Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Downpour

2007-11-29 | SSW
■Downpour / Flyaway■

 「土砂降り」というバンド名にしてはタイトルが Fly Away。 ジャケットは満月に向かって羽ばたく渡り鳥のようなイラストということで、およそ名盤とはほど遠いたたずまいを見せるこのアルバムは、そんな予想を見事に裏切る名盤。 Philo 傘下の Fretless からリリースされているのですが、このジャケットのせいもあって埋もれつつあるのが惜しいアルバムです。
  裏ジャケットには腕利きのような 4 人のメンバーが写っているものの、リードボーカルやコーラスといった表示が一切無いために、インストゥルメンタル・グループと誤解されてもおかしくありません。 そんな不親切なクレジットやインパクト先行型のジャケットとは裏腹に、このバンドの生み出すサウンドは、メロウにして繊細、クールながらも温もりのあるもので、同年代のメジャーなアルバムと肩を並べても遜色の無い内容です。
 
  アルバムは全 11 曲ですが、Bob Recupero が 6 曲、George Erwin が 4 曲、そして Charlie Rice が 1 曲を書いており、共作やカバーはありません。 作曲者別にコメントしてみることにします。

  まずは George Erwinの曲から。 彼はタイトル曲「Fly Away」を書き、ジャケットでも左上に位置していることからこのバンドのリーダーだと思われます。 そのタイトル曲「Fly Away」はアカペラ風コーラスから始まるナンバー。 ちょっとジャズ風なリズムアレンジに繰り返しサビが歌われるキャッチーな曲ではありますが、他の優れた楽曲に比べると見劣りする気がします。 このようにポップさを意識した曲がもうひとつあって、それが「Can You Hear Me」です。 この曲は、ボーカルがユニゾンで歌われるところがグループサウンズのような味わい。 メロディーだけとると、1970 年代初期の The Moody Blues を思い出させます。 アルバムのなかではやや異色とも言えるでしょう。  そんな彼の楽曲のなかで優れているのは「The Rain , The Sun And Me」と「Sister」です。  B 面のオープニングを飾る前者は、CSN&Y 張りのコーラスが美しいミディアム。  曲の半ばから徐々にクールに展開するところが聴きどころ。 個々のメンバーのさりげない演奏力も見逃せません。 「Sister」はギターの弾き語りからスムースに展開してくバラード。 この曲もハーモニーが見事でこの手のサウンドが好きな人にはたまらないでしょう。 

  Charlie Rice が唯一書き下ろした「After Hours Lady」は、フロリダとかハワイにいるようなリゾート風の陽気なナンバー。 スティールドラムが入ってくれば言うことなしというアレンジです。

 さて、最後に Bob Recupero の曲です。 まずピックアップしたのが、アルバムのオープニングを飾る「Come Along With You」です。 この曲は「メロウ・グルーヴかくあるべし」という楽曲で センスのある演奏とボーカル&コーラスが見事に溶け合った名曲です。 このようなサウンドは、演奏やコーラスなどサウンドを構成する要素が微妙にかみ合わずに、惜しい結果となることが多いのですが、この曲のバランス感は非の打ち所のない最高のものです。 他にもミディアムでコーラスの引き立った楽曲「You’re Leavin’」も素晴らしく、脇を固めるアコギやピアノのソロなども表情豊かでセンス抜群です。 ライトなテイストの「Long Run」 は誰ひとりとして自己主張しないコーラスに続いてアコギのギターソロに入るあたりのセンスがたまりません。 そして、アルバムラストの「So Good To See You」は、うすくアコギとバイオリンが聴こえる以外は、メンバー全員と思われるコーラスが主体となったバラード。 アルバムのラストらしい歌詞とサウンドにうっとりするうちに、見事なストリングスで見事なエンディングとなります。 このアルバムを締めくくるにふさわしい終わり方です。 このように Bob Recupero はこのアルバムの核となる楽曲を書いていることを再確認しました。  例外的に遊び心が入っているのは「Mostly You」と「Join Me For Dinner」です。 ともに 4 ビートのジャズなのですが、リードやコーラスのほうもリズム感を失わずにカッコよく決めています。

  このように Downpour のアルバムを紹介してきましたが、このアルバムが彼らの唯一の作品となってしまったようです。 ネットで検索しても、このアルバムについて多くを語っているサイトは見当たりませんでした。  残念ながら個々のメンバーのソロ活動も確認できず、このアルバムからたどり着く金脈はどうやら無さそうです。  いったい彼らはいまどこで何をしているのでしょうか。   きっと、それぞれの人生を着実に歩んでいることでしょう。 彼らの人生もおそらくは終盤に差し掛かっているはずです。 しかし、Downpour のコーラスワークは 30 年近く経った今でも色あせることなくレコード盤に刻み込まれているのです。



