サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 08330「最高の人生の見つけ方」★★★★★★☆☆☆☆

2008年10月12日 | 座布団シネマ:さ行

ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン主演で描く、死を意識した初老男性2人の希望に満ちた余生を描く人間讃歌。病室で知り合った2人が意気投合し、“やりたいことリスト”に基づき、残りの人生を生き生きと駆け抜ける。感動ストーリーをさわやかなユーモアで描き切ったのは、『スタンド・バイ・ミー』の名匠ロブ・ライナー。いぶし銀の演技を見せる2人の名優の友情とすがすがしい笑顔に、思わずほろっとさせられる。[もっと詳しく]

「最高の人生なんてわかんないけどさ」と、呟きながらも、僕は・・・。

ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン。この名優ふたりの演技歴については、いまさら言うまでもない。
ジャスティン・ザッカムの脚本のうまさや、ロブ・ライナーの手馴れたヒューマン・コメディの演出ということを差し引いてみても、まず、この名優ふたりの掛け合いには、文句のつけようがない。
ある域を超えてしまうと、もう脚本がどうだ、演出がどうだ、ということ以前に、円熟した役者の自在な演技、存在感、アドリブをゆったりと愉しめばいい。
ましてや、名優ふたりの競演である。なにより、彼ら自身が、その競演を存分に愉しんでいることが、こちらに伝わってくる。



ところで、今回このふたりの名優に絡んで、とてもいい味を出していたのが、ニコルソン演じるわがままな資本家エドワード・コールの秘書役を演じたトマス役のショーン・ヘイズだ。
テレビコメディシリーズなどで注目されているらしいが、僕は知らなかった。
エドワードの皮肉や諧謔を受け流しつつ、生真面目な背広・ネクタイ姿で、ちゃーんとボスのことを思案しながら、モーガン・フリーマン演じるカーター・チェンバーズとの「最高の人生を見つける」ための冒険行をサッサと段取りするのだ。
たぶんビジネスにおける秘書としても、ボスに仕える執事としても、とても有能なように見えるが、もちろんそうした職能的優秀さだけでなく、「余命半年」と宣告された父親のような年齢のふたりの初老の男に対する、愛情と敬意と気遣いをとてもバランスよく表現しているのだ。
ユーモアと機知に溢れ、このふたりの周囲からは反対される冒険行の共犯者としても、十分確信的なのだ。
僕なら、この作品に助演男優賞があるとすれば、間違いなくこのショーン・ヘイズを指名するだろう。



カーターは歴史を学ぶ優秀な大学生であったが、在学中にバージニア(ビバリー・トッド)と結婚をし、貧しさから学問を断念し、46年間自動車整備士として幸せな家族をつくりあげてきた。
一方で、エドワードはやり手の経営者であり、買収や株投資を通じて莫大な財産を獲得した。その過程で敵も作り、家族との離縁も経験している。
その同年代のふたりが、たまたま癌での余命半年を宣告され、エドワードの経営する病院で同室となる。
家族思いで、沈着・冷静で、インテリジェンス豊かな常識人であるカーター。
一方で、アクティブで、気分屋で、毒舌をふりまくエゴイスティックにも見えるエドワード。
水と油のようなふたりだが、「同病相哀れむ」ということもあったのかもしれないが、いつしか互いのことを話し出したり、トランプをしたり、相手を気遣ったり・・・つまり、友情らしきものが芽生えてくることになる。
カーターは若い頃、恩師から教えられた「棺おけリスト」を、病室で書き始める。
「棺おけリスト」つまり、命あるうちにやりたいこと、チャレンジすること。
そのメモをみつけたエドワードは、自分のリストもその紙に勝手に付け加えながら、「病院を抜け出して、そのリストを実行しに行こう!」と提案する。
そして、周囲の反対を振り切って、ふたりは秘書トマスの助けを得ながら、冒険行に旅立つのである。



タージマハルに、クフ王のピラミッドに、エベレストに、野生の楽園セレンゲティに、ふたりは専用ジェット機で飛び回る。
あるいは、妖しげなタトゥーショップで刺青を彫り、小型機でスカイダイビングに挑戦し、最高級レストランで味に酔いしれ、クラシックレースカーでスピードを競い合ったりする。
もちろんこんな真似は、大金持ちのエドワードがいるからこそできる、金に糸目をつけない贅沢な経験である。
痛みを抑えながらの冒険行のなかで、眠れない夜を過ごしたり、大自然の中で自分たちの孤独をより感じたり、「世界一の美女とキスをする」といったエドワードの茶目っ気リストのせいで、美女との「偶然の出会い」を仕掛けられたことに腹を立てたり、といった哀しみや軋轢も存在はする。
操状態にも似た冒険行の末に、カーターは最愛の家族の下に戻り、エドワードは別れたまま会うことができなかった娘を訪ねることになる。
友情や、愛や、人生は、結局のところ、なにものにも変えがたい価値がある、といったヒューマンなところにおさまるような結末は、あまり好みではないが、いかにもロブ・ライナー監督らしい温かい構成ではある。



しかし、と僕は考えてしまったりする。
現実の世界には、エドワードのようなポジティブで機知に富んだ享楽的な大金持ちの友だちはそんなにはいないだろう。
あるいは、カーターのような小さな家族の幸せのために自分の生活を捧げながら、インテリジェンスに富んだ静かな哲学者のような資質を持っている友達も、めったにいないだろう。
エドワードとカーターは、お互いに自分にはないものを相手に見出している。
それとともに、それぞれがお互いの人生哲学をよかれあしかれ貫いてきたということで相手を認めている。
ただこの偶然の出会いは、「余命半年」という同じようにふたりに降りかかった<運命>によって、もたらされたものである。
そのことの「皮肉な巡り合わせ」こそがこの世界の、もしそれを<神の恩寵>と呼んでみても、<阿弥陀の計らい>と呼んでみてもいいのだが、なにかしら「不思議」に導かれているように感じられる。



