
反物質は現代でもなおSFで取り上げられる魅力的なテーマのひとつだ。昨年のノーベル物理学賞のニュースで話題になった「CP対称性の破れ」の説明を聞いて、この世界にどうして反物質は存在しないのかという文脈のなかでこの言葉を耳にした人もいると思う。また反物質は自然には存在しないのでやはりSFの世界でのことだと思い込んでいる人も多いに違いない。
実際には反物質は人工的に作り出すことができるのであり、現在ではいくつかの医療機器に応用され実用化されているのだ。また「CP対称性の破れ」を実証した高エネルギー加速器研究機構のKEKBファクトリーでの実験も電子と電子の反粒子である陽電子を衝突させたものだから、反物質はもはやSFの世界のものではない。
世界で最初に見つかった反物質は電子の反粒子である「陽電子」だ。英語ではポジトロン(positron)といい、プラスの電荷を持った電子ということになる。量子力学の研究の過程で1928年にディラックによってその存在が予言され1933年にアンダーソンによる実験で発見された。彼は1902年生まれだから31歳のときに受賞したことになる。すごい。。。。

陽電子はアインシュタインの特殊相対性理論を当時黎明期だった量子力学にあてはめた結果導かれるディラック方程式によって予言された。(参照:相対論的量子力学)それまでの物理学で物質が存在することや存在しないことは例えていうならばプラスとゼロのことであったわけだが、その予言により「存在がマイナス」の状態があること、マイナスのエネルギーというものがあることが示されたのだ。
その天才ディラックが後年書いたこの「The principles of quantum mechanics」という量子力学の有名な教科書だ。第1版は1930年に出版され、この第4版は彼が58歳(1957年)のときに改訂されたもの。昨日神田神保町の明倫館書店で2500円で購入したばかり。英語で読み解けるかどうかはわからないが、持っているだけでワクワクできる名著中の名著だ。
明倫館書店は自然科学専門の古書店で、紙袋もアカデミックだ。(画像をクリックすると拡大する。)

今読んでいる「電磁気学の基礎 II」を終えてからこの名著に挑戦する予定だ。日本語版も購入済みだ。「量子力学 原書第4版」である。こちらは1968年初版で漢字は旧字体で書かれている。何でもペアで揃えたがる気質は子供のころから変わっていない。それは「対称性の美への目覚め」なのか?(笑)

肝心の陽電子についての記述は原著ではこのページに書かれている。(クリックで拡大)右ページ下に「positron」という単語があるのがわかる。

日本語版でこの箇所はこの部分。3ページにまたがっている。(それぞれクリックで拡大)


英語原著の本の帯には朝永振一郎先生による絶賛の言葉が書かれている。この帯も無くさないようにしたい。

理想的な量子力学の教科書
朝永振一郎
戦前から戦後しばらくの間に物理学を学んだ人たちにとって、量子力学の本といえばすぐ頭にうかぶほど、”ディラックの量子力学”は原書または訳書によって広く読まれたものである。物理学的な意味をいつもおもてにだすために、いろいろと新しい概念や手法がとりいれられ、本ぜんたいが始めから終りまで独創的であって個性味にあふれている。それでいながら、量子力学を学ぶ人たちにかたよらない系統だった土台を与えてくれるような一般性もそなえている。量子力学の教科書としては理想的なものといえよう。
4月14日に追記
和訳版のレビュー記事はこちらをご覧いただきたい。
内容:
I 重ね合わせの原理
II 力学変数とオブザーバブル
III 表示
IV 量子条件
V 運動方程式
VI やさしい応用
VII 摂動論
VIII 衝突の問題
IX 同じ種類の粒子をいくつか含む体系
X 輻射の理論
XI 粒子の相対論的な理論
XII 量子電気力学
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。

