地獄生まれの異色ヒーロー、ヘルボーイが活躍するファンタスティック・アクションのシリーズ第2弾。今回は、皮肉屋の赤色モンスター、ヘルボーイの前に、魔界の王子と伝説の最強軍団ゴールデン・アーミーが立ちはだかる。監督は『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ。ヘルボーイを演じるのは、前作に引き続きロン・パールマン。見た目は怖いが心優しきヘルボーイの活躍と幻想的なビジュアル世界、さらにはユニークなクリーチャーが多数登場するアクションシーンに注目だ。[もっと詳しく]
誰がなんと言おうと、この世界は僕の「ご贔屓」であり、「偏愛」の対象だ。
誰がなんといおうと自分の中の「ご贔屓」は変わらない、ということがある。
僕にとっては、映画監督でいえば、ギルレモ・デル・トロがそうだ。
1964年メキシコ・グアダラハラ出身のデル・トロは少年時代からファンタジーにいかれてたのだろうが、『エクソシスト』の特殊メイクを手がけたディック・スミスに弟子入り、その後10年以上、特殊メイクの世界に携わっている。
『クロノス』(92年)、『ミミック』(97年)、『デビルズ・バックボーン』(01年)、『ブレイド2』(02年)と監督経験を積んだ。
それぞれは老いた骨董商人が不老不死を実現する機械に操られるという怪奇物語であったり、昆虫が人間を襲うホラーであったり、スペイン内戦下の少年の亡霊が復讐を果たすゴシック・ホラーであったり、ヴァンパイヤと人間の二重の血を持つ主人公のマーヴェルコミックの人気アニメの映画化であったりするのだが、そしてそれらの作品群はどこかB級ホラーの棚の中で埃をかぶっても良さそうなものなのだが、どっこいどの作品も僕には鮮烈な印象を与えられたものだ。
デル・トロ監督にとって、本当に撮りたかったのは、そのあとの『ヘルボーイ』(04年)なのだろう。
そしてスペイン内戦下のファシズムに圧迫される少女の、ファンタジーとリアル世界を往還する傑作『パンズ・ラビリンス』(06年)のヒットにつながり、『ヘルボーイ』シリーズ第2弾である本作を完成にこぎつけたのである。
「ご贔屓」といえば、個性派役者でいえば、『ヘルボーイ』シリーズで主人公のアヌン・ウン・ラーマ=ヘルボーイを演じるロン・パールマンである。
1950年生まれのこの長身でマントヒヒのような特異な風貌を持つ役者に、最初にお目にかかったのはウンベルト・エーコ原作の難解な記号学的解釈を要する知的ミステリーである『薔薇の名前』を、ジャン=ジャック・アノーが1986年に映画化した作品であった。
ショーン・コネリー演じる主人公が北イタリア僻地の中世の修道院で、修道士の謎の死を推理するお話なのだが、この作品でキリスト教の異端であるグノーシス派の奇怪な僧侶のような役どころで登場するのが、ロン・パールマンであった。
長身で猫背で背徳めいた下卑た呪詛を口にする、黒い僧衣を身に纏ったこの異様な容貌の役者に、僕はすっかりとりこになってしまったのだった。
『美女と野獣』の野獣役にぴったりだといえばいいかもしれない(実際にテレビシリーズで野獣役を演じている)。
その後は、さまざまな映画でその容貌に似つかわしい役柄で見かけるようになり、声優としても名声を得ている。
デル・トロ監督も、このロン・パールマンにぞっこんで、メキシコ時代の処女作『クロノス』に起用し、『ヘルボーイ』では渋るプロダクションを7年がかりで彼しかいないと口説き落とし、『ブレイド2』にも出演を願っている。
素顔のロン・パールマンを見れば見るほど、風貌がそっくりな有名人がいる。
「酔いどれ詩人」などと呼ばれ、しわがれ声で自作のバラードなどを歌うと泣けてくるトム・ウェイツである。
映画のサウンド提供も多いが、役者としてもいくつかの映画に出ている。
僕はほとんどのLPを持っているが、自分の部屋で酒を飲みながら本でも読むときは、まあ半分以上はトム・ウェイツをバックに流していたものだ。
そういう意味では、大の「お贔屓」なのだ。
