではない存在感を示しています。
  しかし、Sandalwood の活動は短期間で終了。 Byron Walls は The Limelighters の再結成コンサートに参加した後に 1970 年代後半には Warner Brothers のスタッフ・ライターを務めたりしています。  その後、十数年をどのように生活していたのかは分かりませんが、彼は今もなお現役のようで、ロス・アンジェルスを中心に小さなホールでライブ活動を行っているようです。  2000 年にリリースしたアルバムはジャズボーカルのアルバムでした。  彼はもともとジャズ指向が強かったのでしょう。  そのルーツは Sandalwood にもわずか 2 曲ですが、残されていたことになりますね。



■Sandalwood / Sandalwood■

Side-1
A Very Fine Lady
The World Is Mine
Having Each Other Around
Congratulations You Lose
Put Me On You
Lovin’ Naturally

Side-2
Mary Lee
Off My Mind
Certain People At Certain Times
The World Is A Tuxedo
Consider It Done

Produced by Snuff Garrett
Arranged by Al Capps

Bell Records 1134

Wings

2007-07-23 | Soft Rock
■Wings / Wings■

  Wings といっても、Paul McCartney の Wings ではないことは一目瞭然。 こちらの Wings のほうが、Paul のよりも古いために元祖といってもいいのですが、知名度が全く劣るために、Dunhill Wings とでも呼びましょうか。 こちらの、Wings は名門 Dunhill から 1968 年にリリースされました。 Dunhill といえば、「Let’s Love For Today」の The Grass Roots 、「The Eve Of Destruction」のBarry McGuire 、そして、Mamas & Papas などで有名な ABC 傘下のレーベル。 レコードコレクターのなかでは、ダンヒル系という用語で語られる一派ですね。 そんなダンヒル系のなかでは、こじんまりと納まっている感じのWings ですが、アルバムは、ヴァラエティに富んでいて、CD 化されてもおかしくない内容になっています。

  無伴奏のコーラスではっとさせるイントロの「See Someone Hangin’」でアルバムは幕を開けます。  意識的にラフでルーズな感覚を出そうとしてるのですが、やはりお行儀の良さを消すことの出来ないカントリーという印象です。 続く、「That’s Not Real」は典型的なソフトロックのワルツ。 このジャンルでワルツというとThe City の「Snow Queen」が代表格かと思いますが、かなりそれに通じる出来です。 「General Bringdown」は、マージービートに近い感覚を感じるサウンド。 えぐいギターソロも入ったりして、カッコイイです。 フォークを意識したボーカルとソフトなアレンジの組み合わせが面白い 「First Time Is The Last」をはさんで、A面ラストの「What Do I Know」へ。 ちょっと地味なミディアムですね。

 B 面に移ります。 トップの「Pretty Little Girl」は、サイケな雰囲気とほんわかした感じがドノバン風です。 (といっても、ドノバンを聴き込んでいるわけではありませんが…) つづく「Takin’ It Easy」は、リラックスした牧歌的な曲調。 昼寝でもしてしまいそうです。 「Shrinking Violet」は、ボードヴィル調のピアノに Pam Robins という女性のリードボーカルが重なるファニーな曲。 ソフトロックのど真ん中という感じの「Different Kind Of Woman」のメロウな感じから一転して、アップな「Changes (Keep Coming About)」は始まります。 この曲は、シングル向きのキャッチーな曲で 2 分 22 秒という短さのなかに、変拍子・口笛・複雑なコーラスなどの要素が盛り込まれているレベルの高い作品です。 ラストの「Give Me Your Love」は、彼らにしてはハードな作風で、ギターソロが中途半端に余韻を残して、曲が終わってしまう感じです。

 このアルバムについては、メンバー・クレジットが無いためにいろいろネットで探してみたところ、ソフトロックの Spanky and Our Gang の主要メンバーであった、Oz Bach が 1967 年に結成したグループだということが分かりました。 Spanky and Our Gang に関する詳細なページに、Oz Bach のコーナーがあり、そこに Wings のコーナーもありました。 このアルバムに関する詳細なクレジットも見ることができますので、時間のあるかたは訪れてみてください。

