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外積とは何か。(続)

2011-04-15 00:10:29 | mathematics
外積に対して感じていた違和感は,外積の成分の定義がなぜそのように定められているのか,という疑問に集約される。

その疑問に答えるための最も手っ取り早い方法は,外積の起源を訪ねることであるが,それはまだ手をつけていない。
ただ,ガイドブックはすでに手に入れているので,準備が整ったら,それを頼りに外積の起源を訪ねる旅に出ようと思う。

その,我々がいまやよく知っている外積の概念がいかにして生まれたのか,手がかりは外積が有する特徴にあるはずである。

では,外積の特徴とは何か?

また,部分的に外積と共通する特徴を持つ『外積もどき』は無数にあるはずだが,それらの中から我々の外積たったひとつだけに絞り込むような,厳しい特徴とは一体何だろうか?つまり,我々の外積を,我々の外積たらしめる決定的な性質とは一体何だろうか?

我々がよく知っている外積がすでにあり,その上で,外積の特徴を浮き彫りにしようというのは,名匠の手になる彫像を傍らにおいて,ただの木切れを自らの手で彫り,その彫像を再現しようという試みによく似ている。
どのように彫ればいいのかは自分で考えなければならない。彫りが浅すぎても,深すぎても,手本の彫像を再現することはできない。
その加減は,試行錯誤を重ねてようやく会得されるべきものである。

さて,前回の内容を承けて,今回新規に以下の公理を設定する。

a, b, c などは任意のベクトル,κ,λ,μなどは任意のスカラーを表すものとする。


[0] 土台となるベクトル空間は3次元で,内積が入っている。

[1] b×a=-a×b である。

[2] a×(b+c)=a×b+a×c が成り立つ。

[3] (κa)×b=a×(κb)=κ(a×b) が成り立つ。

[4] a・b×c=b・c×a=c・a×b が成り立つ。

[5] a と b が1次独立であれば,a, b, a×b も1次独立である。

[6] |a|=|b|=1 かつ a・b=0 ならば |a×b|=1 である。


おそらく,[5] の条件が,「外積」という名の由来であろう。
a と b を組み合わせていくらがんばっても,a と b の張る平面内のベクトルしか生み出すことはできない。
つまり,a と b の1次結合として第三の新しいベクトル c を生み出したとしても,a, b, c は必ず1次従属になってしまう。
ところが,外積は,a と b の1次結合とは全く異なる,別の方法で,a と b の張る平面から飛び出た新たなベクトルを作る演算として導入されるのである。
この要請により,V の次元は3以上であることを余儀なくされる。

さて,こう考えると

[A] a・a×b=0 が成り立つ。

という,外積の『向き』に関するさらなる規定を公理の中に入れるのがふさわしいような気がしてきた。

これと [6] をあわせると [5] が導けるような気がしないでもない。
少なくとも,|a|=|b|=1 かつ a・b=0 ならば,a と b は1次独立である。
また,[6] により |a×b|=1 なので,
κa+λb+μa×b=0
を考えると,a, b, a×b との内積を取ることにより,κ=λ=μ=0 でなければならないことがわかる。
これで a,b,a×b が1次独立であることが言えたことになる。
a, b が直交するとは限らない,任意の1次独立な2つのベクトルである場合には,|u|=|v|=1,u・v=0 であるような u, v を用いて,正規直交系 u, v, u×v における a, b, a×b の成分を求め,a, b, a×b が1次独立であることを連立1次方程式の理論を適用して導けばよいだろう。
まだ実行に移していないが,この方針でいけると楽観している。

[6] は,それ以外の公理だけではどうしても外積 a×b の大きさを確定するには不十分なため,このような外積の大きさに関する規定を入れたのである。

おそらく,[0]~[6] をあわせた体系と,そのうちの [6] だけを

[6a] (|a||b|)2=|a・b|2+|a×b|2 が成り立つ。

で置き換えた体系とは同等であろう。

この [6a] の等式も唐突だが,実はベクトル三重積 a×(b×c) の展開を考察すると,ある意味自然な要請であることがわかるので,それほど受け入れに抵抗を感ずるものではない。
また長くなりそうなので,ベクトル三重積の議論は今回は割愛する。

なお,[6a] はこれ単独で [6] を導けるので,[6] より強い条件であるといえるだろう。
もっとも,[6] は特定の条件を満たす2つのベクトルの外積の大きさのみに関する条件なので,他と調和が取れていないような気がして,あまりいい気はしない。
[6] と [3] を組み合わせると,

[6b] 互いに直交する2つのベクトル a, b に対して |a×b|=|a||b| が成り立つ。

ということが示せる。そしてもちろん,[6] は [6b] の特殊な場合に過ぎない。
この [6b] は条件の厳しさからいうと [6] と [6a] のちょうど中間にあると言える。
これをさらに推し進めて [6a] まで持って行くには,何かもっと工夫が必要だろう。


公理の条件は全部で7つと,ずいぶんにぎやかになったものである。これだけあると,複数の条件が,部分的に重なっていたり,いずれかの条件が不要だったりと,「もれなく,重複なく」という数え上げの原則に悖(もと)るかもしれないのが心配だが,もれがないのは確かである。
というのは,i と j を,|i|=|j|=1 かつ i・j=0 なるベクトルとすれば,k=i×j とおくことにより,
i・j×k=k・i×j=|i×j|2=1>0
なので,i, j, k はこの順に右手系をなすこととなる。
そして,[1] と [4] から i・k=0,j・k=0 が言えるので,その結果 i, j, k が正規直交基底をなしていることがわかる。このことと再び [4] を用いると,j×k=i,k×i=j であることも容易に示せる。
こうして,i, j, k を基底に取ったときのベクトルの成分表示を採用すると,よく知っている外積の成分表示が得られることになる。


というわけで,まったくもって月並みではあるが,外積を教える際に強調される性質がちょうど過不足なく全て顔を出したというわけである。
まあ,我々の外積だけに絞り込むために,逆にそれらの性質が全て必要だということを,この様な考察を経て悟るというプロセスは,外積を習いたての学生が外積の理解を深めるには非常に良いかもしれない。

意欲的な学生にはぜひ問いかけてみたい問いが一つ確定したということは,有意義であった。
とはいえ,こういう問いは,人に押し付けられて考えるよりも,自発的に思いついて,興味のおもむくままに自由に取り組むべきものであろう。
第一,思いついた本人にとっては面白い問題かもしれないが,それを他人から押し付けられては,趣味が合わず,興味が湧かなければ腰をすえて考えてみる気にもなれないものである。

さて,ところどころ考察の詰めの甘いところを残しているが,大筋では大体気が済んだ。
もう少し話を発展させるアイデアもあるのだが,まじめに検討しても成果が出るかどうかがわからないので,その話はまた永い眠りにつくことになりそうである。そのまま二度と目を覚まさないかもしれない,そんな程度の話である。
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