鴨が行く ver.BLOG

鴨と師匠(ベルツノガエル似)と志ん鳥のヲタク全開趣味まみれな日々

最近読んだSF 2017/9/12

2017年09月12日 22時00分46秒 | ゲーム・コミック・SF
まだ暑い日が続きますが、朝晩は過ごしやすくなってきましたねー。
今年もゆく夏を惜しみつつ、SFレビューなぞ。

みずは無間/六冬和生(ハヤカワ文庫JA)

科学者・雨野透の人格転写AIを載せて、無人宇宙探査機は数万年の時を過ごしつつ宇宙を経巡っている。その大半は何の変化も無く、退屈極まりない日々を送る透のAIが白昼夢のように思い出すのは、地球に残してきた過食症の彼女・みずはの思い出。「ひとくちちょうだい」が口癖で、透に依存し切っていたみずはのネガティヴな記憶に責めさいなまれ続ける透は、気を紛らわせるために自分を複製したり人工生命をばらまいたりするが、その結果はいつも自らの悩みを増やして行くこととなる。AIゆえに死ぬことも出来ない、悠久の時を生き続ける透がみずはの面影から逃れるために取った行動とは・・・?

第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。文庫になったら読もうと思ってました。が、人によって評価の高低がもの凄く激しいので、ちょっと躊躇していた作品でもありました。
意を決して読んでみた感想。思ったよりも面白かったです。ただし、ダメな人は徹底的にダメだと思います。

前半3分の1と中盤3分の1、そして後半3分の1では、かなり印象が違います。
前半3分の1では、主人公の透(ただし、AI転写前の生身の男性)と恋人のみずはとの日常的なやり取りが、特に起承転結もなくだらだらと描写されます。これが後々のAI透の思考や行動を決定づける要素になっており、ストーリーの背景として重要な描写ではあるのですが、透もみずはも双方とも欠片ほども感情移入できないメンヘラ系キャラで、ここでまずくじけそうになりました(^_^;何でこの二人が恋愛ごっこできるんだろう。全然「恋人同士」じゃ無いじゃん。って現実的な感想は、この作品には持ってはいけないのかなぁヽ( ´ー`)ノ
中盤3分の1は、透が暇つぶしに生み出した人工生命「D」と透とのやり取りに終始します。様々な種類に進化した「D」と透(この時点で自分をも暇つぶしにコピーしており、オリジナルの所在は不明となっています。元々AIなのでどれが「オリジナル」なのか、という観点もあります)の言語的バトルが何度も何度もリフレインされ、もはや「語り芸」の領域にヽ( ´ー`)ノ似たようなシチュエーションをちょっとだけ変えつつ繰り返す手法は、ちょっと古典落語「天狗裁き」っぽいですね。

そして、ラスト3分の1。
既に数万年の時を旅しているAI・透にとって、みずはの詳細な記憶は抜け落ち、純粋な欲望の象徴と化しています。みずはの欲望と異種知性体の欲望とが混じり合い、自らが欲望の権化と化して宇宙そのものを貪り食らい始める透。宇宙滅亡のヴィジョンを描写して、この物語は幕を閉じます。
SFとして、このラストシーンはなかなか面白いのですが、鴨的な印象ではそこに至るまでのキャラの行動理論にいまひとつ同化出来ず、読後感は「はぁ、そうですか」とかなりの第三者感ヽ( ´ー`)ノ感情移入できると、相当面白い作品なのだと思います。そういう意味では、限りなく「私小説」に近い作風なのかもしれませんね。
いやー、日本SF、まだまだ個性的な作者が現れそうですね。
コメント
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