 しかし、僕の持っているレコードには歌詞カードらしきものもなく、詳細なクレジットを知ることができなかったのですが、インターネットは便利ですね。 中古レコードには、ジャケットと盤以外の付属物が完備されているとは限りません。 そんなときに、Wings Dunhill で検索したら発見することができたこの情報。  どう活かすかは自分次第ですが、Oz Back が Spanky とWings の間に、Tarantula というグループを結成し、やはり 1 枚で解散していることを初めて知りました。 いつも同じ角度と表情で写真に写る Oz Bach は、飽きっぽい性格なのでしょうか。 かなりの変わり者のようですね。



■Wings / Wings■

Side-1
See Someone Hangin’
That’s Not Real
General Bringdown
First Time Is The Last
What Do I Know

Side-2
Pretty Little Girl
Takin’ It Easy
Shrinking Violet
Different Kind Of Woman
Changes (Keep Coming About)
Give Me Your Love

Produced by Steve Barri
Strings arranged and conducted by Jimmie Haskell

Dunhill Records DS-50046

The Random Sample

2007-06-12 | Soft Rock
■The Random Sample / The Random Sample■

 The Random Sample は、アメリカのカトリック系の大学に通う仲間たちで結成されたフォークロック・グループ。 ほとんど語られたことのないアルバムですが、大学生がまだ純粋で希望に満ち溢れていた時代の産物として、妙に新鮮に響いてくる音楽です。 ジャンルを CCM とするか、ソフトロックにするか迷ったのですが、内容を重視してソフトロックとしました。 クレジットは無いのですが、1970 年代の初期の作品と思われます。

 このアルバムには多くのカバーが収録されていますが、最も有名な曲は Bob Dylan の「I Shall Be Released」です。 ソフトロック調でアップなアレンジに、女性コーラスやフルート、そしてホーンセクションが彩りを添える内容は、The Band などの対極にある世界。 ジャケットの表や裏、インナーに写る笑顔のメンバーを見ながら聞くと、タイムスリップしてしまいそうです。 
 次に知られている曲は、Simon & Garfunkel の「Flowers Never Bend With The Rainfall」でしょう。 この曲は「雨に負けぬ花」という邦題がつくられた隠れた人気曲。 ベスト盤などには収録されませんが、名盤「Parsley Sage Rosemary and Thyme」の後半に収録されています。 ここでのアレンジは、男性と女性ボーカルによるユニゾン風のもので、清涼感あふれるものです。

 アルバムにはクリスチャン系のカバーも多く、女性メンバーのみで歌われる「I Wish We’d All Been Ready」は、Larry Norman によるこのジャンルのスタンダードで Cliff Richard や Spanky & Our Gang も取り上げている曲のようです。 Andre Crouch による「Heaven」はグループの実質的なリーダーである Dave Hopkins がリードをとりながらも全員のコーラスが快活なアップナンバーとなっています。
  他にもカバーが多いのですが、残念ながら詳しいことはわかりませんでした。 アルバムは B面のほうがスムースな曲順でしっくりと感じられます。 Johnny Rivers の「Something Strange」は、アルバム中では最もメロウでしっとりしたバラード。 つづく、前述の「Flowers Never Bend With The Rainfall」、「Nobody Cared」、「He Died On The Cross」と流れていくさまは、木漏れ日フォークにも通じる爽やかさです。 小鳥のさえずりのようなフルートが効果的に使われていることが、そういった印象につながるのでしょう。 どことなく、アソシエイションにも通じるのですが、女性コーラスが入るところが決定的に違いますね。

  このアルバムの見開きジャケットの内側には大きく「What is Campus Life?」と書かれています。 さすがにこれには気恥ずかしさを覚えましたが、よく読むとここで使われている「Campus Life」とは単に学生生活を指しているものではないようです。  Campus Life とは、Youth of Christ という国際的な組織の部門であるようなことが書かれていました。 詳しいことは分かりませんが、いろんな宗教組織がアメリカの大学には根を下ろしており、大げさにいうとそのひとつの宗派なのでしょう。

