サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 06161「プライドと偏見」★★★★★★★☆☆☆

2006年07月30日 | 座布団シネマ:は行

「ブリジット・ジョーンズの日記」の基になった、ジェーン・オースティンの小説「自負と偏見」を美しい田園風景を背景に映画化したラブストーリー。主演は『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』でブレイクしたキーラ・ナイトレイ。監督は本作が長編デビュー作ながら見事にこの名作を描ききったジョー・ライト。オール・イギリス・ロケで撮った由緒ある豪邸の数々も要チェック![もっと詳しく]

漱石も絶賛したオースティン文学は、食卓で観察し書かれたロマンスである。

 ジェーン・オースティンは、18世紀から19世紀にかけての、イギリス女流文学者として、偉大な存在である。イギリス近代小説の祖とも、リアリズム小説の先駆けともいわれる。
英国留学で英文学を研究した夏目漱石も、オースティンを絶賛している。
イギリスの田舎の中流階級の女性たちを、いきいきと描いたこの「プライドと偏見」も過去に数回映画化されている。
ベネット家の5姉妹の「結婚」をめぐる物語が皮肉と愛情をこめて、いきいきと描かれている。

 

当時の女性たちにとって、誰に嫁ぐのかというのが最大の関心事であり、嫁げない場合は、一生、父親か兄弟に面倒を見てもらうことになる。
ベネット家も使用人がいて、それなりの大きさの邸宅ではあるが、少しでもお金があり、家柄がいい家に嫁ぎたいというのが、娘たちの憧れであり、親の願望でもあった。
5姉妹とはいっても、話の中心は、聡明で気品のある長女ジェーン(
ロザムンド・バイク)と大富豪であるヒングリー、そして、勝気で行動的な次女エリザベス(キーラ・ナイトレイ)とヒングリーの友人で家柄もよいダーシーという二組の、恋の鞘当と成就がテーマになっている。

 

オースティン自身も、中流の家に生まれ、8人兄弟の7人目で、次女として生まれている。
3歳上の長女カサンドラとは、生涯を通じて、深い交流があった。
この作品の長女と次女の姉妹像に、自分とカサンドラを重ね合わせていると見ていいだろう。
この時代のある程度の家柄の男女の出会いは、舞踏会であった。
着飾った男女は、そこで、動物の求愛あるいは誇示の動作と同じくパフォーマンスを繰り返し、その後は、男性から「家」を通じて正式な交際を求めることになる。



この物語では、長女と次女の交際相手が、ベネット家より格式が上であることから、軋轢が生じ、「プライド」や「偏見」が過剰に反映せざるを得ない様子が、リアルにそしてある意味で滑稽に描かれている。
娘達を売り込もうと奮闘する母親(
ブレンダ・ブレシン)、女系家族の騒ぎに辟易して隠遁気味の父親(ドナルド・サザーランド)、家柄の不釣合いに不満を顕にするダーシーの係累キャサリン夫人(ジュディ・デンチ)らに、演劇界の重鎮を充て、リアリズムある演技を繰り広げている。

 

とはいえ、ヒロイン役を演じたキーラ・ナイトレイがすべてといってもいい。
キーラは、舞台俳優の父と劇作家の母のもとに生まれた。3歳で、エージェントを持っている両親に対し、自分にもエージェントが欲しいと言ってのけたらしい。
6歳で、勉強もしっかりやるようにという約束の下、演技の勉強を許され、7歳ですでにチョイ役を獲得している。早熟で、勝気で、目立ちたがり屋であったのだろう。
その後、99年「スターウォーズ/エピソード1」でアミダラ王女を演じた
ナタリー・ポートマンの影武者として(なるほど、よく似ている!)脚光を浴び、「ベッカムに恋して」で、ハリウッドにも注目され、ウィノナ・ライダーのような正統派美人として(ウィノナが盗癖で逮捕されたこともあるかもしれないが)、起用されることが多くなった。
パイレーツ・オブ・カリビアン」「キング・アーサー」「ドミノ」などなど。

 

