「久しぶりに面白い映画をやっている」と友人にすすめられソウルでナ・ホンジン監督の「追撃者」を観た。封切りから2週間目2月26日のことだが、映画はあれよあれよと観客を集め5月で500万人を集めた。映画の内容をすべて理解できるほど私の韓国語の力はないが、映画が始まると息もつかさぬアクションの展開に2時間の上映時間も忘れてしまった。日本の上映は未定だが、映画批評初回にこの作品を紹介したい。
ストーリーは性売買春(ソンメメ)業の手配師をしている元刑事が殺人魔を追撃する内容だ。「韓国の殺人機械」といわれたユ・ヨンチョル受刑者の事件にヒントを受けたという。03年9月から10ヵ月間に21人を殺害した連続殺人事件で、ユ被告(当時)は05年6月1審で死刑判決を受け確定した(06年初頭、法務部の死刑執行遂行に青瓦台が強固に反対、執行を止めた。韓国は10年間死刑執行がない死刑廃止国である。ユ受刑者は現在服役中。ただ、李明博大統領は12月選挙で唯一死刑廃止に異議をとなえているか)。
「月刊朝鮮」記者李恩英がユ受刑者の生育歴を友人、教師などから取材し、「月刊朝鮮」04年9月号で発表しているほか、収監中のユ被告と手紙でやりとりを分析して単行本『殺人中毒』(05年刊行)を出した。両方とも読んだが(後者は一部のみ読んだにすぎない。この本は絶版で手に入らず、図書館で読むしかなかった。古本市場にもなかった)、一部の読みで語るのは気がひけるが、後者の単行本『殺人中毒』はより取材が深いことをあげておく。日本でも「ニュース・ステーション」で死刑判決までを10分ほどのドキュメンタリーで放映、事件をご存知の方もおられるかもしれない。最近では死刑問題でユ受刑者問題で被害者遺族を特集する番組をテレビ朝日の朝の番組でも放映した。
さて、事件の実際と映画のとは大きく異なるからここではふれない。映画では殺人の動機など一切わからないし、舞台設定もまるで違うからだ。ナ監督は事件からヒントをえたのだろう。映画では逮捕された犯人に心理面での担当者が質問する場面で、自身の性的問題を問い詰められ食ってかかる場面があるが、これもユ受刑者との整合性はまったくない。
性的映画は成人指定映画だ。しかし公開わずか1ヶ月間に過ぎない3月半ば、400万の観客をこえ、5月には500万人を数えた。04年上映の「おばあちゃんの家」も400万をこえたが、家族中で観られた映画だった。「追撃者」は映画を見る層は限定されている。それが「おばちゃんの家」の観客数を超えた。、なぜ多くの観客の支持を得たのか。そこに私の関心が向く。
映画の「スリラー・アクション」としての評価も高いが、それだけなら観客をスクリーンに釘付けにすることは難しい(5月のカンヌ映画祭ではスリラー部門でノミネートされたが)。元刑事は派遣して行方不明になった女性を探し出そうとして犯人と遭遇、最終的に逮捕までいたるが、容疑者がかつて住んでいた「タルトンネ」(月に一番近い町)と呼ばれる地域も性売買春を生業にせざるをえない女性も、1つの共通点があることに気付く。法律により守られず、いや、法律の外にはじき飛ばされた人たちなのだ。その生に光をあてるナ監督のメッセージが全体に流れたことは重要である、500万人の共感の一部は監督のその視点を歓迎したのではないか。
さらにナ監督が3月6日の映画雑誌「シネ21」主催の観客とのトークで語ったことも興味深い。映画ではキリスト信者だった男性を殺した容疑者がそこをねぐらとする。容疑者のかつての2畳からのアパートから仰ぎ見るすぐ近くにキリスト教会が見え、十字架に張りつけられたイエスの姿が映し出される。質問がそこに及ぶ。ナ監督は「殺人が十字架の下で繰り広げられると考えた」と答えている(<シネ21 >ホームページ(www.cine21.com)から)。単に神なき時代ではなく、神のもとで不義が、殺人がなされる時代を描いたというべきか。容疑者は神を否定する象徴なのか。この部分はユ受刑者が李恩英記者とやりとりした手紙の内容と重なり合う部分もある。根源的問いが観客に迫る意図として十字架があると思う。犯人はキリスト教徒信者を殺して教徒宅に住み着くが、不審に思って訪ねた教会の2人まで殺害するのだ。帰ろうとする訪ねた信者夫婦を呼び寄せ殺害するシーンに私は、ナ監督の執拗な意図を見る。
