玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「代理出産」希望者の再現ドラマ

2007年05月22日 | 代理出産問題
四月に記者会見を開き「代理母ボランティア」を募集した30代女性とその母親の再現ドラマを見た。

 新報道プレミアA  母さん私の子産んで…代理出産に挑んだ母娘

以下に書くのはあくまでも再現ドラマの感想である。
モデルとなった女性たち、自分たちの子供に恵まれない不幸な(あるいは「自分たちは不幸だという思いに取り付かれた」)人たちを批判したくはない。
テレビの再現ドラマでは視聴者の感情を短い時間で刺激するため、複雑な人間性をステロタイプなキャラクターとして描くことがよくある。たぶん過剰演出や細かな事実の違いもあることだろう。
繰り返すが、これから書く感想・批判はあくまでも「ドラマ内のキャラクター」「ドラマで描かれた物語」に対してのものだ。


長々しい前置きはこれくらいにしよう。
率直な感想をひとことで言えば「グロテスク」だった。その他には
「お涙頂戴」
「自己憐憫におぼれている」
「欲望に取り付かれている」
「登場人物全員の倫理観がおかしい」
「依頼者母娘に必要なのは生殖補助医療よりカウンセリング」
「生まれる(手に入れる)前から子供に精神的依存している」
「母親が『代理母』になるための大変な肉体的負担を間近で見ていながら、見知らぬ他人に『無償ボランティア』を呼びかける身勝手さ」
「妄執に取り付かれた女たちを一喝できる男(肉体的性別ではなく精神的な意味で)はいなかったのか」
「ドラマは『溺れるものは藁をもつかむ、その藁こそ代理出産なのだ』と伝えたいようだが、彼らが溺れているのは容易に足のつく浅瀬なのに」
といったところ。

見ていて一番げんなりしたのは、「子供を持たないと女として認められていないような引け目を感じる」という主人公のモノローグ。いやそれは違うだろう。きつい言い方をすれば被害妄想、せいぜい穏やかに言って自己欺瞞だ。
古い考え方を持った人たちがいまだに「子供を作らない(作れない)女は価値がない」と考えていることは事実だ。実際にそのような心無い批判をされたことがあったのかもしれない。もしそうなら心から同情する。
だが、現代日本の良識・常識・社会的価値観として「子供を作らない(作れない)女は価値がない」という考え方が広く認められているかと言えばもちろんそんなことはない。厚生労働大臣の失言が世を挙げて批判されたのはついこの間のことだ。「結婚しない・子供を作らないのは女性の多様な生き方のひとつ」というのが現代日本の標準的価値観である。

もちろん現代における普通の価値観が唯一絶対というわけではない。
古い価値観、エキゾチックな価値観、未来的な価値観を持つのは個人の自由だ。
だが、自分自身で古い価値観に固執しながら「社会が古い価値観を押し付ける」「自分は被害者だ」と主張しても説得力がない。
彼女が傷つき不幸な原因は「自縄自縛」「精神的自傷」によるものがほとんどであり、社会の責任と呼べるのはせいぜい2割だろう。劣等感・欠落感の原因を社会に押し付けるのは説得力がないだけでなく、好むと好まざるとにかかわらず様々な生き方をしている男女を後ろから撃つような裏切りとさえ感じてしまう。
ドラマを見ていて「それなら愛する人と出会えない、結婚できない、もちろん子供を持つ見込みなどない中年男は生きている意味がないのかな」とつい自嘲まじりの皮肉をつぶやいてしまった。

ドラマに対しては嫌悪感しか感じなかったが、モデルとなった人たちに含むところはない。
「代理出産」という方法(私は「寄生出産」と呼ぶ)には反対するが、だからといって「代理出産」希望者たちが不幸になるのを望みはしない。
彼女たち(彼ら)が「自分たちの遺伝子を受け継いだ子供」を作ることへの執着から離れて、穏やかな生活と幸福が得られることを願う。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2007-05-22 01:22:13
この番組にはほとんど同じ感想を持ちました。あまりにも酷い。あそこまで人としての最低限のモラルが欠如しているのはきわめて珍しいと思います。あのドラマが事実に基づいているとしたら、モザイクで登場した本人映像も捏造であることを願うのみです。
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Unknown (uNKNOWN)
2007-05-22 04:51:53
まあ、「心ない批判」のくだりは…要するにセクハラ(相手が医者ならドクハラ)ですね。それ自体はヒドイ話ですけど、代理出産とは全く別に論じるべき問題です。「代理出産礼賛」というエンディングのために全てのストーリーや設定を組み立てるから、制作者諸氏はそんな単純な論理のすり替えにも気付かないんです(わざと印象操作したのでないとしても)。
「代理出産ボランティア」を求めるなどというのは、論外中の論外です。「我が子を抱きたい」という個人的欲望のために、他人の身体に負担と危険を求める(しかもタダで)というのは、非人道的としか言い様がありません。
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Unknown (安部奈亮)
2007-05-22 07:50:35
寄生主になった米国人女性のドラマも是非作ってほしいですね。
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Unknown (Taso)
2007-05-27 04:12:07
>彼女たち(彼ら)が「自分たちの遺伝子を受け継いだ子供」を作ることへの執着から離れて、穏やかな生活と幸福が得られることを願う。


こころから、同意します。
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