「プライドと偏見」では、心理描写に若くして才を発揮したジェーン・オースティンという作家と、作品中におけるエリザベスという魅力のあるキャラクターと、幼い時から自分の進路を強く確信していたキーラ・ナイトレイという正統的な女優が、重なり合ってひとりの18世紀終盤の女性でありながら、きわめて現在に通じる感性をもった女性像を現出しているように思える。
ここで、提示された「ロマンス」に、近代以降の女性の心理の原型は、ほとんど出し尽くされているように思える。
ここから約200年、時代は経過しているが、そのときどきの時代背景や家族環境、女性を巡る自立の形態の変遷を加味すれば、「ハーレークインロマンス」の核にあるものはそれほど変わりなく保存されているかもしれない。
あとは、「通俗」の調味料をどれほど、まぶすかということだけかもしれない。

 実姉のカサンドラが描いたオースティン

ジェーン・オースティンは、書斎を持たず居間の机でそのへんの紙の切れ端に小説の断片をメモしていたらしい。
人が訪ねてくると隠し、「BY A LADY」という名義で発表していたため、村人は作家であることを知らないままであったという。
「romance of the tea-table」それが、オースティンの作品群につけられた愛称であった。


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71 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございました (ミチ)
2006-07-30 23:10:29
こんばんは♪

何百年経とうと女性の心理などは変わりませんね~。

だからこそ逆に、その時代時代の背景や道徳や価値観などいろんな加味されているものがとても興味深いです。

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ミチさん (kimion20002000)
2006-07-31 00:26:21
こんにちは。

映画というものは、それぞれの時代と背景をよく、伝えてくれますね。知ってるようで何も知らない、イギリスのこの時代のひとつの側面が、よく理解できました。

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エリザベス (ひらりん)
2006-07-31 01:33:20
TBありがとうございます。



キーラ・ナイトレイは、「パイレーツ~」でも、たしかエリザベス役でしたね。

さすが、英国が舞台だと、役名もかぶるのでしょうか。
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ひらりんさん (kimion20002000)
2006-07-31 01:57:13
こんにちは。

ああ、そうでしたか。

イギリスの古典的な名前なんでしょうね。

女王様もすぐ連想できますしね。
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Unknown (ココ(ココのつぶやき))
2006-07-31 09:19:12
こんにちは。はじめまして。TBありがとうございました。

キーラ・ナイトレイ、活躍していますね。昔、スター・ウォーズの

ナタリーの影武者だったなんて、信じられませんね。

とってもいい映画でした。TBバックさせていただきます。
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ココさん (kimion20002000)
2006-07-31 09:31:36
コメントありがとう。

キーラ・ナイトレイは油が乗っていますね。

この映画と、DOMINOは、正反対のつくりでしょうに、相次いで主演するとは、たいしたものです。
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TBありがとうございます (roselavender)
2006-07-31 20:52:13
こんにちわ。はじめまして!

TBありがとうございます。

記事よまさせていただきました。

とても詳細にご紹介してあって、参考になりました。

キーラナイトレイがとても綺麗ですよねw

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素晴らしいブログですね (sonetchi)
2006-07-31 21:07:44
TRACKBACK有難うございます。

「プライドと偏見」の研究レポートを読むかのようなブログでした。大変勉強&参考になります。

これからも素晴らしいページを増やして行ってください。



キーラのように、「旬の女優」は、残念ながら30代になると、どうしても出演作が減ってしまいがちです。旬のうちに沢山名作に出演してもらいたいと思っております。
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コメント多謝 (kimion20002000)
2006-07-31 21:20:53
>roselavenderさん



はじめまして。これからも、気軽に、のぞいてください。



>sonetchiさん



やっぱ、旬の女優は、旬のうちですかね。

年をとって、内面の美しさが、出てくる女優さんもいますけどね。
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TBありがとうございます (かっぱかえる)
2006-07-31 21:22:39
TBありがとうございます。

詳しい解説ですね。

この原作が好きでBBC版「高慢と偏見」も観賞しようと思ってます。
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