■Downpour / Flyaway■

Side-1
Come Along With You
After Hours Lady
Mostly You
You’re Leavin’
Fly Away

Side-2
The Rain , The Sun And Me
Join Me For Dinner
Can You Hear Me
Sister
Long Run
So Good To See You

Produced by Downpour , Michael Couture and Lane Gibson
Arranged by Downpour and Lane Gibson

Recorded At Earth Audio Techniques in North Ferrisburg , Vermont , May through August 1978

Downpour is
George Erwin : bass guitar
Tim Rice : drums
Charlie Rice : rhythm guitar
Bob Recupero : lead guitar

Lane Gibson : keyboards
John Cassel : piano on ’Mostly You’
Tom Fraioli : violin on ‘Sister’ and ‘So Good To See You’

Fretless FR137

Bliffert

2007-11-24 | SSW
■Bliffert / You’ll Like Bliffert■

 チープな手作り風ジャケットがなんとも情けない Bliffert のアルバム。 このイラストとも言えないような絵は、このグループのリーダー Fred Bliffert が 1961 年 9 月 24 日に書いたもの。 この 1961 年に Fred Bliffert が何歳だったのか非常に興味がありますが、調べてもよく分かりませんでした。

 この Bliffert に関しては、ジャケットやレーベル面には制作年代や地域がわかる情報は一切ありません。 そこでネットで調べてみたところ、少しずつですが、このアルバムや Fred Bliffert に関する情報が分かってきました。

 Fred Bliffert は、Freddy and the Fleeloaders という名義で 1960 年代から活動していたローカルバンドのようで、地元はミルウォーキー州でした。 1974 年には Los Angeles Songwriters Showcase (LASS) でパフォーマンスした記録も残っています。

  アルバムは冒頭の「Kansas City」を除いて、すべて Fred Bliffert の作曲です。 「Kansas City」は、著名なソングライター・チームのリーバー&ストローラーの曲。 The Beatles がカバーしていることで有名な曲です。  つづく「C.Y.O.」 このバンドの本質をよく表す軽快なロックンロール。 「God Bless The Innocents」はひっそりしたハーモニーがメインのインタリュード的な作品。 あまりにさりげないので最も印象に残らない楽曲です。 その地味さはつづく「Lullaby」にも通じます。 この曲は、アルバム随一のバラードですが、あまりに短いので拍子抜けしてしまいました。 どんどん陰気になってきたアルバムは次の曲で一転。 「Come On Down To Bud And Stella’s Hawaiian Pizza Parlor」は、陽気なパーティー・チューン。  友達全員集合という感じのハーモニーを聴いていると自然に体が動いてくるような、そんなハッピーソングです。

 B 面に入るとアルバムの個々の楽曲のクオリティが一気に高まると同時に、バラエティあふれる展開を迎えます。 「Makin’ Music With My Friends」は、Fred Bliffert ではなくグループの女性がリードボーカルをとる楽曲。 楽しそうに友達と集まっている裏ジャケットの雰囲気をそのまま音楽にしたというサウンドです。  「It Looks Like It’s All Over」は、珍しく構成のしっかりしたミディアム・ナンバー。 失恋の歌なのでしょうか、後半にかけて盛り上がりを見せる名曲です。  つづく「If I Had Wings」もパーカッシブなアップ・ナンバー。 途中でクロスフェードしてフォーキーな展開を見せるなど、アイディア豊かなナンバー。
  「When I Was Loved」は、一転してしっとりした弾き語り。 ソフトロックとフォークロックが交錯するサウンドで、この曲もかなりお薦めです。 ラストの「Love Is All Around Us」はいきなり雰囲気がメロウになり、サウンドは Gamble & Huff が手がけたかのようなソウルとなります。 この展開は意外なのですが、曲の出来が最高なので違和感はすぐに吹っ飛んでしまいます。

 こんなチープなジャケットに、このような内容の濃いサウンドが封じ込められているから、レコードは聴いてみないとわからないものです。 このアルバムは 1970 年前後の作品だと思いますが、自主制作盤にしては珍しいポップさと親しみやすさを持っていて、かなり良質な作品と言えます。    

