かしょうの絵と雑記

ときどき描いている水彩スケッチや素人仲間の「絵の会」で描いている油絵などを中心に雑記を載せます。

現在を「戦前」にしないために

2023年01月31日 | 雑記ー自分のこと、世の中のこと

日本生協連の役員OB/OG組織の「久友会だより」の表紙に私の絵を使っていただいています。12月号には寄稿文「「ロシアのウクライナ侵略戦争と日本の『戦前』」も載せていただきました。現在の日本を「戦前」にしたくないとの思いからの一文です。

<投稿>
 ロシアのウクライナ侵略戦争と日本の「戦前」                                             斎藤嘉璋
 はじめに
私はロシアによるウクライナ侵略戦争が起きてから、これまで生協の歴史と戦争について語り、書いてきた立場からいくつかの原稿や講演を依頼され、書いたり話したりしてきました。ここでは、協同組合連帯機構・JCAの研究誌「にじ」秋季号「特集・戦争と協同組合」に載せた「戦争と平和と生協」とオウエン協会で10月に報告した「生協の平和活動の歴史と教訓」(同協会の年報に載る予定)の内容の一端を紹介させていただきます。
ウクライナ戦争については日本生協連はじめ各生協がロシアに対し抗議、直ちに停戦を求めるとともにウクライナの避難民などへの支援カンパなどを進めています。
国民の多くはこの戦争が一刻も早く終わり、このような戦争が地球上から無くなることを願っています。
一方で、この理不尽なプーチンの侵略行為と同様な事態が日本周辺でも起きるのではと、日本の安全保障をめぐり、平和外交ではなく軍事強化で対応しようとする動きが強まっています。このようななかで一部の生協ではあらためて組合員をふくめ戦争と平和に関する学習会などの取り組みが進められているようですが、私は久友会の皆さんがそのような動きを支援されることを期待して、この一文を皆さんの参考になればと投稿するものです。なお、くらしと協同の研究所の「くらしと協同」夏号に「戦争と人権―ロシアのウクライナ戦争に思う」を載せていますので、人権に関心のある方は同誌特集をお読みいただければ幸いです。

ウクライナ戦争と満州事変・日中戦争
 ロシアのプーチンによるウクライナへの軍事侵攻には、なぜ21世紀の今こんな理不尽なことが起きるのかと驚きました。理不尽ということでは「大量破壊兵器の貯蔵」を理由に国連決議も得られないまま2003年にアメリカが行ったイラク侵攻も、大量破壊兵器が見つからなかったことなど捏造・虚偽による国際法違反の侵略でしたが、契機となった9・11同時多発テロの流れがあり、あまり驚きませんでした。私がウクライナを含むロシア周辺国のNATOへの加入の動きなどがプーチンとロシアに大きな脅威を与えていたといった情勢にも疎かったため衝撃的だった面もありますが、多くの人が私同様にショックだったと思います。
 私はまず、クリミアを併合し、さらに「自衛のため」という勝手な理屈をつけてのプーチンの「特別軍事作戦」に対し、朝鮮を併合しさらに満州「事変」から日中戦争へと進んだかっての日本のことを思い起こしました。プーチンの「軍事作戦」は日本が「事変」といったのが侵略戦争の開始であったと同じように、首都キーウへの軍事侵攻や民間人のいる建物への爆撃などは侵略戦争そのもので、その欺瞞と非人道性はすぐに明らかになりました。かっての大戦から日本はじめ世界の諸国民が学び国連憲章などにまとめられた原則が、国連安保理のロシアによって公然と破られたので、世界の多くの人々が驚き、怒りを覚えたのは当然でした。
また私は、日中戦争からの15年戦争、その戦争の準備、遂行のなかで弾圧され多大な犠牲を強いられた当時の生協のことを思い起しました。日本の多くの人々は、ロシアのプーチンによる軍事侵攻による無差別で非人道的な一般人への爆撃や暴行に怒りを覚えています。それは、かっての日本がやったことであり、家を焼かれ逃げ惑うウクライナの人々の姿は朝鮮や中国の人々の姿だと、さらに暗い気持ちになった人もいたと思います。プーチンのロシアはひどい、しかしそれはかっての日本もやったことだと怒りとともに反省ももって戦争というものを考えた人も少なくないと思います。
 しかし、今の日本ではそのように考えるのではなく、近年緊張関係がつづいている中国や北朝鮮をロシアの姿にダブらせて、日本に対する軍事侵攻の発生を想定し、それに対応するための防衛力強化、憲法改正などを含め“戦争をする国”への転換を進める考えと動きが強まっています。安倍内閣による憲法違反の集団的自衛権の容認と安保法制の施行のあと防衛力強化を促進してきた勢力は、ウクライナ情勢を追い風に敵基地攻撃能力や防衛費の2%への倍増などを推し進めようとしています。
そのような動きに対し、私は当時「全国非戦同盟」を結成し、軍備増強や戦争鼓舞などに反対した賀川豊彦など生協のリーダーたちのことを思い起こしています。