「余命」を告げられたとき、臆病な自分などは、どのような感慨を持ち、どのように意識を保ちあるいは取り乱し、どのように残りの人生の優先順位をつけるのか、つまり「棺おけリスト」をつくるのか、わからない。
キューポラ・ロスのいうような「死の受容」にいたる心的プロセスは、自分にもまた、当てはまるのかもしれない。
けれど、もう僕もそうなのだがある年代になってくると、無意識に「棺おけリスト」をつくったり、あるいはそのリストの意味づけを漠然と考えたり、ということにすでに差し掛かっているなと、感じることがある。
それはうっすらとした欝状態への傾斜なのかもしれないし、短く愉しいことを切り刻んでイメージしながらも、ともあれ今日あることを自分の中で確認作業をしていることなのかもしれないな、と思うことがある。



ただ、僕も「病院」という空間の中で、「死を準備されている病人」として扱われることに対しては、おそらく我慢がならないであろう。
「死ねば死にきり」だし、もう「死」の直前はたぶん意識もなく、「死」は自分のものではなくなっているだろう。
だとしたら、僕にはエドワードのような大金持ちやカーターのような人格者は見つけられないかもしれないが、それでも病院を抜け出してあるいはホスピスのようなところからなるべく遠いところで、「最高の人生なんてわかんないけどさ」と呟きながら、ともあれ意識がある間は、あるいは痛みに耐えられる間は、できるだけ普通に存在していることができればいいな、と思う。



僕も僕の連れ合いも、両親はすでに墓石の中にいる。
何人かの知人も早く逝ってしまったし、これからはもっともっと、訃報を聞く機会が多くなるだろう。
他のどんなことも勉強したり経験したりすれば、この世の中のことはもしかしたら輪郭ぐらいはわかるようになるのではないか、などと楽観的な空想をすることがある。
けれど、自分の「死」だけはおそらく自分では分からないし、それでいいのだろうと、いまの僕は思い決めることにしている。




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12 コメント

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TBありがとうございました。 (sakurai)
2008-10-14 08:39:14
あの老練の二人に負けずに、秘書トマスがいい味わいでしたね。
映画見てる時は気付かなかったのですが『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』がベースになっているということで、ずいぶん味わいに違う作品になったなあと感じました。
やっぱ、アメリカですかね。
そしたら、日本でもリメイクするとか・・。こっちはまるで期待はしてませんが。
今年は『死』にどう見合うかという映画が、とっても多かったような気がします。
sakuraiさん (kimion20002000)
2008-10-14 09:43:39
こんにちは。
僕は『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』は、未見なんです。
脚本はいいですね。当然、役者も・・・。
でも、ちょっと予定調和的なところに収めすぎたかなあ、という印象もあります。
おはようございます。 (ryoko)
2008-10-14 10:20:38
TBありがとうございます。
健康な時は「死」を意識することなく、無意識に意識しないように暮らしていますが、誰しも長い短いはあるけれど確実に近づいているんですね。
ノー天気な私も、来し方行く末を考える良い機会になりました。
でも、あと何年ってわからないからなかなか難しいナ。わかったらわかったで、うろたえてどうなるか・・・
こんな豪勢なことは出来なくても、ベッドで寝たきりでなく、日々を送りたいですね。

秘書のトーマス、控えめですが印象に残りました
ryokoさん (kimion20002000)
2008-10-14 11:16:44
こんにちは。
いまだから告知を望む人が多いのですが、家族の側から見るとなかなか難しいですね。
僕も母のときは、やはり告知を伏せました。
Unknown (ゆかりん)
2008-10-14 12:41:04
こんにちは♪
ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの演技も素晴らしいですが、トマス役のショーン・ヘイズもはずせませんよね。トマスは控えめだけどとても印象に残りました。
ゆかりんさん (kimion20002000)
2008-10-14 13:45:10
こんにちは。
そうですね。
僕、彼のような秘書が欲しいなあ(笑)
出会い (oguogu)
2008-10-17 22:41:12
TB&コメントさせてもらっちゃいますねぇ~。
 初めまして、TBありがとうございます。
是非今後はコメントも交えてお付き合いしていただければと思います。
これも一つの出会いですよね?
この2人のようなお付き合いは出来ないかもしれませんが、
このようなつながりも大切にして行ければ幸せな人生なんじゃないかなぁと思います。
今後ともヨロシクです。
oguoguさん (kimion20002000)
2008-10-18 01:03:58
はじめまして。
そうですね、
まあ、気楽にお互いに交信しましょう!
Unknown (moriyuh)
2008-12-01 23:23:58
こんばんは。
TBありがとうございました。
お返しが大変遅くなりすみません。

>「最高の人生なんてわかんないけどさ」と呟きながら、ともあれ意識がある間は、あるいは痛みに耐えられる間は、できるだけ普通に存在していることができればいいな、と思う。


この作品、私の中では今年のベスト3の1本かな?と思っています。
「最高の人生」とは、シンプルな喜びでとても身近なものなのかな?

という気が致しました…。


moriyuhさん (kimion20002000)
2008-12-02 04:44:26
こんにちは。

年齢と共に、その捉え方も変わってくることもありますね。
いまでもまあ人に自慢できる生き方はしていませんが、若い時は・・・もっとお恥ずかしいです(笑)

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