 さて、Fred Bliffert が残したレコードはこれだけなのでしょうか。 そう思って探してみたところ、近年の自主制作 CD と思われる作品のジャケットを発見しました。 その写真を見て、やはりそうだったかと思ったのが、彼の風貌です。 この写真をみて、裏ジャケットの最前列の真ん中に座っているメガネ男が、Fred Bliffert だということが判明したのです。 予想通りでしたけど。



■Bliffert / You’ll Like Bliffert■

Side-1
Kansas City
C.Y.O.
God Bless The Innocents
Lullaby
Come On Down To Bud And Stella’s Hawaiian Pizza Parlor

Side-2
Makin’ Music With My Friends
It Looks Like It’s All Over
If I Had Wings
When I Was Loved
Love Is All Around Us

All Songs Written by Fred Bliffert
Except ‘Kansas City’ by Leiber & Stroller

O Records No.1

Billy Charne

2007-11-19 | SSW
■Billy Charne / Billy Charne■

 紅葉の小道をギター片手に歩く Billy Charne のソロ・アルバム。 1972 年にBuddah Records 傘下の Sussex Records からリリースされたものです。 ジャケットの風景は、紅葉というよりは落葉寸前という状態で、葉の少なくなった森の小道には日差しが豊かに降り注いでいます。 街路樹の葉が落ちて、道が明るく感じたりする季節が近づいてきました。

 さて、今日の主人公 Billy Charne は本名 William Chernoff といいます。 本人の両親もしくは祖父母が欧州系の移民だったのかもしれません。 Billy Charne はこのデビューアルバムの前に 4 枚のシングルをリリースしており、なかでもセカンド・シングル「Susie’s Better Half」は、カナダでトップ 5 に入るヒットを記録しています。 残念ながらこのアルバムには「Susie’s Better Half」をはじめ、初期のシングル曲が収録されていませんが、おそらくレーベルが違うなどの契約的な問題があったのではないでしょうか。 

 アルバムは郷愁あふれるスロウの「I’m Going To Heaven」 で幕開け。 つづく「You Must Not Do That Anymore」は 『♪あんなマネしちゃだめだよ♪』というサビが繰り返す曲。 いったい『あんなマネ』って何だったのでしょう。 「To-Ma-Ray Tom-O-Ray」は 4 枚目のシングルとなった曲。 「止まれ止まれ」という邦題を勝手に命名したポルカっぽいナンバー。 つづく「Louisiana Woman」は、旅情感のあるしみじみしたナンバー。 スワンプテイストもあったりして個人的なお気に入り曲の一つです。  A 面は無骨な手触りのワルツ「The Dog Song」でハーフタイム。

 B 面は A 面以上に濃い内容です。 Jerry Cole のボトルネックが印象的な「Fresno Rodeo」で始まりますが、この曲もノスタルジックな味わい。 後半にかけての展開もカッコよく、このアルバムのハイライトと言えるでしょう。  つづく「Ida Red」は、キャッチーでシンプルな楽曲。 「Like A Human Drum」や「Sparrow」など Billy Charne の持ち味である渋みと演奏陣がしっくりまとまった曲が並びます。 そしてラストの「The Poet Lives On In A Song」もクオリティの高い仕上がり。 コード進行が同じということで、間奏部分で賛美歌『諸人こぞりて(Joy To The World)』のメロディーが聴こえてきます。 このアルバムの季節感をうまく表したエンディングとなっており、アルバムの印象をより強めていると思います。

 そんな Billy Charne ですが、現在も Billy Chernoff として活動しています。 公式サイトによると、2004 年の「Magical Mystery Man」に続いて、最新アルバム「A Better Way」を今月にリリースしたばかりのようでした。

 昨日の東京は「木枯らし一号」だったようです。 そろそろコートを出さなくてはいけませんね。 それにしても日が暮れるのがあまりにも早くて切なくなってしまう今日この頃です。



■Billy Charne / Billy Charne■

Side-1
I’m Going To Heaven
You Must Not Do That Anymore
To-Ma-Ray Tom-O-Ray
Louisiana Woman
The Dog Song

Side-2
Fresno Rodeo
Ida Red
Like A Human Drum
Sparrow
The Poet Lives On In A Song

Producer : Sam Goldstein and Carl Walden

Billy Charne : acoustic guitar
Carl Walden : acoustic guitar , electric guitar , steel guitar , dobro , harmonica
Jerry Cole : bass , bottleneck guitar , acoustic guitar , electric guitar
Paul Suter : bass
Sam Goldstein : drums and percussion