賀川らの「全国非戦同盟」と関消連の取り組み


大正期に労働組合・友愛会のリーダーだった賀川豊彦は大阪で労働者生協・共益社の設立を支援し、神戸で神戸消費組合と灘購買組合の設立(1921年)を支援しました。その賀川は関東大震災の被災者支援で上京し東京を活動の拠点にし、東京学生消費組合の設立(1926年)や被災地での江東消費組合の設立(1927年)を指導・支援しました。
そのころ、大正末から昭和にかけて治安警察法が治安維持法に変わり、特高警察の設置強化がされるなど生協をふくめ労働運動などに対する弾圧が強化され、対外的には第1次山東出兵(1927年)が行われるなど戦争の危機が迫っていました。
そのような大陸での侵略戦争の遂行、国内でのファシズム的動きに対し、賀川豊彦は1928(昭3)年、全国非戦同盟を結成し「①あらゆる戦争と軍備、②帝国主義的侵略の政治、経済、③侵略鼓舞、弱小民族圧迫」の3つに反対することを主張しました。この非戦同盟には大正デモクラシーの旗手で家庭購買組合(1919年設立)の組合長の吉野作造や早大教授で東京学消設立に協力した安部磯雄が顧問として協力しました。
労働者生協の連合体・関東消費組合連盟(関消連)は、この翌年1929年の国際協同組合デーのデモンストレーションのスローガンに「帝国主義戦争反対」を掲げました。しかし、当時は改悪された治安維持法で国体(天皇制)に反対する団体結社は認めず、個人も違反すれば極刑とされ、共産党などは反戦活動以前にその存在自体が弾圧される状況でした。関消連は翌年も一部の労組や農民組合の人たちが結成した「反ファッショ民衆大会」に参加しますがすぐに弾圧されており、戦争反対の運動が社会的に広がることはありませんでした。賀川の「非戦同盟」の訴えも運動としては広がらず、政治に反映されませんでした。
関消連は自治体ごとに保有していた米の払下げを求める「米よこせ」運動を各地で成功させ、組織を拡大して「日本消費組合連盟」の結成をみるなど発展しますが、幹部の一斉検挙などの弾圧が続き、1938年には解散させられます。戦争を進める政府にとって危険とみなされた東京学消も1936年早稲田支部、最後に40年の東大赤門支部が特高の弾圧で解散させられます。
「非戦同盟」を提唱した賀川は反戦思想容疑で大戦開戦前年の1940年に東京・松沢教会で検挙・拘留され、43年には神戸と東京で憲兵隊の取り調べを受けました。吉野作造は軍部に「国賊」といわれ右翼に狙われたため、生協本部に変装して通ったそうです。日本が脱退した国際連盟の事務局次長を務め、賀川が1931年に設立した東京医療生協の組合長であった新渡戸稲造は賀川の反戦平和に協力的で「軍閥が日本を滅ぼす」と主張したため軍部や右翼からの非難攻撃が続きました。

  賀川らの主張と現在の日本

 賀川らの「非戦同盟」結成の3年後に日本は満州事変、日中戦争と15年戦争に入っていきます。その主張は生かされなかったのですが、それは3年後の事態とその後の日本を見据えたものでした。その主張の第1は「あらゆる戦争と軍備」に反対でした。賀川はその理念から戦争は許せないものであり、金融恐慌で経済不安が広がっている時でもあり、軍備に金をかけることも許せなかった。第2の「帝国主義的侵略の政治、経済」への反対は、日清、日露戦争以来の日本の政治と経済の体質への批判であり、第3の「侵略の鼓舞、弱小民族圧迫」は国粋主義、民族主義の政治宣伝や社会風潮への警告でした。
 今、ウクライナ情勢を卑劣にも「追い風」にして、日本をかってのような戦争をする国にしようとする動きは賀川や関消連のリーダーたちが必死に抵抗した昭和初期の「戦前」に似ています。今を「戦前」にすることは大きな犠牲のもと非戦の平和憲法を持つ私達には許されないことだと思います。自民党や政府、好戦論者が主張している「軍事力には軍事力で」の考えは双方が常により以上の軍事力を持とうとする「安全保障のジレンマ」と言われているものであり、税金を使って軍需産業を喜ばせるだけで、平和を守ることにはなりません。
「反撃能力」「敵基地攻撃能力」保有論は、「専守防衛の立場を守る」と言ってもかっての日本の不当な侵略や真珠湾の奇襲攻撃を知る中国などには通じるとは思えません。互いに緊張をあおり、防衛の名のもとの戦争(プーチンもそう主張している)になれば、自由に移動する基地から長短で自在に動くミサイルが飛び交い双方の国の人々は多くの命と暮らしを失い、双方の国土が荒廃した後で共に敗者になる、そんな悲劇を私は想像します。現実的に考えると日本がかかわる「双方」にはアメリカと中国という核大国が入るので、ロシアとウクライナの戦争どころでない大戦となるので、私には想像もできません。
 「核の共有」なども論外です。ウクライナがそうであるように核兵器を持たない日本にも数多くの原発があり、原発が被爆すれば広島・長崎以上の惨事は防ぎようがありません。プーチンの核の脅しのなかで、核兵器禁止条約に署名あるいは批准する国が増えていることは人類の叡智であり、被爆地広島出身の日本の首相こそが学ぶべきことです。
「核の共有」論をふくめ、軍事力を高め、日本がいつでも戦争ができる国になるように進めている政治家などは、そのことが逆に国家間の緊張を高めていることや外交を強め緊張を解く努力をしないことについて説明もしません。安倍首相の時に憲法違反の安保法制を制定して以降、岸田首相が現在進めようとしている防衛大綱など防衛3文書の見直し内容は明らかに憲法9条に反する内容なのに、国会論議など無視して進められています。ウクライナ戦争だけでなく北朝鮮のミサイル問題などに国民が不安と怒りを覚えている状況を追い風に、政府は今「防衛力に関する有識者会議」などを利用して軍備の拡大、防衛費の2%への倍加など戦争をする国造りに懸命です。国会や国民の議論を避ける政治手法は憲法無視の「戦前」を思わせるものです。