 その話題はここまでにしましょう。 The Random Sample の音楽にはレビューしてきたようにフォークロック・ソフトロックといっても派手さは全くなく、クラブ DJ が好むようなグルーブ感のある曲もありません。 ここにあるのは深い信仰と謙虚な生き方を貫こうとする若者たちの純粋な気持ちです。 そんな歌声を聴いて、自分の心が洗われたかどうかは分かりません。 ただ、アメリカでも日本でも 10 代の若者が、やがてこのような大学生活を送るという可能性はほとんどないでしょうし、このように無垢な音楽を生み出す土壌や環境はもはや存在しないだろうな、などと余計なことを考えてしまいました。



■The Random Sample / The Random Sample■

Side-1
Till The Whole World Knows
Love To Be Love
I Shall Be Released
Born Again (from ‘life’)
I Wish We’d All Been Ready

Side-2
Heaven
Something Strange
Flowers Never Bend With The Rainfall
Nobody Cared
He Died On The Cross

Produced by Jesse Peterson
Arranged and Conducted by Jimmy Owens
Recorded by Westminster Sinfonia Orchestra , London

The Random Sample are
Ted Limpic , Jann Reynolds , Thom Fuller , Linda Handley , Garry Limpic and Dave Hopkins

Tempo TL 7014

Jimmie Haskell

2007-05-27 | Soft Rock
■Jimmie Haskell / California ‘99■

 自分にとって、ストリングス・アレンジの名手といえば、アメリカは Nick DeCaro 、イギリスでは Paul Buckmaster になります。 そのくらいこの 2人の存在感は際立っていました。 もちろん、手法や個性は全く異なりますが、この 2人がクレジットに名を連ねていれば、そのレコードの購入確率は一気に上昇したものです。
 そんな Nick DeCaro にも劣らない名手といえば、この Jimmie Haskell でしょう。 彼が参加したアルバムは、おそらく Nick DeCaro の倍ちかくではないかと思います。

 さて、そんな裏方の Jimmie Haskell が自身のアルバムを残していたのが、今日とりあげるこの作品。 1999 年のカリフォルニアを想像した架空のコンセプトアルバムとでも言える異色のアルバムです。 1971 年に ABC/Dunhill からリリースされました。

 アルバムはこれから始まる物語の幕開けを感じさせるタイトル通りの序曲「Overture」でスタート。 電子的にコラージュしたナレーションが聞こえたら「Appopopoulishberg」です。 その前衛的な感覚はドイツの Faustみたいですが、曲は中盤からはアコーディオンなどや弦楽器を主体としたポルカ調のダンスミュージックへと変容していきます。 そしてまたナレーションということで、このアルバムは各曲の間に必ずナレーションがあって、これが物語を進めてくうえでの必要な情報が語られるという構成であることがわかります。 3 曲目は The Band の名曲のカバー「The Night They Drove Old Dixie Down」です。 Jimmy Witherspoon のリードボーカルに、Clydie King などの重厚な女性コーラスが重なってくるアレンジですが、なかなか風格のある出来に仕上がっています。 続いては The Millennium の名曲「To Claudia on Thursday」。 Mamas & Papas の Denny Doherty がボーカルをとるこの曲もオリジナルに忠実なアレンジとなっています。 それはともかく、1971 年に The Band と The Millennium の代表曲のカバーが並んで収録されているという珍事がこのアルバムでは実際に起こっており、ここが前半の最大の聴き所であることは間違いありません。

