目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

ある男 ★★★★★

2024-03-03 11:35:52 | ★★★★★
ある男

(以下映画.comより)
芥川賞作家・平野啓一郎の同名ベストセラーを「蜜蜂と遠雷」「愚行録」の石川慶監督が映画化し、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝が共演したヒューマンミステリー。

弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。

弁護士・城戸を妻夫木、依頼者・里枝を安藤、里枝の亡き夫・大祐を窪田が演じた。第46回日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む同年度最多の8部門(ほか最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞)を受賞した。
(以上映画.comより)

Amazonプライムで鑑賞。事前情報を全く入れずに観ました。日本映画賞総なめしてたんですね。
それすら知らずに観ましたが、面白い作品でした。

テーマにも触れますので、ネタバレもあるかもしれませんのであしからず。
傑作!とまでは言いませんが非常に面白くよくできた映画だったと思います。

簡潔に言えば、日本社会に広く通底する差別や偏見が生むアイデンティティクライシスのお話でした。
冒頭から気になる引きで始まりましたが最後まで緊張の糸はほぼ切れず、この話はどこに着地するんだろうと思いながら、不穏な感じも残しながら最後まで引っ張ってくれました。出てくる役者さんがベテランも若手も含めて非常にバランス良くレベルの高い演技を見せてくれました。

ラストのシークエンスで、妻夫木演じる城戸までもが、他人の人生になりすまそうとしていて、なぜ?となりましたが、この映画の主題がアイデンティティだと思えば、それはすごく納得感がある終わり方だと思わされたのでした。

劇中、城戸は大祐の人生を追いかける過程で、自分の義理の親からの発言や獄中の男からの発言により、自己のアイデンティティに向き合わざるを得なくなる。
そして、また、その調査の中で浮き彫りになっていく大祐の過去を城戸による調査報告として知ることで、里枝の息子もまた、アイデンティティで苦しむ。ころころ苗字が変わる自分は果たして何なのか?と。
大祐もまた、殺人者の父を持ち、その様を目の当たりにしたことで消えないトラウマを心に抱え、鏡に映る父に瓜二つの自分の顔に戦慄し続けている。逃げても逃げても追いかけてくる亡き父の影に怯える。そして、「何かのきっかけ」で他人の戸籍と交換し人生をリセットする。(しかし、作中ではその何かのきっかけは

自分を自分として規定しているものが戸籍なのか、親なのか、それとも国籍なのか、家族なのか、妻なのか、それとも妻の両親なのか。自分の実家なのか。はたまた、遠い遠い三代も四代も前の祖父や曽祖父なのか。

人殺しの子はやはり人殺しの子だからといってお天道の下を歩けず、人から蔑まれないといけないのか?
在日朝鮮人の子どもは何代かかっても本当の意味で帰化できないのか?謂れのない差別を受け続けなくてはならないのか?
苗字は自分の意思ではないところでどんどん変わってしまい、それでも苗字が自分を構成する要素なのだとしたら、自分は一体何者なのか?そして、それを他人にどうやって説明すればよいのか?

現状、この衰退していく中で極右化が進み差別と偏見の蔓延する日本社会の中で自らの出自や己は何者か?と言ったアイデンティティで苦しむ人たちがそれぞれに結論らしいものは出せず、それでも自分たちなりに自分とケジメをつけて、折り合いを付けながら歩いていくしかない。
どこまで逃げても自分は自分で変えられず、逃げられない、しかし逃げることによって得られた幸せも確かにあった、という話とも思いました。



余談ですが、
多数の死傷者を出した連続ビル爆破事件の指名手配犯 桐島聡が偽名で日常を過ごして、存命かつ、自分の身分を名乗ってから、逮捕もされず、亡くなるという事件が最近ありましたね。結果的にその彼は、人生の大半を偽名で生きて働いていたことが明るみになり、意外と東京都に近いところで、全国指名手配にも関わらず、ずーっと偽名で生きていました。
最後の最後に「桐島聡として死にたかった」と病院で証言したと言われています。
まさにその人のアイデンティティは何だったのか?という話でもあったと思っています。
(勿論、多くの人を殺したから指名手配になっていたわけで、逃げていたこと自体、褒められることではないわけですし、犯した罪を彼は逃げずに司法の場で裁かれ、償うべきだったと強く思います。)
そういう意味では映画の描いた主題に少し近いようなお話なのかなとも思ったのでした。
原作小説や映画が描いているのは、少し違っていて、本作の主題は「偏見や差別が起こすアイデンティティの問題」ではあるので、ずれがあるんですけどね。


ミーガン ★★★

2024-01-14 16:36:44 | ★★★
ミーガン
サンフランシスコから帰りの飛行機で鑑賞。これはなかなかに面白い作品でした。AIが昨年はもてはやされ、今年もその勢いはとどまることを知りませんが、そんなAIが今後どうなるか?のダークサイドを描いた作品とも言えるのでしょう。
両親を事故で亡くしてしまった姪の心を癒すために超高性能な等身大の人形のおもちゃを作りあげた主人公の女性エンジニアがそのおもちゃが引き起こす事態に翻弄されていくお話です。
予告編は結構流れていたのでSFスリラーであることはなんとなく予想できるのではないでしょうか。チャッキーあたりを思い出す人もいるんではないかな。
この女性エンジニアは姪を引き取るのですが、仕事で忙しくてあまり姪をきちんと育てることが出来ません。そんな状況から、人形を作りあげるわけですが、お話の流れからして女性エンジニアは必ずしも良い代理親とは言えず、おもちゃ開発の仕事が忙しすぎて姪の面倒を見る時間も無いわけです。お話の構造的に、こうしたある意味で自己中心的な主人公は報いを受けることが多いわけですが…

それにしても、技術の進歩というのは恐ろしいものでこうしたミーガンという人形のおもちゃが実際に存在していてもおかしくはないなと思わせるような時代になってきました。本当にAI技術とロボティクス技術が進歩した時にこうした事故を防ぐことは本当にできるのか?というのは大変気になるところです。ロボティクスはだんだん小型化していますし、AIやセンサーの技術も徐々に進化していますので確かにいつかはそうした日がやってくるのだとは思いますがそれは意外と早いのかも、そして、私の生きてるうちにそんな日が訪れるのかも、と思わされます。

