きわめて初等的な話題にもかかわらず,長年にわたって繰り返し考察を行うというのが私の癖である。
今回は,そうしたテーマの一つとして,Cauchy の不等式と相加平均・相乗平均の不等式の関係を取り上げる。
高校で教わるこれら二つの不等式は数学の専門的な論文でも多様な分野で使われ続けている,基本的かつ重要なものであるが,ある意味,これらは同値であるということを,二つの記事に分けて解説する。
本稿は Cauchy の不等式が成り立つと仮定して,それから相加平均と相乗平均の不等式を導けることを示そう。実のところ,それはほぼ自明である。ただし,ここでいう Cauchy の不等式とは,
「任意の実数 a, b, x, y に対し
|ax+by|≦√(a2+b2)√(x2+y2)
が成り立つ」
という,別の言い方でいえば平面ベクトルの内積の絶対値に関する不等式のバージョンであり,相加平均と相乗平均の不等式の方は
「任意の正の数 p, q に対し
pq≦(p2+q2)/2
が成り立つ」
という,累乗根バージョンではなく,累乗バージョンであって,しかもデータが2個の数の場合のみを考察の対象とする。
さて,証明はというと極めて簡単で,Cauchy の不等式において
a=p, b=q; x=q, y=p
とおくだけである。こうすると
ax+by=pq+qp=2pq
であり,p と q が正の数であればこれは正の数だから絶対値と値は等しく,さらに
√(a2+b2)√(x2+y2)=p2+q2
となることから証明は完了する。
なお,等号成立条件については次のとおりである。
Cauchy の不等式における等号成立条件は,どちらかは 0 でないような2つの実数 s, t が存在して
sa=tx かつ sb=ty が成り立つ
というものであるが,先ほどのように a, b, x, y の値を設定すると,これらは
sp=tq かつ sq=tp
となる。つまり
sp=tq かつ tp=sq
であるときだが,それぞれ両辺を2乗したもの同士を足し合わせると,
(s2+t2)p2=(s2+t2)q2
となるが,s と t の少なくとも1つは 0 でないから,s2+t2≠0 である。ゆえにこれで両辺を割ってよく,その結果
p2=q2
となる。p と q とはいずれも正の数であるから,これより p=q が従う。
このように,等号成立条件の間にもちゃんとした関係がつくのである。
では逆に相加平均と相乗平均の不等式から Cauchy の不等式を導くにはどうすればよいか。私の個人的な感想ではこちらの方がずっと難しい問題であるが,これについては稿を改めることとする。
今回は,そうしたテーマの一つとして,Cauchy の不等式と相加平均・相乗平均の不等式の関係を取り上げる。
高校で教わるこれら二つの不等式は数学の専門的な論文でも多様な分野で使われ続けている,基本的かつ重要なものであるが,ある意味,これらは同値であるということを,二つの記事に分けて解説する。
本稿は Cauchy の不等式が成り立つと仮定して,それから相加平均と相乗平均の不等式を導けることを示そう。実のところ,それはほぼ自明である。ただし,ここでいう Cauchy の不等式とは,
「任意の実数 a, b, x, y に対し
|ax+by|≦√(a2+b2)√(x2+y2)
が成り立つ」
という,別の言い方でいえば平面ベクトルの内積の絶対値に関する不等式のバージョンであり,相加平均と相乗平均の不等式の方は
「任意の正の数 p, q に対し
pq≦(p2+q2)/2
が成り立つ」
という,累乗根バージョンではなく,累乗バージョンであって,しかもデータが2個の数の場合のみを考察の対象とする。
さて,証明はというと極めて簡単で,Cauchy の不等式において
a=p, b=q; x=q, y=p
とおくだけである。こうすると
ax+by=pq+qp=2pq
であり,p と q が正の数であればこれは正の数だから絶対値と値は等しく,さらに
√(a2+b2)√(x2+y2)=p2+q2
となることから証明は完了する。
なお,等号成立条件については次のとおりである。
Cauchy の不等式における等号成立条件は,どちらかは 0 でないような2つの実数 s, t が存在して
sa=tx かつ sb=ty が成り立つ
というものであるが,先ほどのように a, b, x, y の値を設定すると,これらは
sp=tq かつ sq=tp
となる。つまり
sp=tq かつ tp=sq
であるときだが,それぞれ両辺を2乗したもの同士を足し合わせると,
(s2+t2)p2=(s2+t2)q2
となるが,s と t の少なくとも1つは 0 でないから,s2+t2≠0 である。ゆえにこれで両辺を割ってよく,その結果
p2=q2
となる。p と q とはいずれも正の数であるから,これより p=q が従う。
このように,等号成立条件の間にもちゃんとした関係がつくのである。
では逆に相加平均と相乗平均の不等式から Cauchy の不等式を導くにはどうすればよいか。私の個人的な感想ではこちらの方がずっと難しい問題であるが,これについては稿を改めることとする。