行方不明女性の幼い娘が神なき時代を乗り越えるカギを握るのか。母を探し倒れたその子が徐々に回復するシーンで終わる。無論、警察官僚の醜態を描いた場面もリアルだ。成績をあげるために奔走する姿だ。しかし、それは主題ではない。
韓国で少女を殺害する事件が今年に入り相次いでおきたことも関心を集めたともいわれる。元プロ野球選手が恋人の3人娘を殺害したり、京畿道安養市で少女が殺害されたりした事件が立て続けに起きた。しかし映画上映時と重なっただけで、この社会的背景は先にあげた2つの要因に及ぶものではないだろう。それほどナ監督の世界観が強烈だと思う。
韓国映画が06年のアメリカとの自由貿易協定締結交渉の開始にあたりスクリーンクォータ(自国映画上映などの最低基準を決める制度)が影響を受けた。上映日数が半減した。映画に投資企業も減り、韓国映画の危機が叫ばれるいま、「追撃者」は低予算で、名だたるスターを用いず、前宣伝もなく大きな成功を得た。ナ監督は34歳。初の長編映画だ。ハリウッドでのリメイクも決まった。そういえば「シネ21」のトークでは観客は多くがリピーターだった。かくいう私も3月の訪韓で映画館に足を運び計2度この映画を観たリピーターの1人だ。ナ監督の次回作「殺人者」(仮題)も決まった。(文中敬称略)
ストーリーは性売買春(ソンメメ)業の手配師をしている元刑事が殺人魔を追撃する内容だ。「韓国の殺人機械」といわれたユ・ヨンチョル受刑者の事件にヒントを受けたという。03年9月から10ヵ月間に21人を殺害した連続殺人事件で、ユ被告(当時)は05年6月1審で死刑判決を受け確定した(06年初頭、法務部の死刑執行遂行に青瓦台が強固に反対、執行を止めた。韓国は10年間死刑執行がない死刑廃止国である。ユ受刑者は現在服役中。ただ、李明博大統領は12月選挙で唯一死刑廃止に異議をとなえているか)。
「月刊朝鮮」記者李恩英がユ受刑者の生育歴を友人、教師などから取材し、「月刊朝鮮」04年9月号で発表しているほか、収監中のユ被告と手紙でやりとりを分析して単行本『殺人中毒』(05年刊行)を出した。両方とも読んだが(後者は一部のみ読んだにすぎない。この本は絶版で手に入らず、図書館で読むしかなかった。古本市場にもなかった)、一部の読みで語るのは気がひけるが、後者の単行本『殺人中毒』はより取材が深いことをあげておく。日本でも「ニュース・ステーション」で死刑判決までを10分ほどのドキュメンタリーで放映、事件をご存知の方もおられるかもしれない。最近では死刑問題でユ受刑者問題で被害者遺族を特集する番組をテレビ朝日の朝の番組でも放映した。
さて、事件の実際と映画のとは大きく異なるからここではふれない。映画では殺人の動機など一切わからないし、舞台設定もまるで違うからだ。ナ監督は事件からヒントをえたのだろう。映画では逮捕された犯人に心理面での担当者が質問する場面で、自身の性的問題を問い詰められ食ってかかる場面があるが、これもユ受刑者との整合性はまったくない。
性的映画は成人指定映画だ。しかし公開わずか1ヶ月間に過ぎない3月半ば、400万の観客をこえ、5月には500万人を数えた。04年上映の「おばあちゃんの家」も400万をこえたが、家族中で観られた映画だった。「追撃者」は映画を見る層は限定されている。それが「おばちゃんの家」の観客数を超えた。、なぜ多くの観客の支持を得たのか。そこに私の関心が向く。
映画の「スリラー・アクション」としての評価も高いが、それだけなら観客をスクリーンに釘付けにすることは難しい(5月のカンヌ映画祭ではスリラー部門でノミネートされたが)。元刑事は派遣して行方不明になった女性を探し出そうとして犯人と遭遇、最終的に逮捕までいたるが、容疑者がかつて住んでいた「タルトンネ」(月に一番近い町)と呼ばれる地域も性売買春を生業にせざるをえない女性も、1つの共通点があることに気付く。法律により守られず、いや、法律の外にはじき飛ばされた人たちなのだ。その生に光をあてるナ監督のメッセージが全体に流れたことは重要である、500万人の共感の一部は監督のその視点を歓迎したのではないか。
