三神工房

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秋、明石海峡

2015-09-13 | 日記
また秋が来た。少しまだ日差しはきついものの、淡路から吹きあげる風は、
海峡の香りを包み、狩口の丘へ秋を運んでくれる。風は物を言わないけど、
(今年の夏は暑かったね)とでも口ずさむように、額の髪をして涼を感じ
させてくれる。考えてみれば、もう何度も味わったことがある、懐かしい
風情でありながら、それはもうはっとするほど新鮮で、改めて生を感じる
時でもある。けだし(生きていて良かったな)と意味もなく諭されるのだ。

「この世は地獄だ」と、物憂げに病んだ人が言う。「誰も同じだ」と返事
をしながら、(馬鹿か)と言ってしまえば楽だ、と思いながら、(そんな
手にのるか)と自分を励まし、「生きているだけで幸せだと思わな」と、
言いながら、また自分を励ます。結局は自分だと自覚すると、病んだ人に
救われているのは己なのだ気づく。そんなやり取りも人生の春秋なのだと
思いかえすと、駅まで歩いて汗ばんだ体も清々しい。やはり秋が来ている。
 
「決壊2時間後に避難指示」「中一少女殺害容疑で再逮捕」、朝刊一面に
地獄の様な文字が踊る。そしてある意味取ってつけた様に、一服の清涼剤
とでも言おうか、短文の随筆が人の営みの一面を切り取り「生」を謳う。
全ての人が殺人を犯す訳でもなく、全ての人が人生を謳歌する訳でもない。
我ながら、「生きているだけで幸せ」という言葉にどこか疑念を持ちつつ、
それでも、今生きて秋を感じられることに、心の底から感謝するのである。

  

 
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