MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

『カラス』

2010-02-22 00:00:44 | 私の室内楽仲間たち

02/22 私の音楽仲間 (145) ~ 私の室内楽仲間たち (125)



   弦楽四重奏曲 第15番 ト長調 Op.161 D887 



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




           関連記事  『最後の四重奏曲』

   (7) ~ (11)  Schubert ~ 『第15番 ト長調 Op.161, D887』
           ① 尾を引く譜面騒動
           ② シューベルトの手招き
           ③ 振動と沈潜
           ④ 安らぐ異分子
           ⑤ 異和感と疎外感

   (12) ~ (14) Schubert ~ 歌曲集『冬の旅』
           ⑥ 第1曲 『お休み』
           ⑦ 第5曲 『菩提樹』
           ⑧ 第15曲 『カラス』

   (15) ~ (17) Schubert ~ 『第15番 ト長調 Op.161, D887』
           ⑨ 放浪の果ての静寂
           ⑩ 隙間風と踊る
           ⑪ 手を触れるべからず?





 シューベルト歌曲集『冬の旅』第15曲には、『カラス
があります。

           (以下の和訳は、すべて
  Franz Schubert   Winterreise D.911 歌曲集『冬の旅』のページ
           から転載させていただきました。)





   一羽のカラスが町から私について来た。
   そして今日までずっと私の頭上を飛び交っている。

   Eine Krähe war mit mir
   Aus der Stadt gezogen,
   Ist bis heute für und für
   Um mein Haupt geflogen.




 カラスは死の象徴でもあります。

 「自分が倒れるのを待ち、獲物として狙っているのだな…。」



 しかし歌詞全体には、何となく親近感が漂っています。

 "不吉な鳥への親近感"…?




 岡村喬生氏によれば、これは "はぐれガラス" なのだそう
です。 つまり、「群れから追い出された孤独なカラス」が、
頭上を飛び回って離れないのです。



 確かに "Eine Krähe" (アイネ クレ―エ)、(一羽のカラス) と、
単数形で書いてあります。 普通に書くなら、おそらく
"複数のカラス" でしょうね。

 「なるほど、何羽もいれば、若者はただ脅威を感じるだけで
終わりだろうな」…などと、私も変な感心をしてしまいます。




 集団から追い出された若者が親近感を覚えるのは、
"はぐれガラス" や、"孤独な辻音楽師の老人" だけ
ではありません。



 ""、"旅の伴侶の"、また "小川の流れ"、""、
"一枚の"、"太陽" などの森羅万象に語りかける
ばかりか、時には "" や、自分に "吼え立てる"
にまで呼びかけます。

 それは、もはや自虐的とも言える心理状態です。




 なお、カラスは、第8曲の『回想』にも登場しています。
但し、ここのカラスは悪役です。



   すべての屋根から、私の帽子めがけて
   カラスがつぶてと雹を打ちつけた。




 このカラスは、

   Die Krähen warfen Bäll' und Schloßen
   Auf meinen Hut von jedem Haus.

…と、複数形なので、カラスは集団で若者を苛めている
ことになります。




 若者は恋人のいる町を "よそ者" として訪れ、最後まで
受け入れられず、"よそ者" のまま出てきました。



 「が私を追いたてているのに、長居の必要なぞあろうか。」

 これは第1曲『お休み』で、ご一緒に見てきた歌詞です。




 放浪する若者は、に吠えられ、カラスにさえ、足蹴にされて
いる…。 その場合はすべて "複数形"。 集団による疎外です。

 彼ならずとも、絶望の旅を続けざるを得ない心境になります。




 しかし私の脱線旅行は、そろそろお終いにしなければ
なりませんね…。




 『冬の旅』 音源

バリトン : ゲルハルト・ヒュッシュ 1933年録音

バス・バリトン : ハンス・ホッター 1942年録音

音源ページ

『冬の旅』 ~ 『おやすみ』 音源ページ

『冬の旅』 ~ 『菩提樹』 音源ページ

『冬の旅』 ~ 『カラス』 音源ページ




 以下の音源は前回までと同じものです。




: ト長調 3/4拍子 Allegro molto moderato
(一部の音源は中途まで、あるいは中途で堂々と終わっています。)

Hungarian String Quartet

The Juilliard String Quartet play and discuss
sections of a Schubert Quartet with Elliott Carter


Quartetto Italiano   

Young Chamber Players on February 7, 2010




: ホ短調 4/4拍子 Andante un poco moto

Hungarian String Quartet

Quartetto Italiano  

Škampa Quartet

演奏団体不明




: SCHERZO : ロ短調 3/4拍子 Allegro vivace
   TRIO    : ト長調  3/4拍子 Allegretto

Hungarian String Quartet

Quartetto Italiano




: ト長調 6/8拍子 Allegro assai

Hungarian String Quartet

Quartetto Italiano  




     関連記事  『最後の四重奏曲



(1) ~ (2)    Mozart  『プロシャ王四重奏曲ヘ長調』
               

(3) ~ (6)   Beethoven  『第16番 ヘ長調 作品135』
              

(7) ~ (11)  Schubert  『第15番 ト長調 Op.161, D887』
               

(12)   歌曲集『冬の旅』 第1曲 『お休み』

(13)   歌曲集『冬の旅』 第5曲 『菩提樹』

(14)   歌曲集『冬の旅』 第15曲 『カラス』

(15) ~ (17)  Schubert  『第15番 ト長調 Op.161, D887』
                            


  (続く)