String , brass and vocal arrangement by Paul Suter

Sussex Records SXBS 7022

Clay Smith

2007-11-18 | SSW
■Clay Smith / Decoupage■

 ようやく都会でも紅葉が目立ち始めました。 そんな夜に左利きの SSW、Clay Smith の頼りなげでぎこちないアルバムを取り出しました。 Clay Smith のキャリアについてはよく分からないものの、1977 年という時代もあって、マイルドでメロウな雰囲気が全体を覆う作品となっています。 朴訥として不安定な感じのボーカルが彼の特徴でもあり、弱点ともなっているアルバムです。
 楽曲の半分は Clay Smith 自身によるものですが、それ以外はカバー。 なかには意外な選曲もあったりしますが、その代表が「My Girl」です。 初めて聴いたときは同名異曲かと思いますが、テンプテーションズの代表曲の「あの」「My Girl」なのです。 Clay Smith のマイルドなボーカルと、アダルトなアレンジで無難にこなしている印象ですが、このアルバムに必須な選曲だとは正直思えません。
 ところが、このアルバムにはもう 1 曲、テンプテーションズのカバー「The Girl’s Alright With Me」が収録されているのです。 よほど Clay Smith が好きなのでしょう。 世代的には幼少の頃のアイドルだったのかもしれません。 こちらは、誰が聴いてもモータウンと分かるようなリズム・アレンジが再現されています。 
  ここまで書いてみて、このアルバムのコンセプトはどうなっているのかと不安になりますが、他のカバー曲にも触れておきます。  「Memories Of You And I」は、やや田舎臭さの残る曲。 Lee Clayton のカバーです。  「Rainbow Love」は、Arthur Smith の楽曲。 彼のことはよくわかりませんが、1950 年代に活躍したギタリストに Arthur Smith という人物がいるので彼の作曲かもしれません。

 では、Clay Smith 本人の書いた曲からピックアップしてみましょう。
 オープニングを飾る「Decoupage」はアルバムのハイライト。 この曲を試聴したら、迷わずに買ってしまう AOR ファンもいそうです。 穏やかで控えめな Clay Smith の良さはこういう楽曲でしか出てこないことに気づくのはアルバムを聴き終わってからなのです。  B 面 1 曲目の「This Party’s Over」は、夕暮れのそよ風感のあるライトタッチな佳作。 「Follow The River」は、アルバムのなかでもサビがはっきりした楽曲でシングルカットもされたようです。 ラストの「Jo-Anne」は憂いのあるバラード。 個人的には「Decoupage」とこの曲があれば十分かなと思ってしまいます。 このようにプレ AOR 的なサウンドのほうが彼は似合っているのですが、仮にその路線に転向して次作を出したとしても成功したかは難しいかもしれません。 

 このアルバムを聴いて不思議なのは、選曲/アレンジ/メロディ/ボーカル等どこをとっても中途半端なところです。 何かひとつ強烈な個性があって、それが全体を引っ張っていくというサウンドでは全くないのですが、逆に致命的な弱点は何かと考えると難しいのです。 強いていうなれば、その弱点は Clay Smith 自身の性格に内包されているように思います。 「優しいだけでは生きていけない…」そんな言葉がお似合いのアルバムなのです。
 最後に Monument Records に関して少し。 このレーベルは Fred Foster が創設した歴史の長いレーベルですが、ネットで調べたところどうやらこの Clay Smith のアルバムはレーベルとして晩年にあたる時期の作品でした。 そんな状況を想像しながらレコードに耳を傾けるのも悪くありませんね。



■Clay Smith / Decoupage■

Side-1
Decoupage
Memories Of You And I
My Girl
Where I’m Around
Rainbow Love

Side-2
This Party’s Over
The Girl’s Alright With Me
Follow The River
It’s Ending
Jo-Anne

Producer : Fred Foster

Bass : Tommy Cogbill
Guitars : Reggie Young , Jim Calvard , John Christopher
Drums : Gene Chrisman
Keyboards : Bobby Wood , Bobby Emmons , Randy Goodrum
Steel Guitar : Weldon Mylick
Harmonica : Charles McCoy
Percussion : Farrell Morris
Tenor And Baritone Sax : Norman Ray

Monument record MC 6646

Pine Island

2007-11-13 | Folk
■Pine Island / No Curb Service Anymore■

 前回に続いて Green Mountain Records のレコードを取り上げます。 グループ名の Pine Island は直訳で「松島」ですが、裏ジャケに湖に浮かんでいる小島の写真が載っています。 これがまさに松島なのです。 アメリカ人も日本人も同じ感性なのですね。

