目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

オッペンハイマー

2024-04-28 12:50:00 | ★★★★★
やっとオッペンハイマー観られた。
IMAXではもうやってなくて悲しみつつ…
これ、IMAXで観たらもっとググッと来るところ、いっぱいあったなあ…
とはいえ、普通に観ても十二分にぐいぐい来る映画だった。
あくまでも彼の映画で、描いている部分と描かれていない部分がある。
赤裸々なシーンもありつつも、案外と原爆の威力を確認するシーンではそれそのものは描かれなかった。

私は別段、広島や長崎のシーンを描くべきとは思わなかったが、現地の様子のフィルムを目にしたのであれば、そこは直視して映して欲しかったようにも思う。
彼が罪の意識を感じた根源はまさにそこにあるはずであり、実は一番重要なシーンだったのでは?とは思う。
ただ、そのフィルムを直接的に映してしまうと映画のフォーカスはズレてしまう。
これは難しい問題で、だからこそ、日本でも論争になったのだとも思う。
多くの米国人にとっては真珠湾は忘れないが、広島・長崎はどうだろうか。
日本人もまた同じで自分達がしたことは忘れている人も多いかもしれない。

全部を覚えておくことは出来ないにしても、互いに知っておく必要があることはあるのだろう。
岸田首相が国賓待遇で招かれた晩餐会でのスピーチで彼は6回、最後の最後にまで、広島の名前を口にした。
これはなかなか出来ることではないだろう。
アメリカ人大統領が日本の晩餐会で真珠湾を何度も口にすることはないであろうことを考えると、その関係からしてもなかなかに考えさせられるものはある。

この映画が描きたかったのは何だったのかなあとは考える。
ストロースはオッペンハイマーを引きずり落とすために策を弄したことにより閣僚になれなかった。
オッペンハイマーの名誉は回復された。
しかし、とは思う。そして、不穏に映画は終わる。

世界を焼き尽くすだけの力を人類は得てそれを2度使った。
そして、さらに水爆に発展していく。
鑑賞後、テラーの生涯などを知ると、オッペンハイマーとは対象的であり、そして、20年前までは存命で最後まで核開発推進論者であったと知り慄然とする。
科学者はその自らが開発した成果物を想像して良心の呵責を感じるべきなのか、否か。
こればかりは人によるのだろう。
ノーベルはダイナマイトを開発した、と劇中では述べられている。
核開発に逡巡した人たちもいた。

アメリカの論理からすれば、本土決戦にならなかったことにより、アメリカの人民の命は救われた、とも言え、それは確かにそうなのだろう。
グローブス少将の主張した通り2回落としたことで日本は降伏したとも言えるのだろう。

恐ろしい核爆発や東京大空襲の下で何が起こったのか、克明に描かれる映画がハリウッドで作られることは今後もあんまり無いかも知れない。
インディジョーンズのクリスタルスカルなんかで描かれたような馬鹿げたシーンが描かれなくなれば良いなあとは思う。
クリスタルスカルのシーンは科学的におかしい。
そんな細かいことを娯楽映画で言うなよと思うかも知れないが、核を描くのならば、そこには厳然たる覚悟を持って描いて欲しいとは思うのですよね。
後世の無邪気な人が勘違いしないようにね。

8/6、8/9、8/15を日本人は忘れないと思うが、米国人が12/8や9.11を忘れないのもまた然りなのよね。

オッペンハイマーできのこ雲としてでも広島、長崎が表現されなかったのは良かったのかもしれない。
なぜなら、きのこ雲はあくまで米軍機からの視点でしか見ることができない映像でしょう。
つまり、米国の視点なんですね。それは本当にリアルではないわけですね。被爆者にとっては。
痛みを伴う表現こそが、焼け爛れた皮膚の被爆者たちの映像であり、直視に堪えないものだったはず。そこを描き切ることもできただろうけどノーランはそれはしなかった。あくまで、オッペンハイマーの視覚や想像の中で起こるものが描かれた。

ここを捨象するのか、拾うのかで映画のトーンはものすごく変わったと思う。なんなら、多くの米国人は直視出来なかったと思われる。(=興行収入にダイレクトに影響)米国人もヒューマン系と思って観に行ったらとんでもない映像出てきたらやはり物議になるだろうし避ける人もいるだろう。
戦後オッペンハイマーが反核に近い立場を取ったのは放射能によって何が起こるかを本当の意味で理解したからだと思うのですよね。その他の人たちは本当の意味では理解してない人が多かった。この差分を表現するためには、やはり被曝のフィルムを映画に収めない、というのが選択になりえるのよなあ…

直視せよ!と思う人が多いのは当然と思う。いつの日か、そうした作品が出てくることを切に願うばかり。オッペンハイマーはまさにその途中の作品なのだと思えば、これはこれで大変に意義のある作品だと思える。米国民の原爆に対する意識はまさにきのこ雲であり、それをTシャツにするくらいなので。

この手の話になると思い出すのは核の街、プルトニウムを作ったアメリカの街に留学した子の動画だ。アメリカと日本の認識の差分はかなり大きいことがわかる。
そのほかにもウルヴァリンやダークナイトライジングでも被曝シーンの出来は酷い。ちょっと強力な爆弾みたいになってる。出すならばちゃんと描いて欲しい。











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