 初めて B面を聴いたときのショックは今でも忘れられません。 何しろ、The Millennium のアルバムの冒頭を飾るあの「Prelude」がほぼ忠実に再現されているのです。 何かの間違いかと思うほど、あのハープシコードの音色やまったりしたリズムセクションの感じなど The Millenniumとそっくりに聴こえます。 それは、もしかしてサンプリングなのかと思うほどです。
 つづく「Jessica Stone」と「California Fairy Tale」は、なんと Joe Walsh がボーカルをとっています。  やや甲高いネコ声が特徴の Joe Walsh を起用した理由は不明ですが、彼だけが 2曲歌わせてもらっていることになりますね。 アルバムは、例によってナレーションに挟まれながら個々の曲が微妙に終末感を匂わせながら進んでいきます。 そしてラストは、The Who の Tommy に収録されていた「Underture」のカバーです。 Jimmie Haskell と The Who の接点は意外ではありますが、彼が Tommy のようなコンセプト・アルバムに興味を抱いていたことは想像できますね。

 Jimmie Haskell の描いた 1999 年のカリフォルニアはどんな世界だったのでしょうか。 見開きでレコード 6枚分にも広がる特殊ジャケットには、年表らしきものが書かれています。 1997 年には、Washington D.C がカリフォルニアの「Black Capital」となり、カリフォルニア州にある San Clemente がカリフォルニアの「New White Capital」となるという記載を見ると、差別表現ではないかと心配になってしまいます。 
 いずれにしても、聴き取れないナレーションや理解できなかったストーリーの謎がもう少しで解明されるかもしれません。 というのも、この珍盤が、ついに世界初 CD 化されることになっているのです。 これはかなりの快挙ですね。 しかも、この 6枚分に広がるジャケットも再現しているということですので、かなりの力の入れようです。 個人的には、音楽の説明よりもストーリーの解説を期待したいのですが難しいかなあ。

 

■Jimmie Haskell / California ‘99■

Side-1
Overture
Appopopoulishberg
The Night They Drove Old Dixie Down  (J.R. Robertson)
To Claudia on Thursday (Joey Stec & Michael Fennelly)

Side-2
Prelude (D Rhodes & R.Edgar)
Jessica Stone  (Bill Szymczyk & John Wondering)
California Fairy Tale (Jimmie Haskell , Bill Szymczyk & Joe Walsh)
Barbara
Underture (Peter Townshend)

Conducted by Arranged by and One-half of all songs by Jimmie Haskell
Produced and Engineered by Bill Szymczyk at the Record Plant

Guest Singer in order of Appearance
Jimmy Witherspoon , Joe Walsh , Denny Doherty , Bid Wanda and the Wombats , Merry Clayton , Clydie King

Keyboards : Larry Knechtel , Paul Harris , Lincoln Mayorga
Guitar : Louie Shelton , Neil Le Vang , Howard Roberts , Al Vescovo , Luis Sevadjia , Mike deasy , Dennis Budimir
Bass ; Lyle Ritz , Bryan Garofalo
Percussion ; Jim Keltner , Earl Palmer , Russ Kunkel , Bill Szymczyk , Emil Richards Gene Estes
Vocals : Carol Lombard , Sally Stevens , Susie McCune , Jerry Whitman , Tom Kenny , Mitch Gordon , gene Morford , Andra Willis , Venetta Fields , Maxine Willard , Merry Clayton , Clydie King

ABC / Dunhill ABCX 728

The Group

2006-06-10 | Soft Rock
■The Group featuring Vangie Carmichael / The Warm & Groovy Sound■

 正式なタイトルで表記すると、「The Warm & Groovy Sound by The Group featuring Vangie Carmichael」となるこの作品。 そのおしゃれなセンスから、この作品が 1960 年代に発表されたとはとても思えません。 今から 40 年近く前に、featuring という表記が堂々と使用されているのには驚きますね。 ジャケットのセンスも抜群です。
 このグループは、正式名称は「The Group」としたほうがいいと思いますので、ブログタイトルのほうは、単に「The Group」だけにしておきました。 これだけでは、正体不明ですよね。 でも「The Band」もいるわけですしね。 あ、関係ないか。
 で、どうして「The Group」だけにしたかというと、全曲に渡って Vangie Carmichael が featuring されているわけではないからなのです。 半分くらいの曲が男性ボーカル、残りの半分くらいが女性もしくは混声ということで、この「The Group」は固定したメンバーがいたものではなく、アレンジャーの Clark Gassman 主導によるプロジェクト的な集まりだったようです。