 そんな Pine Island は 5 人編成のグループ。 メンバーはフィドルやバンジョー、ドブロなどを担当しており、典型的なブルーグラス編成となっています。 クレジットを見ると、各々がそれなりの演奏キャリアを持っていることから、バーモント州のスーパーバンド的に編成されたのかもしれません。 曲もほぼ均等に書かれており、民主的な雰囲気を感じます。 アルバムを主役別にレビューして見ることにしましょう。

 ボーカルを務めることが多いのは、Susan Longaker と Dan Manoney ですが、まずは紅一点の Susan Longaker のボーカル曲からピックアップしましょう。 彼女はギターとボーカルということもありリードやハーモニーで活躍しています。 「Blue Night」ではしっとりと大人っぽい歌声を披露、ハイな気分のアップチューン「I’ll Stay Around」ではリズム感抜群です。 派手な演奏陣に負けていませんね。 「Walkin’ Shoes」も高速のブルーグラス。 フィドルとバンジョーの技巧には脱帽です。  ミディアムな「When My Blue Moon Turns To Gold Again」でも Dan Mahoney との見事なハーモニーを聴かせてくれます。
 その Dan Mahoney はドブロ、ギターそしてボーカルを担当。 彼の陽気で表現力の豊なボーカルはアルバムの魅力を広げています。 アップテンポの「Stay All Night」は、 Gordon のバンジョーが心地よく、Dan のリードと掛け合います。 James McGinniss 作の「Gin And Moxie」や、「Lovesick Blues」でも柔和なボーカルを披露しています。 Pine Island の男性陣のなかでは最も歌が上手いですね。

 つづいて取り上げるのは、フィドルとボーカルを担当する David Gusakov 。 彼はコーラスがメインのようで、リードボーカルを務めているのは「Rough And Rowdy Ways」だけです。   渋めの声でくたくたな感じのヨーデルを決めて最高です。 しかし、フィドルのテクニシャンぶりは素晴らしく、アルバム冒頭の「Katy Hill」のフィドル・ソロをはじめ、スイングする陽気なインスト楽曲の引き立て役を演じています。 そんな華麗なテクニックは「Bootleg Express」、「President Garfield’s Hornpipe」そして「Pine Island Breakdown」といったインスト・ナンバーで遺憾なく発揮されています。  そのテクはバンジョーの名手 Gordon Stone にも当てはまります。  彼のプレイは前述のインストや「Walkin’ Shoes」で炸裂します。 そもそもヘタなバンジョー弾きにレコードでお目にかかったことは無いですけど。 彼のハイライトは自身の作曲による「Django’s Banjo」でしょう。 Django とは勿論あのジャズ・ギターの巨匠 Django Reinhart のこと彼への敬意が込められた曲のようです。 腕に自身が無いと付けられない曲名ですよね。 そんな Gordon が唯一ボーカルをとる「Mind You Own Business」では、ヘタウマなボーカルを披露しています。

 そして寡黙そうなベーシスト James McGinniss は自身の作曲による「By Your Side」で心優しいボーカルを披露している以外は、演奏のほうに専念といったところのようです。 しかし、全員にリードボーカルを取らせていることは冒頭にも書きましたが、このグループの成り立ちにも大きく関係しているように思います。

 Pine Island はこの後 1977 年にFretless Records から「Live Inside」というライブ盤をリリースしてるようです。 バーモント州の Chelsea House Folklore Center でレコーディングされたこのレコードは未聴ですが、きっとバンジョーとフィドルの超絶バトルが繰り広げられていることでしょう。 その白熱した演奏を想像するだけでドキドキしてしまう......そんな卓越したパフォーマンスが魅力のグループです。



■Pine Island / No Curb Service Anymore■

Side-1
Katy Hill
Stay All Night
Blue Night
Gin And Moxie
Django’s Banjo
By Your Side
I’ll Stay Around
No Curb Service Anymore

Side-2
Walkin’ Shoes
Mind Your Own Business
Bootleg Express
Lovesick Blues
President Garfield’s Hornpipe
Rough And Rowdy Ways
When My Blue Moon Turns To Gold Again
Pine Island Breakdown

Produced by Dick Longfellow and Pine Island

David Gusakov : fiddle , vocals
Susan Longaker : guitar , vocals
Dan Mahoney : dobro , guitar , vocals
James McGinniss : bass , vocals
Gordon Stone : banjo , guitar , dobro , vocals

Green Mountain Records GMS-1052

Dick McCormack

2007-11-11 | SSW
■Dick McCormack / Voices In The Hill■

 アメリカ、バーモント州のローカル・レーベル Green Mountain Records のアルバムを久しぶりに取り上げました。 このレーベルとの出会いは、以前取り上げた Jon Gailmor の「Passing Through」という名盤です。 このアルバムがきっかけとなって、このレーベルは常に意識するようになりました。
 