さらにナ監督が3月6日の映画雑誌「シネ21」主催の観客とのトークで語ったことも興味深い。映画ではキリスト信者だった男性を殺した容疑者がそこをねぐらとする。容疑者のかつての2畳からのアパートから仰ぎ見るすぐ近くにキリスト教会が見え、十字架に張りつけられたイエスの姿が映し出される。質問がそこに及ぶ。ナ監督は「殺人が十字架の下で繰り広げられると考えた」と答えている(<シネ21 >ホームページ(www.cine21.com)から)。単に神なき時代ではなく、神のもとで不義が、殺人がなされる時代を描いたというべきか。容疑者は神を否定する象徴なのか。この部分はユ受刑者が李恩英記者とやりとりした手紙の内容と重なり合う部分もある。根源的問いが観客に迫る意図として十字架があると思う。犯人はキリスト教徒信者を殺して教徒宅に住み着くが、不審に思って訪ねた教会の2人まで殺害するのだ。帰ろうとする訪ねた信者夫婦を呼び寄せ殺害するシーンに私は、ナ監督の執拗な意図を見る。
行方不明女性の幼い娘が神なき時代を乗り越えるカギを握るのか。母を探し倒れたその子が徐々に回復するシーンで終わる。無論、警察官僚の醜態を描いた場面もリアルだ。成績をあげるために奔走する姿だ。しかし、それは主題ではない。
韓国で少女を殺害する事件が今年に入り相次いでおきたことも関心を集めたともいわれる。元プロ野球選手が恋人の3人娘を殺害したり、京畿道安養市で少女が殺害されたりした事件が立て続けに起きた。しかし映画上映時と重なっただけで、この社会的背景は先にあげた2つの要因に及ぶものではないだろう。それほどナ監督の世界観が強烈だと思う。
韓国映画が06年のアメリカとの自由貿易協定締結交渉の開始にあたりスクリーンクォータ(自国映画上映などの最低基準を決める制度)が影響を受けた。上映日数が半減した。映画に投資企業も減り、韓国映画の危機が叫ばれるいま、「追撃者」は低予算で、名だたるスターを用いず、前宣伝もなく大きな成功を得た。ナ監督は34歳。初の長編映画だ。ハリウッドでのリメイクも決まった。そういえば「シネ21」のトークでは観客は多くがリピーターだった。かくいう私も3月の訪韓で映画館に足を運び計2度この映画を観たリピーターの1人だ。ナ監督の次回作「殺人者」(仮題)も決まった。(文中敬称略)
確かに狭いアパートから教会が見えました。でも犯人は姉の家で幼い甥を後遺症が残るほど殴っていました。
神とか無神論とか言う前に犯人がただの血を見るのが好きな変態としか思えません。
確かに映画自体は面白いと思いました。不気味な家と
元刑事の元締めが人間らしく変わっていく様子とスピード感溢れる画面につい引き込まれ、「韓国映画っていつも血のりがべったりでほんと、気持ち悪い」と思いながら、最後まで見て、やっぱり意味がわかりませんでした。
私も8月の末に韓国のマサンでみました。
韓国人は最初の5分で犯人が誰かわかったと言っていましたが、私は最後の5分でこのホラー映画の全てを理解しました。
韓国語は独学で3年位してますが、よくわかる映画とわからない映画があります。
最近はソウルで「西洋骨董菓子店」を見ました。男性4人のコミック的同性愛映画ですごくお洒落な映画なのに映像は骨董的イメージを大事にしたのか暗かったです。
やっぱりなにげにそれとなくホラーも少し織り込んでいました。
私も8月の末に韓国のマサンでみました。
韓国人は最初の5分で犯人が誰かわかったと言っていましたが、私は最後の5分でこのホラー映画の全てを理解しました。
韓国語は独学で3年位してますが、よくわかる映画とわからない映画があります。
最近はソウルで「西洋骨董菓子店」を見ました。男性4人のコミック的同性愛映画ですごくお洒落な映画なのに映像は骨董的イメージを大事にしたのか暗かったです。
やっぱりなにげにそれとなくホラーも少し織り込んでいました。
先日書き込みをした時、友人も含めフルで名前を出しています。修正をお願出来ませんでしょうか。お手数をお掛けします。申し訳ありません。
下記のような案内を見せて頂いたものですから自主制作映画『銀の鈴』もこれから良い展開にするてめの何かコメントを頂けないものでしょうか。
出来ればよろしくお願い致します。
記事内容から下記にコピーをしてみたのですが。
”韓国映画の危機が叫ばれるいま、「追撃者」は低予算で、名だたるスターを用いず、前宣伝もなく大きな成功を得た。ナ監督は34歳。初の長編映画だ。”
4月25日(土)15時以降?時間の確定は
まだのようですが、尼崎の聖トマス大学で開催の予定です。5月の末土日で同じ聖トマス大学で一般公開をすると聞いています。
是非『銀の鈴』を見て頂きご感想を頂ければ
嬉しいです。