5/9 中村浩子 And then 第４話
浩子は母の祖母の名だったかもけどしれないけど
浩子は母の祖母には似ていなかった。
祖母は穏やかで忍耐強い人だったけれど
浩子は幼いころから回らない口でいっぱしに
要求し、活火山的に爆発した。
要求が通らないと見るや、ワーっと泣き出し、
手も足の使って殴る、蹴飛ばすで騒いだ。
母はいったい誰に似たんだろうと悩むことさえあった。
浩子は離婚して帰国してから
母に少しでも若いうちに再婚したらと勧められた。
浩子は日本の男はうざく見えた。
料理人の元夫と結婚する前、浩子には付き合っていたフランス人の男がいた。
男は妻子のいる男だったけど、
浩子はそんなことはどうでもよかった。
浩子が勤務先で出会った男の中でその男は別格だった。
何がいいのだろうと浩子は自問した。
セクシー？ 他の人はどう思うか知らないけど
その男を一言で言うとしたら、セクシー だった。
それがある日の残業中に話す機会ができ、
それが会社外で会う機会を作り
ベッドに行きつくまでにそう時間はかからなかった。
ある金曜日の夜、浩子は比較的早く帰宅した。
それからメモのように夜９時過ぎ男が浩子のアパルトモンに来た。
男は妻子は実家で、日曜の夜までフリーだと言った。
簡単に夕食を済ませ、２人はベッドに倒れこんだ。
昼食後まだ戻っている社員は少なかった。
男は浩子の机に来て、あれやこれと仕事の話をしながら
机にメモの走り書きをおいた。
今夜９時行く
そう書いてあった。
それ以上確認は要らなかった。
ベッドの上で男、名前はノエルにしよう、は片手で浩子の胸に触って
もう片方の手でブラのホックを外した。
それから浩子の乳房を見て、満足そうにうなずいだ。
浩子はノエルの首に手をまわし、ノエルの髪をかきあげた。
ノエルのクチビルが浩子の乳房をはい、それから乳首に吸い付いた。
２人が寝入ったのは明るくなり始めた５時近くだった。
ノエルは浩子に性的にいろんなことを教えた。
浩子は押さえてきた性欲をノエルで満たした。
浩子はノエルの体を思い出せない。
そんなことをやっている暇はなかった。
浩子がノエルに会える機会は少なく、
ノエルが浩子のところに来れば２人はセックスをやって過ごした。
２年、２年間、浩子はノエルとやって、
ある日、浩子は飽きたとつぶやいた。
セックスでも飽きることなんかあるんだ。
浩子はノエルの家に出かけ、ノエルの妻に
ノエルの浮気相手は私だと
名乗りあげた。
ノエルは浩子に妻が感づいたと言っていた。
名乗りあげることは懺悔と謝罪でもあった。
ノエルはそれきり音信不通になった。
そして浩子は一線を敷くために日本人の料理人と結婚した。
つまらない男で浩子はすぐ後悔した。
彼には料理の話と自分が持ちたい店の話しかなかった。
料理人は妻が夫を手伝うのは当然と考え、
店のことからから経理まで無給で働かした。
それをフランス人の法律家に相談した。
離婚が成立し次第、浩子は帰国したのだ。
母に会うごとに再婚、再婚と言われたけど
浩子は結婚は当分したくないと告げた。
お母さんの年になってやりたいことはできないでしょと
沈黙させる一撃を与えた。
じゃ何をしたいの？と母に聞かれると
まだ決まってないとしか言えなかった。
離婚、帰国 やっと一息ついた。
浩子は眠りにつく前、ノエルとの性生活を考えた。
同じ行為で、同じところで浩子は頂点に達し眠りにつけた。
ノエルから卒業したい。
卒業するには誰か代わりをみつけないと。
でも周囲に代用になる男はいなかった。
母が持ってくる見合い相手を見ることにした。
結婚する気はないけど、見るだけ見たい。
そういうつもりだった。
そんなことだった。
何か前にしたような経験をしていると浩子は思った。
誰かがついてくる。
後をつけられている気がする。
務めを辞めてから浩子が暗くなると外出しない。
でもちょっとした外出、買い物でスーパーに行く、
近所の内科にいく、友達に会った帰り道、
ふと気がつくと、後ろで浩子と異なる足音が聞こえる。
速度を変えてみる。
後ろの足音も速度が変わる。
次は右に曲がる、ちょっと手前で振り返ってみる。
誰もいない。
でもあの足音はなに？
浩子が少し戻ってみれば、後ろの足音が電柱に隠れたのが見えたのだけど。