そして、『ヘルボーイ』の1作目には、なんとトム・ウェイツが曲を提供し、歌も披露してくれているのだ。
つまり、デル・トロ、ロン・パールマン、トム・ウェイツと、僕が偏愛し、「お贔屓」にしている3人が、ここでセッションしているのである。
そういう意味でも『ヘルボーイ』は僕にとっては、特別な思い入れがある作品なのである。
『ヘルボーイ』は1994年、マイク・ミニョーラによって造形されたアメリカン・コミックのかなり特異なキャラクターである。
前作は、ナチス・ドイツの終末期、ロシアの怪僧ラスプーチンを暗躍させながら、アメリカ軍特殊コマンド部隊が回収したモンスター「ヘルボーイ」が神秘学者であるブルッテンホルム教授に育てられ、やがて超常現象捜査局(B.P.R.D.)で悪魔と戦いを続けるのだが、あのラスプーチンが復活して・・・というわくわくする(笑)、お話であった。
7フィート、500ポンドの体躯。
真っ赤な全身、角を切り取ったような切り株を額に残し、頭は河童状で、うしろでお相撲さんのように髪をチョンマゲに結っている。
長い尻尾を持ち、特殊拳銃サマソタニをやたらとぶっ放すが、射撃の腕はもうひとつ。
右腕が強力な武器であり、特に右手部分は超強固な石状物質と化しており、この手で相手をぶん殴ったり、防御したりするのだ。
水棲人である同僚のエイブや、念力発火能力を持つ恋人のリズや、すぐ保身にまわるマニング局長は、第1作ですでに御馴染みだ。
第2作となる本作では、第1作よりももっとデル・トロ監督の趣味・嗜好、つまり資質が反映されているように思われる。
アクション・シーンは特撮を精緻に繰り出し、「やってくれてるな」と僕などは嬉しくてしょうがないのだが、なにより抒情(ファンタジー)色が色濃くなっていることが注目される。
冷静さが売りのブルーこと水棲人のエイブがヌアラ王女に恋をしてしまい、涙腺がないはずなのに、涙まで流してしまう。
ヌアダ王子とヌアラ王女は双子の兄妹なのだが、エルフ界と人間界の棲み分けをめぐって哀しい対立をすることになり、ともに自死のようなかたちで滅することになる。
リズはヤンチャ坊主のようなヘルボーイの子を身籠り、母性の目覚めとともに、不安に苛まれる。
またヘルボーイも「父性」に少し目覚めながら、自分は人間界に同伴していてもいいものかどうか、なにやら似つかわしくない哲学的な煩悶がはじまる。
新登場の官僚っぽいお目付け役として登場する、幽体離脱をして自分の身体を持たないヨハンも、自らの役割に疑問を持つようになる。
登場するクリーチャーも、これまた前作に輪をかけて(というより『パンズ・ラビリンス』の妖精やクリーチャー造形の進化を経て)、ほれぼれする出来栄えである。
どこか哀しげなトロール族のウィンク、光るものに目がないいざり姿のゴブリン、石の巨人ゴーレムを彷彿とさせるジャイアント・ドアウェイ、地下に棲む目のないペイルマンに似た死の天使、昆虫と妖精の合体した小さいが獰猛なトゥース・フェアリー、森の守護神で環境問題を象徴させたかのような存在のエレメンタル・・・どれも、滅び行く存在の奇妙な哀愁のようなものを持っている。
そして、圧倒的なゴールデン・アーミーの隊列!。
この機械仕掛けの黄金兵士たちは、自己再生能力を持っており、つまりは生命/死というものをはなから相対化する存在となっている。
ここでは、エルフ族もトロールの住民も、王子・王女やエイブ、リズ、ヘルボーイの超能力トリオも、あまりにも感情と意味を持ち過ぎる存在として、並列して比較相対化されることになる。
『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』のDVD特典には、デル・トロ監督の映像解説が収録されている。
映画やアニメやVFXやCGや・・・なんでもいいのだが、クリエィティブのどこかに職業として携わりたいな、と思っている若い人たちには、格好の教科書になるはずである。