SFスリラーとしてはなかなか面白かったです。

Barbie ★★★★

2024-01-14 16:35:46 | ★★★★
Barbie
サンフランシスコからの帰りの飛行機で鑑賞。バービーはマテル社のおもちゃなわけですが、そんなバービーがおもちゃの世界バービーの世界であるバービーランドから実際の現実世界、リアルワールドに飛び出してきた、というお話です。
おもちゃの世界、ということで最初からなかなか飛ばしてきますが、設定を理解するにはそんなに時間はかかりません。バービー人形やリカちゃん人形で遊んだことがない人たちは殆どいないわけですから。(大きな手の話もなかなか面白い)
バービー人形について詳しければ、より楽しめる作品になっています。日本にはリカちゃん人形があるため、バービーはそこまで人気ではないかもしれませんが、それでもおおよそ、キャラクター性は類推できるようになっています。(そういえば、リカちゃんの場合、ボーイフレンドは確かイサムくんか何かでかなりジャニーズっぽいイケメンだったけど、バービーの場合のケンがイケメン白人金髪マッチョなのはやっぱりお国柄なんでしょうねえ。)

そんなバービー人形の世界では全てが完璧で、様々なver.のバービーたちが無害なケンたちと楽しく暮らしています。
そこからひょんなことから人間世界に行く羽目になるある「標準的なバービー人形」の話です。

「女性の女性性」というものについて深く考えさせられるような展開が後半に待ち受けるわけですが、前半は楽しげな話が続きます。
バービー人形は元々、子どもたちに好かれるために作り上げられた八頭身の金髪女性の人形なわけで、それは冒頭に説明があります。最序盤は一体自分は何を観てるんだろうなあと思わないでもないですが、後半に至るとそれが全てきちんと伏線になっているという優れた脚本、そして配役です。
マーゴッド・ロビーと言うと、私はディカプリオと共演した作品を思い出すのですが、彼女が圧倒的なブロンド美人であることがこの作品をこの作品たらしめています。(それはなんと作中でメタ的なナレーションでも言及があります)

概ね、ある時、子どもたちは人形遊びをしなくなります。それが楽しいのは年齢が小さい時だけです。バービーたちにとっては受け入れ難い事実です。そんな存在意義に関わる話はさっさと済ませてお話はだんだん思わぬ方向に転がり始めます。

女性が社会的役割として古来から要求されてきた「典型的な女性的であること」を喜んでやっているのか、それともそれは洗脳なのか、押し付けなのか、それとも文化なのか?そんなことを考えさせる展開が待ち受けています。「普通のバービー」はまさにそんな、典型的なあっけらかんとしたノー天気な女性キャラクターを物語冒頭には演じていますが、根本から揺るがされる展開に至り、一度はひどく落ち込みます。

そこから立ち直っていく様が大変興味深いエモーショナルなものでした。現代の女性が置かれている立場は非常に難しいものです。働いている人、主婦、子育てをしている人、母親、娘、大統領、科学者、いろんな立場を合わせ持つことになります。その時々に応じていろんな役割を果たすのはとても骨が折れます。投げ出したくなる時もあるけれど、それぞれが自立した女性でいようとする、それが美しいのだ、という人間讃歌なのかなと思いました。


クリエイター 創造者 ★★★

2024-01-14 16:34:56 | ★★★
クリエイター 創造者
ギャレス・エドワーズのSF大作。
サンフランシスコ行きの飛行機で鑑賞。
こう言う作品は本当は大音響の大画面スクリーンで観たいものです。飛行機の小さな画面で観る映画ではないなあ。

AIアンドロイドが力を持ちすぎて核戦争が起こり、復讐と言わんばかりに米国が徹底的なAI狩りを始めた世界。
AIアンドロイドに人権を認め、保護しているアジアの国々。そこに容赦なくAIを殺すために巨大な兵器を送り込み、アジア人諸共、殺して回るというお話。なかなかに酷い話ですが、別にこの話はAIは関係無くて実際に今でも米国やイスラエルなどの西側諸国や中国、ロシアなどの共産圏の覇権国家が現在進行形でやっていることですね。そこは痛烈な皮肉になっているのかなと。
一方で、AIが進化した先に果たしてどういう行動を取るのか?という問いに対して、この作品は一つの考えられそうな回答を用意しています。
結末は嫌いじゃないなあ。
名優 渡辺謙が日本語を話すAIアンドロイドとして登場します。


ゴジラ -1.0 ★★★★

2023-12-31 13:56:25 | ★★★★
日比谷のTOHOシネマズにゴジラ-1.0(マイナスワン)を観に行ってきました。
いやー、これはなかなか面白かったです。
いろんな意味で日比谷で見たのも良かったですね。音響も含めて満足です。
大ヒットしたシンゴジラの後のゴジラって超難しいのでは?と思われましたが、見事にうまく違う作品を山﨑貴監督は生み出しましたね。
VFXも素晴らしく、特に海のシーンは本当に良かったですね。
(白組の制作体制と山崎監督が即座にCGについてディレクションできることが実現の鍵だったそうで…)
脚本も、なかなか捻られていて戦後すぐの小笠原沖の機雷除去といった実在したであろうお仕事をうまくお話に組み込んだり、主人公が元特攻隊員だったり、退役艦をうまく活躍させたり、完成しなかった戦闘機をうまく劇中に登場させたり、と非常に楽しめるものとなっていました。

ゴジラの「舞台装置感」は気になりましたね。
元々、怪獣映画はそういうところはあるものですが…怪獣映画というよりは「ゴジラvs.神木隆之介」という感じでしたかね。
総合力で戦う話でもあったんですけども。
どうする家康での名演技が光った山田裕貴がいい感じの若者役で出てきたりね。
あと、やっぱり主演の神木隆之介と浜辺美波含めて昭和感のある服装や佇まいが素晴らしかったですね。
浜辺美波はシン仮面ライダーでも活躍していたわけですが、本当に良い役でしたね。サザエさんヘアースタイルもいい感じでした。
あと、子役ね。よく、あのタイミングでうまく泣けるな…と大変に感心しました。
そして、あの年頃の子供というのは本当になかなかに胸に来るものがありました。
米軍が出てこない理由もわからないでもないんですよね、、作劇上は米軍の進駐軍が出てきてしまうと核を落とす落とさないでシンゴジラと同じになってしまう、という某ラジオ批評でのツッコミは非常に頷けるものでした。(あと、安藤サクラ演じる近所のおばさんの「偽善者ぶって」というのは脚本ミス、本来は「善人ぶって」が正しい、というツッコミもなるほどな、と。撮影時含めてなかなかみんなピンと来ないものなのかなあ)

