音の向こうの景色

つらつらと思い出話をしながら、おすすめの名曲をご紹介

メンデルスゾーン 6つの二重唱 Op.63より「秋の歌」

2012-10-26 22:36:25 | オペラ・声楽
 今日お会いした方に、「秋にオススメの曲はありますか?」と尋ねられたので、メンデルスゾーンの二重唱の「秋の歌」と答えてきた。メンデルスゾーンには、独唱用の「秋の歌」という歌曲もあり、こちらも素晴らしいのだが、秋の歌と言えば、私は真っ先に二重唱のほうが思いつく。女声2人用に書かれた美しい重唱曲集の4曲目。私がこの曲に始めて出会ったのは、小学生のときだった。
 小3から小6ぐらいの間だったと思う。週末になるとよく、同級生のまーちゃんのお家に遊びに行った。日曜の教会学校の後は、しょっちゅうお邪魔していた気がする。まーちゃんは3人兄弟。一人っ子の私は、兄弟喧嘩を物珍しく眺めながら、みんなで鬼ごっこをし、ケンパをし、MSXのゲームで盛り上がり、そして音楽をした。父と私はいつもピアノで連弾をしていたが、まーちゃんのお家では、違う楽器と一緒に楽しむ「アンサンブルの喜び」を教えていただいた。
 まーちゃんのパパはフルートを吹かれ、まーちゃんはリコーダーを、お姉ちゃんの陽子ちゃんはピアノを、弟の雅一くんはヴァイオリンを弾いた。私はリコーダーを吹いたり、習い始めたばかりのヴァイオリンを擦ったり、陽子ちゃんと交替してピアノを弾いたりした。高声部楽器の簡単な重奏の譜面を、パパが選んでくださって、それを色々なペアで弾いてみた。いつも初見で遊ぶという習慣は、ここで身に着いた。
 弾いていたのは、おそらくバロックの小品や、歌の編曲だったと思う。いずれにせよ私達子供は知らない曲ばかりだった。ただ1曲だけ、私の記憶に鮮明に残った曲がある。美しい短調メロディーの二重奏に、流れるようなピアノの伴奏がついていた。そこにはハモる喜びと、追いかけて弾く喜びがあった。私達はたちまちこれが好きになり、何度も繰り返し弾いた。高校時代、昼休みのコンサートで上級生が歌っているのを聴いて、これがメンデルスゾーンの二重唱なのだと知った。「秋の歌」というタイトルだった。
 秋が来る寂しさを歌っている内容だが、「なんと早く踊りは終わってしまうのか」「なんと早くすべての喜びは悲しみに変わってしまうのか」という歌詞を反映して、意外とテンポが速い。子供の頃ゆっくり弾いた印象が強いせいか、いつ聴いても「速いな」と感じてしまう。あっという間に気温が下がり、冬がやってくるときに感じる、あの「季節が巡る速さ」だろうか。
 さて、私達子供が合奏の喜びをすっかり覚えた頃、まーちゃん一家と、うちの従兄弟の家と、我が家の三家族は、年始やGWに集まって「こどもコンサート」を始めた。小さなホームコンサートである。まず、くじ引で順番を決めて、子供達がそれぞれ練習してきた曲を発表する。その後は好き放題、「あれやろう」「これやろう」と、初見合奏大会をする。お父さん達はお酒を楽しみながら楽器を弾き、お母さん達は料理の腕を揮ってくれた。
 我が家でもう10年以上続いている「音楽祭」の原型はここにある。今では毎年2回、初心者からプロまで仲間が集まって、発表会+合奏大会をしている。有難いことに仲間も増えて、ちょっとしたオーケストラになることもある。最近はまーちゃん、陽子ちゃんのお子さんたちも加わるようになって、次世代へと続いている。
 音楽は、楽しい。何よりも誰かと一緒にアンサンブルするのが、楽しい。ひとつの曲を一緒に弾いているときは、年齢も、職業も、国籍も関係ない。その喜びを教えてくれた、まーちゃんのご一家には、いつも感謝でいっぱいだ。近い将来、まーちゃんの息子さんと一緒に、ヴァイオリンでこの「秋の歌」を重奏するのが、私のひそかな夢である。

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