僕などは、もし自分にある程度の資産や実行力があるとしたら、ギレルモ・デル・トロ監督とそのチームの造形した、設定集やセットやクリーチャーやアニメーションやメイクアップや衣装・小道具など、ともあれすべての製作工程がわかる現物を一堂に集めた展示施設をつくりたいと本気で思う。
本物の役者たちは毎日6時間のメイクアップを経て、表情もさだかではない役柄で、けれど微細な唸るような演技を表現している。
さすがに、役者は常設してもらうわけにはいかないが、僕はたとえばトロールの市場の行き交うエルフたちの細部を何度も繰り返して観察したいし、B.P.R.D.の巨大な冷たい施設の中の肌合いを体感したいし、岩場の奥から入って、魔界の道を通り抜け、歯車がぎしぎし唸りをあげて回転するゴールデン・アーミーの隊列が無慈悲に動き出すシーンに驚愕したい。
そしてなにより、メキシコのテカラで酔っ払ったヘルボーイとエイブが(等身大のフィギュアがあればいい)お互いに悩みを打ち明けながら、その背後にバリー・マニロウの甘い歌声で「涙色の微笑」などが流れていたとするなら、僕はなんの文句もない。
それこそが「ご贔屓」に対する尽きせぬ偏愛なのである。
そして僕はシリーズ第三作を、焦がれて待つのである。
kimion20002000の関連レヴュー
『パンズ・ラビリンス』
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DVDスルーになっても、ヘルボーイの赤ちゃんは見たいところです。
もしかして赤ちゃんが赤くなかったりして???
といっても、アメリカでは「ベイビー」と「赤」とは関係ないですね。
双子だから、片方だけ、赤いとか・・・。
アイアンマンとかハルクとかそんなアメコミよりずっと面白いのになぁ。
クリーチャーの造形なんかは、ハリーポッターやロード・オブ・ザ・リングよりいいとも思うし。
「偏愛」だけど(笑)
てんこ盛りで、なかなか楽しませてもらいましたねー。
私も続編楽しみです。
お子ちゃまは、双子みたいだったので、
片方が赤い子???のような気がします!!!
ギルトロ館ができて、こういうクリーチャーをじっくりと見ることが出来たら面白いと思いません?
つまんない、ろう人形館とかを買収してさ・・・(笑)
この作品はまだ見たことがないのですが見てみたくなりました。
それから宣伝とかで見たとき、私もあの主人公トム・ウェイツに似ているといつも思っていました。素顔もメイクした顔もそっくりですね。
それにしてもほとんどのLPを持ってらっしゃるとはうらやましいです。
私の持っている中の1枚はレアでも何でもありませんが宝物です。
『ヘルボーイ』の1作目にトム・ウェイツが曲を提供しているとのこと。これは是非見なくてはですね(笑)。
トム・ウェイツは、明るい喫茶店やデニーズなんかで聞いたら駄目ね。
やっぱ、ウィスキーやバーボンでもかっくらいながら、聞くものです。
映画のスコア提供も多いですよ。
TB・コメントありがとうございました。
デル・トロ監督のオタクは半端じゃない
ようですね。「永遠の子供たち」は製作で
関わっていますが、これもなかなか良い
作品です。パンズ・ラビリンスと少し
似ているかもしれません。ぜひ機会が
あったらご覧ください!
そうですね。
僕の中では、「デビルズバックボーン」「パンズラビリンス」「永遠の子供たち」がひとつの流れとなっています。
しかし、「パンズ・ラビリンス」から二皮向けたくらい面白く、本作も第1作の陰鬱さを考えると予想外の楽しさに溢れてご機嫌でした。
要注目の監督になりました。
>ロン・パールマン
一度見たら忘れられない風貌ですね。
傑作「薔薇の名前」での我々の前に初お目見えしたんでしたっけ。
>傑作「薔薇の名前」での我々の前に初お目見えしたんでしたっけ。
1981年に「人類創生」という作品に出たのが、デヴューらしいですけどね。
記憶にないけど、原始人の役どころでもしていたのかしら(笑)。
評価があがったのが、やはり「薔薇の名前」でしょうね。そのあと、テレビシリーズ「美女と野獣」。