 Dick McCormack の唯一と思われるアルバムは 1976 年ころの作品です。 レーベルカラーやアルバム・タイトルからも想像できるように、のどかで温かみのあるフォークとなっています。 暖炉で暖まったログハウスでコーヒーでも飲みながら聴いてみたい、そんなウッディーな味わいも兼ね備えています。 それは、ベースやドラムスの音がほとんどしないことも影響していると思います。 そんなこのアルバムは2曲を除いては、Dick McCormack のオリジナル。 さっそく聴いてみることにしましょう。

 タイトル曲の「Voices In The Hills」は素朴なコーラスから次第に音に厚みが出てくる楽曲。 さりげない弾き語りの「Stone Walls」につづく「Rare One And Fair Ones」はペダルスティールも入るカントリー色の濃いサウンドですが、派手さは全くなく、メロディーとボーカルの持つ素朴な温かみが心を打ちます。 「As The River Thaws Each Spring」は 6 分を超えるアルバム随一の大作です。 20 世紀末に起こった殺人事件のことを題材にした楽曲のようで、メロディーも起伏のない繰り返しとなっています。

 B 面に移ります。「Woke Me In The Morning」は、Dick McCormack が身近にいるミュージシャンのなかで最高の人と評している William Wright のペンによる楽曲。 この曲に限ったことではありませんが、ディズニーランドのウェスタンランドでかかっていそうな曲です。 「Fill One Room」もスローなバラードですが、時折入るフィドルやリコーダーが田舎風情を演出しています。 つづく「Geese」は音数の極めて少ない弾き語り。 「Nancy」は唯一ピアノをバックにしたバラード。 若くして亡くなった女性のことを歌にしたようで、それだけに物悲しく切ない楽曲に仕上がっています。 スティールやギターのソロも抑制されていて見事。 アルバムのハイライトとなる楽曲ですね。 この曲でアルバムが幕を閉じてしまったら涙が乾かないまま映画館を出てしまうよう気分になると思ったのか、ラストはお馴染みのトラッド「Red River Valley」が控えています。 Doug ,Fats , Katheryn , Wright , Lizi によるコーラスはまさに手作り感あふれるもの。 手編みのマフラーを巻いたかのような幸せな気分に浸ることができます。 ちょっとノスタルジック過ぎかな、と思ってしまうほどです。 

 アメリカのニューイングランドから届けられるレコードには、このアルバムのように豊かな自然とそこに生きる人々の姿が目に浮かんでくることが多いように思います。 それは、そうした素朴な音楽がこの土地で愛され、育まれているからなのでしょう。

 バーモント州はいまごろ紅葉の盛りでしょうか。 それともすでに冬支度が始まっているのでしょうか。



■Dick McCormack / Voices In The Hill■

Side-1
Voices In The Hills
Stone Walls
Rare One And Fair Ones
As The River Thaws Each Spring

Side-2
Woke Me In The Morning
Fill One Room
Geese
Nancy
Red River Valley

All Songs , words and music by Dic McCormack
Except ‘Woke Me In The Morning’by William Wright and ‘Red River Valley’ traditional

Produced by Richard Longfellow and Dick McCormack for Green Mountain Studios , Northfield , Vermont

Hudson Valley Fats : harmonica on ‘Red River Valley’ , bass on ‘Voices In The Hills’ , cymbals on ‘Stonewalls’
Rusty Fender : bass
Al Ferguson : banjo
Flash Hopkins : harmonica on ‘Woke Me In The Mornings’
Wally Killian : drums
Bob McCormack : recorder
Dick McCormack : vocals , acoustic guitar , slide guitar
O. Leo Roy : electric guitar
Robert Stephens : piano
Doug Steward : conga
Dave Tortolano : pedal steel
William Wright :fiddle , dulcimer , mandolin , voices on ‘Red River Valley’

Green Mountain Records GMS-1055

Gnawbone

2007-11-08 | Folk
■Gnawbone / Gnawbone■

 「グナボーン」と読むのでしょうか、それとも「ノウボーン」?
いすれにしてもこの言葉の意味がわかりません。 ネットで調べたところ、インディアナ州のローカル・コミュニティーの名称のようにも思えたのですが、詳しいことはわかりませんでした。 何かしらの宗教や思想などに関連しているようにも思えますが、それ以上の探索はしていません。

