千の天使がバスケットボールする

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『ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路』

2011-11-26 11:38:05 | Movie
モーツァルトが若くして亡くなった理由に、幼い頃から父レオポルドに連れられて、ヨーロッパ中を悪路にゆられて馬車で演奏旅行をした時の無理がたたったのだという説がある。
馬車の中でさえ凍りつくような冬の道、みすぼらしい宿屋、芸術を理解せず蔑すんだ視線で迎える尼僧、・・・映画は、父レオポルドが演奏旅行の資金を提供してくれたザルツブルグの友人に宛てた手紙からはじまる。報奨金の額に落胆し、財布に注意し、気をひきしめながらも、宮廷人たちをはじめあらゆる人々を美しい音楽で魅了したと伝えている。

「ヴォルフガングは陽気でいたずら好き。
ナンネルの演奏は見事で誰もが称讃する。」

困難な演奏旅行にかりだされていたのは、誰もが知っているモーツァルトだけではなく、4歳年上の姉、マリア・アンナ・モーツァルト(Maria Anna Walburga Ignatia Mozart)、通称ナンネルも同行していたのだった。彼女は、巧みにヴァイオリンを弾く弟の伴奏をし、黄金の声と言われるくらい歌がうまく、父にとっては、自慢の神童はふたりだったのだ。しかし、18世紀当時、女性が作曲家になることは考えられなかった。

ナンネルは幼い頃から、父の手ほどきをうけて音楽家としての才能の片鱗をみせ、神童として演奏旅行にも行っていた。しかし、弟のヴォルフガングが生まれるとやがて父の関心と情熱は弟に奪われて、ナンネルの音楽家としての道は、姉を凌駕するようになった弟の才能のかげに消えていった。ナンネルには、父の決めた娘は裕福な男に嫁ぐものという道しか残されていなかった。そして、ここからは、監督の想像の物語で、実は、ナンネルはベルサイユ宮殿で出会った王太子ルイ・フェルディナンに恋をしたのだったが。。。

映画の鑑賞で★の数や点数で評価や批評をするサイトをよくみかけるが、『ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路』は、簡単に点数などをつけられない不思議な映画だ。
ルネ・フェレ監督は、残された膨大なモーツァルト家の書簡や歴史書から、すっかり18世紀の世界に没頭したそうだ。蝋燭でともされた貧しい宿屋、一転、舞台はきらびやかでこれ以上ないくらい豪華な宮殿と美しい衣装、そこには忠実に18世紀のパリが再現されている。現代とかけ離れた18世紀があまりにも見事に再現されているために、逆に私には現実感から浮遊した御伽噺のような感覚が残る。

そして、抑制がきき、感情を表現しないナンネルと、友情を結んだ王大使の妹ルイーズ・ド・フランスの存在。彼女たちは、私が知っている感情をあらわにして自己主張をする欧州女性とは異なる。思春期のふたりの少女は、それぞれに恋をした。しかし、父親の意向だったり、身分の違いなどからそれが成就することは叶わなかった。それだけでなく、女性という理由で自ら道をすすめることもできない。少女たちは、苦しさや恋しさをすべて心に秘めて透明な表情で人生を見つめていく。最後まで、ミステリアスなのは少女たちの感情だった。

ナンネルは、31歳で父にすすめた富裕のかなり年上の相手に嫁ぎ、愛情のない結婚生活を送り、晩年は貧しく失明しながらも彼女の哀しい旅路は78歳まで続いた。

監督:ルネ・フェレ
2010年フランス製作


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2 コメント

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Unknown (KLY)
2011-11-28 01:39:26
あの思春期の女の子2人が両方とも監督の娘
だそうですね。見え方の余りの違いに少々戸惑
いました。
もう少し遅く産まれていたらクララ・シューマンの世代になると女性の社会進出も大分認められるようになっていたことを考えると、天才モーツァルトの出現とナンネルの不遇は本当に運命的なめぐり合わせとしか言いようが無いのかなとも思いました。
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ステージ・パパ (樹衣子)
2011-11-28 22:02:02
KLYさまへ

コメント&TBありがとうございます。

あの姉妹は全く似ていませんでしたね。けれどもふたりとも美しい女性に成長しそうで、しかも賢いらしく監督ご自慢の娘なのでしょう。演技力はそれほどあるとは思えませんでしたが、気品はありました。

>天才モーツァルトの出現とナンネルの不遇は本当に運命的なめぐり合わせとしか言いようが無いのかなとも思いました

もし弟が生まれなかったら、元祖ステージ・パパの情熱はすべてナンネルにそそがれて、彼女の功績は大きかったかもしれません。けれども、パパはパパなりに娘に愛情をそそいでいたのが感じられ、それが尚、一抹の寂しさとして観る者に残るのでしょう。

別件ですが、『サラエボ,希望の街』もTBさせていただきました。KLYさまの批評はとてもよくわかりました!
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