12/22 私の音楽仲間 (542) ~ 私の室内楽仲間たち (515)
それを言っちゃあ…
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
『Beethoven の "Harp"』
音程の濡れ衣?
付き合いのいい音程、悪い音程
記号を "無視" する勇気
それを言っちゃあ…
拘りにも差が
Beethoven の ドッグ-ラン
長距離走に比べれば
解釈を左右する表現手段
理解が先? 表現が先?
揺れる調、揺れる3度
それは形式が決めるさ
[演奏例の音源]は、"ハープ" の愛称で有名な 弦楽
四重奏曲、Beethoven の 変ホ長調 Op.74 から。
第Ⅰ楽章の主部、Allegro へ入ったところです。
Violin は私、Sa.さん、Viola T.さん、チェロ N.さんです。
音源の中ほどで聞かれるピツィカート。 誰言うとなく、この
曲が 『ハープ』 と呼ばれるようになった由来でしょう。
これは、後に何度も、この楽章で出てきます。
[譜例]は、Vn.Ⅰのパート譜です。
“ハープ” と言えば、高雅な楽器の極致。 そして、あの
まろやかな音色。 誰しも、一抹の憧れを抱くことでしょう。
でも…。 それが私にとっては、大変なプレッシャーなの
です。 ひょっとして、ほかの弦楽器奏者の誰にとっても!
理由は単純です。 ハープのように優雅な音は、なかなか
出ないから。 特に Violin の高音では。
あのコントラバスのピツィカートには、どうしても敵いません。
オーケストラ全体を包み込むような、豊かな響きには。
そう、原因は、楽器の大きさの違い。 特に、弦の
長さの差です。
弦長が短くなると、横の振幅にも限界があります。
いくら弦を幅広く引っ張ろうとしても。
音が高くなればなるほど、弦の振動部分は短くなります。
それに、Violin の E線はスチール製。 引っ張ろうとしても、
高音では抵抗が大きく、右指の皮が剥けることもある。
そして、いくらしっかり押さえても、使うのは指先の柔らかい
部分。 振動エネルギーは、簡単に吸収されてしまいます。
押さえなくてもいい “開放弦” であれば、弦長が長く、両端
が “硬い” ので有利。 Violin の高音は、この点でも大いに
不利なのです。
注目すべきは、もう一点。 ハープの広大な音域です。
「通常オーケストラで用いられる楽器の中で、音域が
もっとも広いのは?」…と訊かれて、すぐに正解を思い
浮かべるかたは、かなり少ないでしょう。
([wikipedia] より)
…と、ハープに対するハンディを挙げ連ねているようでは、
駄目ですね。 作曲家がそう書いた以上、演奏家は言い訳
無用ですから。
このピツィカート。 ソリストを目指す教育においては、指摘
されることが稀でしょう。 しかし私にとっては、死活問題の
一つでもあります。
関連記事 『肘でハジく?』
低音になればなるほど、弦を長くするほうが自然。 それが、
ハープという楽器の大きさの、理由の一つでもあります。
ただし原理的には、もっと大きくする必要があるのではない
か? 私の想像ですが。
なぜなら、その広大な音域を司り、特に最低音を豊かに鳴らす
ためには、あの “S字型” は不自然だからです。
特に、最低音に近づくに連れ、弦長の増加分は減少している
から。 おそらく、張力を減らしてカバーしているのでしょう。
低音部の “巻き線構造” も、その対策の一つと思われます。
しかし、見かけの優雅さとは裏腹に、演奏には「かなり体力が
必要」…と聞いています。
運動量。 それもペダル操作のため、足の運動も含まれます。
要するに全身運動。 おそらく Violin の比ではないでしょう。
おまけに、その運搬は一苦労。 それに、楽器の保守
に対する気遣いは、並大抵のものではありません。
[高田ハープサロンのPDF]より
「そんなことはどうでもいいが、楽器の値段は
どうなんだ? どうせお前の楽器は…。」
それを言っちゃぁ、お終いよ…。 少なくとも
一桁違いますから。
「じゃあ、腕でカバーだな。 “腕カバー” じゃないぞ。」
……。
さて、Beethoven の曲に戻って、この[譜例]。
相変わらず “塗り絵” が多いですね。
それも、Vn.Ⅰのパート譜にすぎません。
[音源サイト ①] [音源サイト ②]