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奥泉光「石の来歴・浪漫的な行軍の記録」

2010年07月24日 | あ行の作家
「石の来歴」
1993年
芥川賞受賞作品

最近の奥泉作品に比べると
かなり読みやすい、内容も掴みやすいものになっています

復員後
真名瀬が岩石蒐集に打ち込むに至った最初のきっかけは
太平洋戦争末期、レイテで上等兵から聞かされた石の話

河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている



結婚し
長男・次男が生まれるのだが
父親の影響を強く受け、父親と共に石の蒐集に熱意を持つ長男は石を探しに行った洞穴で変質者に殺される
息子を死に追いやったのは真名瀬だ、と夫を非難し続け、狂気に向かう妻
妻と離婚した後、親戚に育てられた次男は、学生運動にのめり込んだ結果、殺人事件を起こし、警察に撃たれて死んでしまう

戦後を生きた真名瀬とレイテの密林を彷徨う真名瀬の部隊の話が代わる代わる語られます

次第に戦地での記憶を思い出していく真名瀬
人間は辛い記憶を脳の奥深くに閉じ込めるといいますが
家族との関係破綻が正しい記憶を呼び覚ますとは、何という不幸でしょう

最後に武装を解かれるまで潜んだ密林の洞穴が長男が殺された洞穴と繋がっていくあたり
奥泉さんらしい趣向が凝らされており楽しませてもらいましたが

戦争を体験し
戦後の家庭生活も全てうまくいかなかった男の悲しい人生は辛くもありました


「浪漫的な行軍の記録」
たまたま芥川賞をとった「石の来歴」が代表作のように言われるのに不満が高じて、それを書き直す形で書かれたもの
浪漫とは程遠い
戦時天皇制を痛烈に非難しつつアジア太平洋戦争の戦場の現実を描いた厳しいものです

奥泉さんは今後も戦争を書き続けるのだそうです


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