何気に機雷は今でも日本の海にあるんですね…。艦船を沈めるためのものなので、その破壊力はかなりのものだそうです。

2023年公開作品評価

2023-12-31 00:19:31 | 2023年公開映画作品評価
2023年公開映画作品一覧と感想
今年観た作品は16作品でした。

面白かった順に。

フェイブルマンズ
個人的には1番面白かった作品かもしれません。

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

大変面白い作品でした。詳しくはこちらをご覧ください。

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
これもめちゃ面白かった。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
これはなかなか奇抜な作品で面白く観ました。

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
これまた名作でしたね。詳しくはこちら。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3
面白かった、けれどこれで元のメンバーの活躍が見られなくなるのだとすれば、一抹の寂しさもありますね。  

君たちはどう生きるか
詳しくはこちら。

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
こちらも面白かった。

AIR/エア
詳しくはこちら。

ゴジラ -1.0

シン・仮面ライダー
詳しくはこちら。面白く観ました。


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飛行機で見ましたね。なかなかスリリングな作品です。形としてはいくらでもお話は続けられるけどだんだんネタ切れしますよね。

ザ・フラッシュ
これも楽しく観ましたが、後一歩かなあ。

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
これが最終作なら残念…

アントマン&ワスプ:クアントマニア
当ブログでもよく取り上げてきたマーベル作品ですが、そろそろ食傷気味ってことなんですかね…昔ほどワクワクしなくなってしまいました。

レジェンド&バタフライ
ある意味では面白い作品でしたがビッグネームの共演という意味では少し物足りない作品でした。



■観てないけど観たい作品
イチケイのカラス
グリッドマン ユニバース
Winny
シャザム!〜神々の怒り〜
名探偵コナン 黒鉄の魚影
劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE
怪物
リトル・マーメイド
FALL
キングダム 運命の炎
トランスフォーマー ビースト覚醒
マイエレメント
バービー
福田村事件
グランツーリスモ
ジョン・ウィック コンセクエンス
沈黙の艦隊
正欲
マーベルズ
ナポレオン
ウィッシュ
屋根裏のラジャー

インディ・ジョーンズ 運命のダイヤル ★★★

2023-11-12 18:39:38 | ★★★
インディジョーンズ 運命のダイアル
面白かった。韓国往復の国際線で鑑賞。

何にしろ、ハリソン・フォードが80歳と高齢の中で続編が作られただけでも嬉しい。
劇中でも考古学の教授としても引退するわけだが、恐らくは次回作は難しいだろうとも思わされる。
それにしても、作中で過去作に比べて、時代の影響もあってか、インディの講義の人気も考古学の地位も下がってるのは少し寂しかった。
インディ・ジョーンズの面白さと言ったらまさに「痛快なアクションとアドベンチャー」なわけだが、それをやりきるにはハリソン・フォードが歳をとりすぎたのかもしれない。
過去作との関連も多く見られる。
最後のインディの選択は確かに、最後の聖戦の頃のことを思えば、やっぱり、そこはその選択はしないべきだと思うんですよね。なんとはなしに。手に入れるべきものと手に入れてはいけないもの、というのがこの世の中には色々とあるんだよな、ということだと思うんですよね。

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け ★★★★

2023-07-21 08:31:26 | ★★★★
SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

サンフランシスコ行きの飛行機機内で鑑賞。

ハリウッドの大物プロデューサーによる長年にわたる性暴力を告発した女性記者たちの厳しい闘いを実話に基づいて描いた映画作品。ブラッド・ピットなども制作に関わっています。
ニューヨークタイムズに勤める調査報道記者たちがワインシュタイン氏の映画会社における数々のセクハラやレイプなどを克明に記事にしていくまでを描き出します。

結末は分かっている類の映画ですが、冒頭から気になる引きで記者や編集者たちが颯爽と取材を繰り広げていきます。

それにしても、この手の作品を観て常々思うのは司法制度についてです。
米国ではよく様々なハラスメントに対する訴訟が起こります。(パワハラやレイシャル、エイジなど多様)
企業の不当な労働者への取り扱いは直ちに訴訟になる恐れがあり、管理職や経営者はその発言のまさに「節々に」気を付ける必要があります。
証拠が揃っている場合、訴訟では法人サイドは極めて不利な状況になります。
きわめて気軽に弁護士に相談でき、集団訴訟(クラスアクション)も起こしやすく、なんなら米国に住んでるといきなりそうした集団訴訟の原告側になったりもします。
訴訟大国と呼ばれる所以の一つとも言えます。

一方で、ワインシュタインのケースはミラマックスの経営陣であったことや経営陣や弁護士含めて問題を揉み消すべくNDAなどをふんだんに活用しながら動き続けていたこと、ワインシュタイン自身が映画業界全体に非常に強い影響力を行使できていたことなどから、業界である程度問題が認知/認識されながらも、いわば、「言ってはいけないあの人」的な公然の秘密と化していたわけです。

示談に持ち込む際のNDAに関する項目などは劇中に出てくるものの中には後々争えば法的に無効となりうるものもあるようにも思いますが、お金を受け取っている場合には私人間の契約としては有効と見なされるものとも思います。
百戦錬磨の企業弁護士相手に何か事を起こすのは若い女性であれば尚のこと難しいように思います。
まさに法律を知っているかどうかでその後の対応が180度変わるような世界です。

近年日本でも一部の映画監督が似たような事件を起こしていて告発されていましたが、このようなことはあってはならないことであり、被害に遭われた方々の心中は想像を絶するものだと思わされます。
映画業界に限りませんがこうした問題が起こらないようにしていく必要があるのでしょう。

AIR ★★★

2023-07-21 08:30:21 | ★★★
AIR
この映画、よく出来ていました。Amazonプライムで鑑賞。

マット・デイモン主演。ベン・アフレック監督・出演。

2018年にNIKEの創業者であるフィル・ナイトが作者の「Shoe Dog」という本が発売されて日本でも大いに話題になりました。
この本、私は未読なんですが、NIKEの創業当時の苦労話から1980年頃までを描いています。
そして、この本で描かれたNIKEの成功から、数年経った1984年がこの映画の舞台となります。
NIKEはシューズメーカーとしては後発のシューズメーカーですが、市場の先行者であるconverseや adidasと真っ向勝負してランニングシューズではシェアを取ることに成功。しかし、バスケではまったくシューズのシェアを取れていなかった、というところから話が始まります。

