訳・小山太一
新潮クレストブックス
2007年12月 発行
2008年8月 2刷
341頁
嬉しい再会や禍々しい事故
あらゆる出来事がぎっしり詰まった脳神経外科医ヘンリー・ペロウンの非番の一日を描いたもの
ロンドン
2003年2月
夜明け前に目が覚めたヘンリーは窓辺に立ち街を見下ろし夜空を見上げる
すると、飛行機が一機、エンジンから火を噴きつつヒースロー空港に向かっているのが目に入る
2001年の9・11テロ攻撃を覚えている者なら、この光景から連想するものは他にはなかったでしょう
こんな出来事に始まるヘンリーの一日
詩人として本を出版した娘が久しぶりに家に帰ってくる
優秀な弁護士である妻、ブルース・ミュージシャンとして上り調子の息子、やはり著名な詩人だった義父
皆で夕食を共にする素敵な土曜の夜を迎えるはずだった
愛車・ベンツで同僚と約束したスカッシュの試合に向かう途中、米英連合軍のイラク進攻に反対する大規模デモの為、いつもの道が通れなくなっている
いい加減というか融通のきく警官のお陰で、約束の時間になんとか間に合いそう、と安心したのも束の間
脇から飛び出してきた車と出会い頭にぶつかってしまう
この事故の相手が、平穏に終わるはずの土曜の夜をとんでもないものにしてくれることになる
物語は全て、ヘンリーの視線で捉えた現実と回想です
現状に満足し幸せな毎日を送っている「成功者」が、中年を迎えて、心の奥底にある不安や怖れに目を向けざるをえない状況に追いやられている
淡々とした語りでありながら実にきめ細かく著されているヘンリーの心の動きに、こちらも入り込んでしまった作品でした
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