イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「御松茸騒動」読了

2017年11月21日 | 2017読書
朝井まかて 「御松茸騒動」読了

主人公は今でいう、「意識高い系」というタイプの若者である。父親が早世したため若くして家督を継ぎ、尾張藩江戸屋敷で用人手代見習いをしている。
自分は藩のいつかは藩政の中枢を担うにふさわしい人間になるに決まっていると思っている。その意識の高さが煙たがれ、尾張藩の御松茸同心に左遷されるところから物語は始まる。
この時代、ほんとうにこんな役職があったのかどうかは知らないが、物語の中では御松茸同心というのは閑職であり、一度配属されると二度と日の目を見られないというそんな設定になっている。
そんな境遇の中でひとつの書物を中心にして父親の思い、主君への思い、現場で松茸の管理をしている人々の思いが絡み合い不作が続いてきた赤松林を再生して行くというストーリーだ。今、けっこう話題になっているそうなのでこのブログを読んでくれている人のなかでも読んでみようと考えている人もおられるかもしれないのであまりあらすじについては書かないでおきたい。

この物語の主題になっている柱のひとつは、その、“主君への思い”であると思う。かつて蟄居させられた主君の領民への思いが大きな動きとなって松林の再生へとつながってゆくのだが、そこには主君の領民への思いにも大きなものがある。そこのところ、僕のとある友人の愚痴としてこんな話を聞いた。
親会社からUターンしてきた彼の会社のS務という人はとにかく自分をすばらしい人物だと自画自賛し周りの人たちを卑下したがる。そうだ。いつもの口癖は、あきれた表情で、「もう、そんなことは止めようや・・。そんなことばっかりやってたら会社潰れてまうで。」である。そうだ。
とにかく社員のことをバカにしているとしか思えないような言葉にしか理解ができない。そうだ。
そして、最近、この人の威を借りているようなラスプーチンが現れた。らしい。教育担当という肩書きで社内研修みたいなことをやっているのだが、この人も輪をかけるように人をバカにしたような話し方をする。そうだ。業界の雄とだれもが認める会社の元社員なので、この会社の社員はそこに比べると、(もしくは自分と比べると・・)、「センスがない。」「やる気がない。」「取引先からバカにされているのに気付いていない。」などなど、うまく人の気持ちを萎えさせてくれるように講釈をしてくれる。そうだ。
ひょっとしたら、そういうきつい言葉を投げかけることで奮起を促してくれているのかもしれないが、彼にはどうもそうとは思えない。大本営からも、「あの人がまた言っている・・・。」と半ばあきらめ調子で言ってくるし、すべての人が、「あの人が言っているのだから絶対やらねば!」みたいに思っているとは思えない。ラスプーチンにしてみても、そんなすばらしい会社を辞める事情があったであろう人にバカにされたくないし、それでもこの会社が好きなんですと言われても嘘をついているふうにしか見えない。らしい。大体、大志をもって辞めたのならそんなバカばっかりの集まりの会社に嘱託で就職しないだろう。それともバカばっかりの中だったら俺もなんとかやれるという感じなのだろうか?まあ、みんな立派になりましたって言ってしまうと自分の職がなくなるみたいな事情もあるのかもしれないが・・・。と彼は思っている。

S務さんにしてみても、なぜだか彼はこの人の親会社時代を知っているのだけれども、そこでも自分を超能力者張りのすごい人だと自慢をしていた。そうだ。「俺の勘は鋭いんだ~!」とか「子会社のOOは大嫌いだ」とかを平気で言うし、意味もなく近寄ってきて、「なあ、俺、これからどうしたらいい?これからどうなると思う?」と、今思えば将来の自分を自慢したくて仕方がないような質問をしてくるし、Uターンしてきてからも社内ですれ違ったときに、「俺がこんな形で戻ってくるとは夢にも思ってなかっやろう。」というような、なんだかこんな状況がうれしくてたまらないというような雰囲気だ。一管理職に自慢をしてみても何の意味もないと思うのだが。自慢されたこっちの身にもなってくれと思う。と言っていた。
今のボスにしてみても、会議のたびに、「誰が悪いんや?」、「どうしてできないの?」ばかりしか言わない。この人はどの方向を目指したいのかを教えてもらったことがない。これらの方々からは部下への愛情というものを感じたことがなく、むしろストレス発散の対象とされているとしか思えない。そうだ。こんなS務の下ではみんなストレスが溜まるんだろうね~。
まあ、まったく仕事のできない人間の歯ぎしりのようなものだが、周りの人はよくそれでもこの人たちについて行けるものだと感心してしまう。そうだ。

主人公は、最初は嫌っていた山の仕事に再び戻ってゆくのだが、組織の中心に居なくてもいい、何か矜持を持てる仕事を見つけられた人はきっと幸せだと思う。それに加えてそれを支え、支えられる仲間がいればもっと幸せなのだと思い知らされる1冊であった。

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