私は今40歳のため、世代的に、バスケットボールのシューズと言えばNIKEのエアマックスやエアジョーダンなんですが、そんな私からすると、バスケシューズと言えば、コンバースのオールスターだった時代があるというのが信じられないわけです。(世代ごとに感覚が異なるんでしょうけども)

そんなNIKEが今年も負け戦よろしく、バスケのわからないマーケティング担当者たちが印象だけでコラボ契約する人を選んでいるシーンから話は始まります。
他社よりも少ないだろう予算を数人に振り分けるから、そこそこの選手数名と契約しようという会話。ドラフト5位より下の平均的な選手に予算をバラけさせようとするわけですが、これに主人公は反対し、自分が信じる選手1人に予算を振り向けようと提案します。
それがマイケル・ジョーダンで…
という流れで話は進展していきます。

現実にかなり寄せてキャラを描いているため、どのキャラクターも相当現実味を持って描かれます。走るのが嫌いというキャラ設定のソニーを演じるマット・デイモンはなかなかのお腹のでっぷり具合。

どういう結末に至るかはまさに誰もが知っているわけですが、予算潤沢で評判の高い他社が2社もある中で絶対的な不利な状況をどうやってNIKEが覆していくか、というところが楽しく描かれていきます。

詳しくは作品を観てほしいところです。ビジネスモノとして楽しく、あまりシーンもないのでスポーツモノって感じではないですね。

ソニーたちが働くNIKEのオフィス、80年代からアメリカのオフィスってあんまり雰囲気が変わってないんだなあということが感じられました。

この映画を観て思うのは、前例を覆し、新しい歴史を作る時の判断というのは簡単ではないということでしょう。ビジネスの通例上、考えられないことも、前例が無いという理由で選択肢から除外していることも結局はバイアスなんですよね。そして、誰しもがバイアスを持っていてそれをきちんと認識できて、バイアスを取り除くために適切かつ最短距離のアクションを取れる人がブレークスルーを起こすことができる、と。そして、本質にブレずにきちんと提案できれば、相手にちゃんと伝わるということでもある。契約金は安くてもダメだけど、他社と並べば、後は何を見せて、何をお願いし、譲歩するか、ということだけ、なんですね。

NIKEのバスケットシューズはその後、世界を席巻することは誰もが知っているわけですが、その前夜に起きたこと、というのは1人の男の熱意とそれに影響を受けた人たちによるもので、それが何人もの人の人生を大きく変えるわけで、最初は誰もが無理だと思っていることでも、信念を持ち、貫き通すことができれば、達成出来る、ということが感じられました。

あと、ベン・アフレック演じるフィル・ナイトCEOのコミカルさ、はなかなか特筆すべき点かもしれません。終盤のプレゼンシーンの登場などなかなかに笑える展開でした。

騙し絵の牙 ★★★★

2023-07-21 08:29:27 | ★★★★
映画「騙し絵の牙」

面白かったです。
Amazonプライムで鑑賞。

(あらすじ 映画.comより引用)
「罪の声」などで知られる作家の塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化。出版業界を舞台に、廃刊の危機に立たされた雑誌編集長が、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿を描く。「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督がメガホンをとり、松岡茉優、佐藤浩市ら実力派キャストが共演する。出版不況の波にもまれる大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発。そんな中、専務の東松が進める大改革によって、売れない雑誌は次々と廃刊のピンチに陥る。カルチャー誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされるが……。
(以上引用)

大泉洋を当てがきした原作は未読ですが、映画化にあたって脚本は再構成されてるそうでして、なかなかエキサイティングなお話となっていました。
スピーディーな展開で2時間未満の映画とは思えないくらいエピソードてんこ盛りでテンポの良い映画でした。
雑誌も本も新聞も売れなくなりつつある、と言われています。1996年以降、出版市場は2.6兆円から2022年の1.6兆円まで減少。まさに出版不況だと言われて久しいわけですが、日本に戻ってきて思うのは案外と日本ってまだまだ本屋さん多いなあということでした。生活の中にちゃんと本があると感じるシーンが多いです。
勿論、Amazonで本を買うことも多いんですけども。商店街にあるいわゆる「街の本屋」さんというのも少なくなりました。主人公の松岡茉優の家を本屋さんにすることで、こうした問題についてもうまく切り込んでいます。

伝統を守ろうとする人たちや変わろうとしない人たち、変わることを求める人たち、伝統を破壊してでも次に進もうとする人たちなど様々な人々の思惑が錯綜します。
人間、それまでやってきたことから変わらなくて済むなら、それはとても楽な道ですが、その先にあるのは衰退、ということがわかりきっている時にどういう道を選ぶか。今話題のリスキリングというやつですが、変わるのか、変わらないのか、そんなことを問いかけてくるお話だったと思います。
小難しい文壇と呼ばれる世界がある一方で、そんなものとは無縁だけどめちゃくちゃ売れる作家もいる、という文学界の不思議もまた面白く楽しめました。

ザ・フラッシュ ★★★★

2023-07-21 08:28:06 | ★★★★
ザフラッシュ
新宿TOHOシネマズで1st.デーで鑑賞。
公開日から2週間がすぎておりIMAXでは観られませんでした。その点だけが悔やまれます。公開から2週間も経つともうIMAXではやらなくなってしまうんですね。世間はもうインディ・ジョーンズですかね。

DC映画はマーベルシネマティックユニバースと違って「ユニバース構築」には苦戦。マンオブスティール、バットマンvs.スーパーマン、ワンダーウーマン、ジャスティスリーグ、ワンダーウーマン1984、アクアマンと続いてきたDCEU(DCエクステンデッドユニバース)は次回作アクアマンの2作目で一旦打ち切りで仕切り直しとのこと。

結構好きな世界観なので、残念なところです。特にザック・スナイダーが監督したジャスティスリーグはスナイダーズカット含めて面白かっただけに…。

サイボーグなどは単発作品も作られず仕舞いとなりました。これも残念。良いキャラだったのにな。
そもそもマーベルシネマティックユニバースが異常なだけで、これが普通なんだろうなとも思いますね…