関連記事:
ディラック 量子力学 原書第4版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/717e864f937963ea7c8328f80ee34894
発売情報: ディラック 量子力学 原書第4版 改訂版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/19193db48c2ca3c17c9422d1827de6d4
ファインマン物理学(5):量子力学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/411653135d8d38fdacb16dc0dd3f9b94
量子力学I 第2版(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7a2a6fb8e53c35ae78ee655ab68d8219
量子力学II 第2版(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05312f75b4abbb854c1a81352abebae9
角運動量とスピン(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/57be844615ff28d6587522422b684221
新版スピンはめぐる(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/21ec31842746c520c1bbe876616c7d77
量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf5b874acf0b81d58d4bf8d8e66c6adf
実際には反物質は人工的に作り出すことができるのであり、現在ではいくつかの医療機器に応用され実用化されているのだ。また「CP対称性の破れ」を実証した高エネルギー加速器研究機構のKEKBファクトリーでの実験も電子と電子の反粒子である陽電子を衝突させたものだから、反物質はもはやSFの世界のものではない。
世界で最初に見つかった反物質は電子の反粒子である「陽電子」だ。英語ではポジトロン(positron)といい、プラスの電荷を持った電子ということになる。量子力学の研究の過程で1928年にディラックによってその存在が予言され1933年にアンダーソンによる実験で発見された。彼は1902年生まれだから31歳のときに受賞したことになる。すごい。。。。

陽電子はアインシュタインの特殊相対性理論を当時黎明期だった量子力学にあてはめた結果導かれるディラック方程式によって予言された。(参照:相対論的量子力学)それまでの物理学で物質が存在することや存在しないことは例えていうならばプラスとゼロのことであったわけだが、その予言により「存在がマイナス」の状態があること、マイナスのエネルギーというものがあることが示されたのだ。
その天才ディラックが後年書いたこの「The principles of quantum mechanics」という量子力学の有名な教科書だ。第1版は1930年に出版され、この第4版は彼が58歳(1957年)のときに改訂されたもの。昨日神田神保町の明倫館書店で2500円で購入したばかり。英語で読み解けるかどうかはわからないが、持っているだけでワクワクできる名著中の名著だ。
明倫館書店は自然科学専門の古書店で、紙袋もアカデミックだ。(画像をクリックすると拡大する。)

今読んでいる「電磁気学の基礎 II」を終えてからこの名著に挑戦する予定だ。日本語版も購入済みだ。「量子力学 原書第4版」である。こちらは1968年初版で漢字は旧字体で書かれている。何でもペアで揃えたがる気質は子供のころから変わっていない。それは「対称性の美への目覚め」なのか?(笑)

肝心の陽電子についての記述は原著ではこのページに書かれている。(クリックで拡大)右ページ下に「positron」という単語があるのがわかる。

日本語版でこの箇所はこの部分。3ページにまたがっている。(それぞれクリックで拡大)


