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小川洋子「妊娠カレンダー」

2010年09月20日 | あ行の作家
「妊娠カレンダー」
赤ちゃんの誕生を待つ優しい母親と父親のほのぼのとした物語であろう
と思っていましたが全く違うものでした

両親を亡くし、軽い精神の病を持つ姉と二人暮らしだった妹
姉が結婚し、義兄を含めた三人の暮らしが始まる
妹に言わせれば『つまらない男』の義兄
やがて姉は妊娠
悪阻が酷く一切の食べ物を受け付けない
台所や洗面所、浴室から発せられる匂いにも耐えられないという
悪阻が治まったら突然訪れた猛烈な食欲
どんどん太る姉を客観的に観察する妹
姉は、嵐の夜に、枇杷のシャーベットが食べたい、と言ってみたり
妹が一生懸命作ったグレープフルーツのジャムを出来上がる端から鍋から直接食べてしまったり
周囲のことなどお構いなし、我儘放題ですがトラブルが起きることはなく姉に素直に従う義兄と妹


アメリカ産のグレープフルーツには発がん性のある農薬が使われているという
わざとアメリカ産のグレープフルーツを買ってきて、心の中で姉の胎内の赤ん坊の染色体が破壊されることを想像しながらジャムを作り、ジャムをむしゃむしゃ食べる姉を見つめる妹
怖いです
姉夫婦の間で、子供の将来や親になる喜びなどについての会話は一切無いのですが
姉も妹も義兄も生まれてくる子供を憎んでいるわけではないのです
ただ『子供』というものを新しい生命として受入れる用意が出来ていない、というより受入れる必要性を全く感じていないのです

他人事、テレビの向こうの出来事、みたいな感じ
あ、なんとなく理解出来るな、と思いました

姉の出産の日
妹は、おそらく健康に生まれたであろう子供に会いに産婦人科医院を訪れます
子供は三人の大人に囲まれてどんな人間に成長していくのでしょう



「ドミトリィ」
大学生になりひとり暮らしを始める従兄弟に昔自分が暮らしていた学生寮を紹介する
しかし、今ではすっかり寂れてしまい、寮の先生が独り住んでいるだけだった
寮の先生は両手とを片足がありません
それでも身の回りのことは何不自由なく出来るのですが長い間不自然な姿勢をとってきた為心臓に負担がかかっており最近はベッドで休んでいることが多いのです
苦しそうな息で、ある日突然寮から姿を消した数学科の男子学生について先生が語る件は、小川さんらしく、上手に理系の思考パターンを取り入れており、ミステリーっぽい独特の世界が広がっていきます


「夕暮れの給食室と雨のプール」
新しく引っ越した街で偶然出会った父親と子供
親子は学校の機械化された給食室を外から眺めるのが好きなのです


文庫版のためのあとがきに書かれているような少しゾッとする内容の3編でした

この作品集の題材は、目に見えているようで、実は見えていない場所がどこかに隠れていないかと家の中をウロウロして見つけたものであるのだけれど、スーパーで買ってきた新鮮な玉ねぎは何の書かれる要素も含んでいない、その玉ねぎが床下収納庫で腐って人知れず猫の死骸になってゆくところに初めて小説の真実が存在してくる





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2 コメント

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こにさん☆ (latifa)
2010-09-23 08:15:33
こんにちは。
これ、私も以前読んだことがあります。
妊娠中なのになんだか他人事、、って解る気がしました。
伊坂作品はもちろん、こにさんは沢山の作家さんの本をお読みになられていらっしゃるんですねー。今後の参考にさせて頂きますね^^

PS 松本に2年間お住まいだったとのこと。
いいな~ ずっと行ってみたいと思っている街です。
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latifaさん (こに)
2010-09-23 12:28:35
こんにちは

誰かがお勧めしていると読みたくなる
困った乱読さんなのです

小川さんは「博士の愛した数式」で話題沸騰で、かえって避けていたのですが、読まず嫌いだけだったみたいでした
今ではお気に入りの作家さんのひとりです

松本の2年
あっという間でしたが、とても充実していて、今でも当時の友達とのお付き合いが続いています
観光地なので暮らしやすいとは言えませんけど好い街です^^
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