フラッシュはとても足が速いというキャラクターなわけですが、そのスピードが光速を超えて時空を越えられることが分かり、自分の過去を改変しようとする、というお話。

劇中でも言及されますが、まさにバックトゥザ・フューチャーやバタフライエフェクト的なお話になっています。(どちらかというとマルチバースというよりはバタフライエフェクト的な話かなと)
映画通であれば、エリック・ストルツがバックトゥザ・フューチャーで主演するはずだったというのは知られていることではありますが、そうしたネタで途中、違う世界線であることを説明していたりします。

(そのほかの詳しい映画ネタやネタバレは下記リンクが詳しい。

https://www.cinematoday.jp/page/A0008835 )

また、異なる世界線ということでバットマンも異なるキャラクターが演じています。それがまさかのティム・バートン版でバットマンを演じていたマイケル・キートンということでこれもかなり注目のキャスティングでした。
下馬評通りの活躍で、ベン・アフレック版バットマンとの違いも明確に描かれます。序盤の救出シーンではベン・アフレック版バットマンやガル・ガドット演じるワンダーウーマンもカメオで出てくるわけで。ちなみに残念ながらアクアマンとサイボーグは本編には出てきません。マイケル・キートンは御歳71歳とのことですが、全く年齢を感じさせない威風堂々とした体格でした。

時間改変モノというと、映画バックトゥザ・フューチャーに始まり、ターミネーターやバタフライエフェクトや時をかける少女など枚挙に暇がありません。
なんならマーベルでもアベンジャーズ エンドゲームではまさにチャレンジしたテーマでもあります。日本人ならドラえもんなどでも親しみのあるテーマでしょう。

今回は、主人公が自分の利己的な願いによって時間を改変しようとして複雑な事態に陥ってしまいます。

時間は不可逆である、という科学的な真理を何らかの超常によって曲げるのが時間改変モノの特徴ですが、何らかの代償を伴う、という描写が物語的には付きものでもあります。
人間誰しも何もかもが万能というわけにはいかないわけですね。光速で移動し、時間も越えられたら怖いモノ無しですけどね…

ジャスティスリーグで描かれた別の世界線のフラッシュが警告しに来るディストピアのシーンにも通ずるものがありますね。

今作でフラッシュが支払う代償がどうなるのかは本編を見ていただくとして…

序盤のシーン含めて、フラッシュは比較的終始おどけた陽気なキャラクターですが、影があるところもあり、今回エズラ・ミラーはうまく演じ分けもしていて、この辺り、彼の芸達者感が感じられました。
アクアマン二作目でこのDCEUシリーズはおしまいとのことでそれは残念ですが、エズラ・ミラーはまた観たいなと思わせる役者っぷりでした。

君たちはどう生きるか

2023-07-21 08:27:33 | ★★★★
君たちはどう生きるか

新宿TOHOシネマズで鑑賞。
スタジオジブリ、宮崎駿、久石譲、米津玄師、木村拓哉、菅田将暉、柴咲コウ、etc…

これは…こういう映画だろうなあとは思っていたがやはりと言う感じ。
誰かの批評を読む前に自分の考えをまとめる。とはいえ、自分の感想を書く力の衰えを感じざるを得なかった。自分自身が分かりやすいものばかり、選んで観てきて、説明や解釈が無いと理解ができないくらいには文学的な構造から離れてしまっていたようだ。
その事実自体がキツイが、そこにも向き合おうと思う。

今作「君たちはどう生きるか」は宣伝が一切無いという手法で話題になったわけだが、作品がある程度完成したであろう年末時点で、宣伝をしないでおこうとした理由もよくわかった。しかし、この宣伝手法自体は子供のことを思うと、これでよかったのか?とは思うが。

プロデューサーの鈴木敏夫さんはslam dunk方式と言ったそうだが、極限までCGアニメとして作品の質をバスケットボールの生の試合に近づけるべく、高め続けたslam dunkとは全く状況が異なると言っても良い。

それでも私も公開後、日をおかず、確かめるような視点で作品を観に行ってしまったのだから、今回に関しては制作サイドのプロモーション戦略はある程度成功と言って良いのだろう。だが…

私が宣伝担当なら頭を抱える。何をどう宣伝すべきか?どこをどう切り取っても、たぶん、完成した作品の期待値を上げるようなものとなるだろう。
何も知らないで観に行き、おおよその鑑賞者が首を傾げながら、つまりあれこれ考えながら出てくる、がおそらく鈴木敏夫氏がやりたかったことに違いない。(「本人も宣伝が無かった頃の映画鑑賞というのはそういうものだったし、それを体験してもらいたい」とインタビューで述べている。)



ネタバレします。



宣伝や鑑賞後の批評で作品内容に詳しく触れる意味があるのか無いのか?というのもある。
正直、そんなことをする必要も無いのかもしれない。
直近の作品である「崖の上のポニョ」や「風立ちぬ」で後半生に突入している宮崎駿がどういう境地に立って作品作りをしているかは変な話、鑑賞者は理解出来ていたはずで、それ以上の何かを事前に期待することそのものが誤りだったのかもしれない。
そもそも論、すでにある種の境地に立っている宮崎駿監督におさだまりの通常のエンターテイメントを期待するものでもないし、完成した作品に「何らかのメタファー」をひたすらに読み取ろうとすることもまたあまり意味が無いと私は思う。

ひたすらに作家性によるアニメーションのインプロビゼーションを観続けるという感じだろうか。
勿論それぞれのカットや表現自体は非常に高いレベルなのだが、鑑賞後の感想としては「ん、んんんー」という感じだ。

長い夢を観て目が覚めたらあっさりとその内容を忘れる、あの感じだ。(映画の最終盤の青鷺と眞人の会話にもあるが)

観ている時は楽しい場面も色々あるし、あれこれ考えながら観る甲斐もあるのだが、見終わると、殆ど何も残らない。

直接的な表現になりがちなアニメで、様々な表現の積み重ねで、この感覚を与えられるのか?という点においては、驚きではある。

冒頭こそ、すわ、風立ちぬ的な世界観か?とも思ったが、それもあまり物語的には単なる背景で深い意味性は無かった。

時代設定と主人公である眞人の生い立ちは宮崎駿という人の前半生には大きく関わる。
戦前に東京で航空系の製造会社を営む裕福な家に生まれるものの、その後宇都宮に疎開し、小学校3年生まで暮らしたとあることから、主人公の眞人のモデルは宮崎駿では?ということはできよう。(その後、劇中と同じく東京に宮崎駿少年は戻る)