A面は Jimmy Webb 作曲の「The Worst That Could Happen」から始まります。 この曲は「Brooklyn Bridge」のバージョンが有名なようですが、僕は「Fifth Dimension」バージョンしか聴いたことがありません。 ゆったりしたメロウ・バラードなのですが、ここでは男性コーラスのリードに女性コーラスがかぶってくるアレンジで、「Association」に近いサウンドとなっています。 つづくは Joni Mitchell の「Both Side Now」。 邦題「青春の光と影」としても有名なこの曲、女性ボーカルがリードをとる予想通りの展開ですが、後半の展開とコーラスワークには脱帽。 素晴らしいカバーとなっています。 女性ボーカルによる「If You Don’t Love Me」もソフトロックのエッセンスがつまりまくった名曲。 男性ボーカルによるアップな「For Once In My Life」はハーモニカ・ソロなどが入り、ソフトロック色は薄めです。 つづく「If’s A Mighty Big Word」は、これぞソフトロックの王道というべきスローナンバー。 メインは男性ボーカルですが、中盤から女性コーラスやビブラフォンが薄く彩りを添えてきます。 このビブラフォンは、おそらく名手 Victor Feldman によるものでしょう。 A 面ラストの「Son Of Preacher Man」は、女性ボーカルがメインですが、アップな曲調とホーンセクションのせいでブラスロック的なサウンドとなっています。
 B面に入ると、このアルバムのハイライトともいえる「Hey Jude」で幕を開けます。 アルバムにも「contains the hit single」とステッカーが貼られているとおり、この曲が押し曲だったのでしょう。 おそらく、シングルカットでもされていたのでしょう。 さて、この超名曲のカバーですが、この声がきっと Vangie Carmichael だと思われる女性のリードに見事なアレンジが施されて、まさにため息の出るような完成度となっています。 つづく、「I Met Her In Church」は、Dan Penn と Spooner Oldham による共作。 初めて聴きましたが、ハンドクラッピングや「ハレルヤ」の繰り返しなど、男性ボーカルによるゴスペル調の曲です。 Alex Chilton が在籍した「The Box Tops」というグループがオリジナルのようです。 「Love Child」は、テンション高めの女性ボーカルの曲。 おおげさなイントロから一転しメロウに流れる「Falling In Love」、Fifth Dimensionに近いサウンドの「Shake Loose」でドラムスを叩いているのは、Hal Braine かも知れません。 ラストの「Don’t Mention My Name」は、やや憂いを帯びたミディアム・ナンバー。 大げさなティンパニの音色がほどよい余韻を残してくれます。

 さて、そんな感じでアルバムを振り返ってみましたが、このアルバムはソフトロックとしての完成度が高い名盤ですね。 是非とも CD 化してほしいものです。 できれば、このジャケットのデザインや字体などを忠実に再現した紙ジャケで。
 最後にこのアルバムの鍵を握る重要人物、Clark Gassman について調べてみました。彼は、Lee Hazelwood や Nancy Sinatra などのプロデューサーとして活躍し、その後はクリスチャン音楽(CCM)の世界に入っていったようです。 彼のアレンジ才能は、かなりのものだと思いますので、もっと知名度があがってもよさそうなものなのですが、本人がスピリチャルな方向に行ってしまったために、ポピュラー作品を多く残さないままになってしまいました。 もし、見知らぬレコードに、Clark Gassman のクレジットを見つけたら、要注意ですね。



■The Group featuring Vangie Carmichael / The Warm & Groovy Sound■

Side-1
The Worst That Could Happen
Both Side Now
If You Don’t Love Me
For Once In My Life
If’s A Mighty Big Word
Son Of Preacher Man

Side-2
Hey Jude
I Met Her In Church
Love Child
Falling In Love
Shake Loose
Don’t Mention My Name

Produced by Joseph Walter for Pomegrante
Arranged and Conducted by Clark Gassman

We Wish To Express Our Deepest Appreciation To The Following :

Clark Gassman
Victor Feldman
John Guerin
Hal Braine
Sid Sharp
Vangie Carmichael
以下省略

Pete Records S1108


Jon Tabakin

2006-05-31 | Soft Rock
■Jon Tabakin / Jon Tabakin■

 ‘A good melody is like a good friend.’

