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『白いリボン』

2010-12-12 08:54:10 | Movie
今年最も観たかった映画が、2009年カンヌ国際映画祭でパルムドール大賞に輝いたミヒャエル・ハネケ監督の最新作『白いリボン』。受賞の報道から待ち続けること1年あまり。そして、先日、ようやく鑑賞することができた私の個人的な感想は、この映画は今年度最高の映画だったということだ。

唐突に映画は始まる。黒いスクリーンに、白い小さなドイツ語の文字でタイトル、監督、編集、美術などの名前が静かにうかんでは消えていく。そのそっけなさに、小心者の私が久々に恐るべしハネケ監督との再会の心構えの準備をしていると、白黒の映像で美しいドイツの田園風景が広がる。その名画のように完成度の高い構図を開放感で鑑賞する間もなく、馬に乗ってひとりの男がやってきたかと気がつくと、またもや唐突に男はいきなり落馬して草の上に体が投げ出される。私はある程度の予備知識として、医師の落馬事故が物語の発端ということも知っている。しかし、この不親切とも思える映画のあっけないはじまりに、冷徹な作風が特徴のハネケらしさを感じて次の展開に期待しながら心を映像に集中していく。

そして、一般の映画には解答が用意されていて、鑑賞をすることによって完結するのではなく、観終わった後から観客は謎を解きながら考える課題を与えるのもハネケ流で、それゆえに難解と敬遠されがちだったが、今回は、村の小学校から赴任してきた若い教師が老後に過去をふりかえりながら出来事を語るナレーションが流れる手法をとり、第三者の客観的な視点、無力だが素朴で善人な”良心”という視座を設定することでこれまでの作品に比べたらぐっと受容れやすい。年齢とともにこの方もカドがとれたのかと思いきや、いや、むしろこれまで散々嫌われてきたアメリカ人向けに多少”わかりやすく”仕立てたのではないだろうか。冗談はともかく、古典的な作品は気品すら漂っていてひたすら美しい。ハネケ監督は映像をカラーではなくモノトーンにした理由を、美しさと客観性と説明しているが、それだけでなく役者の内面の心理を表す演技に集中できたと思える。実際、出演しているこどもたちも含めて俳優たちの演技には目を見張らせるものがある。半年間という歳月と7000人のこどもたちから選ばれた彼らは、架空の物語に残酷なくらいのリアリティを与えている。(正直、よくこれだけの役者を集めたと驚いた。)

ここから本題に入るが、ハネケらしいと言えば、彼ほど人間の心の闇を情け容赦なく暴き立てる不快な監督はいない。私たちがかろうじて、理性という衣装を着て隠している、海老蔵並みの高慢さや嘘、悪意、偽善、暴力性をひきずりだしてその醜い裸体をさらす、と言ったら人間不信者になるのだろうか。ハネケ作品を観ていると、100%善の人やまたその逆の人もいないように、私たちはかろうじて均衡を保ち、なんとかつつがなく平穏に生きている、もしくは生きていると思い込んでいるということに気がつく。本作も嫌らしくも、村たちの底にある悪が次々とうかびあがり、連鎖反応のように不穏な暗い空気がただよってくる。しかし、これまで個人の人間性の深淵を徹底的に追求してきたのだが、本作では個の集合体としての全体主義にせまることであらたな普遍性をうちだしている。私たちは時代からナチス台頭の萌芽をそこに見ることになるのだが、これは過去の歴史をふりかえる映画ではない。劉暁波氏のノーベル平和賞受賞に対する中国のふるまいを見るにつれ、悪しき全体主義を考えさせられる。また、それは厳格な支配階級と被支配階級の関係が硬直した社会の恐怖にもつながっていく。ここでハネケは、神という偶像の力を借りて人を支配する人間を描くことで神の存在すらも否定している。最後に流れる賛美歌の美しさが胸にせまってきて、やはり恐るべし作家ハネケと感嘆のため息をのみこんだ。

審査委員長が映画『ピアニスト』でカンヌ主演女優賞を受賞したイザベル・ユベールという事情が今度こそパルムドール賞、という下馬評どおりになったが、ハネケの集大成とも言える本作の美しく完璧な映像の前に、そんな揶揄は一掃されたはずだ。審査される監督と審査委員長の親しい事情を受賞の情実に結び付けたいマスコミに「とにかく素晴らしい映画を選んだだけ」とイザベル・ユベールは見事に打ち返し、「映画のテーマとの距離のとり方が完璧。メッセージを送ろうとするのではなく、物事を静かに描写している。」と称賛したそうだが、おっしゃるとおり!

第一次世界大戦直前の1913年、ドイツ北部の小さな村。
大地主である男爵が統治するこの村で、人々はプロテスタントの教義に基づき忠実に静かに平穏に暮らしていたはずだったが、医師の落馬事故をきっかけに次々と奇妙な事件が起こる。疑心暗鬼におびえる村人たちに、やがてもっと大きな悪がやってくるとは知りようがないのだったが。。。

原題:"Das Weiße Band"
監督:ミヒャエル・ハネケ
2009年/ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア合作

■アーカイヴ
『隠された記憶』
『カフカの城』
『ピアニスト』
『71フラグメンツ』
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樹衣子さん (xtc4241)
2010-12-16 14:15:48
こんにちは(いま12月16日pm2:10頃です)

「白いリボン」
このレビューについては、いろいろな見方が出来ると思います。
なんで、こんな映画を創るんだ。人間のいやな面だけを強調して・・・。
それは、それでいいのですが、僕が驚いたのはそのレビューとともに、書いた人が女性だということです。偏見かもしれませんが、冷静なひとりの知識人かなと思って読んでいたのですが・・・
コメント欄を読んだら「樹衣子」さんとあるではないですか。そして、プロフィールを見ました。
なにをつまらないこといってるんだろうとお思いでしょうが、ほんとうにそれが驚きでした。

僕も「白いリボン」のレビュー書きました。
へんなレビューですが、よかったら見てください。
xtc4241さまへ (樹衣子*店主)
2010-12-16 23:04:47
こんばんは★今は、22時45分になりました。
ご訪問&コメントをありがとうございます。
xtc4241さまの記事を読ませていただきました。(TBもさせていただこうかと思ったのですが、どうもTBできないように設定されているようですね。)詩的な雰囲気の中にも、xtc4241さまのおだやかなお人柄が感じられます。

ところで、ハネケ監督の静謐な作品と対峙すると、どうしても冷静に深く考ええざるをえませんので、日ごろはお間抜けキャラの私ですが、感想の文章にもそれが反映するのかもしれません。

>なんで、こんな映画を創るんだ。人間のいやな面だけを強調して・・・。

そうですよねっ、ところが、以前、DVDの特典映像のインタビューで見たのですが、ハネケのおっさんの素顔は意外と?ユーモラスでお茶目な感じでした。人間って本当に奥が深い・・・。

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