ただ、映画のお話的にはそれそのことにはあまり意味は無い。宮崎駿の生い立ちを知っていても知らなくてもあまり関係はない。

物語の構造としては、異界に行きて帰りし物語という意味では「千と千尋の神隠し」に近い。
あとは、監督も違うが、昔の自分の係累に出会うという意味では「思い出のマーニー」だ。

しかし、お話の構造的な自家引用や表現としてのそれが多く見て取れるということは、言葉にしたくはないが、宮崎駿監督作品としては「ここで終わり」なのかもしれない。

そして、それはそれで仕方ないのではないかと思う。
まさに色々な作品を想起するような表現が多かった。ラピュタ、ハウル、千と千尋、もののけ姫、風立ちぬ、他にもまだまだあるだろう。

思うに、宮崎駿監督は半世紀を超えて様々なアニメーション作品を生み出してきた。彼が40代で手がけたラピュタやナウシカ、トトロや魔女の宅急便のことを思えば、82歳にして、こういう作品を手掛けること自体が驚異的だし、もはや、超人の域と言える。宮崎駿も10-15分の小品を作ることはあったとしても、今後、こうした規模の作品を作ることはかなり難しいだろう。スタジオジブリとしても、今後は細々とジブリグッズなどで食い繋いでいくことになるだろう。
それくらいお話としては、ある種の説教くささも無く、何かのメッセージがあるわけでもなく、描きたいものを描きつけた、という印象。
そこに何かの予定調和は無い。ディズニーアニメの金字塔である「不思議の国のアリス」くらいには様々な不可思議なことが起こる。不可思議な存在や出来事にルールがあるのか無いのかもよく分からない。が、それで良いのだと思う。
異界の出来事なのだから。

近年大ヒットしているアニメ作品というのは新海誠作品にせよ、細田守作品にせよ、漫画原作アニメ映画(鬼滅や呪術、コナンにワンピース)にせよ、とにかく分かりやすく、受け入れられやすい。少しでもスケール感が小さかったり、わかりづらかったりすると、ディスられる。
漫画原作アニメ映画に至っては、殆どの人たちは原作既読であり、キャラ設定はアタマに叩き込まれており、「このキャラクターはきっとこういうことを話すだろう、行動するだろう」と言った予定調和を楽しむくらいの世界でもある。
そんな時代劇や歌舞伎みたいなアニメーションがランキングを賑わせる昨今、ジブリ作品はまだ歴代トップ10に何作品も残るものの、確実に世代交代の波が来ているのは如実にわかるわけです。最近ではグローバルでもヒットしているため、グローバル興行収入としての金額的にはジブリの過去作品を遥かに凌駕する作品が続々と出てきています。
現代日本のヒット作品群や過去の大ヒット宮崎作品とも大きく一線を画しています。なんなら、過去作品の千と千尋の神隠しに物語構造は似てるけど、お話の筋や流れとしては全く似てないし、爽快感らしい爽快感もあんまり無い。
なんなら途中、ホラーなんじゃないか?と思うシーンも複数箇所。主にアオサギの描写やおばあちゃんたちの語り。あとは鳥のフンに何度も汚されるわけですがこれもまた何か意味があるのかしらね。思わずメタファーを探してしまうような映画でした。
しかし、何か見つけてもそれも裏切られそうですが。
で、主人公たちはどこに行ってたのか。というところもはっきりとしない。考えることを観るものに委ねてるという意味では大変に真摯と思う。

Everything Everywhere all at once ★★★★

2023-06-11 15:18:17 | ★★★★
Everything Everywhere all at once
サンフランシスコから東京に戻る飛行機内で鑑賞。
なかなか挑戦的な作品でした。母と娘、そして家族の物語だと言ってしまえばそれまでなのですが、いわゆるマルチバースの世界観が複雑に絡み合います。この作品を振り落とされずに最後まで理解するにはなかなか骨が折れるやもしれません。自分が今どの世界線の彼女を見ているのか、わからなくなってしまったらそれはそれで流れに身を任せてしまって楽しんでもいいのかもしれません。
中国からアメリカに移り住んで駆け落ち同然でコインランドリーを経営する夫婦とティーンエイジャーの娘。自分の父親は年老いてから引き取ることになり同居することになり…日々に追われて家族の会話も出来ない中で、夫は離婚を考え、娘はガールフレンドを連れてきて…妻は必死で家と稼業を回そうと奮闘し続け、でも、アメリカの複雑なTaxの仕組みに打ちのめされて…みたいな混沌とした状況が一気に描き出されるのですが、そこに突然エレベーターに乗ってる間に訪れるマルチバースの非日常から、なんと、ずーっと基本は税務署の中で話が進むという展開。
あまりに素っ頓狂な展開ですが、力技で一気に持っていかれます。
この作品でアカデミー賞主演女優賞をミシェル・ヨーが受賞したわけですが、彼女は確かに様々なマルチバースの役を、とてもうまく演じ分けています。彼女がまさにレッドカーペットを歩くシーンが劇中に出てくるのはオスカーを予見していたのでしょうか?なかなかに象徴的です。

マルチバースという言葉は最近ではマーベル作品でよく使われるようになり、また、DC作品でもその要素が現れたりとかなり頻繁に目にするようになりましたね。マーベルであれば、ロキやwhat if?、スパイダーマン、ドクター・ストレンジなど。昔の作品だと、バタフライエフェクトみたいな作品ですかね。
そしてDCではこれから公開されるフラッシュがまさにマルチバースの要素を備えたお話になっています。CG技術の進歩によりマルチバースのお話をうまく整理してそれでいてローコストに描けるようになったこと、そして、観る側にもかなり下地が出来てきたというのは大きな要因なのでしょう。いかんせん、マルチバースはともすればなんでもあり、みたいなところもあり、観客が白ける可能性もあり、緊張感を持たせる工夫は必要になります。

この作品でもそこは常に保たれつつも、果たしてどこまでがどの次元の話だったのか、分からなくなるようなところはあるのですが、一気に最後まで持ち込んでいきます。
役者の演技があればこそ、と言えばそうなのかもしれませんね。