 いずれにしても、今日取り上げた「Gnawbone」はインディアナ州のローカルタウンで結成されたフォーク・グループです。 唯一と思われるこのアルバムがリリースされたのは 1980 年。 サウンドはダルシマーとアコースティックギターを中心とした素朴なもので、紅一点 Mara Kubat のボーカルが入る曲は英国的なトラッド感が増してきます。 アルバムを通して伝わってくるのは音楽と真摯に向き合う青年たちの姿勢です。 それゆえに、サウンドの温もりの背後には、ピンと張り詰めたような緊張感が見え隠れしてきます。

 アルバムに収録されている約半数の曲が Mara Kubat のリード・ボーカル。 ここでは彼女の表情豊な世界が堪能できます。 そのうち、「Pretty Polly / Bedlam Boys」、「Come Give Me Your Hand」と「Fare Thee Well」がトラディショナル。 これらのなかでお勧めは「Come Give Me Your Hand」で、この曲は Fred Meyer と サポートメンバーとしてクレジットされている Doug Berch のツイン・ダルシマーを従えたミディアム。 Mara Kubat のボーカルが他の曲以上に映えているように思います。 トラッド以外ではグループ名でもある「Gnawbone」、「Female Drummer」、「Fare Thee Well」などがメンバーの作曲によるものです。 グループ名と同じ「Grawbone」はメンバー 3 人による合作。 澄み切ったボーカルはイギリスの June Tabor を連想させます。

 Mara Kubat 以外のボーカル・ナンバーは 1 曲あり、それは「If Louise Still Sang Her Sunday Song」です。  この曲はゲスト扱いながらメンバー写真にも写りこんでいる Doug Berch の作曲・ボーカルの曲。 ダルシマーの弾き語りですが、曲のタイトルがお気に入りです。 このような曲がありながらも彼を正式なメンバーとしてクレジットしていない理由は謎ですね。

 他の曲はすべてインストの小曲で、ボーカル曲に挟み込むように編成されています。 なかでもギタリストの Jon Vetrees が作曲した「Rutherford College」と「Damon」は彼の美しいギターソロとなっています。  他にもインスト曲には充実した楽曲が多いのですが、その一つがトラディショナルの「Lark In The Morning」です。 これは Doug Berch のダルシマーをメインとした楽曲。 彼の空を舞うようなリコーダーとのアンサンブルが最大の聴きどころで、アルバムの最良のシーンとなっていると思います。 この曲と比肩するのが、Fred Meyers による「For Sheila」。 こちらも、ダルシマーとギターをバックに、木々の間を自由に飛び交う小鳥のようなイメージのリコーダーが舞う佳作に仕上がっています。 

 このようにアルバムはメンバーの個性が自作の楽曲で発揮されながらも、グループとしてのバランスが絶妙に保持されているように思います。 それは個々のメンバーの人生経験や人格にも依存しているものかもしれません。 いずれにしても、1980 年に世俗の音楽とはかけ離れた純粋な音楽が作られていたことに驚きを感じざるを得ないのです。

 余談ですが、 アルバムのプロデュースを行い、バンドのリーダーと思われる Fred Meyer は、同じ Midwest Coast Records から「Rockin’ Chair」というソロアルバムをリリースしています。




■Gnawbone / Gnawbone■

Side-1
Pretty Polly / Bedlam Boys
Pine Mountain Jig
Silkie
Rutherford College
If Louise Still Sang Her Sunday Song
Gnawbone

Side-2
Freeman Shuffle
Lark In The Morning
Female Drummer
Come Give Me Your Hand
Damon
For Sheila
Fare Thee Well

Produced by Fred Meyer
Recorded at Homegrown Studios , Bloomington , Indiana

Gnawbone is
Mara Kubat : vocals
Jon Vertrees : guitars
Fred Meyer : dulcimer , slide dulcimer , bones

Also:
Doug Berch : dulcimer , banjo , pennywhistle , recorder , vocals
Dave Welch : snare drum
Kris Meyer : jaw harp

Midwest Coast Records MC-001

Elliott And Walter

2007-11-05 | SSW
■Elliott And Walter / Save A Piece Of The World■

 未知のレコードに出会う楽しみは、いつになっても変わりません。 そこにどんな音楽があるのかはもちろんですが、サウンドやジャケットの情報から、そのレコードに関わった人々や暮らしまで想像してしまいます。
 今日取り上げたこのレコードもそんな 1 枚。 NASA の本拠地でもあるテキサス州ヒューストンのローカル・レーベルから 1975 年に発売された Elliott And Walter のアルバムです。 南極方面から映した地球の写真。 何故モノクロなのでしょうか。 これはデザイン的な理由からジャケット印刷のコストによる理由まで、いろいろな可能性が考えられますね。 その前にどうして地球なのか、そもそもこのアルバムのコンセプトは何なのか…などいろんな疑問が頭を駆け巡ります。 しかし、結局のところ、その疑問に対する明確な回答があるわけもなく、それは自分の妄想のなかで勝手な解釈をみつけるしかないのです。