 現在を「戦前」にしないために

 私が寄稿した「にじ」の特集には東大の神野直彦名誉教授が「再び『戦争の時代』にしないためにー戦争を回避するための協同組合の使命」を寄稿しています。そこでは日本の私たちが今「戦争責任」の前の「戦前責任」を問われていると書き、協同組合として果たすべき責任、役割を述べています。私は前の戦争には幼年期でしたが、敗戦と戦後の混乱期を知っている者として、最近の情勢から「戦前責任」を感じています。岸田首相はじめ政治家や好戦的なリーダーたち、その多くは「戦争責任」は取りたくないが戦争準備ならいいだろうと考えている人たちに「戦前責任」をとらせるにはどうしたらいいだろうか。賀川らのような先輩に叱られないようにお互いに考えたいと思います。
前記の「にじ」の特集に載った日本生協連の天野さんのウクライナの協同組合に関する論文は本誌に転載されていますが、その天野論文に関連して私はオウエン協会での報告で私なりの解釈、感想を話しています。ここでは生協の国際的な交流の必要性についてだけ述べます。
国家間の紛争を戦争でなく友好と平和に収めるには国民同士の多様な交流があることがなによりだと思います。幸い協同組合は消費者、生産者、労働者あるいは学生など各層の組織として各国にあり、ICAという長い歴史を持つ国際組織があり、アジア支部といった地方ごとの組織もあります。
日本生協連は1950年代からICA総会で被爆の実相と原水爆禁止のアピールをし、90年代には全国の生協が各国の協同組合に被爆パネルを送るなど、国連への対応と合わせて反核平和の活動を国際的に広める取り組みをしてきました。終戦50周年の活動としてはかって日本が侵攻した韓国などアジア諸国に「平和の旅」として組合員代表を送り、戦跡を訪ね市民同士で交流することなどもしました。
今回、ウクライナの生協とその組合員は戦争下において大変な苦労をされており、日本生協連はそれに対する支援などにも取り組んでいるようですが、組合員にとっても生協同士の連帯は有意義だと思います。私はブックレット「生協の歴史から戦争と平和」が翻訳出版されるなど、韓国の生協とは親しいのですが北朝鮮のことは分かりません。中国には現役時代に合作社に招かれ交流していますが現状は知りません。国家間で困難がある場合も協同組合など民間の諸組織同士の交流・友好が平和の基礎であり、その強化が期待されます。
ロシアの協同組合中央会は残念なことにプーチンを支持する声明を出し、ICA総会ではロシアの協同組合を除名せよとの要求も出たが、ICAはそれには応じなかったと天野論文にはありあります。日本が日中戦争に入ったころ、イギリスなどの生協が日本製の商品ボイコット運動をし、それに反発し産業組合中央会はICAを脱退しました。しかし、関消連などは反戦をスローガンで頑張っていたので、私は今のロシアの生協にもこの戦争に反対の生協や人々がいると期待しています。
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戦争か平和か、決めるのはそれぞれの国民、一般の市民であるべきです。そのような人々の組織である協同組合にはICAの指導のもと平和と民主主義の理念と伝統があり、日本の生協にも「平和とよりよい生活のために」の活動が継続されています。久友会の皆さんの中には憲法9条を守る会などで活動している方も少なくありませんし、私も微力ながら東京の仲間と取り組んでいます。現憲法のもと平和と民主主義が守られてきた「戦後」を続け、その憲法が無視さらに改悪されて新しい戦争の「戦前」にならないようにしなければなりません。
現役の生協の役職員、組合員はウクライナの人々を励し、戦争をやめさせるととも日本の平和のために様々な取り組みを行っています。ともに頑張りたいと思います。

 

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