フェイブルマンズ ★★★★

2023-06-07 12:38:04 | ★★★★
フェイブルマンズ

サンフランシスコ行きの飛行機の中で観ました。
映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグの作品。スピルバーグの前半生の自伝とも言える生き生きとした映画でした。スピルバーグ一家をフェイブルマンズ一家に見立てた話で登場人物の構成やキャラクターは殆どがノンフィクションに近い内容になっています。(が、フィクションだよ、と言い訳できるような構成にもなっている。)
スピルバーグは本当に映画を撮る天才だと思わされます。
エンドショット、なかなか印象的でした。まるで、教えを守るかのよう。なぜポスターは教えを守っていないものがあるのか!笑。

結構ドロドロッとした話も含みつつも、1950-60年代の古き良きアメリカを感じさせる素敵なシーンが沢山ありました。
父親の仕事の都合で様々なところを転々としながらも、翻弄されるユダヤ系アメリカ人主人公サム・フェイブルマンとその家族の物語。(フェイブルマン一家の話だから、フェイブルマンズ、なんでしょうね)
映画そのものがまだ世の中に出てきて間もない頃から、徐々に発展していく時代、フィルムカメラで動画を撮影してそれを映写機で見る時代。音が無いから音楽を代わりに流す、そんな時代。
動画になると、さらには音と映像が組み合わさるとここまで威力を発揮するのかというスピルバーグが幼少から青年期に体験したいわゆる「原初体験」をこれでもか、というくらいに描き出します。
人は衝撃を受けたそうした経験を糧に様々な創造性を発揮します。例えばそれは、映画かもしれないし、音楽かもしれません。スピルバーグが生きてきた時代はまさにそうした映画技術や映写技術がどんどん発展していく時代なわけです。
なかなか面白いのは父親がまさにエンジニアとしてRCAからGE、そしてIBMに移っていくことでしょう。これもまた時代の移り変わりと共に技術が発展していき、アメリカの産業史の中で活躍していく企業が移り変わっていったことを示しています。
そして、父親の仕事の都合と、母親の都合とが重なり合いながら様々なドラマを一気に描き出していきます。母親役は非常に魅力的なキャラクターを演じます。ユダヤ教徒に絡む話もいくつも登場します。(スピルバーグがシンドラーのリストを監督したのはユダヤ教徒であったところによる)

キャンプに行ったり、ボーイスカウトに参加したり、映画を観に行ったり、とひとつ一つのエピソードはなんてことはないどこにでもある家族の話だったりもするのですが、積み重ねが段々と様々な唯一無二の人間模様を描き出していきます。
様々なところで主人公のサムが撮影する映画がこの映画そのもののターニングポイントにもなっていくわけですが、サムがある映像を撮影し、編集し、見せることで大きくその家族の運命も変わっていきます。
この映画がスピルバーグの自伝的映画なのだとしたら、劇中のサムのセリフにある「僕が映画を作ることになってもこの話は映画にはしないよ」と約束したことも破って、フィクションとはいえ、映画にしてしまっていたりするわけですが、それもまたスピルバーグなりの半生記なのかなぁとも思うわけです。
お話的にも、スピルバーグが経験したことでなければ、作品になり得ないようなリアリティのある話になっています。
スピルバーグの年齢を考えればこうした作品を彼が意識的に製作しなくてはお目見えしなかったエピソードが数多くあるように思われます。
「唐突に家にやってきて去っていく母親のおじさん」に「お前は映画作りを続けていくだろう」「しかし、それは家族を傷つけることにもなるし、お前はずっと孤独だろう」と言われることや「プロムでフラれるガールフレンドとの家でのあれこれ」と「妙にリアルな下から見上げたキリスト」なんかはまさにそんなスピルバーグの原初体験のひとつを時系列は違うかもしれませんが、見事に描き出しているように思えます。
これらのエピソードはたとえ無くても映画的には成り立つと思うんですが、それでもこのエピソードを挟んできたあたりがその証左ではないでしょうか。

ネタバレします。

親の都合で転々と転勤する家族、そして、何かをきっかけとして一家が離れ離れ、というのは、その全てとは言わないまでも、経験することもあるかもしれないライフイベントではあります。生活する場や付き合う友人を変えなくてはならないというのは相当にストレスのかかることです。(死別や離婚に匹敵するストレスとも言われます)
家族との別離もそうでしょう。そうした出来事が生き方や心根に与える影響は決して小さなものではないでしょう。
「奔放な母親に振り回される家族」というのは私には小学生以降、母親がいないのであまり経験は無いのですが、父親の仕事の都合による転勤が何回かあった家に生まれた息子として、そして、今子どもの親として転勤を何度かしている身としてはちょっと他人事ではないなあと感じるわけです。

さて、サムは父親に言われて作ったホームムービーの編集中に母親の重大なことに気が付いてしまいます。そして、もやもやを抱えて、母親やその友人に辛く当たるしかなくなります。母親もサムにしびれを切らすわけですが、そこでサムは気づくきっかけとなった自身が撮影編集したムービーを母親だけに見せるわけです。思春期のサムにとってはこの経験は耐え難き苦難だったことでしょう。心痛むシーンです。それにしても完成度が高いなあと感心してしまうシーンでもありました。
映像の持つ力を実感するシーンでもあります。人を幸福にもするし、不幸にもするのだなと。
同様にプロムで上映したムービーでもフィーチャーされた上級生からの思いもよらない反応を得ます。サムはまさか上級生がそういうリアクションをするとは夢にも思っていなかったことでしょう。これもまた、映像が持つ力が人を感動させもするし、動揺させもする、ということを端的に著したエピソードと言えます。

フェイブルマンズという映画は、派手なスペクタクルシーンは無いですし、ひたすらに古き良きアメリカのヒューマンドラマ、言ってしまえばファミリーの話ですが、非常にバランスが取れた脚本、演出によって見事にフェイブルマンズ一家が活き活きと劇中で描き出されており、ある家族の肖像、として非常に質の高い映画となっていました。

追記
2017年にスピルバーグを扱ったドキュメンタリー「スピルバーグ!」があり、そちらを観ると、この映画の光景がどれだけスピルバーグの半生をうまく描き出しているのか?そして、彼の映画のそれぞれのシーンがどれくらい織り込まれているか?ということがよく分かると思うのでお勧めです。お父さんやお母さん、完コピじゃないか!と舌を巻きました。

