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ベクトルの積。

2012-04-20 13:57:53 | mathematics
普通の掛け算と同じ性質をもつようなベクトル同士の掛け算は定義できないものだろうか。

気分を出すため,"×" という記号を使うことにするが,いわゆる外積とは別物のつもりで使用することにする。

例えば,積は可換であって,A×B=B×A が成り立つ,とか,結合則 (A×B)×C=A×(B×C) が成り立つ,などである。外積は,いきなりこの2つからして成立しない。

あと,A×I=A が任意のベクトル A に対して成り立つような,一つの決まったベクトル I (単位元)があったり,A×B=I となるような「逆数」に相当するベクトル B があって欲しい。

こんな都合の良い性質を満たす「ベクトルの掛け算」は果たして本当にあるのだろうかと疑問に思ったが,実は,ここまで書いた性質をすべて持つ演算は実際にあるのである。

それは,ズバリ,通常の「ベクトルの加法」である。上の式で "×" の記号を少し傾けて "+" にし,I をゼロベクトルのことだと思えば,どの性質も満たされていることがただちにわかる。

そういうわけで,考えたい問題をもっと正確に述べれば,「ベクトルの加法とは実質的に異なる乗法を定義できるか」ということになる。

そしてもちろん,先住民である加法とは,次の分配則で結びついていてもらいたいのである:

A×(B+C)=A×B+A×C.


ところで,通常の数(実数や複素数)の和と積は,分配則の観点から見ると平等な扱いではない。
つまり,

a×(b+c)=a×b+a×c

という「積の和への分配則」はあるものの,これの双対に該当する,積と和を入れ替えた分配則

a+(b×c)=a+b×a+c

は成り立たない。そもそもこの式はちょっと曖昧かもしれない。つい,「掛け算を足し算より先に計算する」という広く使われている計算の優先順位を意識しないで書いてしまったが,

a+(b×c)=(a+b)×(a+c)

とすべきであった。

つまり,なぜだかよくわからないが,「和の積への分配則」は成立しないのである。


このように,通常の数の和と積は完全には対等ではなく,少し対称性が崩れている。それに対し,集合の演算は完全に対称性を保っている。

分配則は

∩の∪への分配則:A∩(B∪C)=(A∩B)∪(A∩C),
∪の∩への分配則:A∪(B∩C)=(A∪B)∩(A∪C)

の両方が成り立つのである。

最近,ようやくこのような違いに気がついたのだが,それがこれらの代数同士の間でさらにどういった違いを引き起こすのか,すごく興味が出てきた。

あとは,そうねぇ,零元と単位元の間でたくさんの要素が枝分かれして連なっている「束 (lattice)」も面白そうな気がしてきた。


ベクトルの積に話を戻すと,通常の和と合わせて体をなすような積を見出したいのか,あるいは,集合演算とよく似た Boole 代数をなすような積を見出したいのかによって,「積」の意味が変わってくることに注意する必要があることに気付いたわけである。

とりあえず,今回の考察はそれでよしとしよう。
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