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長嶋有「タンノイのエジンバラ」

2011年11月03日 | な行の作家

 

文春文庫
2006年1月 第1刷
解説・福永信
216頁


「タンノイのエジンバラ」
ハローワークに通う失業中の男性
突然、隣家の女の子の世話を頼まれる
知りませんでしたが、タンノイというのはイギリスの音響機器メーカーだそうです
「タンノイのエジンバラ?」女の子に聞き返されてソニーのウォーゥマンっていうのと同じ、と答えますが女の子にはどうでもよいこと
彼女はCDが聴ければよいのです
なんとなく流されるままに、のほほんと暮らしている男性と、物怖じせず自分のペースを崩さない女の子の数日を、淡々と描いているだけですが、女の子が心の奥底に持っている悲しみや寂しさがふと垣間見えたり、そこに深く入り込もうとしない男性も大人らしく抑え込んではいるもののやはり悲しみや寂しさを抱えています

「夜のあぐら」
父親の死期が迫り遺産相続の問題が現実のものになる
真夜中に実家に忍び込んで金庫を盗もうとする長女と次女、そこにふらりと姿を見せる弟
子供の頃に両親が離婚し、別々に育った姉弟
普段はあまり連絡を取り合わない三姉弟の不器用なやりとりから姉弟とはいっても表には出さない心の内が読み取れ、つい自分に置き換えて読んでしまいました

「バルセロナの印象」
離婚した姉を元気づけるという大義名分で妻と三人で訪れたバルセロナ
姉と妻は楽しそうにしているが飛行機の中で全く眠れず絶不調の僕
妻は、僕と姉という家族に緊張しており、僕は女たちに緊張している
ホテルで二人部屋と一人部屋を予約し、毎日組み合わせを変えて泊まるというアイデアも、二人でするおしゃべりのためではなくて、一人の気楽さを公平に分けたいということ
帰りの飛行機の中で僕は考えます
 バルセロナで見聞きしたことはいつか忘れてしまうかもしれない
 でも二人が僕に残した様々な印象を覚え続けよう
 忘れないように努めよう

大人になり別の家族を持った姉弟、新たに家族となった妻の立場
微妙なバランスです


「三十歳」
不倫問題でピアノ講師を辞めた女性
パチンコ店でアルバイトをしながら生計をたてている
同じアルバイト仲間の男性と付き合い始めるのだが、相手には良くない噂が付きまとっている
結局相手の男性はどこかに姿を消してしまい、遊ばれ棄てられたのです
感情の起伏を抑えこんで暮らしてきた彼女もラストでは金切り声をあげ涙をぽろぽろと流します

 

人生に大きな夢や目標があるのでもなく、現状はやや不安定、ちょっとしたきっかけで生活が破綻しそうな危うい状況の中にいる主人公たち
しかし暗さは感じられず何となく「大丈夫」と言われているような不思議な印象の残る短編集でした

 


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