新潮文庫
2012年5月 発行
書評・小泉今日子
368頁
日本のどこかにまだ誰にも知られていない、まぼろしの廃線跡がある。
それを見つけて始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる。
鉄道マニアで廃線跡を訪ねるのが楽しみの牧村、26歳
ある日、奥多摩の廃線跡で同じく鉄道マニアの平間、63歳と出会い、彼の行きつけの店、吉祥寺駅近くの『ぷらっとほーむ』で時々一緒にお酒を飲む中になる
映画・僕たち特急A列車でも描かれていましたが、共通の趣味を持つ人たちが年齢や性別、職業に関係無く交流を深める姿は羨ましいです
パソコンもメールもしないという平間老人との連絡方法は駅の伝言板
「本日7時から、プラットホームへ行っています。気が向いたら来てください。 ひらま」
最初のうちはこんな感じだった伝言板のメッセージに遊び心から変化が
「1900よりホームの1番線に停車しています。よろしければご乗車ください。 ひらま」
「今週の土曜日は個人的なダイヤの関係で、1番線は通過させていただきます。悪しからずご了承ください。 まきむら」
こんな楽しいやり取りも、駅の伝言板撤去で打ち切りを余儀なくされる
鉄道マニアには寂しいことでしょう
伝言板が消えてからは『ぷらっとほーむ』へ実際に行ってみなければ平間さんに会えるかどうかもわからず、すれ違いの日々が続くのだった
やっと会えた夜、平間さんは『ぷらっとほーむ』に顔を出した時には既にひどく酔っており
「日本のどこかにまだ誰にも知られていない、まぼろしの廃線跡がある。それを見つけて始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる。」
不思議な言葉を残し、それっきり姿を消してしまう
平間さんの行方を探すうちに出会った旅行代理店に勤務する、やはり鉄道ファンの倉本菜月と一緒にSNSなどで情報を収集
鉄道ファンのコミュニティで「まぼろしの廃線跡」というスレッドを見つけ「キリコノモリ」というキーワードに行き当たる
図書館で調べたり、心当たりの人を訪ねたりして、「キリコノモリ」が岩手県にあることを突き止め、いよいよ二人の平間さん探しの旅が始まる
平間と菜月から聞かされた幼い頃の体験から、ここではないどこか遠い世界への強い憧れや望みを抱いて鉄道に接してきた彼らと、子供時代に育った場所を失ってはいるが消えることのない記憶や思い出を所有してきた自分がノスタルジーという感情で廃線跡を訪ねているという、鉄道への思いの根にある決定的な違いに気づいた牧村
菜月に惹かれ始めていた牧村は、菜月が平間さんと同じように姿を消してしまうのでは、という漠然とした不安に苛まれつつ旅を続けていた
牧村と菜月が廃線を辿る旅を始めてから終着駅で起こる奇跡とその前後の体験はファンタジックでワクワクしました
映像化されたら見たいかも
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