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吉村昭「透明標本」

2010年08月09日 | や・ら・わ行の作家
短編5作品
何れも「生と死」について鋭い視線が向けられています

「鉄橋」
長い鉄橋のたもとの線路で男が列車に撥ねられて死んだ
男は、地方都市の小さなボクシングジムから出た前タイトルホルダー北尾与一郎
タイトルを奪われた直後のことであったことからマスコミも周囲も自殺と断定する
ただ、ジムのオーナーだけは、事故だったのではないか、心の中で反芻する
サスペンスかミステリーっぽく話は進みます
最後に北尾が列車に撥ねられるまで、が描かれます
何故北尾が列車に近づいたのかはここには書きませんが、北尾はボクサーとしての資質に溺れ無駄に命を落とした、とも思えます
しかし、ある一つの事に秀でた人間にはそういう部分があるのかもしれませんね


「少女架刑」
貧しい家計を助けるため、ヌードダンサーとして働く17歳の少女
急性肺炎で亡くなった彼女の遺体は病院へ売られ、解剖され、保存され、また実験の道具とされ最後には骨だけが残る
死んだ本人が、自分の身体の周囲で起きていることを具に観察しているのです
最後に骨だけになった彼女に聞こえるのは、他の骨壷の中の誰のものかもわからない古くなった骨が崩れていく音だけ
彼女の語りが淡々と客観的だからか、怖さやおどろおどろしさは全く感じられず
病院のスタッフたちの、人が死んで残った身体はどんどん鮮度が落ちていく『生もの』に過ぎない、そこには死んだ人間に対する感情や思い入れは存在しない、というドライさが印象的でした


「透明標本」
「少女架刑」にも少しだけ登場する美しい骨格標本を作ることに人生を賭けている老人
身元不明者や古くなった遺体をバラし骨を取る仕事のため「死臭」が身体にしみついた老人は、過去何人もの女性に逃げられており今の妻には自分の仕事の内容は秘密にしている
透明な美しい骨格標本を作るために必要なのは若く鮮度の良い遺体なのである
老人の執念です
これは不気味さが先に立ちました

先日マリリン・モンローのレントゲン写真が競り落とされましたね
骨フェチ?
理解に苦しむなぁ


「石の微笑」
墓守のいなくなった荒れた墓から石仏を勝手に持ち出して売り払うことで生計を立てている友人の曽根
両親は亡く、婚家から戻ってきた姉と二人暮らしの英一のところに下宿することになる
曽根という男の生き方が、英一と姉の生活に少しずつ影響を及ぼし始める
何故だか女を死に向かわせる、そういう『性質』の男、曽根
久し振りに旅行に出かけるという姉は、もしかしたら曽根と一緒なのか?
急いで駅に向かう英一にも確信は無い


「煉瓦塀」
貧しさから逃れるため母親が再婚した相手の仕事は動物実験用の動物の飼育
ハブの血清をとるため馬が殺されるところを見てしまった幼い兄妹は次に殺されるだろう馬を助けてやろうと、夜遅くに無断で馬を外に連れ出す
どこか遠くへ行こう、と繰り返す兄
温かい家と食事と布団と、馬を天秤にかける妹
翌朝、馬は自ら厩舎に戻っていくのだが兄は煉瓦塀の角を曲がって姿を消す



4回芥川賞候補にあがりながら受賞できなかった吉村さんが創作活動に専念する以前に書かれた初期の作品ばかりです
賞を受賞出来なくても素晴しい作品はたくさんありますね




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