英語原著の本の帯には朝永振一郎先生による絶賛の言葉が書かれている。この帯も無くさないようにしたい。

理想的な量子力学の教科書
朝永振一郎
戦前から戦後しばらくの間に物理学を学んだ人たちにとって、量子力学の本といえばすぐ頭にうかぶほど、”ディラックの量子力学”は原書または訳書によって広く読まれたものである。物理学的な意味をいつもおもてにだすために、いろいろと新しい概念や手法がとりいれられ、本ぜんたいが始めから終りまで独創的であって個性味にあふれている。それでいながら、量子力学を学ぶ人たちにかたよらない系統だった土台を与えてくれるような一般性もそなえている。量子力学の教科書としては理想的なものといえよう。
4月14日に追記
和訳版のレビュー記事はこちらをご覧いただきたい。
内容:
I 重ね合わせの原理
II 力学変数とオブザーバブル
III 表示
IV 量子条件
V 運動方程式
VI やさしい応用
VII 摂動論
VIII 衝突の問題
IX 同じ種類の粒子をいくつか含む体系
X 輻射の理論
XI 粒子の相対論的な理論
XII 量子電気力学
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量子力学II 第2版(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05312f75b4abbb854c1a81352abebae9
角運動量とスピン(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/57be844615ff28d6587522422b684221
新版スピンはめぐる(朝永振一郎著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/21ec31842746c520c1bbe876616c7d77
量子力学序説(湯川秀樹著):昭和22年初版本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf5b874acf0b81d58d4bf8d8e66c6adf
日本語でたくさん本が出ているんだから、洋書なんて読めなくても困らない!
・・・と以前は思っていたのですが、どうやらそうでもないらしい。
それを一番感じたのがファインマン物理学。
一見読みやすそうに見えるのですが、実は意味を取るのはかなり難しい。
その理由の一端はどうやら日本語訳にあって、本当に知りたいのならやはり英語みたいです。
これぞ、と思う名著は日英2冊を並列に見るのがベストなのでしょう。
偉そうに書きましたが、ファインマンの英語版とかは持っていません。
英語の勉強を兼ねて、いずれは手を出さなければ。
洋書がバリバリ読めるというまではいかず、普通に読めるという感じですね。外資系の会社に勤めているので英語は仕事で毎日読んでいるおかげでしょう。物理学書は使われる用語や文体が限られているので小説よりも読みやすいと思います。
とはいえ僕にしても日本語で読んだほうが読書スピードはずっと早いですよ。ファインマン物理学は日本語版だけ持っていて全部読みました。明倫館書店に行くたびに英語版をパラパラめくっていますが、いつも迷った挙句に買わずに出てきてしまいます。欲しいのですけどね。でも読んでいない日本語の本がたくさん買ってあるのでそちらを優先しているところです。rikunoraさんも僕も会社員ですから、趣味にあてられる時間は限られていますしね。でも僕は「物欲」に負けてそのうち英語版も買ってしまうかもしれません。(笑)
小林・益川先生の英語論文は和訳できるかなと読み始めていますが、数式はそのままグラフィックで取り込めばすみますが、本文中のギリシャ文字の添え字変数はどう入力すればいいかなとか、本筋以外のところで思案している最中です。TeXで全部書くのもまだ慣れていませんので。
お節介になるかなぁと思いながら書き込みます。
ディラックの定式化は、Rigged Hilbert Spaceを使っていることを指摘している
掲示板を見つけ疑問が解けました。あまりのうれしさで、お許し下さい。
http://oshiete1.goo.ne.jp/qa2129955.html
いえいえ、全然お節介なんかではありませんよ!教えていただきありがとうございます。紹介いただいた掲示板も読んでみました。
現在ディラックの量子力学の日本語版を半分ほど読み進んでいるところです。コメントいただいた内容に該当するところを読み直してみました。日本語版だと53ページの上のほうですね。(本をお持ちでなかったらすみません。)
ディラック自身も「ヒルベルト空間よりももっと一般の空間」と表現していますが、これはRigged Hirbert Spaceというものなのですね。
ボームについては格安の中古の「量子論」を見つけたので買い置きしておきました。でも彼のRigged Hirbert Spaceについて知るには「Rigged Hilbert Space and Quantum Mechanics」という本を読む必要がありそうですね。
これからもお気づきのことがありましたら、遠慮なさらずにお書き込みください。
nouseさんのブログでこのテキストの誤植を指摘しているのを見つけました。
http://yeblog.cocolog-nifty.com/nouse/2009/03/4-34e3.html
僕は今、この本のP248「VIII 衝突の問題」にさしかかったところです。そこまでで指摘されている誤植は4つですが、1つだけ自分でも気がつきました「無限の回転」と書かれている箇所です。他3つは気がつきませんでした。
それにしてもこのnouseさんは、よくこれだけ見つけられるものですね。それに引用文の中でちゃんと旧字体を使っていらっしゃいますし。。。(回轉、係數、量子力學、不變、反交換關係など。)
この本に赤ペン入れるのは若干抵抗を感じましたので、鉛筆で訂正を記入しようと思いました。あくまで気分的な問題ですね。(笑)
それにしても、アマゾンでこの本って高値がついてるんですねぇ。。僕はもっと安い値段で買ったように思います。
ディラックが発明したブラケットの解説をしているHPを見つけましたので
報告しておきます。
http://www.ms.osakafu-u.ac.jp/~kato/braket1.html
量子力学の歴史をまとめたPDFファイルもありましたので紹介しておきます。
こちらはお勧めで数学の発展と歩調を合わせて完成したと主張しています。
http://www.hmn.bun.kyoto-u.ac.jp/pasta/naka.PDF
実はディラックのブラケットの解説ページのことは知っていました。「ディラックの量子力学原書第4版」を読み終えてから書くレビュー記事に含めようかと思っていました。(笑)
PDFファイルのほうははじめて見ました。これは手短にまとめられていてわかりやすいですね。量子力学の根拠を与える数学として何を勉強すべきかがわかるので助かります。