 Elliott And Walter は、Jerrel Elliott と Clark Walter によるユニット。 バックメンバーも含めて、標準的な 6 人編成のロックバンドとみなしても良さそうです。 全ての曲は Jerrel Elliott が書いていることもあり、彼がサウンドの中核を担っていることは間違いなさそうです。

  アルバムはサウンド・コラージュを使用した遊び心で始まり、次第にソウルフルに流れていく「Baby , Baby , Baby」でスタート。 単に♪baby baby ♪と繰り返すコーラスをモチーフにラフなアドリブや拍手などのエフェクトでフェードアウトするという実験的なナンバーです。 何かのデモ音源にしか聴こえないこんな曲でリスナーを猫だましするセンスには一本取られた気持ちになります。 つづく「All I See」からが、真の Elliott And Walter ワールド。 この曲は初期のSteely Dan にも似た渋い味わいのミディアムなのですが、アメリカらしくない陰影を感じる独特の楽曲となっており、このアルバムを代表する曲ともいえます。 一転してギターの弾き語りによるシンプルなバラード「For The First Time」をはさんで、「Lately I’ve Laid My Troubles Down」は陽気なピアノ系ロックナンバー。 この曲は 1971 年作との表記があります。 「I Know How You Feel」はまた低めの渋いボーカル・ナンバー。 こうして聴くと、リードボーカルが入れ替わっていることが徐々に明らかになってきます。 Elliott と Walter のどちらがこの低音なのかはわかりませんが、Glenn Campbell が歌ってもおかしくない雄大なバラードです。 この曲もハイライト。 「Raggedy Ann」は、牧歌的なワルツ。 リコーダーの響きも聴こえ可愛らしく仕上がっています。

 B 面は、サビが印象的な「Teaser」でスタート。 この曲も Steely Dan に通じるマジックを感じます。 シングルが存在したとしたら、この曲に違いありません。 「Too Late」はピュアなラブソングということがメロディやアレンジから伝わってくる佳作。 この 2 曲は高い方のボーカル担当でしたが、「Save A Piece Of The World Part 1」はまた低い方へ。 この曲はロック色がほとんどなく、「男性ボーカル」というジャンルです。 曲調がアップに変化したところから「Save A Piece Of The World Part 2」の始まり。 この曲もどちらかというと僕には苦手なタイプということで、アルバムタイトル曲への期待は見事に裏切られました。 アルバムを締めくくる「Something’s Going Down」は、シンセサイザーのスペーシーなイントロが長く、徐々にアコースティックギターがフェードインしてくる様は、王道のプログレのようです。 しかし、本編や淡々としたワルツでシンセによるフレーズの繰り返しも引っ張りすぎというほど長いので引き締まった印象とは真逆な感じを受けます。

 このようにアルバムはボーカルによって楽曲のイメージが大きく異なり、楽曲も半数くらいが平凡な出来といって差し支えのないものです。 逆にいい面を指摘すると、どんな曲が飛び出すかわからないような「おもちゃ箱的」な側面でしょう。 サウンドは聴く人や時代によって受け止め方がまるで違ったものになるものです。 ですから、僕はアルバムの中身よりも、Google にも検索されない彼ら自身の招待の謎へと関心が移ってしまったのです。 Elliott And Walter の二人が目指した夢はどんな方向だったのか…。 それをサポートしたスタッフの思いは…。 そして、このレコードを手にしたヒューストンの人々の反応は…。
  そんなことを考えて、にんまりしてしまう自分もそろそろやばいかなあ。




■Elliott And Walter / Save A Piece Of The World■

Side-1
Baby , Baby , Baby
All I See
For The First Time
Lately I’ve Laid My Troubles Down
I Know How You Feel
Raggedy Ann

Side-2
Teaser
Too Late
Save A Piece Of The World Part 1
Save A Piece Of The World Part 2
Something’s Going Down

All Voices : Jerrel Elliott and Clark Walter
Piano : Gerald Bennett
Bass : Joe Medina
Drums : Steve Keller
Guitar , Synthesizer , Recorder : Jerrel Elliott

All songs composed by Jerrel Elliott

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