 今日は、裏ジャケットのクレジットにこっそりとこんなメッセージをしのばせた Jon Tabakin のアルバムを紹介したいと思います。 このメッセージを読むと、大学生の頃の自分の失言を思い出します。 その頃、大学のゼミ仲間では音楽の嗜好のあう同期が多く集まっていて、そんななか僕はシラフで「つまんない女の子とデートしているよりは、いいアルバムを何枚か聴いているほうがいいな」みたいな趣旨の発言をしました。 それが小さい輪のなかで反響を呼び、「女性よりレコードに価値を見出す男」みたいにからかわれたのです。 そんなにひどいことを言ったつもりでもなかったのですけど、言い方が悪かったのかな、と今でも思ったりします。

 さて、それはさておき、この Jon Tabakin のレコードは、今までほとんど紹介されたことがないレア盤だと思います。 特に最近ではアメリカの中古市場で 100 枚しかプレスされていないという情報が流れてしまったせいで、e-bay などでも三桁ドルが相場になってしまっているようです。 プレス枚数が非常に少ない自主制作盤であることは間違いないと思いますが、100 枚というのはウソだと思いますね。 僕は、このレコードを 20 ドルくらいで買いましたし、5 年頃前には神保町の某レコード店で 3,000 円前後で売られているのを目撃しています。

 このアルバムを初めて手にしたとき、この顔とメガネからして、Randy Newman風、もしくは Randy Edelman 風な SSW に違いないと思ったものです。 ところが、1 曲目でそんな予想は撃沈。 まったく予期しなかったソフトロックなアルバムだったのです。 
 1 曲目 「It’s Never Too Late To Smile」で SSW 風の予想はキレイに裏切られます。 イントロも無く一気に始まるボーカルに猫だましを喰らい、その曲の良さに一気に押し切られてしまいました。 この左右のチャンネルで絶妙に異なるボーカルテイクを重ね合わせ、ビーチボーイズ風のコーラスを味つけしてしまう展開にはゾクゾクします。 曲のタイトルで何かあるなとは直感するものの、アルバムの幕開けにふさわしい素晴らしい仕上がりです。 つづく、「Your Eyes」は、軽いボサノバ・タッチのイントロで始まる憂いを帯びたミディアム・ナンバー。 左右のユニゾン風ボーカル録音はここでも聴かれます。 この曲は 1 曲目と違いボーカルの勢いに流されないサウンドなので、バックの音が良く聴こえます。 そして、Jon Tabakin が多彩な楽器を操るミュージシャンではあるものの、凄腕でもないということが判明します。 気恥ずかしいほどのテンションの高さで始まる「I’ve Got Bad News」は、パワーポップに近いサウンド。 一転、ソフトバラードの「Where Are The Angels」では、予定調和な展開とは分かっていてもその甘い展開にハマッてしまいます。 サビの重なるエンディングではフェードアウトがちょっと早すぎて惜しいですね。 これもサビで始まる「The Day Were Long , The Nights Were Sweet」は、スローなブギ調(昔、そんな曲ありましたね)の曲。 途中でアップな曲調に展開しますが、また戻ってきます。 A 面ラストの「Home Is Us Together」は、軽いサーフ調の曲。 すでにおなかいっぱいになって A 面が終了します。

