千の天使がバスケットボールする

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『天安門、恋人たち』

2009-07-19 12:19:57 | Movie
1987年、中国の東北地方に雑貨屋を営む父とふたり暮らしの美しい娘ユー・ホン(ハオ・レイ)は、憧れの大学、北清大学の合格通知を受取る。大喜びする彼女だが、故郷との別れは幼なじみであり恋人ショオ・チュンとの別離を意味する。故郷で過ごす最後の夜、ふたりは初めて結ばれる。
希望を抱いて北京にやってきたユー・ホンは、学生寮で後に親友となるリー・ティと親しくなり、彼女のベルリンに留学中の年上の恋人ローグから、チュウ・ウェイを紹介される。女子学生の誰もが彼と寝たいと思っているほど、魅力的なチュウ・ウェイ。まさに理想的な男だった。ふたりが、大学中評判の恋人同志になるのに時間はかからなかった。
激しく愛し合いながらも、その愛情の深さゆえにぶつかるふたり。
やがて自由と民主化運動の波が大学のキャンパスをおおい、89年6月の天安門事件をきっかけにふたりは別れていくのだったが。。。(以下、内容にふみこんでおります)

2006年にカンヌ映画祭で『天安門、恋人たち』が上映されるやいなや、中国国内でタブーとされていて話題にすらとりあげることのできない天安門事件を作品でとりあげていること、そして過激なSEXシーンを全裸で演じていることから、中国政府は即刻上映禁止と監督らに5年間の撮影禁止という処罰を与えた。本来の作品の内容に対する評価よりも、中国側の対応が宣伝効果を高めてしまったようだ。

まず、作品における天安門事件について。
この映画はあきらかに政治的な映画ではなく、恋愛映画である。確かに天安門事件を扱い、その事件の後遺症を登場人物らが抱えている面もあるのだが、1965年に生まれ、85年に北京電影学院に入学した監督自身の同世代の若者達共通の、「天安門世代」の青春像を描いている作品である。国が映画に対してどう対応しようと、80年代後半に北京で学生生活を過ごした「天安門世代」にとって、事件をぬきに自らの青春時代を語ることはあまりにも難しいのではないかと想像される。この映画を観ながら思い出したのが、小池真理子さんの小説「望みは何と訊かれたら」である。この小説も政治的な小説ではなく、あくまでも官能的な恋愛小説である。しかし、作家の小池真理子さん自身が”学生運動”の時代をいつまでも引きずっているように、同じ時代を過ごしたかっての全共闘世代も、自分史から”運動”という背景をきれいに取り除くことはできない。(小説の話題から、あの時代に都内の大学に通っていた団塊世代の友人が思い出を語ったところによると、彼女の関わった運動のリーダーも顔立ちがよくカリスマ性があり、女子学生はみな彼にひかれていったそうだ。そして、次々とそんな純粋な女子学生と行為に及んだのは、小説とそっくり同じだった。)「望みは何かと訊かれたら」が、政治的な小説と言われたら、作者も否定するだろう。

こうした学生運動でカリスマ性をもつには、品格のあるグッド・ルッキングが要件であろうか。『故郷の香り』で好演したグオ・シャオドンが、誰からも好かれる素朴な好青年から、先輩の婚約者であり恋人ユー・ホンの親友リー・ティと激しくむさぼるように肉体関係を結んでしまう複雑で難しい役どころを演じている。勿論、彼は品のあるよい顔をしている。視点を女性のユー・ホンではなくこのチュウ・ウェイにしたら、天安門事件に関わる政治的な映画として全く別の作品になっていたであろう。ついでなから、果敢にも全裸で挑んでいる。会話のかわりに、ユー・ホンの詩的な言葉をナレーションにして映像もこっている。特に事件の後、グオ・シャオドンがユー・ホンとリー・ティのふたりの女性と3人で長い道のりを歩いて帰る場面が、その後の彼らの歩みを予感しているようで美しくも哀切が漂う素晴らしさがある。

そして中国初の全裸の過激なSEXシーンについては、西側から見ると全裸も珍しくなければ、過激でもない。
日本の大学生は殆ど自宅通学か下宿するので、キャンパス内にある大規模な学生寮の生活は興味深かった。二段式ベットがふたつあり4人の大部屋だが、北京出身の女子と同室のリー・ティが彼女が自宅に外泊して個室状態になると、日本のようなラブ・ホテルのないお国の事情から恋人たちに自分の部屋を提供したり、女子学生が夜恋人の男子寮の部屋を訪問すると同室の学生たちが気をきかして数時間外出して部屋をあけるのも、諸々事情がわかり思わず笑ってしまった。主人公を演じたハオ・レイは、清楚で美しい顔立ちながら脱いだら意外と?淫らな体で、高校生から30代の成熟した女性まで繊細で内に秘めた激しい気性をよく演じている。愛が深いため、愛し過ぎるがために愛がもたらす苦しみから逃れるように別れをもちだす彼女の心理も、女性だったら共感しやすい。しかし印象に残るのは、むしろ美人のユー・ホンよりも親友のリー・ティ。
「愛とは心に残る傷で 傷がなおれば 愛は存在しない」
彼女の存在と行動が、映画にいつまでも消えない余韻を残している。確かに複雑な関係だが、青春時代には陥りやすくもあるか。。。
なんだか古い日本映画を観ているような懐かしさを彼らの服装にまで感じた。個人的に好きな映画だ。

ちなみに、最新作はこれまた国内でタブーの同性愛を扱った『Spring Fever』。おそらく国内では再び物議をかもすだろうが、この映画も観たい。

監督:ロウ・イエ
2003年中国製作

■これも好きな映画
『故郷の香り』


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2 コメント

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故郷の香り (kimion20002000)
2009-07-19 21:16:35
コメ&TBありがとうございます。
グオ・シャオドンの「故郷の香り」というのは、なんかとても印象深い映画でした。
ユー・ホンだって、北京に出なければ、たぶん「故郷の香り」のヒロインと同じように、都市に憧れを抱きつつ、故郷を離れられないひとりの女性であり続けたと思います。

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kimon20002000さまへ (樹衣子)
2009-07-20 11:42:37
リンクの件、ご了承いただきありがとうございました。
ブログの書き方によって映画の奥がもっと深くなるんですね。kimon20002000さまの記事はとても参考になりました。自分自身までふりかえりましたもの。

>グオ・シャオドンの「故郷の香り」というのは、なんかとても印象深い映画でした

都市と田舎の乖離って、昔は大きかったですよね。上京して一人暮らしをはじめて、自由と孤独を手にした地方出身組の彼女たちがうらやましかった自宅通学組でした。変わるものと変わらないもの、「故郷の香り」は日本人にも充分共感できる秀作でしたね。
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