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佐藤哲也「ぬかるんでから」

2012年10月29日 | さ行の作家

 

文春文庫

2007年8月 第1刷

解説・伊坂幸太郎

245頁

 

 

短篇集です

 

表題作「ぬかるんでから」

これは奇跡に関する物語だ

その奇跡のために海はなんども身をくねらせて巨大な波を幾重にも繰り出し、無量のしぶきを飛ばして大地を濡らした

町は沈み丘は浸り、地上の土は海の水と交じりあって褐色を帯び、泥は溢れて道を走り、川に流れて遂に辺りは一面のぬかるみとなった

昨年の大震災の津波を思い出しました

しかし、次の段落を読むと、町を襲ったのが地震の津波ではなく洪水であることがわかります

蒸し暑い夏の夜、突然の警報に妻を急き立てて高台に避難した主人公

夜が明けて見たものは、完全に泥に沈んだ町と褐色の海、それにつながる空

待てど暮らせど来ない救援隊

町だけではなく国そのものも泥に沈んでしまったのだろうか

人々は飢え、一週間を過ぎる頃から老人や子供が死に始める

健康な大人たちも徐々に弱っていく中で、只一人様子が変わらないのが主人公の妻だった

泥の大地から現れた「亡者」と取引を始めた妻

妻の身体の一部と引き換えに、食べ物、水、火、次々と要求を出す人々

そしてついには、妻の首と引き換えに手に入れた船に乗り込んだ人々

果たして彼らは安住の地に辿り着くことが出来たのだろうか

『奇跡』とは、自らを犠牲にし救世主となった主人公の妻の存在なのか、亡者が色々な物を出したことなのか

後は、読者が考えればいいといったところでしょうか

 

他の作品もすべて、このような終わり方をしています

 

 

読者を選ぶ作家さんだと思います

明確な答えの無い不条理小説が好きな方なら受容れOKかもしれません

勿論、私も受容れOKです

 

何とも不可思議で美しく奇想天外な物語を味わってください

 

奥様は同じく作家の佐藤亜紀さん

「妻」が登場する作品が3篇ありますが、どれも傍から見ていると夫を翻弄するようで掴みどころのない妻が描かれています

亜紀さんのイメージなのかしら、と勝手に想像しました

 

 

 


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