 B 面では、ニルソン風のミディアム「It’s The Little Things」で始まり、派手なシンバルの連打がテンションの高さを象徴するような「I’m Gonna Love You」と続きます。 ボーカルパートで押し通すタイプの曲「Let’s Do It Again」では途中で数秒間、聴くことができるギターソロのたどたどしさが印象に残ります。 この 3 曲は、A 面の個性豊かな曲に比べては地味に聴こえてしまいます。 それはメロディと展開において、ちょっとアイディア不足なのが要因でしょう。 ガットギターの静かなイントロで始まる「I Never Realized」は、一聴では平坦なバラードに聴こえてしまいますが、ラストの落としのサビの部分の味わいが決め手。 ここは何度も聴かないと良さが伝わらないように意図されているかのようです。 続く、「I’m Takin’ My Time」は子供向け娯楽番組のテーマのようなノリに聴こえてしまいますが、次第に落ち着きを取り戻します。 後半で聴けるチープなオルガン・ソロが聴き所でしょう。 そして、ラストの「You Mean Much More To Me」は、Jon Tabakin 得意のイントロなし即歌スタイルのミディアム・ナンバー。 途中曲調がハードにソフトにと切り替わってアイディア豊かな楽曲です。 そして、I Love You というメッセージともにフェードアウトしたかと思うと、またフェードイン。 そんな子供だましなのですが、僕は久しぶりに聴いたのですっかり忘れており、やられてしまいました。 

 そんな内容のこのアルバムですが、自主制作レベルではクオリティの高い名盤だろうと思います。 どんな形容が相応しいかをあれこれ考えたのですが、とてもマイナーな比喩で言うならば、Mark Eric と Robert Lester Folsom を足して 2 で割ったようなサウンドではないかと思います。 こんな例えでは伝わらないと思うのですが、他に形容するフレーズが思いつきません。

 Jon Tabakin は、10 代の頃からカリフォルニア大学の学生時代にかけて、ピアノ・ギター・ベース・オルガン・ボーカルそして作曲を学んできたとジャケットに書かれています。 おそらく独学でしょう。 そして 1975 年、自身のレーベルだと思われる Larrow Records から満を持して世に送り出されたのがこの作品。 彼のファーストにして唯一のアルバムなのです。 Jon Tabakin についてインターネットで検索してみましたが、このアルバム以降の足取りは一切つかめませんでした。 何となく勝手にお金持ちなのではないかと想像しているので、西海岸で会社経営でもしていそうなのですが。



■Jon Tabakin / Jon Tabakin■

Side-1
It’s Never Too Late To Smile
Your Eyes
I’ve Got Bad News
Where Are The Angels
The Day Were Long , The Nights Were Sweet
Home Is Us Together

Side-2
It’s The Little Things
I’m Gonna Love You
Let’s Do It Again
I Never Realized
I’m Takin’ My Time
You Mean Much More To Me

Music and Lyrics by Jon Tabakin

Many Thanks for the help of
Bruce McCoy : drums
Tari Tanbakin : photos
Bill Taylor : album design
Hank , Roger and Randy , at United Audio
A very special thanks to Geroge Garabedian

Larrow Records LR 100

The Guys And Dolls

2006-04-09 | Soft Rock
■The Guys And Dolls / By Request■

 グループ名、ジャケット・デザイン、そして人物の服装。 どこを取っても全くイケてないアルバムをご紹介します。 この The Guys And Dolls が1970年代初頭に自主レーベルから発表した全曲カバーのアルバム「By Request」です。
 この The Guys And Dolls というのは、1955年 に「野郎どもと女たち」という映画があったそうですが、その映画と同じタイトルです。 映画を観たことが無いので今日紹介しているグループに影響があるかどうか判断できません。 

