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古井由吉「野川」

2012年06月09日 | や・ら・わ行の作家

 

講談社文庫

2007年8月 第1刷発行

解説・平出隆

358頁

 

 

16編からなる短編集

「石の地蔵さん」の中の一文

一年後の空襲でその界隈はほぼ一面に焼き払われて、それきり私には縁もなくなったので、その青年の安否は知る由もないが、年長者の顔はたいてい自分がその年を超えてもひさしく年長のままに記憶に留まるものなのに、あの閉まった扉の内から敬礼する顔に限っては早くから、私自身が二十代のなかばにかかる頃にはすでに年下の、少年の顔になっていた。

これで一文、こういう文章が好きです。

最近の若い作家さんに多い、ブツブツと途切れ、感覚で読ませるような文章は、すぐ厭きてしまい読みたくなくなります。

 

友人・井斐の東京大空襲の記憶

語り手「私」が井斐から聞かされた「はず」の記憶は、もしかしたら誤りであるのか

戦後50年余が過ぎ、曖昧な記憶を確かめなければならないと感じながら、確かめる手だてもなく中途で止めてしまう

大空襲の間の数時間

戦後50年余という時間

ひと口に時間といっても、それは全く違う意味を持つのだ

 

別の友人・内山の大学時代の下宿の女主人との奇妙な関係

今となれば、あの女主人は本当に生きていたのかどうかもわからない

人は生きながら死者と対面する

生は必ず死に突き当たるが逆はない

 

 

友人から聞いた夢か現かわからないような妖しげな話、「私」の実体験、バブル景気、はては老人が世間とうまく付き合う方法などの話

吉井さんの抑えた筆致により、どんどん頁が進み、読み終えてみれば、これがなかなかショッキングな内容であり、心に滲みわたるものだったことに気づかされます

 

他の作品も読んでいこうと思います

 


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