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浮力の説明の謎 (8)
初等物理の気まぐれ考究,物理教育放談
/
2007-07-08 06:13:47
本稿は、以下の続きにあたる。
・
07-03-27 浮力の説明の謎
・
07-04-03 浮力の説明の謎 (2)
・
07-04-11 浮力の説明の謎 (3)
・
07-04-23 浮力の説明の謎 (4)
・
07-05-05 浮力の説明の謎 (5)
・
07-05-17 浮力の説明の謎 (6)
・
07-05-17 浮力の説明の謎 (7)
・
07-06-05 浮力の説明の謎 (7-b)
-----
先に掲げた
浮力を受ける系(II)を分類したモデルのうち、残るは、〔その3〕"ゆで卵、蒟蒻など" としたものだけとなった。(さりげなく予告したように)これは実は〔その1〕と〔その2〕の中間のケースとして理解され、述べるべきことはそれほど多く残っていない。そこで、このケースに入る前に、ここまでに得られた知見を簡単にまとめておこう。
まず、浮力を受ける系(II)が、流体的性格をもつか否かで、扱い方・考え方が変わる。系(II)の外表面が水圧を受けて押し込まれることを想起させる
3/27記載の図
を使った説明は、系(II)が中空の剛体壁でできた容器である場合には相応しく、また、圧縮歪が中まで届かないような固い系の場合にも概ね当てはまるのだが、流体的性格を伴う十分‘やわらかい’系を考える場合には全く相応しくない。そのような‘やわらかい’系においては、「系の表面が押し込まれる力を受ける」と考えること自体に無理があり(系を界面で形式的に区分し、それらの間の相互作用の一方からの分力だけを考えるという抽象的思考を強いている)、それが種々の混乱や誤解を誘発する元となる。
流体的な系は、自身が圧力媒体となって、水圧を内部まで伝える。このとき、圧力勾配をもつ水圧が系(II)にもたらす影響は、水圧を考えないときに比べて、系(II)の各部を変位させようとする(主に上方に押し上げる)効果となって現れる。この効果は、系(II)に対する束縛条件等に応じて、ときには、上方への全体の平行移動の効果として現れ、場合によっては、伸び上がったり(底部固定の場合)、広がったり(上部突き当りの場合)、など変形の効果として現れる。これらが、‘やわらかい’系に働く浮力の効果なのである。
=====
さてそこで、最後のモデルケースを考える。
-----
―3:ゆで卵、蒟蒻、ゼリーなど―
これらは、「流体的な性格を多少伴うやわらかい弾性体」の典型的実例である。水圧をかなり奥まで伝える圧力媒体としての振る舞いを示すが、圧縮に対抗する弾性応力も示すので、圧力は中心部に近づくほど緩和していると考えられる。この場合、周囲の水圧によって、表面からある程度の領域までを押し込む力が(弱い力が分布する形とはいえ)確かに生じている。この点では純粋流体と異なっている。
ただし、この領域においては、勾配をもつ水圧の効果と重力による自身が歪む効果の両方を受けながら(目に見える程度の)変形が起こっており、内部では応力歪みの向きが複雑に転換する。浮力の効果の一側面は、この部分の変形状況に現れる。
それは、系(II)の自重による変形が(水がない時に比べて)軽減されるような効果であり、このことは、「系(II)各部に働く重力が減ったように見える(場合によっては浮上力に転ずる)効果」と表現することもできる。これが、水中に置いたゼリーや豆腐に現れる一つの重要な浮力効果になっている。
一方、こうした変形の問題を全く考慮外とするならば、(系の変形が落ち着いた適当な段階で)系(II)の形を固定して考えることで、
3/27記載の図
のベクトルの足し算の処方によって、系(II)全体を上方に移動させようとするタイプの浮力の効果を算出することもできる。
このような事情にあることが、これまでの考慮の過程を経て、ようやくすっきり理解できるようになった。
-----
さてそれでは、実際の写真によって、上のケースの実例としての水中のゼリーに現れる浮力の効果を確認してみよう(懸案の写真撮影の課題に昨日チャレンジしました.)
びんの底に置いたゼリーが、水を満たすことで、高さ方向に伸び上がる様子が観察できる。ただ、この写真の場合、円筒形のびんを使っているために、水を満たすと横方向に拡大するレンズ効果が現れており、右側の写真における見かけの形状は、実際よりかなり横長に見えていることに注意してほしい(物差しの見かけの幅に注目!)。そこで物差しの高さ方向の目盛を観れば、ゼリーの高さが約2割弱伸びていることが客観的に判断できる(物差しの端に3mmの目盛りブランクがあるので、高さは約27mmから32mmまで変わっている)。
もし仮に、この周囲の液体の比重を次第に大きくしていくならば、このゼリーの伸び上がりはだんだん著しくなり、ある段階で、底面から離れて浮かび上がるだろう。このような現象を理解しようとするときに、
3/27記載の図
の矢印ベクトルを足し合わせて考えることが、いかに的外れであるか、あらためて認識させられる。考え方を基本から転換する必要があるのだ。
<続く>
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