 まず語るべきは、このジャケット。 なんでこんなスタイルで砲台の周りで撮影する必然性があったのでしょうか? きっと、祝砲か何かを撃つ砲台だとは思いますが、センスの無さにはあきれてしまいます。 Larsen 姉妹もあんまり美人でもないし。 
 さて、そんなアルバムに恐々針を落としてみると、これが意外とソフトロックな仕上がりとなっており、100 円くらいで売ってしまうにはもったいないものなのです。
 「I Feel A Song Comin’ On Medley」は、1曲目にしてアルバム最大の聴きどころ。 軽快なシンバルのイントロからまるで Roger Nichols でも始まるかのような錯覚に陥ります。 この曲は、ともに有名な曲「Sound Of Music」と「Sing」との3曲のメドレーなのですが、そのつなぎのセンスや男女が入れ替わるコーラスの微妙なさじ加減など、かなりの傑作です。 この曲はソフトロックファンにも十分に評価されるでしょう。 「Happy」は男性ボーカルのバラード、「Tie A Yellow Ribbon ‘Round The Old Oak Tree」は、「幸せの黄色いリボン」ですが、これは「Happy」とは違う男性のリードボーカルです。 名曲「Killing Me Softly With His Song」は、リズムのアレンジがちょっと Fifth Dimension 風な感じでアップテンポな仕上がりになっています。
 B面に移ると、10曲もの曲をつなげたメドレー「Old Fashioned Medley」で始まります。 このメドレーを締めくくるのが、 Three Dog Night のヒットで有名なPaul Williams 作曲の「Just An Old Fashioned Love Song」です。 続く、「Boogie Woogie Bugle Boy Of Company ‘B’」は、ジャス風のアレンジがまさに Manhattan Transfer のよう。 ゴスペルタッチの「Delta Dawn」、Billy Prestonの1972年のNo.1ヒットソング「Will It Go ‘Round In Circles?」でアルバムは締めくくられます。 
 アルバム全体では、男性がリードを取る曲が4曲あるのですが、すべて別人に聴こえます。 ということは、Guys 4人の全員が機会均等にボーカルをとったのでしょう。 いっぽう Larsen 姉妹のほうは、ソロも悪くないのですが、A-1や、B-2のようなアレンジのなかに良さが出てくるタイプのように感じます。

 さきほど、The Guys And Dolls で検索してみたところ、日本の Amazon でも「The Singles」と題されたベスト CD が検索されてきました。 そこには、男女2名ずつの4 人のジャケット写真が写っています。 おそらく1970年の中盤から後半にかけての頃のようなのですが、この4 人は今日ご紹介している The Guys And Dolls と同じグループなのでしょうか? それは何とも言えません。 同じだと思える理由は、6 人組から男2 人が脱退して4 人組になったということ普通にありえること。 また、「The Singles」には、24 曲のうち、「Killing Me Softly With His Song」が収録されていること、などです。
 しかし、その一方で違うグループなのではないかと思える理由もあります。 それは、「The Singles」のほうはグループ名が Guys ‘n Dolls となっていることと、4人の顔がちょっと似ていないように感じることなどです。 できれば、違うグループであって欲しいと思うのですが、それは僕の希望的観測なのでしょうか? 
 そんな謎めいた The Guys And Dolls。 レコードには制作年度も書かれていませんが、収録曲から推測するに、1972 年から1973 年くらいに制作されたものだと思います。 このダサい感じが何とも言えない愛着を抱かせてくれて、手放せないですね。 名門ワーナーブラザーズのお膝元、カリフォルニアのバーバンクから届けられたアルバムとはとても思えません。


 
■The Guys And Dolls / By Request■

Side-1
I Feel A Song Comin’ On Medley
Happy
Tie A Yellow Ribbon ‘Round The Old Oak Tree
Solamente Una Vez
Killing Me Softly With His Song

Side-2
Old Fashioned Medley
Boogie Woogie Bugle Boy Of Company ‘B’
Behind Closed Doors
Delta Dawn
Seasons In The Sun
Will It Go ‘Round In Circles?

All Selections Arranged by The Guys And Dolls

Valerie Larsen : Leader , Guitar , Vocalist
Rhonda Larsen : Soprano Vocalist
John Stanewich : Tenor Vocalist
Mike Wilson : Keyboards , Trumpet , Vocals
Tony Esperance : Bass , Piano , Organ , Trombone , Vocals
Mike Younce : Drums , Vocals

Produced by Donnie Brooks , Tom Oliver
Engineered by Tom Oliver
Recorded at A.D. Recorders , Burbank , California

Special Thanks to
Henry Sanchez : Lead Guitar
Al Macias : Tenor Saxophone
Danny Guerrero : Piano
Bob Senescue : Trumpet

GD Records GDLP-1001