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音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

田中角栄という病

2008-03-30 02:14:08 | 時事問題
野口悠紀雄教授は『戦後日本経済史』の中で「歴史の必然性」を論じています。トルストイも『戦争と平和』において、特定の個人の判断や指揮ではなく、必然律ともいうべき抗えない力によって歴史が動いてきたことを主張しているのですが、教授をして日本の戦後史で唯一の例外と言わしめている田中角栄のことを、最近よく考えています。

昨晩も朝ナマで道路特定財源と暫定税率の問題をうだうだやっていましたが、パネリストとして元財務省主計局の片山さつき議員が出演していましたね。そもそも用途を特定する目的税は財務(大蔵)省が最も忌み嫌うものなのに、これが半世紀以上も続いているのは何故なのでしょうか?

1953年(昭和28年)に田中角栄によって作られた議員立法により、ガソリン税が道路整備の財源として使えるようになりました。これはわが国の本格的土建屋政治開幕を告げる号砲ともいえる特筆すべき出来事で、今に至るまで、これが自民党道路族の重要な権力の源として温存されています。この1953年の時点で「道路」に目をつけた田中角栄の慧眼が彼を道路族の親玉に押し上げるのですが、なぜなら当時国内のマイカーの保有台数は僅か8万5千台にすぎなかったので、ガソリン消費量も大したことがなく年間32億円程度の税収だったのです。これがモータリゼーションの進展と軌を一にして指数関数的に増え続け、ガソリン税を中心とする道路特別会計が年間5兆9千億円というモンスターになっているというのが今日の状況です。

『政治と情念 ~権力・カネ・女』(文春文庫)は立花隆氏が日本政治の惨状は、自民党がいまだにひきずる角栄の遺伝子に起因するのではないかというテーマについて主に論じています。この本は『「田中真紀子」研究』という編集者が無理やりつけたタイトルの単行本発売時に読んでいたのですが、改題した文庫版を買い直したのです。昨今の政治テーマのルーツや本質を知るには良いテキストだと思いますが、改めて、この国の財政がここまで痛んでしまったこと、既得権の網の目にがんじがらめで改革がちっとも進まないこと、官僚のモラル低下等々のシリアスな諸問題について、角栄DNAの影響を強く感じずにはいられないのです。

田中角栄の功罪ということでいえば、政治家としての「功」が全くなかったとは言えないし、無類の人情家であったことを示す数々のエピソードには正直惹かれるものもあります。例えば、他派閥の陣笠議員の母親の通夜に真っ先に駆けつけて「いくつになっても母親を亡くすのは辛いものだよ」といって励ます・・・こういうことをあざといと言って批判するインテリがいますが、なかなか出来ることではないのですよ。事実この議員はこのことだけで田中派に鞍替えしてしまったといいます。

官僚の人心掌握術と持て囃されていたことも陽と陰の両方があると思います。大蔵省や通産省や郵政省に大臣として乗り込んでいったときに、モチベーションを上げる見事なショートスピーチで高級官僚たちのハートを掴んだのも事実です。もちろん口先だけでなく汗もかき、学歴のないハンディキャップを跳ね返すべく鬼気迫る猛勉強をしたという努力の部分は評価に値します。深夜まで資料を鉛筆で線を引きながら全て読んでいたというのは、渡されたペーパーを読みもせずに文句ばかりたれていた娘の真紀子とはえらい違いです。

一方で陰の部分としては、省庁や官僚個人との癒着です。自分に協力してくれた官僚たちの再就職の面倒を実にマメにみていたというのは、官の世界でこれが重要視されることを知っていたからです。稀代のフィクサー(結節点)にして、色んな人と場所に貸借関係のカードを多く手中にしていた角栄ですから、役人を民間に世話するのは朝飯前だったと思いますが、それで足らないとなると、せっせと天下り用に膨大な数の特殊法人を設立していたのです。(小泉改革でいくつかは統廃合されましたが) さらには、これぞという官僚は自民党参議院議員(必ずしも自派だけではない)にしてしまうというのもありました。

極めつけは盆暮れの100万円単位の「別封」です。元大蔵官僚の野口教授も立花隆氏も同様に嘆いていますが、これが官僚を大いにスポイルしたのです。それまでは日本の高級官僚は志とクリーンさを備えていました。それがこの時代に、役得への欲求や自分が遇されることが当然という勘違いが肥大し、上司や先輩たちのモラルの低下や金銭感覚の麻痺ぶりを間近で見ていた若手が、後の大蔵省ノーパンしゃぶしゃぶ接待事件の主役になっていったのです。

「日本の官僚は優秀だ」「歩くコンピューターだ」「自分は無学の素人だから君たちに任せるが、責任は私がとる」と徹底的に高級官僚をおだて持ち上げ、入省年次を頭に叩き込み尊重したのが、角栄であり弟子の竹下登です。目を剥くような金額のお小遣いをバラまく、再就職探しを手伝う・・・といった至れり尽くせりのサービスをする代わりに、当然ながら自分の頼みを聞いてもらいたいということで、バーター関係の成立に官僚は抵抗できなくなっていきました。

役人をのっぴきないところまで追い込んでいく手口は、政治家というよりは凄腕の業者かヤクザという感じがします。最近では防衛省の守屋前次官夫妻をずぶずぶにした山田洋行の宮崎元専務とか、一昔前では泉井事件の政商・泉井純一なんかもその手合いですが、田中角栄の場合は国家権力を使って、壮大なスケールでオール霞ヶ関の官僚を接待し癒着したといえなくもありません。

角栄の「罪」の部分は他にも色んなところに及んでいて、以前にブログにも書きましたが、特定セクターへのバラマキなども代表的なもので、これも今日の日本国の財務状況に著しい影響を与えています。

この際、ねじれ国会を利用して徹底的にやってほしいと個人的には思っているのですが、民主党の党首は角栄の愛弟子だし、幹事長も田中派OBだからなあ。


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Unknown (憂国)
2008-05-04 14:21:43
角栄を歴史の人物にあてはめると・・・、ローマのセプティミウス=セウ”ェルス「軍隊の給与倍増、それ以外は考えなくてよい」
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憂国さん、コメントありがとうございます。 (音次郎)
2008-05-06 20:06:35

となると、哲人皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスに該当するのは誰でしょうね。福田でも大平でも三木でもないので、ちょっと思い当たりません。
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