ゆっくりかえろう

散歩と料理

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続 憑物 5/6

2011-12-18 | フィクション

 もう俺の問題ではなく 餓鬼とセンセイの対決みたいになっている

 俺は大丈夫なのだろうか
 餓鬼どうしの怨念や因縁が交錯して すごいエネルギーを感じる

 生身の人間の俺が とばっちりを受けて どうにかなりそうだ

 「すみませんでした 興奮して我を忘れて 暴走するところでした」
 冗談じゃない 話を聞いて足が震えた

 「危険なことはごめんですよ こっちまであの世いきなんてことになったら
 元もこもなくなる  頼みますよ 信頼しているんですから」

 「そのときは責任を持って 閻魔様のところまでお連れします」
  センセイは真顔でいった

 「えっ?えっ ? ?」
 俺は信じられない表情で聞き返した


 「いやいや あの、本当にすみません 慎重にやります」

 センセイはあふれる汗を拭きながら謝った
 餓鬼は冗談がいえないという
 人間ならブラックジョークだがとうてい冗談には聞こえない

 センセイは本当は餓鬼か人間かどっちなんだろうと時々思う

 「ところで 今まで弟さんのご供養をされてないんでしょう?」

 弟の話をされて俺は身構えたが 先生には何もかも話しているし
 善意で聞かれているようだから 正直に話した

 「もしかしたら死んだときお弔いも満足にしていないかもしれません」
 「これから裏のお寺で供養をしましょう なくなったおかあさまも一緒に」

 「えっ 母もですか?」

 「なくなればみんな仏様です」

 俺は素直にセンセイの後をついていった
 自分でも変わったと思う

 餓鬼もあの世のこともわからないが 自分は一人で生まれてきたんじゃないと
 分からせてくれたのがセンセイだった

 本堂のご本尊 阿弥陀様の前で 俺たちは座ってお経をあげてもらった
 30数年前があっというまに戻ってきて 俺を苦しめたが
 同時に俺は救われた気がした

 謝っても謝っても 謝りきれない 悔やんでも悔やんでも悔やみきれない
 恨んでも恨んでも 恨みきれない
 
 でも俺だけは生きている こうして生き延びられた
 偶然ではないこうして生きていることは きっと意味があるのだ

 俺は自然と手を合わせ 死んだ者を想った
  



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2 コメント

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追伸 (あいうえお)
2015-11-19 17:57:41
先ほどは失礼なコメントをすみません。
信長、憑物、長い物すでにUPしてみえるのに。
今夜は一段と楽しい夜になりそうです。
今からじっくり拝見いたします。
すごいなあ。
ひらがなばかりの童話しか書けないので、
大人の物書ける方少し恐れ多いです(笑)
でも、書く楽しみはきっと同じですよね……
難しさ (ゆっくり)
2015-11-20 12:04:33
あいうえおさん 私は童話を書かれる人の方に憧れています。ひらがなも大好きです。漢字では伝えられない温かさ柔らかさがあると思うからです。こちらこそ見習いたいと思います。

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