ちくま文庫
2011年5月 第1刷発行
解説・大竹昭子
203頁
死んだあなたに「とりつくしま係」が問いかける
この世に未練はありませんか
あるならなにかモノになって戻ることができますよ
植物、動物、人、とにかく生きているものにとりつくことは出来ません
とりついても周囲の人に話しかけたり気配を感じさせたりすることも出来ません
そして、とりついたモノが壊れたり消えたりしたら、本当にこの世から消えてしまい似二度と戻ってくることは出来ません
モノですから自分の意思では動けません
「見てるだけ」状態です
短編が10編+番外編が1編
とりつく、と聞くと恐ろしいようなものを想像しますが、そうではなく優しさ、温かさ、少しの哀しさなどに満ちたお話ばかりでした
特に良かったのが
「ロージン」
母親が野球部でピッチャーの息子が試合で使うロージンにとりつく
ピンチを迎えた息子に母親は「落ち着いて」と囁く
息子は無事ピンチを潜り抜けることが出来た
何度も叩かれたロージンバッッグ
あと、少しで試合が終わるというところでロージンは全て空中へはじけてしまい母親はとりつくしまを失ってしまう
息子は勝ったのか負けたのか
どっちでもいい、いい球だった、いい試合だった
息子はこれからも自分で考えて自分で球を投げるんだ
私のお母さんの役目はもう終ったんだ
さようなら
夏空の向うに、ゆくね
「日記」
夫がまだ若い妻の日記帳にとりつく
妻は毎晩夫へ話しかける形で日記をつけているのだった
何年かが過ぎ、妻は報告する
「再婚することにしました」
亡くなった夫の思い出を処分するため日記帳も燃やされることに
夫は燃やされながら遠のいていく意識の中で妻へ最後の言葉を思う
「おめでとう」
自分だったら、何にとりつこうとするでしょうか
未練はありません、と言ってさっさとあの世に行ってしまう、かな?
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