9.11の爆破テロ事件で最愛の父を失った息子が、長い旅路を経て立ち直るまでの物語。愛する人の喪失からどう立ち直るか、これは3.11後の日本にも重くのしかかってくる課題です。
オスカー(トーマス・ホーン)は、ちょっと繊細で感じやすい、でもとても聡明な男の子。父親(トム・ハンクス)はオスカーを対等に扱い、人と交わるのが少し苦手なオスカーの最大の親友でもあった。しかし9.11のあの日、父はWTCビルにいて行方不明となる。
空の棺で葬儀は行われたが、オスカーは父が死んだことを納得することができない。父の部屋のクローゼットで、青い壺の中に入っていた1本の古い鍵、封筒には『BLACK』の文字。オスカーはこの鍵にあう鍵穴を探し出そうと、電話帳と首っ引きでニューヨーク中のBLACK氏を訪ねてまわる。鍵穴が合えば、そこに父がオスカーに残したであろう何かが待っていると信じて。
鍵穴を探す途中では、祖母の家の間借り人のおじいさんと2人連れのときもあり、オスカーの鍵穴を探す調査は続く。暖かく迎えてくれる家もあれば、全く話を聞かず追いかえす家もあったが、鍵穴は見つからない。父の遺した新聞の切り抜きにマークされた電話番号、そこに電話してみると。。。
悲しくも愛が溢れる映画でした。何といってもオスカーを演じたトーマス・ホーンの演技がいい!生前の父親と遊んでいるときの無邪気な雰囲気、父との絆を取り戻すため、怖くて苦手なものだらけの外界へ飛び出す勇気、なかでも口を聞けない間借り人のおじいさんと一緒にBLACK氏の家を訪ね歩く道中は、おじいさんのゆっくりとした動きと好対照な、早口でまくしたてたり細かいことを気にしたり、オスカーの特徴が際立ってました。
口がきけない間借り人のおじいさんも、魅力的なキャラクターです。左の掌にYES、右にはNOと書いていて、手を挙げて答えるところや、持ち歩いている手帳に書き記す、オスカーをぐいぐいと引き込んでいく興味を誘う言葉づかい、オスカーがおじいさんを訪ねたきっかけは、部屋の明かりを利用したモールス信号でした。科学的なことが得意なのは、血がなせる技でしょうか。
オスカーの行動を温かく見守っていた母親(サンドラ・ブロック)は、最後に父と同じようにオスカーを信じ、愛していたことが分かります。オスカーが乗り越えなければならない試練に1人で立ち向かう様を、それが彼に必要なことだと信じて距離をおいて見守る、実際はオスカーの冒険を陰ながら助けていたわけですが、オスカーに気取られることなく何も知らないふりを装って、喧嘩までします。オスカーを1人の人間として対等に扱っている、限りない母親の愛情を感じさせます。
オスカーがニューヨークで訪ね歩いたBLACKさんたちも、なかには冷たい人もいましたが、大抵の人はオスカーが自分の父親は9.11で亡くなったと言うと、母親が前もって知らせていたにせよ、優しく温かく迎えてくれました。9.11の犠牲者というのは、アメリカ人、とりわけニューヨーカーにとっては、きっと特別な意味があるのだろう。
鍵の正体は予想外のもので、オスカーの期待していたものではなかったけれど、本当の持ち主も父と子の葛藤を抱えていた、という背景は、オスカーが父親の死を乗り越える過程に、重層的な味付けを加えています。間借り人のおじいさんにも言えなかった、オスカーが独りで背負っていた誰にも言えない秘密を、鍵の本当の持ち主に告白するところは、オスカーも親子関係の微妙なあやを感じ取って、自分と同じ匂いがすると思ったからでしょうか。ところでニューヨークの第6区というのは、アメリカ人にはメジャーな話なのかな?
9.11の喪失の物語に正面から取り組んだ原作、そして映画は素晴らしく、あの悪夢、最悪の日を咀嚼した文芸の底力に感心するのだが、その一方で10年後に、日本でどのような3.11を扱った作品が登場するか、まさに日本の力が問われるところです。
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2/9 よみうりホール
『台北カフェストーリー』4/14からシネマート六本木にて公開!
ちゃんと向き合うことが大切ですね。
私は直接の被災者ではありませんが、今回はたまたまだったと思います。
首都直下型地震の危険性も喧伝されているので、しっかり被災地の現実と向き合っていきたいと思います。