The Legend & Butterfly ★★★

2023-05-27 15:44:22 | ★★★
Amazonプライムで独占配信ということで鑑賞。レジェンド&バタフライを観ました。

思いの外、早い配信開始でしたね。興行収入は30億円届かずということで20億円掛かったという制作費回収のためのアマプラ独占配信では、という声もあるそうです。

レジェンド&バタフライは信長と濃姫(帰蝶)の2人を主役に据えた物語を2時間半にまとめた映画です。
大河ドラマ「どうする家康」と同じ脚本家 古沢良太。

木村拓哉が信長をやる、というのはそれだけで一定の期待感はありました。(木村拓哉は過去に20代の時に信長をドラマで演じているが、そのドラマでは岐阜平定までが描かれている。https://toyokeizai.net/articles/-/646787。
また、木村拓哉の時代劇と言えば武士の一分だろう。こちらは当時、相当のヒット作となった。一方、大河ドラマ主演経験は無い。
綾瀬はるかは大河ドラマ八重の桜で1年間の主演経験があり、座頭市を演じたICHI、ドラマだと仁、などがある。木村拓哉と綾瀬はるかの過去の共演作は主にドラマ。『HERO 特別編』(2006年/フジテレビ系)、『MR.BRAIN』(2009年/TBS系)、『南極大陸』(2011年/TBS系)などがある。)

ここから中身にも触れますので、映画を観る予定の方は読み飛ばしてください。

■ロケ地の多い映像
レジェンド&バタフライは大河ドラマではなく、映画として相当の予算が掛かっているためか、映像もアナログなロケ地での撮影が多く、その意味で豪華でしたね。
NHKは大河ドラマ「青天を衝け」あたりからコロナ事情もあったせいか、マイクロLEDウォールを相当活用し始めていますが、どうしても「映像的な実在感」には乏しいわけです。観てる人にはスタジオだとわかる。合戦シーンなどでそれは顕著で、この作品のようにお金を掛けて撮影されていると、歩兵一人一人の実在感というのは圧倒的に違いを感じるわけです。
大河ドラマだと、この家康たちの後ろに歩いてる歩兵たちはCGだな…とわかるわけです。(合戦シーンで葛折に歩いてるシーンなどはかなりあからさま)
レジェンド&バタフライではこの製作費に見合った豪華な合戦シーンが観られるのかな?と思ったものの、大立ち回りがあるのは限られたシーンのみではありました。京都での落人群的なところのシーンと、本能寺の変のみ、と言っても過言では無かったかな。

■テーマ選定
日本人に極めて馴染みのある三英傑である家康、秀吉、信長。

やはり50年近く生きた波瀾万丈の戦国武将である信長の話を2時間半にまとめるというのはなかなか難しい。
なんなら大河ドラマで50話×45分で日本人は何回も色んな角度で観ているわけです。(家康視点、秀吉視点、最近だと光秀視点も!も含むと更に増える)
戦国武将が好きな人は何パターンも本能寺を観ているし、何パターンも桶狭間を観ている。その中で織田信長の理想像というのは日本人それぞれにあって、こういうのが信長、という視点があるわけです。そんな信長像と少し違った形でこの映画は描きます。

濃姫をかなりフィーチャーした形の作劇が全編で描かれます。
映画としては惜しい、の一言でしょうか。
木村拓哉も綾瀬はるかも素晴らしい演技をしています。その他の役者も素晴らしい。
惜しむらくはテーマ設定なのでしょうか。
木村拓哉と綾瀬はるか、ダブルネームの映画にしたためにこうした形になったんだろうなと。織田信長と帰蝶、ではなく、織田信長と戦国の女性たち、みたいな形にしても良かったのかな…とは思いました。

岡田准一が石田三成を演じた「関ヶ原」のような本格的な戦国時代劇でもなく、新解釈の現代風時代劇にもなりきれず、「どっちつかず」になってしまった感はあります。

■濃姫大フィーチャー
序盤の「濃姫に組み伏せられる信長」「鷹狩りで負ける信長」などの展開はコメディ的で面白いです。前半の濃姫の活躍については創作だと割り切って観ればこれはこれでなかなか面白く観ることができました。
一方で、その後の濃姫とのコミュニケーションを通じた信長の精神的な成長がわかりづらかった。
時間が限られている中では何を描いて何を描かないのか、というのは映画でも非常に重要です。
濃姫の存在の必然性がどうして後半にゆくにつれて、仕方がないものの下がり続けるわけです。濃姫との絡みを無理やり出そうとするあまり、なかなかにお話は後半、苦しくなっていきます。史実でも岐阜平定までは濃姫が前面に出てきてもお話的に破綻がありませんが、そこから先は劇中でも濃姫が「妾(わらわ)はもう用済み」という通り、まさに史実から鑑みると、蛇足とも言えます。
濃姫はあまり実際の記録に出てこないのですよね。つまり、謎が多い。なんなら没年すらもよく分かっていないわけです。そのため、創作の余地はかなりあるキャラクターなわけですが、今作は特に前半は濃姫のフィーチャー具合が相当なものとなります。
え、そこの助言も彼女なんですか?というくらいに濃姫が描かれます。

■全体のバランス
姉川やお市の方、朝倉義景、浅井長政、武田信玄、今川義元すらキャストとしても出てきません。斎藤道三もナレ死に近く、桶狭間も戦闘シーンは無し。
桶狭間も出陣シーンこそあるものの、出陣前の敦盛シーンも無し。なんなら、家康も秀吉もあまり出てきません。(斎藤工の演じる徳川家康はなかなか見どころですが、ほとんど出番が無いのが残念)
このあたり、大河ドラマ「麒麟がくる」などでは描かれていたあれこれが無かったりと戦国ファンとしては寂しさを覚えました。
光秀の解釈もなかなか面白いキャラ造形ではあります。(かーなーり、無理があるけど)
そして、終盤のシーンで新解釈か!?となるところあたりは非常に楽しく観ました。
○○ランド的な展開。正直、それはそれでやりきってくれてもアリだったかも、とは思うわけです。流石に憚られたのでしょうけども…
この辺りの「どっちつかず感」がまさに惜しいと思わされました。